婚約者の本性を暴こうとメイドになったら溺愛されました!

柿崎まつる

文字の大きさ
37 / 74

38.火祭り③

しおりを挟む
「ほら。甘いものが好きなら、口に合うはずだ」
「ありがとうございます」

 受け取ってさっそく口に運ぶ。外側は焦がした砂糖のカリッとした触感があり、反対に内側はトロっと温かかった。甘味が口の中に広がり、思わず頬がこぼれてしまうのではないかと手で支える。

「美味しい! 口の中でとろけて、甘さが広がります!」
「そうか、それは良かった」

 わたしははいっと、彼の前に串を掲げた。

「なんだ?」
「こんなに美味しいから、グラシアン様も召し上がってください」
「俺はいい。おまえのために買ったから、おまえが全部食べろよ」
「どうしてです? 一緒に食べた方が美味しいです。ほっぺたが落ちそうなくらいおいしいんですよ」

 わたしがもう一度差し出すと、グラシアンはしばらく無言でいたが、最終的には予想外なことをした。

「えっ!」

 わたしが持ったままの竹串から、歯でマシュマロを引き抜いたのだ。
 
「お前が言うとおり甘いな」
「何をするんですか!?」
 
 なんと行儀の悪い真似だろう。わたしはさらに怒ろうとしたが、目の前の光景に言葉を失ってしまった。

「ほんとに甘ったるいな」

 グラシアンが少しだけ眉根を寄せて、手についた砂糖を舐めとる仕草が、なんというかなまめかしい。見ているだけで、胸が熱くなる。わたしはふと夜の庭園でキスされたことを思い出した。あれはマシュマロの味ではなかったけれど、それと同じぐらい柔らかくて甘かった。

 ――あのときはびっくりしたし腹が立ったけれど、嫌ではなかった?

「ピィー! ピィー!」

 そのとき、聞きなれた鳴き声を聞いて我に返る。頭上で赤く小さな塊が翼をはためかせていた。火の香りにひかれてか、アンバーがやってきたのだ。
 幼いグレードサラマンダーはぴぃぴぃと鳴きながら、わたしたちの周囲を飛び回る。肩に泊まると、挨拶のつもりかぺろりと頬を舐めてきた。

「アンバー! ふふっ、くすぐったいよ」
「祭りの陽気に誘われて、火の妖精たちがたくさん集まってくる。アンバーも火の幻獣だから、誘われたんだろ」

 グラシアンが人差し指の腹に小さな炎を点すと、アンバーはひょいッとわたしの肩からグラシアンの肩に飛び移った。翼を広げ、炎をパクリと飲み込む。
 グレードサラマンダーはお腹を満たして挨拶を終えると、今度は興奮気味に祭りの夜空を周遊し始めた。下界の喧騒とは無縁の濃い紺色の空。夏の星のきらめきと昇る三日月、アンバーの小さな影。まるで異世界に招かれたようなファンタスティックな光景だ。

 感動したわたしが下界に視点を戻すと、目の端に見覚えのある後姿を見つける。ひとくくりにした長いブラウンの髪になで肩の若い男性。白いドレスシャツと暗い色のブリーチズはいかにも質の良いもので、すぐに貴族と分かる。

 ――あれは、バル?

「どうした?」
「いいえ、知り合いに似てるような気がしたんですけれど、きっと気のせいです」

 彼は避暑地のエルアーまで保養に行っていて、ここにいるはずがない。わたしの見間違えだ。

「そんなことより、グラシアン様」
「なんだ?」
「今日は、どうして素なんですか?」
「……ああ」
 
 彼は食べきったマシュマロの竹串をわたしの手から取り上げると、自分の手の中で炎を点した。ジュッと竹串が燃える音がして、大きな手から灰が落ちてくる。
 
「もう必要なくなったからな」

 必要ないとは、もう王太女わたしとの結婚が確定したからだろう。彼にとって、わたしは何なのだろう。グラシアンは確かにキャロルわたしのことを好きだといった。まもなく王太女と結婚するのに、冴えないメイドに告白する男。
 わたしは自分のドレスに視線を落とした。小さな薔薇が所々に咲き誇っていて、可愛らしい。この一週間、グラシアンはわたしを膝にのせてお菓子を食べ、わたしをピクニックに連れて行った。今日は可愛いドレスを贈って、祭りにも連れてきてくれた。

 きっと、キャロルわたしは気晴らしに遊ばれているのだ。自分より身分の高い王太女に婿入りして、権力の中枢に君臨する。彼の狙いが権力そのものなのか、権力を使って果たしたい野望があるのかそれはわからない。
 だから、なんだというのか。だったら、その野望を突き止めて、夫婦となった暁にはわたしがそれをコントロールするだけだ。政略結婚だったらそんなことは当たり前だ。答えはすでに出ているではないか。
 だったらこの胸のつかえはなんだろう? もしかして、と足が止まった。

 ──わたしは、グラシアンのことが好きなのだろうか。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

処理中です...