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62.告白②
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『よくもまあ、王太女殿下の前でいけしゃあしゃあと』
『王室を侮辱した罪で、火刑に相当するぞ』
周囲の非難もなんのその、グラシアンは涼しい顔でキャロル・フォックスとの思い出を語る。この場で誰よりも気が気でないのは、間違いなくわたしだ。
「彼女とは火祭りのほかに、ピクニックにも行きました。わたしはこれまでピクニックなどしたことがなかったのですが、愛する人とならどこへ行っても何をしても楽しいものなのですね。この年になるまで、それを知らなかったことが悔やまれてなりません」
――ちょっと! 何言ってくれるのよ! それじゃあ、ますます自分の立場を悪くするじゃないの!
彼の発言は、それだけにとどまらなかった。
「騎士団の寮での、翌朝の彼女ときたら……」
グラシアンはそこで何を思い出したのか、くすりと笑う。今日の天気でも話しているような爽やかな表情と、会話の内容が激しく乖離していた。
「何をしたと思います? わたしが寝ていると思い込んで、身体の至る所を触ってくるんですよ。朝からいじらしくて、襲ってしまいそうでした」
――あの時、起きてたの!?
顔、肩、胸。思い返せば、べたべた触った気がする。わたしはもう恥ずかしくて、視線を外したくて仕方ないのに、バルに操られてそれすら叶わない。
グーデン侯爵が、ついに怒りだした。
「その娘を今すぐ連れてこい! 卿もその娘も打ち首にしてやる!」
「わたしの兄が、一カ月駆けずり回って探しても見つからなかったのです。恐れながら、グーデン侯爵閣下にも見つけられないでしょう。彼女は巧妙に、しかし堂々と姿を隠している」
グラシアンの視線が、わたしに向く。あのルビーのような瞳が美しくて、わたしは何度も彼を見上げたことを思い出す。
「王太女殿下。キャロル嬢はどうしていますか? あなたの許へ帰ったと聞いていますが」
バルに操られたわたしには何も言えない。沈黙をどう受け取ったのか、グラシアンは眼を伏せた。
「彼女に、逢わせてください。もう一カ月も、キャロルを抱きしめていないのです」
「グラシアン卿! さっきから聞いていれば、ぬけぬけと語りおって! 陛下の御前だぞ、恥を知れ!」
「グラシアン! どうしたんだ!? 気でも触れたのか!」
グラシアンはグーデン侯爵とコリンの反応を一顧だにしなかった。ただ、わたしだけをみて、語り掛ける。わたしはそのとき、ようやく気が付いたのだ。
――グラシアンは、わたしがキャロルだと知っている。
どうして? 変装は完璧だったのに。わたしと気づいていながら、どうして気が付いていない振りをしたの? わたしとキスをしたとき、あなたは何を思ったの? 最後まで抱かなかったのは、わたしだと知っていたから?
『三』
まとまらない思考がぐるぐる回って、わたしは幼子のように途方に暮れてしまう。グラシアンは決して私から目を離そうとしなかった。
「彼女はわたしの最愛の人であると同時に、大切な主君でもあります。賢明な主君たらんと努力し、弱きものを守ろうとする姿には、敬服に値します。……彼女を十年前からお慕いしています。血の出る思いで、せっかく手に入れたのです。どうか、今すぐこの胸にお返しください」
グラシアンが、こちらに進んでくる。あたかもその場にメイドのキャロルがいるかのような動きに、周囲の人間が首を傾げ始めた。
『二』
グラシアンは、わたしに手を差し出す。バルがわたしの肩を抱き寄せた。
「失敬だね、グラシアン卿。どこの誰かもしれないメイドとアリス殿下を一緒にするなんて。あなたは殿下に婚約破棄されて頭がイカれてしまったんだね」
わたしたちはお互いしか見ていなかった。わたしの目からぽつりと涙がこぼれる。
『一』
わたしたちの様子に何かを感じた周りは、次第に騒然となった。視界の端に、コリンの絶叫した顔が映ったが、それはもう後回しだ。
『零』
グラシアンが飛び込んできて、わたしを抱き寄せる。その瞬間、バルの足元の魔法陣が赤く発光し、その光が彼を包んだ。
「うわあああああっ!」
白糸の刺繍は、魔法陣がそこに貼られているという証なのだ。魔法陣に込められたマナ封じの術が、ついに発動した。わたしはグラシアンの肩越しに魔法陣から生えた幾重もの鎖がバルの身体に巻き付き、全身を拘束されるのを見た。四人の神官が、四方からバルを取り囲む。
『王室を侮辱した罪で、火刑に相当するぞ』
周囲の非難もなんのその、グラシアンは涼しい顔でキャロル・フォックスとの思い出を語る。この場で誰よりも気が気でないのは、間違いなくわたしだ。
「彼女とは火祭りのほかに、ピクニックにも行きました。わたしはこれまでピクニックなどしたことがなかったのですが、愛する人とならどこへ行っても何をしても楽しいものなのですね。この年になるまで、それを知らなかったことが悔やまれてなりません」
――ちょっと! 何言ってくれるのよ! それじゃあ、ますます自分の立場を悪くするじゃないの!
彼の発言は、それだけにとどまらなかった。
「騎士団の寮での、翌朝の彼女ときたら……」
グラシアンはそこで何を思い出したのか、くすりと笑う。今日の天気でも話しているような爽やかな表情と、会話の内容が激しく乖離していた。
「何をしたと思います? わたしが寝ていると思い込んで、身体の至る所を触ってくるんですよ。朝からいじらしくて、襲ってしまいそうでした」
――あの時、起きてたの!?
顔、肩、胸。思い返せば、べたべた触った気がする。わたしはもう恥ずかしくて、視線を外したくて仕方ないのに、バルに操られてそれすら叶わない。
グーデン侯爵が、ついに怒りだした。
「その娘を今すぐ連れてこい! 卿もその娘も打ち首にしてやる!」
「わたしの兄が、一カ月駆けずり回って探しても見つからなかったのです。恐れながら、グーデン侯爵閣下にも見つけられないでしょう。彼女は巧妙に、しかし堂々と姿を隠している」
グラシアンの視線が、わたしに向く。あのルビーのような瞳が美しくて、わたしは何度も彼を見上げたことを思い出す。
「王太女殿下。キャロル嬢はどうしていますか? あなたの許へ帰ったと聞いていますが」
バルに操られたわたしには何も言えない。沈黙をどう受け取ったのか、グラシアンは眼を伏せた。
「彼女に、逢わせてください。もう一カ月も、キャロルを抱きしめていないのです」
「グラシアン卿! さっきから聞いていれば、ぬけぬけと語りおって! 陛下の御前だぞ、恥を知れ!」
「グラシアン! どうしたんだ!? 気でも触れたのか!」
グラシアンはグーデン侯爵とコリンの反応を一顧だにしなかった。ただ、わたしだけをみて、語り掛ける。わたしはそのとき、ようやく気が付いたのだ。
――グラシアンは、わたしがキャロルだと知っている。
どうして? 変装は完璧だったのに。わたしと気づいていながら、どうして気が付いていない振りをしたの? わたしとキスをしたとき、あなたは何を思ったの? 最後まで抱かなかったのは、わたしだと知っていたから?
『三』
まとまらない思考がぐるぐる回って、わたしは幼子のように途方に暮れてしまう。グラシアンは決して私から目を離そうとしなかった。
「彼女はわたしの最愛の人であると同時に、大切な主君でもあります。賢明な主君たらんと努力し、弱きものを守ろうとする姿には、敬服に値します。……彼女を十年前からお慕いしています。血の出る思いで、せっかく手に入れたのです。どうか、今すぐこの胸にお返しください」
グラシアンが、こちらに進んでくる。あたかもその場にメイドのキャロルがいるかのような動きに、周囲の人間が首を傾げ始めた。
『二』
グラシアンは、わたしに手を差し出す。バルがわたしの肩を抱き寄せた。
「失敬だね、グラシアン卿。どこの誰かもしれないメイドとアリス殿下を一緒にするなんて。あなたは殿下に婚約破棄されて頭がイカれてしまったんだね」
わたしたちはお互いしか見ていなかった。わたしの目からぽつりと涙がこぼれる。
『一』
わたしたちの様子に何かを感じた周りは、次第に騒然となった。視界の端に、コリンの絶叫した顔が映ったが、それはもう後回しだ。
『零』
グラシアンが飛び込んできて、わたしを抱き寄せる。その瞬間、バルの足元の魔法陣が赤く発光し、その光が彼を包んだ。
「うわあああああっ!」
白糸の刺繍は、魔法陣がそこに貼られているという証なのだ。魔法陣に込められたマナ封じの術が、ついに発動した。わたしはグラシアンの肩越しに魔法陣から生えた幾重もの鎖がバルの身体に巻き付き、全身を拘束されるのを見た。四人の神官が、四方からバルを取り囲む。
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