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75.結婚式②
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お互いくすくすと笑いあって、廊下を進む。後ろでキャロルたちが微笑ましく見つめているのが分かった。一生に一度しかないイベントを国中の人に祝ってもらえるなんて、わたしはなんと幸せなのだろう。
「ピィーッ!」
わたしたちが本殿に差し掛かったところで、呼んだ? と幻獣の大きな瞳が上から覗き込んできた。グレードサラマンダーは、今日も元気で愛らしい。
「アンバー! 来てくれてありがとう」
幻獣は翼をはためかせながら、わたしの頬にキスして新夫の肩に留まる。グラシアンの瞳とサッシュがアンバーのボディと同じビビットカラーで、見ているだけで元気になった。
執事長の良く通る声がわたしたちの名前を読み上げるとともに、二人と一匹で神殿の緋毛氈を歩いていく。神官たちと、それからたくさんの招待客が待っていた。正面で凛々しくたたずむお母様に、わたしたちは礼を取る。
「陛下、お待たせして申し訳ありません」
「もう、私は女王ではない。そなたが、ルワンドの新しい主だ」
わたしは、その場で首を垂れた。
「はい、微力ではありますが心して臨みます」
「そなたとグラシアン、二人が創る新しい国の未来に祝福を」
お母様はグレードサラマンダーの心臓石を三つ、神官から受け取りわたしに差し出した。そのうち二つはバルを経由してグラシアンの身体から出てきたもの、最後の一つはお父様がアビゲイル嬢から預かったものだ。赤い真珠のような無限の力を秘めた石。病を癒し、マナを増幅させる。その代償は言うまでもない、グレードサラマンダーの命だ。
わたしはそれを両手で受けとる。心臓石をどうするかを決めるのが女王の最初の仕事だ。わたしは、それをグレードサラマンダーに差しだした。
「あなたの兄弟の心臓石も入っているかもしれないわ。受け取って」
グラシアンの肩で、ピ? とアンバーが小首をかしげた。
「あなたたちの聖域を荒らして、心臓石をむしり取ったこと。人の王であるわたしが、正式に謝罪します。本当に申し訳なかったわ。これから、北の保護区に結界を張って、密猟者を入れないようにする。バルが売りさばいた心臓石をすべて回収する。それぐらいしかできないけれど、二度と心臓石を利用させないことを誓うわ。この国に住む以上、あなたたちもわたしの国民よ」
アンバーは話を聞き終えると、小さな両手に抱えたものをじっと見た。
わたしは初めて、その瞳が深く透き通っていることに気が付く。そこには可愛いだけではない、悠久のときを生きる幻獣の神秘性、英明さを宿っていた。
アンバーが、グラシアンの肩から飛び上がる。神殿の高い天井の下、空中にとどまり、手の中で炎を生み出した。神殿内に、どよめきが広がる。かつてカニア邸の寮をも燃やした炎のきらめきは幻想的な橙色で、みるみるうちに心臓石を飲み込んでいく。
やがて、三つの心臓石が完全に灰になると、本殿は荘厳な静寂に支配されていた。
「ピーィ!」
可愛らしい鳴き声がその静寂を破り、神殿に爽やかな風が吹き抜ける。幻獣の声を受けて、グラシアンがふっと相好を崩したので尋ねた。
「アンバーは、なんて言ってるの?」
「グレードサラマンダーの心臓石を仲間の炎で燃やすと、無事に生まれ変われるらしい。幻獣は一回の産卵で一匹しか孵らない。残った卵は自分が孵らないことを理解していて、来世に望みを託すそうだ」
それを聞いていたお母様が、ぽろりと心情を吐露した。
「だったら、フィリップの決断も無駄ではなかったのだな」
グレードサラマンダーの孵らない卵から抜き取った心臓石で、寿命を延ばすこと。女王であるお母様を裏切らないために、それを断固として受け入れなかったお父様。その行いが正しいものであったと、お母様はまた一つ心のなかの罪悪感を消していくのだ。
心臓石のことが解決したところで結婚式へと移り、ついに大神官が荘厳な面持ちで告げる。
「誓いのキスを」
わたしは、グラシアンと向かい合った。彼に言ったとおり、楽しみだけど緊張する。ずっと見上げていると、耳元で囁かれた。
「アリスの盾と剣になると誓おう。俺の忠義と愛は、すべてあなたの為だけに」
両腕を強く引き寄せられ、接吻を受ける。柔らかい唇の感触。甘い甘い二人だけの儀式。思いのほかキスが長くて、最初は生暖かく見舞っていた面々も、次第にざわめき始めた。
「は……っ、グラシ、アン……っ、ちょっと待って……っ」
わたしが息も絶え絶えに、花束を持つ手で胸を押す。グラシアンはそれに応じて唇を離したが、わたしを抱く腕の力は抜かなかった。
「このまま寝台に運んで、アリスを朝まで貪りたい」
囁かれて顔を上げると、ルビーのような切れ長の瞳が、妖しい光を放つ。その顔はどう見ても、『完璧な婚約者』と称えられるグラシアン・オブ・カニアのものではなかった。ああ、とわたしは早くも自分の未来を予見する。
――なんだかんだ言って、わたしはこの顔に一生絆され続けるんだわ。
わたしは自らの白い手袋を取り外すと、赤い口紅のついたグラシアンの唇をそっと拭った。
「女王の愛は、すべての国民のために。でも、わたしが受け取るのは、あなたからの愛だけよ」
「ピィーッ!」
わたしたちが本殿に差し掛かったところで、呼んだ? と幻獣の大きな瞳が上から覗き込んできた。グレードサラマンダーは、今日も元気で愛らしい。
「アンバー! 来てくれてありがとう」
幻獣は翼をはためかせながら、わたしの頬にキスして新夫の肩に留まる。グラシアンの瞳とサッシュがアンバーのボディと同じビビットカラーで、見ているだけで元気になった。
執事長の良く通る声がわたしたちの名前を読み上げるとともに、二人と一匹で神殿の緋毛氈を歩いていく。神官たちと、それからたくさんの招待客が待っていた。正面で凛々しくたたずむお母様に、わたしたちは礼を取る。
「陛下、お待たせして申し訳ありません」
「もう、私は女王ではない。そなたが、ルワンドの新しい主だ」
わたしは、その場で首を垂れた。
「はい、微力ではありますが心して臨みます」
「そなたとグラシアン、二人が創る新しい国の未来に祝福を」
お母様はグレードサラマンダーの心臓石を三つ、神官から受け取りわたしに差し出した。そのうち二つはバルを経由してグラシアンの身体から出てきたもの、最後の一つはお父様がアビゲイル嬢から預かったものだ。赤い真珠のような無限の力を秘めた石。病を癒し、マナを増幅させる。その代償は言うまでもない、グレードサラマンダーの命だ。
わたしはそれを両手で受けとる。心臓石をどうするかを決めるのが女王の最初の仕事だ。わたしは、それをグレードサラマンダーに差しだした。
「あなたの兄弟の心臓石も入っているかもしれないわ。受け取って」
グラシアンの肩で、ピ? とアンバーが小首をかしげた。
「あなたたちの聖域を荒らして、心臓石をむしり取ったこと。人の王であるわたしが、正式に謝罪します。本当に申し訳なかったわ。これから、北の保護区に結界を張って、密猟者を入れないようにする。バルが売りさばいた心臓石をすべて回収する。それぐらいしかできないけれど、二度と心臓石を利用させないことを誓うわ。この国に住む以上、あなたたちもわたしの国民よ」
アンバーは話を聞き終えると、小さな両手に抱えたものをじっと見た。
わたしは初めて、その瞳が深く透き通っていることに気が付く。そこには可愛いだけではない、悠久のときを生きる幻獣の神秘性、英明さを宿っていた。
アンバーが、グラシアンの肩から飛び上がる。神殿の高い天井の下、空中にとどまり、手の中で炎を生み出した。神殿内に、どよめきが広がる。かつてカニア邸の寮をも燃やした炎のきらめきは幻想的な橙色で、みるみるうちに心臓石を飲み込んでいく。
やがて、三つの心臓石が完全に灰になると、本殿は荘厳な静寂に支配されていた。
「ピーィ!」
可愛らしい鳴き声がその静寂を破り、神殿に爽やかな風が吹き抜ける。幻獣の声を受けて、グラシアンがふっと相好を崩したので尋ねた。
「アンバーは、なんて言ってるの?」
「グレードサラマンダーの心臓石を仲間の炎で燃やすと、無事に生まれ変われるらしい。幻獣は一回の産卵で一匹しか孵らない。残った卵は自分が孵らないことを理解していて、来世に望みを託すそうだ」
それを聞いていたお母様が、ぽろりと心情を吐露した。
「だったら、フィリップの決断も無駄ではなかったのだな」
グレードサラマンダーの孵らない卵から抜き取った心臓石で、寿命を延ばすこと。女王であるお母様を裏切らないために、それを断固として受け入れなかったお父様。その行いが正しいものであったと、お母様はまた一つ心のなかの罪悪感を消していくのだ。
心臓石のことが解決したところで結婚式へと移り、ついに大神官が荘厳な面持ちで告げる。
「誓いのキスを」
わたしは、グラシアンと向かい合った。彼に言ったとおり、楽しみだけど緊張する。ずっと見上げていると、耳元で囁かれた。
「アリスの盾と剣になると誓おう。俺の忠義と愛は、すべてあなたの為だけに」
両腕を強く引き寄せられ、接吻を受ける。柔らかい唇の感触。甘い甘い二人だけの儀式。思いのほかキスが長くて、最初は生暖かく見舞っていた面々も、次第にざわめき始めた。
「は……っ、グラシ、アン……っ、ちょっと待って……っ」
わたしが息も絶え絶えに、花束を持つ手で胸を押す。グラシアンはそれに応じて唇を離したが、わたしを抱く腕の力は抜かなかった。
「このまま寝台に運んで、アリスを朝まで貪りたい」
囁かれて顔を上げると、ルビーのような切れ長の瞳が、妖しい光を放つ。その顔はどう見ても、『完璧な婚約者』と称えられるグラシアン・オブ・カニアのものではなかった。ああ、とわたしは早くも自分の未来を予見する。
――なんだかんだ言って、わたしはこの顔に一生絆され続けるんだわ。
わたしは自らの白い手袋を取り外すと、赤い口紅のついたグラシアンの唇をそっと拭った。
「女王の愛は、すべての国民のために。でも、わたしが受け取るのは、あなたからの愛だけよ」
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