82 / 101
季節六 秋
二人での逢瀬
しおりを挟む
昨日と同じ場所で、春は蒼を待っていた。見えるものは昨日と何ら変わりなく、ただ蒼が居ないこと、そして侍女が居ないこと、それだけが違っていた。ぐるりと辺りを見渡してみる。此処では様々な催し物が執り行われたことを思い出す。八歳になった時の《初見ノ儀》。誕生日を迎えた時の宴。その他、沢山の宴。そして、来春十二歳を迎える春は、また此処で儀式を行う。それが《成人ノ儀》、成人を祝う儀式である。
「春、おはよう」
そんな考えに耽っていると、唐突に名前を呼ばれた。その顔を見ずとも分かる。この声は蒼だろう。振り向いてみると、そこには予想通り暖かい笑みを浮かべる蒼がいた。
「おはようございます、蒼」
そんな蒼に応えるように、春は笑顔で蒼に言葉を返した。だが、それは所詮は取り繕っただけの笑顔。蒼には見破られていただろう。しかし、蒼は何も言わなかった。
「二人で会うのは久しぶりだな」
「ええ、もう季節が三つも過ぎてしまいましたね」
「そうか、もうそんなに経ったのか…」
自分でも気付いていなかったのだが、春は蒼と二人きりで会わなかった期間をしっかりと記憶していた。口からさらりとそんな言葉が出たことに、自分のことながら春は驚いていた。
「さて、春。突然ですまないが、…謝らせてくれ。申し訳ない」
そう言うや否や、蒼が畳に頭をつけて謝り出した。春は訳も分からず、あたふたする他無かった。
「な、何故謝るのですか? 顔を上げてください!」
「…侍女を取り替えるようになってしまったこと、春はどう思っていた?」
徐々に頭を上げつつ、蒼は春に問い掛けた。まるで心を見透かされたような質問だ。春は少し間を置いて、動揺しながら遠慮がちに話し出す。
「……帰って来て突然のことで、少し変な話だとは思いましたが。蒼が決めたことでしたら、私はそれを止める権利などありませんから」
「では、止める権利があったら、止めたか?」
「それは…」
春は口篭った。分からない。止められたら止めたか。止めたかったことには変わりないが、果たしてそれを蒼に伝えることは出来たのだろうか。いや、無理だろう。そんな権利があったとして、春は止めなかった筈だ。蒼が決めたことだから、何も言うつもりは無かったし、渋々ながらその話を呑んだのだった。
「春、おはよう」
そんな考えに耽っていると、唐突に名前を呼ばれた。その顔を見ずとも分かる。この声は蒼だろう。振り向いてみると、そこには予想通り暖かい笑みを浮かべる蒼がいた。
「おはようございます、蒼」
そんな蒼に応えるように、春は笑顔で蒼に言葉を返した。だが、それは所詮は取り繕っただけの笑顔。蒼には見破られていただろう。しかし、蒼は何も言わなかった。
「二人で会うのは久しぶりだな」
「ええ、もう季節が三つも過ぎてしまいましたね」
「そうか、もうそんなに経ったのか…」
自分でも気付いていなかったのだが、春は蒼と二人きりで会わなかった期間をしっかりと記憶していた。口からさらりとそんな言葉が出たことに、自分のことながら春は驚いていた。
「さて、春。突然ですまないが、…謝らせてくれ。申し訳ない」
そう言うや否や、蒼が畳に頭をつけて謝り出した。春は訳も分からず、あたふたする他無かった。
「な、何故謝るのですか? 顔を上げてください!」
「…侍女を取り替えるようになってしまったこと、春はどう思っていた?」
徐々に頭を上げつつ、蒼は春に問い掛けた。まるで心を見透かされたような質問だ。春は少し間を置いて、動揺しながら遠慮がちに話し出す。
「……帰って来て突然のことで、少し変な話だとは思いましたが。蒼が決めたことでしたら、私はそれを止める権利などありませんから」
「では、止める権利があったら、止めたか?」
「それは…」
春は口篭った。分からない。止められたら止めたか。止めたかったことには変わりないが、果たしてそれを蒼に伝えることは出来たのだろうか。いや、無理だろう。そんな権利があったとして、春は止めなかった筈だ。蒼が決めたことだから、何も言うつもりは無かったし、渋々ながらその話を呑んだのだった。
0
あなたにおすすめの小説
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
戦国九州三国志
谷鋭二
歴史・時代
戦国時代九州は、三つの勢力が覇権をかけて激しい争いを繰り返しました。南端の地薩摩(鹿児島)から興った鎌倉以来の名門島津氏、肥前(現在の長崎、佐賀)を基盤にした新興の龍造寺氏、そして島津同様鎌倉以来の名門で豊後(大分県)を中心とする大友家です。この物語ではこの三者の争いを主に大友家を中心に描いていきたいと思います。
織田信長 -尾州払暁-
藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。
守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。
織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。
そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。
毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。
スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
(2022.04.04)
※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。
※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる