魔神と勘違いされた最強プレイヤー~異世界でもやることは変わらない~

ぶらっくまる。

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第一章 イフィゲニア王都奪還作戦編

第02話 創られた魔人

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 陰気な重いアレックスの心とは裏腹に、雲一つない空をアレックス擁する第三旅団の竜騎兵一個大隊が突き進む。暫く沈黙を保ったままでいると、アレックスの前に座っているジャンが肩越しにアレックスを見上げていた。ただでさえ癖毛のオレンジの髪が、風によりぼさぼさになっている。

「あのー、陛下?」

「どうしたんだ?」

「我々が転移してきたのは、大陸の中央とのことでしたが、この森の西側には何があるのでしょうか?」

「ああ、そう言えばそうだな」

 ジャンのその問いにアレックスは、まだまだこの世界を知らなさすぎることを思い出す。これまでの一週間、アレックスは補充が課題の食糧備蓄の確認や、他国の商人などの対応に追われていた。直接貯蔵庫を視察したり、商人と引見した訳ではない。いわゆる、書類仕事だ。アレックスは、異世界に転移してまで、デスクワークをするはめになるとは思わなかったが、それも仕方がないことである。

 彼は皇帝であり、最高責任者であるが故、従者たちから次々と上がってくる報告やそれに対する指示の、最終的な確認とタスク登録を行わなければならなかったのだ。結果、自由時間が少なくなる。シルファやラヴィーナからこの世界のことを聞くことが出来たのは、大体執務が終わった夕方以降の時間がほとんどだ。

 その時間は、もっぱら対ヴェルダ王国やシヴァ帝国に関する話に充てており、魔大陸のことしか話をしていなかった。それは、国家間の力関係やイフィゲニア王国に力を貸してくれる国がないかどうかの外交関係など。

「そう言えば、魔大陸のことばかりで聞きそびれていたが、大陸の西の方はどうなってんだ?」

 ジャンがしたように、アレックスが首を後ろへ巡らせ、シルファとラヴィーナに問い掛ける。

「大陸の西、ですか?」

 アレックスの質問に不思議そうに小首をコテンと傾げたのはシルファだった。ただそれも、彼女はそれに答える言葉を持ち合わせていないのだろう。アレックスは質問を質問で返されることになる。

「うーん、どうなんでしょう? そちらはアレックスの管轄外なのですか?」

「管轄も何も、俺はつい最近やって来たばかりだと言ったではないか。それと、魔人族の社会を説明してくれた時に、人族だとか獣人族を引き合いに出していただろ。他の種族も魔大陸にいるって訳じゃないんだろ?」

 作戦会議ならぬ魔大陸の勢力についての会話の中で、他種族のことが一度も上がらなかったことから、いつぞやの会話の内容を思い出してアレックスが質問を変えた。

「ええ、それは当然です。魔人族だけの大陸ですから魔大陸と呼ばれているのです」

 コクコクと頷いて魔大陸には魔人族しかいないことをシルファが肯定する。それでもやはり、そのあとが続かない。

 すると、シルファの右後方から少し身を乗り出したラヴィーナが、そろっと顔のあたりで止めた控えめな挙手をした。

「おう、ラヴィーナは何か知っているのか?」

「いえ、知っていると言いますか、伝承の内容になってしまうのですが……」

「いや、それでも構わない。ちょっと、待ってろ」

 前を向いたままの姿勢では聞き辛いことこの上ない。この際、伝承でも何でもいいからそれを知りたいアレックスが、座る向きを変える。

「シーザー、向きを変えるから急に動くなよ。わかっていると思うが、フリじゃないからな!」

 わざわざそんなことを言って念を押したアレックスに対し、シーザーからの返事は、『御意』とそれはとても短く、そっけないものだった。

「いや、マジで! 頼むぞ、本当!」

 しつこい確認に、さすがのシーザーは、無言を維持し、その答えとした。

 アレックスの念押しを穿うがった見方をすれば、それこそがフリになる。それでも、武将気質のシーザーにオチを理解できる訳もなかった。心臓をバクバクとさせながら方向を変えるアレックスだが、当然、オチを期待してのことではない。単純に高所での作業だからだ。

 上空数百メートルの位置を飛んでいるため、落ちたら大怪我どころの話ではない。いくら魔法障壁で風圧を軽減させているとは言え、機体の屋根がない飛行機に乗っているのと変わりない状況である。それはつまり、前を向いたままではアレックスの声は打ち消されて後ろまで届かない。さらに、鞍に固定したまま後ろを向き続けるのは、腰に負担が非常に掛かる。

 むしろ、そんなことが出来るようになったアレックスを褒めてほしいくらいだ。

 勢い勇んで出発したは良いものの、あまりの恐怖で最初の数十分もの間、アレックスはまともに口をきけなかった。高所恐怖症でなくとも、落下、イコール死の状況に、心が悲鳴を上げてしまったのだ。

 そんなこんなでシルファとラヴィーナの方に座る向きを変えたアレックスが、ジャンの方向転換も終えたのを確認し、ラヴィーナに話の続きを促す。

「よし、悪いな。話してくれ」

「はい、早速ですが、私たち魔人族に伝わる話に、『至高の御方が舞い降り。何も存在しないハズの次元に大地ができた。それは元よりそこにあったのか。はたまた、至高の御方に因る結果なのか。それは至高の御方のみぞ知る』と言う伝承があります」

「うむ、それで?」

「はい、それは、私たちが暮らしているこの大地のことをさしています」

 途端、ラヴィーナが眼下に広がる森林地帯へと視線を移した。

 まあ、そんなところだろうな、とその視線に釣られるようにしてアレックスも見飽きてきた地上を眺める。

「大地が生まれ、このエヴァーラスティングマナシーが生まれ、そこから魔人族が創られたという話です」

「ほーう、魔人類創造神話的なアレか?」

 ラヴィーナへと視線を戻したアレックスは、まるで天地創造神話みたいだと思いながらも、その手の知識を持ち合わせていない。それ故に、それっぽく尋ねるに止めた。

「はい、アレックス様にこの手の話は非常にし辛いのですが、おそらくアレックス様の配下の神……あるいは邪神だと思われます。その名を呼ぶこと自体が恐れ多き事とされていたため、名前は言い伝えられてはいないので、申し訳ないのですが……」

 肩を縮めたラヴィーナが、恐縮したように頭を下げてからアレックスのことを窺うように見た。アレックスが気分を害していないか探るような双眸は、本当に怯えているようだった。その反応に、こりゃまいったなー、とアレックスは誤解されたままの状況にやり辛さを感じた。それを誤魔化すように顎を擦りながら苦笑する。

 ただその誤解は、決して解けないであろうことをアレックスは理解している。

 そうして、今まで通りシルファの従者として行動させてほしいと、イザベルの監視下から解放されたラヴィーナから懇願されたときのことをアレックスが思い出すのだった。
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