魔神と勘違いされた最強プレイヤー~異世界でもやることは変わらない~

ぶらっくまる。

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第一章 イフィゲニア王都奪還作戦編

第06話 決めきれない指揮官

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 アレックスが方針を決めきれず、膠着状態が続くこと十数分。ついに、ゲイリーの部隊が前進を開始した。
 月の光を鈍く反射しながら一糸乱れぬ足並み。プレートアーマーを着込んだ騎兵一個連隊は、集落ではなくアレックスたちに正面を向くように布陣を変える。その様は、練度の高さが窺えた。

「陛下! 相手が動き出しましたよ。我々もこのままでは――」
「見ればわかる。一々喚くな」

 慌てたように告げたジャンに対し、アレックスがにべもなく遮る。

「も、申し訳ございません」

 シュンとジャンが肩を落とすと、シルファがフォローを入れる。

「ですが、ジャンさんが仰る通りですよ。わたくしたちも覚悟を決めないと」

「いやっ、まあ、その通りなんだが……」

 シルファからも決断を迫られたアレックスが戦場を見据える。

 その実、シルファだけではなく、シーザーからも追い打ちを掛けることを進言されていた。アレックスは、それを却下し、代わりに地上に下りて交渉をしてはどうかと提案していた。それでも、シーザーやブラックから上空にいるにも拘らず、見す見す有利なポジションを捨てることになる、と口を揃えて言われてしまったのだ。

 結果、具体的な対策を打ち出せないまま、敵方であるゲイリーの部隊が先に行動を開始した。

「さて、どうするべきか……」

 そのころになると、アレックスも大分落ち着きを取り戻しており、ゲイリーの動きを見てそんなことを呟く。何度目になるかわからないその呟きに、誰も反応しない。アレックスが何らかの決断を下すのを無言を通して待ってくれていた。

 シーザーの意図せぬ攻撃で三割程度の兵を一瞬で失ったため、彼らが退却する可能性をアレックスは考えていた。と言うよりも、望んでいた。

 その全てが騎兵であるが、それに対するアレックスたちは竜騎兵。どう考えても、ゲイリーたちが逃げ切れるはずもない。今のところ、ゲイリーの行動からは、側面から攻撃を受けないように布陣を変更しているだけのようにも見える。

「これはやはり、戦う意思がないと言えば逃げるんじゃないのか?」

 結局、何も思いつかなかったアレックスが話をぶり返す。

「陛下は何を仰るのです。それは先ほども申したではございませんか」

 ブラックがフライングドラゴンの背の上で揺られながら、わざとらしく深く大きなため息を吐く。明らかに呆れ返っていた。

 アレックス自身、希望的観測を言っている自覚があるため、その態度を非難できない。むしろ、わかっているからこそ、精神的ダメージを負った。

「ぐっ……いやあ、俺だって的を射た話だと思うさ。でもな、ブラック。相手がシルファの兄と知ってしまっては、なんともやり辛いというか……」

 気まずさからアレックスが頬を掻きながらそんな弁明をする。

 不可抗力とは言えども、アレックスたちがゲイリーの部隊に甚大な被害を与えたことは事実である。しかも、奇襲という形でだ。そのことは、ブラックが指摘しており、戦う道しか残されていないとアレックスは再三説明を受けていたのである。

 とどのつまり、 戦端の火蓋はその一手で切られている。後には引けないのだ。

 ゲイリーたちが反撃してこないのは、あくまでも不測の事態に襲われたことによる混乱が大きすぎたのだろう。さらに、その攻撃が常識はずれな威力であり、下手に手出しできないという判断をした可能性もある。故に、シーザーとシルファが、相手が浮足立っている間に叩くことを提案したことも頷ける。そうしていれば、今頃は戦後処理と相成っていたことだろう。

 が、今となっては後の祭りである。

「わたくしはべつに構いませんよ。兄がどうなろうが。民にほこを向けた者に慈悲は必要ありません」

 アレックスに気を使われていると感じたのか、シルファが冷徹にもそう言い放つ。

(おー、マジかよ……家族だろうが関係ないという感じは、魔人族らしいな……)

 アレックスがリバフロの設定になぞらえて感心する。それでも、無血解決を諦めきれず、アレックスがシルファに尋ねる。

「まあ、そうかもしれないが、ゲイリーは魔神を信じているのか?」

「はい、それは当然です。わたくしがかの魔法を体得したと知ったゲイリー兄さんが、足蹴く神殿に通って祈りを捧げていたというのを以前お話ししましたよね?」

 この世界では、レベルアップを図ると神の啓示のように新たな魔法やスキルを使えるようになるらしい。それは、益々ゲームのような機能を思わせる。ただ、シルファが訓練の後に欠かさず神殿で魔神への祈りを捧げていたことから、ゲイリーがインペリアルフレイムを体得できないのは、信仰が足りないからだと勘違いしたようなのだ。

「当然、覚えているさ。それは信じているとは言い難いが……まあ、可能性が少なくても、あるなら試す価値があると思うんだよな」

 可能性がゼロでないのであれば、意味があるだろうと、アレックスが腕を組んでから頻りに頷いた。

「あ、あのー。本当に気にしなくていいんですよ」

 念押しするようにシルファがそう言うが、アレックスはそれに耳を貸さない。

「気にするというか、こうなっては相手もそう易々と引けないだろうからな。俺が魔神だと明かした方が手っ取り早いだろ。それに、素直にイフィゲニア王国の現状を教えてくれるかもしれないし」

 アレックスとしては、魔大陸に進出するためにイフィゲニア王国を味方につけたいと考えている。本来であれば、シルファを女王に据えて同盟を結ぶつもりであり、政敵となる可能性があるゲイリーをここで排除した方が後々いらぬ混乱を起こさなくて済むだろうことも考えた。それでも、アレックスとしては、そこまで非情にもなれなかったのだ。

 それ故に、尤もらしい理由を挙げてみたものの、周りの反応はかんばしくない。

『殿よ。まことに其れにてよゐでござるな』

「陛下がそう仰るなら自分は従いますが、最強の名に……ゲフンっ、優しすぎる気がします」

「そうですよ、アレックス。お優しいのは知っていますが、戦場では無用な感情ですよ」

 シーザーの含みある確認に、ブラックの嫌味を含んだ指摘に、そしてシルファのダメ出しに、アレックスはグサグサと胸を刺された気分になった。

 ジャンとラヴィーナだけは、口を挟まずに押し黙っており、それが幸いだった。もし、その二人からも否定的なことを言われでもしていたら、アレックスは立ち直れなくなっていたことだろう。

 現状の問題点として、ここが現実だと理解していても、それが余計にアレックスを日本人的思考にさせる。

 俺の考えは間違っているのか? 話し合えばわかり合えるかもしれないじゃないか、という武力ではなく対話による解決を図ろうという先進国的な考え方に――

 日本にいたときのアレックスは、柔軟な考え方ができる聡明で気さくな性格が売りの男だった。自分でうのもなんだが、中間管理職として上司だけではなく部下からも信頼が厚く、研ぎ澄まされた頭脳の持ち主だと自負している。それが、一躍十数万人のトップという立場と重圧からか、冷静と言うには程遠く、判断力を鈍らせてしまっていたのだった。
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