魔神と勘違いされた最強プレイヤー~異世界でもやることは変わらない~

ぶらっくまる。

文字の大きさ
48 / 56
第一章 イフィゲニア王都奪還作戦編

第11話 絶望の果てに

しおりを挟む
 滴り落ちる赤が、アレックスの視界を霞ませる。瞬きをすれども、赤いフィルターが掛かったように視界がぼやけている。視線の先では、今もなお竜騎兵たちが戦闘を繰り広げている。

 シーザー、ブラック、そしてSランクの兵士だろうか。その周りには、次々と死が積み上がり、敵を圧倒しているように見える。それにも拘らず、敵兵の数が一向に減らない。いや、兵力差が三倍もあるせいで、次々と現れる敵兵にそう錯覚しているに過ぎない。集落の中であるため囲われることはないようだが、ステータスの低いDランクやEランクの竜騎兵たちは、倒しても倒して迫りくる数の暴力に押され、一人、また一人と地に伏していく。

 突然、四方八方で飛び交う魔法の一つ、ファイアボルトがアレックスに向かって来る。近付いて来る炎の塊を呆然と眺めるだけで、アレックスは身動ぎ一つしない。例によって、不可視の魔力障壁がそれを防ぐ。爆音と衝撃でようやくピクリとアレックスが反応する。瞼を数回瞬かせてからアレックスが視線を落とすと、血だまりが広がっていた。

 つい先ほど、アレックス目掛け突撃してきたフレイムホースと主人の成れの果て。空間ごと削り取られたように体の真ん中が消失しており、肉塊となり果てていた。

 息ができない――鼓動が早くなり、脈打つ音がアレックスの頭の中に響く。

「こ、これは……」

(俺がやったのか?)

 地べたに座り込んでしまっているアレックスが、ジャンを抱きしめた姿勢のまま、そう呟くのであった。

 ◆◆◆◆ ◆◆◆◆

 数分前。

 槍をその身に受けたジャンが、その勢いのままアレックスに背中から倒れ込んだ。やはり、中級の鋼鉄の盾では、その威力を防ぐには能力不足だった。

「おいっ、ジャン! しっかりしろ、ジャン!」

 咄嗟にジャンを受け止め、アレックスが幾度となく名を呼ぶが、ジャンがアレックスに答えることはない。力が抜けたように、ジャンが両腕をだらりとさせて頭が下を向く。

 アレックスが視線を上げて犯人をキッと睨みつける。スピードを落とすことなく、黒光りする角を生やした魔人が、新たに剣を握った右腕を振り上げた姿勢で、アレックスに突っ込んでくる。

「き、貴様ぁああー!!」

 アレックスが雄叫びの如く咆哮して立ち上がり、ジャンがそのまま地面に転がる。ジャンを優しく寝かせるなど考えている余裕はなかった。怒りに身を任せて顔を歪ませたアレックスが猛然とダッシュする。怒りに燃えた碧眼は、魔人の顔しか見ていない。相手の剣をどう受けるかなど、アレックスは考えていなかった。

 両手で握った漆黒の大剣を、力の限りに迫りくる敵へと薙ぐ。突進してきていた騎士は、その速度に反応することすら許されず、騎乗していたフレイムホースごといとも簡単にただの肉塊へと姿を変える。

 おそらく、彼は自分が生を終えたことすら気付いていないだろう。

 あまりの威力から、一瞬でその身体の真ん中が爆ぜて血の雨を降らす。至近距離にいたアレックスは、問答無用で全身に血を被った。血濡れたことなど気にせず、大きく肩で息をしてからアレックスが、すぐさまジャンの元へと駆け戻る。

 アレックスはが懇願するように叫び、編成画面を展開する。素早くステータス欄の数値へと視線を向ける。

「ああ、頼む! 間に合ってくれ!」

 ジャンの体力が残っていたことにアレックスが安堵したが、秒を追うごとに体力が減っていく。流血していることが原因かもしれない。胸に刺さっている槍を抜いてはいけないことだけはわかっていた。それでも、一般人程度の医療知識しか持たないアレックスは、その流血を止める方法を知らない。

 アレックスが居る世界は、どのような世界だっただろうか。それに気付くや否やアレックスが、アイテムボックスから初級エナジーポーションを素早く選択する。ゲームと同じなら、これでFランクのジャンは、全回復するはずだ。

「くそ、なぜだっ!」

 その現象は、城下町を視察に行く際に、ジャンに洋服を与えたときと同じだった。緑色の液体が入った小瓶が出現し、ボトリと地面に落ちる。

「そんな必要なかったのに、どういうことなんだ!」

 シルファと決闘したあの日から二日後。睡眠をとることで減った魔力が回復することを知った。一晩寝たことで半分以上を回復したのだが、魔力が全回復しなかったため、マジックポーションを試したのだ。今回のようにアイテムボックスから『使用する』を選択しただけで、効果を発揮したのだった。アレックスのときは。

「ええいっ、これでどうだ!」

 一刻を争う。エナジーポーションの蓋を開け、アレックスがジャンの頭を支えると、そのまま口の中にポーションの小瓶を突っ込んで傾ける。口の端から半分ほど漏れ出してしまったが、小瓶は空になった。

「なぜだ!」

 歯を食いしばり、叫ぶ。

 ステータスを確認しても、ジャンの体力がじわりじわりと減っていくのみ。

 【名前】ジャン
 【レベル】10
 【体力】3/28(F+)
 【魔力】18/18(F-)

 ジャンの体力が赤文字となり、状態ステータスがとなっていた。

 ダメ元で傷口に直接掛けてみたりとアレックスが考えうることを全て試した。けれどもやはり、効果がない。無情にも時間だけが過ぎ、色々なポーションの空き瓶が山を作る。

 そして、無情にもジャンの体力欄にゼロが刻まれる。

 嗚呼。

 俺はどうしたらいいんだ――

 アレックスは、仕様の違いに翻弄されていた。アレックスの知っている現実世界と、ゲームの世界であるリバフロを掛け合わせたような世界。アレックスが居るこの世界は、そんな優しい世界ではないのであった。
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~

月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』 恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。 戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。 だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】 導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。 「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」 「誰も本当の私なんて見てくれない」 「私の力は……人を傷つけるだけ」 「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」 傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。 しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。 ――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。 「君たちを、大陸最強にプロデュースする」 「「「「……はぁ!?」」」」 落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。 俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。 ◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...