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20.愛の言葉を待っているの
しおりを挟むいつも通りの穏やかな笑みを浮かべて、行ってらっしゃいと言ってくれるだろうと思っていた。だがステフはひどく思いつめた表情でココを引き留める。
「ココ!待ってくれ!」
「…どうしたの?」
「今からどこに行くんだ?」
今までステフがココの行動を制限することは一度もなかった。ココが今日セブンリに出発することを察したのだろうか。ココは小さなカバンを一つ持っているだけで、到底これから旅をする人間には思えないのだが…。
「お出かけに行くわ…。」
ステフの剣幕に戸惑ったココはつい言葉を濁してごまかした。だが、ステフの追求は終わらない。
「だれと?」
ステフはココの手首を掴んで、険しい表情で尋ねる。
ーーーなぜ今日に限って‥‥
「ステフには関係ないわ。」
弱弱しい口調でココは答えた。これ以上、心を乱されたくはない。ココにはステフが何を考えているのかわからなかった。
「ルカと一緒に行くのか?」
ステフはココの瞳をじっと見つめる。
「ちがうわ。」
ココは大きく目を見開いた。茶色くて優しいステフの瞳から、目が離せない。
「なら・・いい。」
ステフは小さく息をはいて、ココの手を離した。
―――貴方はいつも、私の嘘に気が付かないのね。
「なぜそんなことを聞くの?」
ココはステフの目をまっすぐ見つめた。
やっぱり、隣国に行ってほしくない。傍にいてほしい。
ステフが愛の言葉と共に引き留めてくれるのではないかと、ココは性懲りもなく期待している。
「理由はまだ言えないが・・・とにかくルカには…近づかないでくれ。」
ステフはココの両肩を掴んで、優しい口調でココに言い聞かせた。
―――なぜ理由が言えないの…私はもう…待てないわ。
ココはカバンを抱えてステフから一歩離れた。
「ステフ…!」
ココはステフを怒鳴りつけてやろうと思っていた。だけど、実際に出たのは、弱弱しい泣き出しそうな声だった。
「ステフはずるいわ!
好きな人ができたと婚約破棄したのに・・・それなのになぜ私の心をかき乱すの?」
「ココ・・・」
ステフは呆然とした顔で、ココを見つめた。
「婚約破棄したら‥‥私とステフは他人なんだから!」
そう叫んだココは数秒間、何かを訴えるような目で、ステフを見つめた。
「ごめん…。」
ココが聞きたい言葉は、ステフの謝罪ではなかった。今だけではない。この10年間、一度もココはステフからの謝罪を望んでいない。
ココが待っているのは‥‥ステフからの愛の言葉だけ。
10年間、その時を待っていたけれど‥もう、終わりが来たようだ。
「さようなら。」
ココはステフに背を向けて、部屋を出た。
「ココ…。」
呆然とその場に立ち尽くすステフ。
さっきまでココが立っていた場所には、ぽつりと一粒のしずくだけが残っていた。
◇◇◇
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