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第53話 白衣の誓いと、命の値段
しおりを挟むゲオルグ公爵の奇跡の生還から数日後。
バーンズ領は、かつてない喧騒に包まれていた。
「見ろ! あれが死者を蘇らせる城か!」
「素晴らしい……。ガラス窓がふんだんに使われている!」
王都で開催中だった「大陸平和会議」に参加していた各国の代表団が、こぞってバーンズ領への視察を希望し、蒸気機関車で押し寄せてきたのだ。
建設されたばかりの「バーンズ総合医療センター」のロビーは、異国の言葉と、感嘆の声で埋め尽くされていた。
「ようこそ、皆様」
マイルズは、白衣姿で彼らを出迎えた。
「当センターは、全ての人に開かれた医療の聖域です。……どうぞ、ご自身の目で確かめてください」
◇
視察団を案内するのは、かつて王都で「はぐれ者」「ヤブ医者」と蔑まれていた医師たちだ。
だが今の彼らは、清潔な白衣を纏い、背筋を伸ばし、堂々と最新医療を解説している。
「こちらが『集中治療室(ICU)』です。重症患者を二十四時間体制で監視し……」
「この『レントゲン』は、骨の内部を透視する魔導具で……」
彼らの説明を聞く各国の要人たちは、驚きを通り越して畏敬の念を抱いていた。
「信じられん……。我が国の王立病院よりも進んでいる……」
「この医師たちは、どこでこれほどの知識を?」
その様子を、遠巻きに見ていた外科部長のゼッドが、鼻を鳴らした。
「フン。……現金な連中だ。王都にいた頃は、俺たちをゴミを見るような目で見ていたくせにな」
「そう言うな、ゼッド」
内科部長のガレンが、穏やかに笑う。
「彼らは見ているのだよ。ワシらではなく、ワシらが作り上げた『結果』をな。……そして、その環境を与えてくれたあの方を」
二人の視線の先には、各国の代表に囲まれ、堂々と渡り合う少年の姿があった。
◇
「素晴らしい設備だ、バーンズ卿」
ある小国の宰相が、感心しつつも鋭い質問を投げかけた。
「しかし……これだけの施設と人員、維持費は莫大だろう? 貴殿の領地は豊かだとは聞くが、無料で治療をしていては、いずれ破綻するのではないか?」
「ご心配には及びません」
マイルズは、一枚のパネルを示した。
そこには、病院の収支モデルが描かれていた。
「当院は、二つの料金体系を持っています」
マイルズは説明した。
「一つは、領民や貧困層向けの『一般診療』。これは極めて低価格、あるいは無料で提供します」
「それでは赤字だろう?」
「ええ。……その赤字を補填するのが、もう一つの『特別診療(VIPコース)』です」
マイルズは、上層階を指差した。
「個室、専属看護師、豪華な食事、そして最優先の治療。……これらを希望する富裕層や貴族からは、相応の対価をいただきます」
「金持ちから取り、貧しきを救う……義賊のような真似か?」
「いいえ、ビジネスです」
マイルズは微笑んだ。
「富める者は、快適さと安心を金で買う。その金で、最新の設備を整え、医師を雇い、領民の命を守る。……命の価値は平等ですが、受けるサービスの対価は平等ではありません」
マイルズの提示した「医療の再分配システム」。
それは、慈善事業ではなく、持続可能な経営モデルだった。
各国の代表たちは唸った。
「……なるほど。綺麗事だけでは医療は守れん、か」
「我が国でも導入を検討したい。……バーンズ卿、技術提携を頼めるか?」
「喜んで。……ただし」
マイルズは抜け目なく付け加えた。
「医療機器と薬品は、全て『バーンズ商会』から購入していただきますが」
◇
その夜。
視察団が去り、静けさを取り戻した病院のカンファレンスルーム。
マイルズは、全スタッフを集めていた。
医師三十名、看護師百名。
かつては王都で居場所を失い、路頭に迷っていた者たちが、今や世界最高水準の医療チームとなっている。
「……皆、よくやってくれた」
マイルズは深々と頭を下げた。
「今日の成功は、君たちの努力の結果だ。……君たちは、私の誇りだ」
その言葉に、すすり泣く声が漏れた。
特に、王都で冷遇されていた若手医師たちは、感情を抑えきれなかった。
「……マイルズ様。俺たちを……拾ってくれて、ありがとうございました」
「ここで働けることが……医者として、一番の幸せです」
「おい、湿っぽいぞお前ら!」
ゼッドが怒鳴るが、その声も少し湿っていた。
彼はマイルズの前に歩み寄り、ぶっきらぼうに言った。
「……小僧。いや、理事長」
ゼッドは、片目をすがめた。
「俺たちは、もう王都には戻らん。……どんな高給で誘われようがな」
彼は、自分の胸――白衣の胸ポケットにある「バーンズ医療団」の記章を叩いた。
「俺たちのメスは、あんたに捧げる。……あんたが作る『未来』を、俺たちに見せてくれ」
それは、忠誠の誓いだった。
騎士が剣を捧げるように、彼らはメスと技術を、この少年に捧げたのだ。
「……ああ、約束する」
マイルズは力強く頷いた。
「君たちとなら、病のない世界だって夢じゃない。……これからも頼むぞ、チーム・バーンズ」
わっと歓声が上がり、拍手が鳴り止まない。
白い巨塔は、確固たる絆で結ばれた城となった。
「……いいチームですね」
部屋の隅で見ていたシャルロットが、眼鏡を拭いながら微笑む。
「うん。……最高の財産だ」
2年生の冬が終わろうとしていた。
医療改革は成し遂げられた。
マイルズの名声は、国内はおろか、大陸全土に轟く「若き巨頭」となっていた。
そして、季節は巡る。
マイルズは14歳となり、王立学院での最後の1年――3年生を迎える。
だが、その春は、穏やかなものではなかった。
王都からの急報。
「第一王子派が動き出した。……ギルバート殿下の立太子を阻止するため、強硬手段に出る構えだ」
内政から政治へ。
マイルズは、国の未来を決める「王位継承戦争」へと足を踏み入れることになる。
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