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第1章
第14話:岩礁のワルツ
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「全速!あの岩礁地帯に突入する!」
俺の狂気じみた命令が響き渡る。
海燕号は、その船首を絶望的な死地へと向けた。そこは、ベテランの航海士であるダリオですら、海図の上でしか見たことのない呪われた海域だった。
「若様!本気か!あそこは水面下にも無数の隠れ岩がある!一度入れば二度と出られんぞ!」
ダリオの悲鳴にも似た叫びが響く。乗組員たちの顔は、恐怖で真っ白になっていた。
「俺を信じろ!見えている岩より、見えない流れが重要だ!」
俺は叫び返した。風詠みの力が俺の脳内に、この複雑な海域の完全な立体地図を描き出していた。水面下の岩の位置、ぶつかり合う潮の流れ、そして岩の間を吹き抜ける予測不能な風。その全てが俺には見えていた。
「敵船団、追ってきます!」
見張り役の声が上ずる。
「ハハハ!あの馬鹿め、自分で死地に飛び込みやがった!」
後方からザラードの高笑いが風に乗って聞こえてきた。奴らは、俺たちが自滅するのをあるいは岩に乗り上げて動けなくなるのを待っている。
「奴らも入ってきます!三隻ともだ!」
「いいぞ!誘い込んだ!」
俺は船首に立ち、荒れ狂う潮の流れを見据えた。
「ダリオ殿!ここからはコンマ一秒のズレも許されない!俺の指示通りに舵を!」
「……ちくしょう!分かったよ!あんたの狂気に、とことん付き合ってやる!」
ダリオは覚悟を決めた。
海燕号は複雑怪奇な岩礁地帯へと滑り込んだ。
「面舵(おもかじ)!今だ!右舷の岩に寄せろ!」
「ええい!」
ダリオが舵輪を回す。船は巨大な岩のすぐ脇を、船腹が擦れそうな距離で通り抜けた。
「戻せ!中央突破!次の隠れ岩まで全速!」
「若様!前方に潮の渦が!」
「構うな!乗り越えろ!」
海燕号は、その驚異的な復原力と機動力で、まるで危険な障害物コースを踊るように駆け抜けていく。それはもはや操船ではなかった。神業だった。
後を追う海賊船団は、そうはいかない。
「首領(かしら)!駄目だ!この船じゃ小回りが利かねえ!」
「前方の船!岩に近づきすぎだ!」
奴らの大型船は、この狭い海域ではあまりに鈍重だった。連携も、包囲も、ここでは意味をなさない。
「いいぞ!一隻が前に出た!予定通りだ!」
ザラードの旗艦が遅れ始めたのに対し、最も速い一隻が、功を焦って俺たちの真後ろに食らいついてきた。
「ゲオルグさん!投擲班、準備!」
「おう!いつでもいいぜ!」
ゲオルグが、屈強な男たちと共に、鉄杭と油瓶を構える。
「セラフィーナ殿!」
俺は船尾楼に叫んだ。
「あなたが見たかったものが、今から始まります!しっかり見ておくことです!」
彼女は、乗馬服の裾が強風にはためくのも構わず、手すりを強く握りしめていた。その紫水晶の瞳は、恐怖ではなく、信じられないものを見る驚愕に見開かれている。
俺たちの船は、前方の特に狭い岩と岩の間をすり抜けた。
「ここで減速!帆を半分たため!」
急激な減速。後続の海賊船が、驚いて距離を詰めてくる。
「奴が岩の間を抜ける!今だ!」
海賊船が、岩礁を抜けて視界が開けた瞬間。俺は、最大戦速を命じた。
「帆を張れ!取舵(とりかじ)いっぱい!反転する!」
「なっ!?」
ダリオが驚愕する。だが、彼の身体は完璧に動いた。
海燕号は、その場でクルリと回るかのような、ありえない急旋回を見せた。
追いかけてきた海賊船と、真正面からすれ違う形になる。
「馬鹿な!?なぜ反転を!」
海賊船の甲板が、一瞬の混乱に陥る。
奴らが状況を理解するより早く、海燕号は圧倒的な速度ですれ違った。
「今だ!舵を狙え!放て!」
俺の号令と共に、ゲオルグたちが咆哮した。
「うおおおっ!」
ヒュン、という風切り音と共に、十数本の鉄杭と油瓶が、正確に海賊船の船尾へと吸い込まれていった。
ガガガッ!ゴシャッ!
鈍い破壊音。木片が派手に飛び散る。
海賊船の舵輪が、根元から粉砕されたのが見えた。
「やったか!?」
「舵が……舵が効かねえ!」
海賊船から悲鳴が上がる。舵を失った船は、もはやただの漂流物だ。潮の流れに押され、制御を失った巨体が、ゆっくりと近くの岩礁へと流されていく。
「よし!一隻目、行動不能!」
俺は、勝利を宣言した。
「な、何をしやがった!あのアークライトの小僧!」
後方で、ザラードの激昂した叫び声が響き渡った。旗艦レッドハウル号が、怒りに任せて無茶苦茶な砲撃を開始する。だが、そんな鈍重な砲撃が、この海燕号に当たるはずもなかった。
「……すごい」
俺の背後でセラフィーナが、か細い声で呟いた。
「これが……あなたの言う、海戦……」
彼女の論理的な世界が、今、目の前で繰り広げられた暴力的なまでの合理性によって、再び、そして決定的に破壊されていた。
「まだ終わりではありませんよ、監察官殿」
俺は、残る二隻を見据えた。
「次は、あの旗艦の『翼』を奪います」
俺たちの船は、再び反転し、獲物に向かってその速度を上げた。
戦いの主導権は完全に俺たちが握っていた。
俺の狂気じみた命令が響き渡る。
海燕号は、その船首を絶望的な死地へと向けた。そこは、ベテランの航海士であるダリオですら、海図の上でしか見たことのない呪われた海域だった。
「若様!本気か!あそこは水面下にも無数の隠れ岩がある!一度入れば二度と出られんぞ!」
ダリオの悲鳴にも似た叫びが響く。乗組員たちの顔は、恐怖で真っ白になっていた。
「俺を信じろ!見えている岩より、見えない流れが重要だ!」
俺は叫び返した。風詠みの力が俺の脳内に、この複雑な海域の完全な立体地図を描き出していた。水面下の岩の位置、ぶつかり合う潮の流れ、そして岩の間を吹き抜ける予測不能な風。その全てが俺には見えていた。
「敵船団、追ってきます!」
見張り役の声が上ずる。
「ハハハ!あの馬鹿め、自分で死地に飛び込みやがった!」
後方からザラードの高笑いが風に乗って聞こえてきた。奴らは、俺たちが自滅するのをあるいは岩に乗り上げて動けなくなるのを待っている。
「奴らも入ってきます!三隻ともだ!」
「いいぞ!誘い込んだ!」
俺は船首に立ち、荒れ狂う潮の流れを見据えた。
「ダリオ殿!ここからはコンマ一秒のズレも許されない!俺の指示通りに舵を!」
「……ちくしょう!分かったよ!あんたの狂気に、とことん付き合ってやる!」
ダリオは覚悟を決めた。
海燕号は複雑怪奇な岩礁地帯へと滑り込んだ。
「面舵(おもかじ)!今だ!右舷の岩に寄せろ!」
「ええい!」
ダリオが舵輪を回す。船は巨大な岩のすぐ脇を、船腹が擦れそうな距離で通り抜けた。
「戻せ!中央突破!次の隠れ岩まで全速!」
「若様!前方に潮の渦が!」
「構うな!乗り越えろ!」
海燕号は、その驚異的な復原力と機動力で、まるで危険な障害物コースを踊るように駆け抜けていく。それはもはや操船ではなかった。神業だった。
後を追う海賊船団は、そうはいかない。
「首領(かしら)!駄目だ!この船じゃ小回りが利かねえ!」
「前方の船!岩に近づきすぎだ!」
奴らの大型船は、この狭い海域ではあまりに鈍重だった。連携も、包囲も、ここでは意味をなさない。
「いいぞ!一隻が前に出た!予定通りだ!」
ザラードの旗艦が遅れ始めたのに対し、最も速い一隻が、功を焦って俺たちの真後ろに食らいついてきた。
「ゲオルグさん!投擲班、準備!」
「おう!いつでもいいぜ!」
ゲオルグが、屈強な男たちと共に、鉄杭と油瓶を構える。
「セラフィーナ殿!」
俺は船尾楼に叫んだ。
「あなたが見たかったものが、今から始まります!しっかり見ておくことです!」
彼女は、乗馬服の裾が強風にはためくのも構わず、手すりを強く握りしめていた。その紫水晶の瞳は、恐怖ではなく、信じられないものを見る驚愕に見開かれている。
俺たちの船は、前方の特に狭い岩と岩の間をすり抜けた。
「ここで減速!帆を半分たため!」
急激な減速。後続の海賊船が、驚いて距離を詰めてくる。
「奴が岩の間を抜ける!今だ!」
海賊船が、岩礁を抜けて視界が開けた瞬間。俺は、最大戦速を命じた。
「帆を張れ!取舵(とりかじ)いっぱい!反転する!」
「なっ!?」
ダリオが驚愕する。だが、彼の身体は完璧に動いた。
海燕号は、その場でクルリと回るかのような、ありえない急旋回を見せた。
追いかけてきた海賊船と、真正面からすれ違う形になる。
「馬鹿な!?なぜ反転を!」
海賊船の甲板が、一瞬の混乱に陥る。
奴らが状況を理解するより早く、海燕号は圧倒的な速度ですれ違った。
「今だ!舵を狙え!放て!」
俺の号令と共に、ゲオルグたちが咆哮した。
「うおおおっ!」
ヒュン、という風切り音と共に、十数本の鉄杭と油瓶が、正確に海賊船の船尾へと吸い込まれていった。
ガガガッ!ゴシャッ!
鈍い破壊音。木片が派手に飛び散る。
海賊船の舵輪が、根元から粉砕されたのが見えた。
「やったか!?」
「舵が……舵が効かねえ!」
海賊船から悲鳴が上がる。舵を失った船は、もはやただの漂流物だ。潮の流れに押され、制御を失った巨体が、ゆっくりと近くの岩礁へと流されていく。
「よし!一隻目、行動不能!」
俺は、勝利を宣言した。
「な、何をしやがった!あのアークライトの小僧!」
後方で、ザラードの激昂した叫び声が響き渡った。旗艦レッドハウル号が、怒りに任せて無茶苦茶な砲撃を開始する。だが、そんな鈍重な砲撃が、この海燕号に当たるはずもなかった。
「……すごい」
俺の背後でセラフィーナが、か細い声で呟いた。
「これが……あなたの言う、海戦……」
彼女の論理的な世界が、今、目の前で繰り広げられた暴力的なまでの合理性によって、再び、そして決定的に破壊されていた。
「まだ終わりではありませんよ、監察官殿」
俺は、残る二隻を見据えた。
「次は、あの旗艦の『翼』を奪います」
俺たちの船は、再び反転し、獲物に向かってその速度を上げた。
戦いの主導権は完全に俺たちが握っていた。
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