ドグマ

布施鉱平

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ドグマ

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 宝条孝弘は、犬を飼っている。
 
 と言っても、それは普通の犬ではない。

 最先端の遺伝子工学によって生まれた、人の外見と犬の能力を併せ持つ遺伝子混合生物ハイブリッドキメラ────





 ────【人型犬種ドッグマン





 通称【ドグマ】と呼ばれるその生き物が、孝弘の飼っている犬の正体だ。

 ドグマは第三次世界大戦が勃発し、世界が殺戮と混沌の渦中にある中、日本という小さな島国に住む一人の狂化学者マッドの手によって生み出された。

 生物兵器として利用するため────ではない。
 
 一般には知られていない国家機密であるが、もともとの目的はあくまでも愛玩用としてであった。

 その科学者は人と人が憎しみあい、奪いあい、殺しあう世界に絶望し、人では無く、かつ動物でも無い生き物に愛と癒やしを求めたのだ。

 しかし、ダイナマイトが土木工事の安全性向上を目的として作られたにもかかわらず、結局は兵器として使用されてしまったのと同じように、ドグマもまた、国によって戦争の道具へと変貌させられてしまった。

 それに値するだけの能力が、彼女たちには備わっていたからだ。

 ドグマは一見すると、犬耳と犬尻尾が生えただけの人間に見えるが、その肉体に秘められた能力は人類を遥かに超越している。

 並の犬よりも速く、長く走ることができる身体能力に、犬並みの嗅覚と聴覚。
 人間と同等……いや、下手をすればそれ以上の知能と学習能力。
 
 さらには武器を持たずとも人体を容易く引き裂けるだけの怪力や、銃弾を躱すことが出来るほどの動体視力と反射神経を持ち、そして何より、自らが主と定めた人間に対する絶対の忠誠心を心に秘めていた。

 速く、強く、賢く、命令には逆らわず、決して裏切ることも無い。

 兵士として、これ以上有能な存在は無いだろう。

 事実、大量生産・・・・されたドグマの活躍により、日本は世界に勝利した。

 そして戦争の終結と共に戦地での役割を終えた彼女たちは、核代わりの抑止力として日本国内でのみ繁殖を許されることになり、長い時間をかけながら日本社会にその存在を浸透させていったのである。

 それが、今から約60年前の出来事だ。

 現在ドグマは日本の保有する人型生物兵器という存在でありながらも、同時に【準日本国民】という人権を有している。

 これは基本的人権に守られてはいるが、ある程度ドグマ用に調整された国民制度のことだ。

 もともとは戦争の英雄である彼女たちに、日本国民と同じ権利を与えようという流れがあった。
 だがそれは、ドグマの有する戦闘能力、そして人とは異なる習性によって断念せざるを得なかった。

 ドグマの習性────前述している【主に対する絶対の忠誠心】だ。

 彼女たちは、自らの主と認めた人間に対し、異常ともいえるほどの忠誠心を抱く。

 それは主の命令がどれほど道徳や法律にもとるものであろうとも、躊躇ためらうこと無く実行してしまうほどの強制力本能であり、彼女たちが有している能力を考れば、管理もせずに放っておくことは不可能だったのだ。

 そのため、現在ドグマはその個体数と日常生活を、国によってがっちりと監視・管理されているのである。

 もちろんそれは、彼女たちの主となる人間に対しても同じ事で、ドグマを責任もって『飼う』ことが出来るかどうか、『飼う』に値する人格を持っているかどうかを国によって厳しく審査され、その後の生活にもある程度干渉されることになる。

 生涯にわたって国の監視下にあるなど煩わしいことこの上ないが、それでも『ドグマを飼いたい』と国に申請する者は後を絶たない。

 それだけ日本において…………いや、世界という規模においてですら、彼女たちを飼っているというステータスは大きいからだ。

 ドグマの飼育許可を申請することが出来るのは、最低でも三世代以上前から日本で生まれ育ち、日本国内に住居を有し、国外に血縁関係を持たない『純日本国民』と呼ばれる者のみ。
 その中でも、申請が通るのはおよそ1000世帯にひとつと言われている。

 それに、申請が通ったところで国の審査官による直接面談などがあるし、そもそも主として認めるかどうかの主体はドグマにあるので、実際に飼うことが認められるのはさらにその十分の一以下……

 つまり、現在の総世帯数は約5000万だから、日本全国で約5000世帯にも満たないごく少数だけが、ドグマを飼うことを許されているわけだ。

 しかも世界でドグマが存在しているのは(表向き)日本だけなので、つまりは全世界の中の5000ということになる。

 動画投稿サービスなどにドグマの日常を投稿するだけでも、それなりの金を稼ぐことが出来るだろう。

 実際、多数のドグマを有する国防軍(旧自衛隊)などは、彼女たちの訓練風景などを撮影して配信することで、かなりの額の資金を稼いでいたりする。

 その上ドグマ飼育家庭には、『ドグマ支援金』という給付金が毎月支払われるので、日本に住んでいる日本国民であれば、だれもが宝くじを買うような感覚でドグマ飼育申請を出している、と言うわけだ。


 ────さて、話は戻るが、孝弘はドグマを飼っている。
 

 だが彼は、別に国から審査を受けたわけでも、ある日偶然出会ったドグマにいきなり『ご主人様』認定されたわけでもない。
 そんなのは漫画の中だけの話だ。

 ならどうしてドグマを飼っているのかというと、実は孝弘の曾祖父そうそふというのが…………あの、ドグマの生みの親である狂科学者マッドだったりするからである。

 そう、対外的には日本を救った救世主の生みの親だとされているが、実はただの天才的な頭脳を持ったケモナーであり、違法な遺伝子実験をしてまで自分の歪犬っ娘とイチャんだ欲望イチャしたいを満たそうとした最低の男、【宝条弘泰ほうじょうひろやす】。
 
 その直系の子孫が、何を隠そう孝弘なのだ。

 宝条家はドグマを生み出し日本を勝利に導いた功績と、ドグマたちが『ドグマを産むため』に必要不可欠な【種付け薬】の製造技術を秘匿独占していることによって、今や日本有数の名家となっている。

 膨大な資産や広大な土地を有し、さらには秘密裏に国から認められたいくつかの特権を持つ、いわば超上級国民なのだ。
 
 だからこそ、審査も何も無く、むしろ護衛としてドグマを飼うことが義務づけ・・・・られているほどであった。

 万が一にも孝弘が外国のスパイなどにさらわれたりでもしたら、ドグマに関する情報や種付け薬の製造方法が流出してしまう恐れがあるし、なにより【北条弘泰の真実マッドなケモナー】でも暴露させられた日には、世界中から批判の嵐が降り注ぐこと間違いなしだからだ。

 ……そんな宝条家の次期党首、宝条孝弘ほうじょうたかひろ


 彼は────────















 ────────ドグマが、嫌いだ。





 ◇





「────おはようございます。孝弘様」

 朝。
 
 孝弘は、凜と澄んだ声によって目を覚ます。

「……ああ」

 それに応対する孝弘の声はひどいものだ。
 不機嫌としか言いようのない、低くて投げやりな声。

「本日より学園は夏期特別休校夏休みに入っております。特にご指示がなかったためつねと同じ時間にお声をお掛けしましたが、翌日からは起床時間を変更されますか?」

 そんな素っ気ない返答をされながらも、凜と澄んだ声の主は全く怯むこと無く、孝弘に話しかける。
 
「…………」

 ぼやける視界を調整するため目をしかめながら、孝弘は無言で声の主を見上げた。

 アーモンド型の切れ長な目が、その視線を受け止める。

 冗談みたいに整った顔立ちをした、きめ細やかな褐色の肌を持つ、スーツ姿の長身の女性。

 彼女の名前は、宝条レオナ。

 孝弘と同じ名字だが、血縁関係はない。
 飼い主・・・となる人間の姓を名乗るのが慣例であるため、レオナも宝条姓を名乗っているだけだ。



 ────そう、レオナは人間ではない。



 彼女はドーベルマン・ピンシャーの遺伝的特徴を受け継ぐ、極めて護衛能力の高いドグマだ。
 幼少の頃に孝弘に与えられ、それからずっと彼に付き従い、共に成長し、彼を守り続けてきた存在である。

 誰よりも強く、誰よりも誠実で、誰よりも美しい────孝弘の嫌いな、ドグマだ。

「……起床時間はいつも通りでいい。が、わざわざ起こしに来る必要はない。勝手に起きるから放っておけ」

「ですが、私はごえ……」

「いい、と言っている。第一、護衛の役割は目覚まし時計の代わりをすることじゃ無いだろう」

 レオナのセリフを遮り、居丈高にそう言い切ると、孝弘は彼女から視線を外した。

「……かしこまりました。もうすぐ朝食の用意が出来ますが、部屋にお運び致しますか?」

「いらん。寝たきりの病人じゃ無いんだ。食事くらい自分で食べに行く」

「かしこまりました。その後のご予定ですが────」

「それを、いちいちお前に言う必要があるか? それに、俺は休日の予定などいちいち立てたりしない。いつも通り、せいぜい書庫で本を読んだりするくらいだ。
 ……ああ、どうせ外には出ないから、護衛の必要も無いぞ。お前も俺に構わず、やりたいことをやっていればいい」

「……では、孝弘様のご迷惑にならぬよう、すぐ駆けつけられる場所に待機しております」

 レオナの言葉に、孝弘はため息ををひとつ吐いてから、もう数え切れないほど発した言葉を、今日も彼女に投げかける。

「────それが、お前のやりたいことか?」

 それに対する彼女の返答も、きっといつもと同じ。

「────はい、孝弘様」

 予想通りの返答に、孝弘は苛立ちを隠そうともせず、無言で手を払った。

 出て行け、と身振りで示したのだ。

「……失礼致します」

 完璧な姿勢で頭を下げ、レオナが部屋を退出する。

 去り際に見えた彼女の短い尻尾は、うなだれることも左右に振れることも無く、鋼鉄の芯でも入っているかのように『ピン』とまっすぐ上を向いていた。
 
 ……まるで、決して曲がることも折れることも無い、ドグマの忠誠心を表すかのように。

 それを見ながら、孝弘は覚悟を決める。





 ────もうさすがに、この関係にも決着を付けなければならないな、と。





 ◇





 夜。

 孝弘は犬笛を吹いて、レオナを部屋に呼んだ。

 彼女の頭についている犬耳は、人間には聞き取ることの出来ない周波数の音も聞き取ることができる。

「ご用でしょうか、孝弘様」

 笛を吹いて10秒と掛からず、レオナが部屋に現れた。
 おおかた、いつでも主人の元に駆けつけられるよう、部屋の近くに待機していたのだろう。

「ああ、用があるから呼んだんだ。────ちょっとこっちに来い」

 孝弘はいつも通りの居丈高な態度で、彼女をベッドの近くに呼び寄せる。

「かしこまりました」

 夜に孝弘がレオナを部屋に呼ぶなどこれが初めてのことなのだが、レオナは警戒する様子もなく、素直にベッドに近づいてきた。

 だが…………

「よし。じゃあ、レオナ────服を脱げ」

「はっ……………………孝弘様、いま、なんと…………?」

 次に孝弘が発した言葉には、流石のレオナも戸惑わざるを得なかったようだ。
 
 切れ長の目を大きく見開き、自分の耳にした言葉が信じられないとでも言うように、孝弘に聞き返してくる。

 だがもちろん、孝弘の命令は変わらない。

「服を脱げ、と言ったんだ。もう一度言おうか?」

「……………………いえ、はい……いえ、大丈夫です。服を、脱ぎます…………」

 表情は崩れていないが、かなり困惑しているのだろう。
 いつもであれば凜とした声でよどみなく返答するというのに、今は言葉が途切れ途切れになっている。

 無理も無い。

 今の状況も要因の一つであろうが、孝弘はこれまでずっと、彼女に対して何かを命令したことは無かったのだ。

『好きにしろ』『自分で考えろ』『俺に聞くな』

 突き放したように、そう言うだけだった。

「……脱ぎました」

 命令に従い、手際よく上下のスーツを脱いだレオナが、孝弘に報告をした。

 余分な肉のついていないスレンダーな肉体が、目の前に晒される。

 だが、まだ余計なものを身につけている。

「下着もだ。全部脱げ」

「っ…………はい……」

 つとめて冷たい声を出し、孝弘は無慈悲な命令を重ねた。
 
 だがそれでも、レオナは主人の言葉に従った。

 自らの手でブラジャーを外し、ショーツを引き下ろしながら、彼女は何を思うのだろう、何を感じているのだろう。

 羞恥だろうか。

 屈辱だろうか。

 怒りだろうか。

 それとも────主から命令された喜びなのだろうか。

 いまだに表情を崩さないレオナの顔から、それを読み取ることは出来ない。

「そのままベッドに横になれ」

「…………はい」 

 胸と股間を手で隠しながら、レオナは言われたとおりベッドに横になる。

「手をどけろ、邪魔だ」

 しかしその最後の抵抗も、問答無用で却下されてしまう。

「…………」

 やはり、レオナは逆らわなかった。
  
 さすがに「はい」という前向きな返事は返ってこなかったものの、素直に胸と股間を覆っていた手を外し、躊躇ためらいがちに体の横に下ろす。

 孝弘はベッドの脇に立ったまま、無防備に生まれたままの姿を晒す彼女を見下ろした。

 普段スーツの内側に隠されている胸は、大きくはないがしっかりと女性らしい丸みを有し、その先端には桜色の小ぶりな乳首がツンと上向きに存在を主張している。

 そこから視線を下げていくと、うっすらと腹筋の線が入った腹部、くびれた腰、そして丁寧に処理された陰毛が目に映った。

 あまりにも美しく、完璧な肉体だった。

 ただ女性として美しいだけではなく、護衛としての能力を十全に発揮できるだけの機能美も備わっている。 

 孝弘はそのまま足の先端までゆっくりと視線を移動させると、また往復して顔の位置まで戻ってきた。

 流石のレオナも羞恥を感じているのだろう。
 やや呼吸は乱れ、褐色なので分かりづらいが、頬にはほんのりと赤みが差しているように見えた。

 ギシリ、とベッドが軋む音が鳴る。

 孝弘がレオナの体に跨がるようにして、ベッドの上に乗った音だ。

「…………」

「…………」

 息が掛かるくらいの至近距離で、互いに無言のまま視線を絡ませる。

 いつ犯されてもおかしくはない、そんな状況であるにもかかわらず、彼女の黒曜石オブシディアンのような瞳は陰ることなく、まっすぐに孝弘を見つめていた。

 ……その視線から逃げるように目を逸らし、孝弘は体の位置をズリ下げていく。
  
 つややかな唇、細い首筋、滑らかな鎖骨を通り過ぎ、胸の真上まで来たところで動きは止まった。

 目の前に、小ぶりな桜色の乳首がある。

 思わず息が荒くなり、吐き出した熱い吐息をその部分に吹きかけてしまう。

「…………んっ……」

 小さく、しかし明らかに官能を含んだ声を、レオナが漏らした。

 それは十年以上になる付き合いの中でも、孝弘が初めて耳にする声だった。

「…………っ」

 孝弘はむしゃぶりつきたくなる衝動を自分の唇を噛むことで堪えながら、乳首を素通りして下腹部の辺りまで下がる。

 綺麗に整えられた陰毛の傍を通るとき、ふわっと石けんの匂いが漂った。

 四六時中護衛として付き従っているのに、一体いつ風呂に入っているのだろうか。

 そんな軽い疑問を心に抱きながら、孝弘は動きを止める。

 目の前には一流の彫刻家が大理石から彫り出したかのような、完璧な造形をした二本の脚が並んでいた。

 孝弘は少し躊躇した後、張りのある太ももに手のひらで触れた。

「ぅ……っ」

 ひくり、とレオナが体を震わせる。

 彼女の肌は見た目よりもさらに滑らかで、そしてひんやりとしていた。
 
 ……いや、孝弘の手のひらが熱を持っているのかも知れない。

 二人の温度差を馴染ませるように、ゆっくりと太ももを撫で上げていく。

「………はっ……はっ……」

 レオナの息遣いが、足下の孝弘にも聞こえてくるくらいに荒くなる。
 
 ちらりと視線を上げてみれば、引き結ばれていた唇は半開きになり、頬ははっきりと紅潮し、形の良い眉はやや八の字に垂れ下がっていた。


 ────触れられて、興奮しているのだ。

 
 孝弘はたまらず、太ももをまさぐっていた手に力を込めると、そのまま容赦なく左右に割り開いた。

「…………っ」

 レオナが息を飲んだ音が聞こえた。

 だが、孝弘にはそれに反応している余裕など無い。

 しなやかで健康的な太ももをさかのぼった先にある、肉色の秘裂。

 そこに、意識の全てを奪われていたからだ。
 
 レオナの方も孝弘の視線を感じているのか、じっと見つめていると時折その部分がひくり、ひくりと物欲しげに蠢いた。
 
 孝弘はレオナの膝下に手を入れて持ち上げ、膝を立てさせた。

 その動きで、周囲の空気が攪拌される。

 漂ってきたのは、清潔な石けんの匂いなどでは無かった。


 ────発情した、雌の匂い。

 
 脳の一部を痺れさせるようなその匂いに、すでにズボンを内側から押し上げていた孝弘のチンポが、さらに大きさと硬さを増した。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」

 気づけば、孝弘は息を荒げてズボンのベルトに手をかけていた。

 カチャカチャと、もどかしい手つきで留め金を鳴らしながらベルトを外し、ズボンと下着を一気に下げる。

 そして、これまでに無いくらい熱く張り詰めたチンポが外気に冷やされたその瞬間────ようやく、孝弘は我に返った。

「…………どうして、抵抗しないっ」

 無抵抗のまま股を開き、秘裂どころかその下の薄茶色いすぼまりまで全てをさらけ出したレオナに、孝弘は興奮に震えそうになる声を必死に抑えながら問いかけた。

 …………そもそも、こんなはずでは無かったのだ。

 理不尽な命令をされ、犯される寸前にでもなれば、いくらレオナでも反抗すると思っていた。
 
 さすがに殺されるようなことはないだろうが、部屋から逃げ出すなり、自分を突き飛ばすなりはするだろうと思っていた。

 そしてその反抗を理由に、彼女を宝条孝弘という『最低な人間』から解放・・するつもりだったのだ。

 …………このままではレオナを犯してしまう。
 一度その肉体を知れば、もう後戻りは出来なくなるだろう。

 レオナが自分以外の誰かのモノになるなど許せず、彼女を束縛し、二度と手放せなくなってしまうだろう。

 そうなれば、孝弘が心から軽蔑する曾祖父【北条弘泰】のように、ドグマの忠誠心本能を利用して自らの欲望を発散するクズに成り下がってしまう。

 それだけは、許せなかった。







 孝弘は────レオナを愛しているのだ。







 幼い頃、初めて彼女を見たときから、レオナ以外の女性を異性として意識できないほどに、彼女のことだけを愛していた。

 だからこそ、その彼女の心を縛り付け、幸せの幅を狭め、自由な未来を奪う『ドグマという生き物の性質』を、心の底から嫌っているのだ。

 思春期を迎え、レオナに対する愛と欲望をはっきりと認識したその瞬間から、孝弘は彼女に対して冷たい態度をとり続けてきた。
 
 そうすることで、いつか彼女が『宝条孝弘の護衛』という狭い檻から解放され、自分の人生を歩んでくれることを望んでいた。

 手のひらに爪を立て、必死に理性を手放さないよう努力する孝弘の耳に、レオナの声が届いたのはその時だった。










「────いいから、はやく……っ」










 初めて聞く、強い感情の籠もった、焦るような声。
 口調もいつもの彼女とは違う。

 驚いて顔を上げると、そこには自らの両手で肉色の秘裂を割り広げ、見せつけるように腰を浮かせるレオナの姿があった。

 割り開かれたその場所からは、やや白濁した、粘り気のある液体が止めどなく溢れ、ベッドのシーツに大きなシミを作っている。



 ……………………



「…………ぅぁあああああああああっ!!」

 理性、思考、自制心。
 孝弘を人間たらしめるそれらは、あっというまに本能性欲によって押しつぶされた。

 そして一匹の獣と化した孝弘は、目の前に差し出された雌の肉を喰らうため、雄叫びを上げながら覆い被さっていくのだった。









 ◆sideレオナ




 ────宝条レオナは、ドーベルマン・ピンシャーの遺伝的特徴をもつドグマとして生を受けた。

 それも、極めて優秀な能力を持つドグマとして。

 誰よりも身体能力が高く、誰よりも学習能力が高く、第六感が備わっているのではないかと思うほど勘も鋭かった。

 だからこそ彼女は、幼い頃から自分が人間から警戒されている事を知っていた。

 ドグマは、その能力が高ければ高いほど、本能も強くなる。

 本能とはすなわち、自らの主人を求め、その主人に依存する精神性だ。

 もしレオナが危険な思想をもつ人物を主と認めてしまった場合、同じドグマでも彼女を止めるのは至難の業。
 ゆえにレオナは、なるべく人に出会わぬよう、政府の運営する『ドグマ養成施設』の中に半ば軟禁状態で育てられた。

 レオナには、それが不満だった。

 仲間たちは外に出て多くの人間と触れ合い、早い者はすでに3歳で自らの主を見つけている。

 それなのに、レオナが顔を合わせる人間と言えば、毎日変わらず施設の職員だけ。
 時には主候補に引き合わされることもあるが、その誰もが彼女の望む人間ではなかった。

 ドグマは、自らの主を匂いで選ぶ。
 それがどんな匂いなのかはその時にならなければ分からないが、ドグマであれば間違いようのない、本能を疼かせる匂いらしい。

 最も、普通のドグマであれば「あ、いい匂いだな」と感じる程度で、それだけを判断材料として主を選ぶ訳ではないのだが、能力も本能も並外れているレオナのようなドグマは違う。

 本能に直撃するような、完璧に自分と『合う』匂いで無ければ、主と認められないのだ。

 その高い能力に引きずられるように、主を求める本能も人一倍強いレオナは、常に心の中に焦りと苛立ちと不安を抱えながら過ごしていた。


 ────そして、レオナが8歳になったある日のこと。


 その日は朝から、なぜかレオナの心はザワついていた。

 彼女が備えている第六感が、しきりに何かを訴えかけてくるのだ。

 今すぐに走り出したいような、思い切り遠吠えを上げたいような、そんな衝動が身体の奥底からこみ上げてくる。

 尻尾は自分の意思とは無関係にパタパタと動き、鋭敏な鼻はここに存在しない何か・・を見つけようと、必死になって匂いを嗅ぎ回る。

 その衝動は時間が経過する程に強くなっていき、自分を抑え込むのも現界に近づいてきた時。
 レオナは、職員に呼ばれた。

 連れて行かれた先は、飼い主候補と面談する為の部屋。
 そして、部屋の扉が開かれた、その瞬間────


 レオナの脳天に、雷が落ちたかのような衝撃が走った。


 その衝撃は全身をくまなく駆け巡り、指先やつま先、尻尾の先までもを痺れさせ、彼女の心に燻っていた不安や焦りを跡形もなく吹き飛ばした。

 原因は分かりきっている。

 匂いだ。

 鼻を通って胸を満たす匂いが、溢れそうなほど湧き出てくる幸福感と共に、一つの確実な事実をレオナに伝えてくる。

 一瞬、あまりの衝撃に我を失っていたレオナは、すぐさま視線を動かし、そして見つけた。

 匂いの元を。
 
 目の前に立つ、一人の少年を。


 こ の ひ と が 私 の 主 だ !


 目が、耳が、鼻が、尻尾が、心が、本能が、全力でそう叫んでいた。

 細胞の一つ一つが活性化し、なにか別の生き物にでも進化したかのような高揚感が、全身を包み込んでいた。

「────お名前を」

 震えそうになる声を懸命に堪えながら、レオナは口を開いた。

「お名前を、お教えくださいませんか?」

 いつか主に出会えたときの為、懸命に練習していた丁寧な言葉遣いで、レオナは尋ねた。

 それを受けた少年が、一度こくりと唾を飲み込んだ後、口を開く。

「ぼ、ぼくは、ほう、宝条、孝弘、でしゅ」


 ……………………


 …………


(…………くぁぁああああああああっ!! 可愛いんじゃぁぁああああああああっっ!!! 私の主、超可愛いんじゃぁああああああああああああっっっ!!!!!!)

 宝条レオナ、8歳。

 ドグマとして完全に覚醒した瞬間であった。



 ◇



 ただのレオナが宝条レオナとなってから、彼女の人生は完全に満ち足りていた。

 愛してやまない主が、いつも傍にいる。
 
 それだけでも十分に幸せだというのに、どうやら、その主も自分の事を好いてくれているようなのだ。

 ドグマにとって、これ以上の幸せはない。

 ドグマは、遺伝子レベルで主への忠誠心────強力な『依存』が組み込まれた存在だ。

 主を見つけられないドグマは、不安や焦燥を抱えたりと精神的に不安定になってしまう反面、一度主を見つけたドグマは、その主が傍にいる限り常に多幸感に包まれる。

 それは主がどれだけ理不尽でも、自分の事を愛してくれなくても変わらない。

 ある意味でそれは、ドグマという生き物に生まれつきかけられた『呪い』のようなものだ。

 そのことを問題視する人間や団体も当然のごとく存在するのだが、当のドグマたちは『幸せなんだから別にいいじゃん』というスタンスを貫き続けている。

 彼女たちは確かに人に似ているが、人ではないのだ。
 その価値観や精神性も、独自のものを持っている。

 が、もちろん愛されないよりは愛されたほうが嬉しいし、性的な目で見られないよりは見られたほうが嬉しい。

 ドグマは、その愛情や忠誠心だけではなく、性欲までもが完全に主に依存した存在なのだ。

 ドグマとしての本能が強いレオナは、当然のごとく性的欲求も強い。

 孝弘の傍にいるときは護衛としての役割があるので表面を取り繕っているが、実際には出会ったその日から、孝弘をおかずに毎日三度は自慰をしているほどだった。

 それでも、自ら主を誘ったり、ましてや襲いかかったりはしない。

 レオナを含むドグマたちが求めているのは、あくまでも主からの寵愛であり、主を性のはけ口にすることではないからだ。

 しかし、危なかったことも何度かあった。
 
 一番危険だったのは、主が精通を迎えた日。

 いつものごとく主を起こしに行ったレオナは、部屋の扉を開けた瞬間、その強烈な雄の匂いに、思わず理性を失いそうになった。
 
 なんとか堪えたものの、すでに下着はグチョグチョになっていた。

 それを悟られないように主の元へ向かうと、そこには真っ赤な顔で「……おねしょしちゃった」と俯く主の姿。

 あまりの愛らしさに、襲いかかりたくなる衝動を堪えるため、こっそり自分の指をへし折る必要があったほどだ。

 もちろん、下着は後でこっそり回収し、こびりついた精液を舐めたり股間に塗り込んだりしながら、数え切れないほど絶頂した。

 そんな幸せな日々を送っていたレオナだったが、ある日を境に主の態度が一変する。

 なにやら口調が冷たくなり、一人称がボクから俺になり、あからさまにレオナを避けるようになったのだ。


 レオナは深く傷つき、悲しみに暮れ────────たりはしなかった。


 なぜなら、ドグマは匂いである程度他人の感情が分かるからだ。
 人は、悲しいときは悲しい匂いが、怒っているときは怒っている匂いが漂っている。

 赤の他人でもその程度のことが分かってしまうのだから、ただ一人の主の事ならば、なおのことよく分かる。

 どれだけ完璧な演技をしようとも、ドグマの嗅覚を誤魔化すことなど出来ない。

 ましてやドグマとしての能力がトップクラスに高いレオナならばなおさらだ。

 レオナの主は、北条孝弘は、変わらずレオナのことを愛していた。
 いや、その愛は歳を重ねるごとにより強く、深くなっていた。

 そして、自分を性的な対象として見ていることも、レオナにはとっくに分かっていた。

 だからこそ、レオナは主の取る自分への態度について、こう理解していたのだ。


 ツ ン デ レ だと。


(はぁ……はぁ……可愛い……、ツンデレ主が可愛すぎて辛い……っ、ペロペロしたい……っ、ペロペロしたい……っ!!)

 どうして主がツンデレに目覚めたのかは分からないが、たぶん思春期特有のアレだろうとレオナは判断した。

 孝弘がツンデレ化してからもレオナはずっと幸せだったが、同時に悶々とする日々を送ることにもなった。

 どういうわけか、自分を性的な対象と見ているはずの孝弘が、一向に手を出してくれないからだ。

 自分に飽きたわけでも、他に好きな女が出来たわけでも無いことを、レオナは匂いで分かっている。

 だが、抱いてくれない。

 孝弘は常に自分に対して発情しており、股間の辺りからは雄の匂いが強く漂ってくるのに『待て』をされているのだから、生殺しもいいところであった。

 レオナが自分を慰める回数は、一日三回から倍の六回に増え、彼女の鋼のような精神を持ってしても、そろそろ我慢の限界が近づいてきていた────そんなある日のことだった。

 いつもとは違う夜の時間帯に、自分を呼ぶ犬笛の音が聞こえたのは。

 屋敷の外を見回っていたレオナは、その音が聞こえた瞬間、跳躍して三階の窓に張り付くと、鋭利な爪でガラス(防弾仕様)をくりぬき、鍵を外して中に入った。
 
 後で怒られるだろうが、主に呼ばれた以上は一刻も早く駆けつけるのが護衛であるレオナの役目である。

 軽く手櫛で髪などを整えてから、部屋の扉を開けた。

 その瞬間────


(あぁ……っ!)


 表情にこそ出さなかったが、レオナは喜びのあまり、孝弘からは見え無い位置で尻尾をピコピコと左右に振った。

 孝弘から漂ってくる雄の匂いが、これまでに無いくらい濃かったからだ。

(ようやく……ようやく、抱いて貰える……っ!)

 孝弘の匂いからそう察したレオナの思考は、ピンク色に染め上げられた。

 その後色々な命令を孝弘からされたが、正直襲いかかりそうになる自分を抑えるのに必死で、内容はあまり理解していなかった。

 服を脱がされ、ベッドに寝かされ、体を撫でられ、脚を開かされ、いよいよ待ちに待った交尾だっ! …………という所で、なぜか孝弘が怒り出した。

 本来のレオナであれば、その怒りの原因を突き止めるため、冷静に孝弘の言葉を聞き、様子を観察することも出来ただろう。

 だが、今は無理だ。
 
 数年間もお預けを食らっていたあげく、挿入直前になって焦らされたのでは、いくらレオナであっても冷静になどなれはしない。


「────いいから、はやく……っ」


 言葉遣いを取り繕うことも忘れて、レオナは孝弘に催促した。

 はやくチンポを入れて貰わないと、おかしくなってしまいそうだった。

 だからレオナは、生まれて初めて孝弘に強請ねだった。

 挿れて! 突いて! 犯して! という意志を込め、自ら秘裂を割り開き、そこからだらだらとヨダレを垂れ流しながら、孝弘のチンポを強請った。


「…………ぅぁあああああああああっ!!」


 叫び声と共に、孝弘がレオナの中に入ってきた。

「…………っ!!♡」

 待ちに待った主とのセックスは、レオナが想像していた何倍もの快楽を、そして幸福を、彼女にもたらした。

 自分の指なんかでは到底及ばない快感と幸福感に包まれ、レオナは即座に絶頂してしまう。

「うあっ、あっ、あっ……!」

 不規則に収縮するレオナの膣肉に揉みくちゃにされ、孝弘もすぐに射精した。

 ドクドクと注ぎ込まれる精液を、レオナの膣は一滴も零すまいと波打つように蠕動ぜんどうし、その舐めしゃぶるような感触が孝弘からさらなる精液を搾り取る。

 レオナに限定したことでは無いが、ドグマというのは基本的に人間とは比べものにならないくらいの名器を持っている。

 それは彼女たちが作られたそもそもの目的が『愛玩用』だったからであり、天才科学者『北条弘泰』がそうなるように設計したからだ。

 だがそれ以上に、ドグマたちの主に対する強く純粋な愛は、設計すら超えた進化を彼女たちに与えていた。

 主のものを挿入された瞬間、ドグマたちの膣内はその形状を瞬時に把握し、自らの形を変化させ、名実ともに『主専用の性器』として作り変えることが出来るようになっていたのだ。

 レオナもその例に漏れず、彼女の膣はすでに孝弘用に最適化されていた。

 その専用マンコが与える快楽は、セックスドラッグを使った『キメセク』すらも凌駕し、孝弘の思考を真白に焼いた。

「ああっ、あっ、うあぁっ!」

 あまりの快楽に人間の言葉を失った孝弘は、口の端から涎を垂らしながら、がむしゃらに腰を叩きつける。

 何度も、何度も、狂ったようにレオナの膣肉を蹂躙し、射精しながらも腰の動きを止めずに、子宮を精液で満たしていく。

 一方で、そんな獣のようなピストンを受け入れているレオナも、頭がおかしくなるような快楽を味わっていた。

 前述したように、ドグマたちは自分の膣を主専用に変化させる事が出来る。

 主のチンコがどれだけ小さかろうと、皮を被っていようと、そんなことはお構いなしに、最高の快楽を与えることが出来る。

 そしてそれは、決して一方的なものでは無い。

 ドグマたちもまた、主専用に最適化された膣によって、最高の快楽を主のチンポから得ることが出来るのだ。

「あ゛あ゛っ!♡ あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛っ!!♡♡」

 髪を振り乱しながら、レオナもまた、獣のような叫びを上げて絶頂を繰り返した。

 二匹の獣は溜りに溜まった欲望をぶつけ合うかのように、何度も体位を変え、場所を変えながら、いつまでも交わり続けるのだった。






















 いつの間にか、窓からは朝日が差し込んでいた。

 長い長い性交を終え、ベッドの上で脱力していた二人の顔を、日の光が照らす。

 ふいに、レオナに正常位の体勢で挿入したまま力尽きていた孝弘が、顔を上げた。

 その顔は、セックスをする前の何か憂いを抱えたようなものとは違い、覚悟を決めた男の顔つきに変わっていた。

「レオナ……お前は、俺のものだ」

 真剣な目でそう言い放つと、孝弘はレオナの唇を奪った。

(いまさら、何を言っているんだろう?)

 当然のことを告げられて疑問を抱くレオナだったが、改めて『俺のもの』宣言されて嬉しくないはずが無い。

 自ら舌を伸ばして孝弘の舌を絡め取りながら、レオナはベッドに押しつぶされている短い尻尾を、ぶんぶんと強く左右に振ったのだった。


 
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