愛に変わるのに劇的なキッカケは必要ない

かんだ

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「は?」
「強姦魔! 死ね!」
「ですから、その方は瀬名斗真様ではありません」
「……待て、話が見えない」
 翌朝。俺の腕の中で気絶していた瀬名が起きると、烈火の如くキレた。落ち着かせていれば圭人から連絡があり部屋へ呼び寄せた。スマホには昨夜、圭人や家から何度も連絡が入っていたのだ。その用件も聞きたかったし、瀬名の暴れ具合に一人では大変だったからだ。
 だが、圭人から開口一番「誰ですかそいつは」と言われたのだ。
 そして、圭人の話と瀬名の暴言から導き出した答えは、人違い。それに気付き、今である。
「まあアルファの中のアルファである志貴様に抱いてもらえたんです。良い経験が出来て良かったな」
「……アルファの中の、アルファ?」
「分からないか? まあ見るからに頭空っぽそうだからな」
「圭人、そういうこと言うなよ」
「このお方はアルファの中でも最も優れている優性アルファだ。志貴様に抱かれるだけでも名誉なことだぞ」
「優性、アルファ?」
 瀬名は俺を見つめながら愕然とする。
 例え勘違いだったとしても、優性アルファに抱かれたがるオメガは多い。喜ばれるとまでは思っていないが、愕然と、いや絶望? されるとは思っていなかった。
「えと、名前は? 瀬名と呼ばれていたよな?」
「藤岡、セナ」
「セナは名前だったのか」
「志貴様もどうして間違えたんですか」
「オメガらしくなかったんだよ。瀬名と呼ばれていたし。会話していても噛み合わないこともなかったし」
 会話が噛み合わなかったということは、もしかしたらセナも似たような目的でアルファと会うはずだったのかもしれない。
「セナ、落ち着いたか? お前もアルファと会うはずだったのか?」
 セナは力なくベッドに座り込み、魂が抜けたようだった。優しく体を揺すってようやくこちらを見上げる。
「俺、オメガ、か?」
「オメガだろ? 昨日よりもフェロモンが濃くなっているし、今はちゃんとオメガだな」
 素直に感じたまま答える。昨日は不思議なフェロモンをしていたが、今はちゃんとオメガのフェロモンをしていた。
「良い匂いだ。花畑にいるみたいな」
「うるせえ!!」
「痛っ!?」
「志貴様!?」
 フェロモンを褒めた途端思い切り頬を殴られる。普段なら避けられたのに、セナを励ますことに集中し過ぎていたらしい。
「このクソオメガ! 志貴様に何しやがる!」
「うるせえ! バカ! 何がフェロモンだ! 俺はオメガじゃねえ!!」
 セナは立ち上がって、唾を飛ばす勢いで叫ぶ。……いや、普通に飛んできた。こんなことは初めてだ。
「俺は! オメガじゃない! オメガじゃなかったんだ!」
「オメガだ。まさか今まで気付かずにいたのか?」
「違う! アルファとオメガの性質を持っていたんだ! 不安定になったから! アルファに安定させるためにオメガのフェロモンを浴びる必要があったんだよ! なのに! お前が!」
「待て、それは本当か?」
「どうせ嘘ですよ。こんなバカがアルファの性質を持っているわけない」
 セナの言うことは本当だと、直感的に思う。
 だからセナのフェロモンは不可思議だったのだ。二つの異なる性質を持っていたから、素直にオメガだと思えなかった。
 不安定だったフェロモンをアルファとして安定させるために、オメガのフェロモンを浴びることは理解出来る。
「お前のせいで!」
「……悪かった」
「志貴様が謝ることないですよ!」
 いや、確実に俺が悪い。しっかり確認しなかった。
 昨日は優性アルファのフェロモンをガッツリ浴びせた上、ゴムがなかったため何度も体内に吐き出した。本来の発情期でなければ男のオメガは妊娠しないと、好きなように抱いてしまった。
 今、セナのフェロモンがオメガに安定していることが何よりの証拠だ。
 俺は頭を抱えながら謝罪を口にするしかなかった。
「謝って済むことじゃないだろ! この強姦魔!」
「分かってる」
「どうするんだよ!」
 セナの暴言から推測すると、昨夜は買った優性オメガからこのホテルを指定されたそうだ。知り合いからスーツを借りて、なけなしの金を使い、用意した。なのに、アルファに抱かれ、オメガに安定してしまったのだ。
 アルファとオメガでは今後の人生が大きく変わる。どうしてもオメガは生きづらい。
「とりあえず、責任、取る」
「志貴様!? 本気ですか!? 別に志貴様のせいではないでしょう!? お互い勘違いしていたんだから」
「そうは言っても、本来ならアルファに安定するところをオメガにしてしまったんだぞ」
 圭人はだからなんだと言いたげな顔をする。
「責任ってどう取るんだよ!? アルファにしてくれるのか!?」
「それは出来ないが、とりあえず、責任取るよ」
「アルファになれないならお前なんか用無しだ!」
「待て、どこ行くんだ?」
 セナが帰ろうとするのかドアへと向かう。その腕を掴めばすぐに振り払われた。
「うるさい。お前なんか大嫌いだ」
「連絡先を教えてくれ」
「嫌だ。誰が強姦魔に教えるか」
「志貴様、それなら慰謝料を払って終わりにしましょう」
 圭人が溜め息混じりにそう提案すると、セナがピクッと反応する。
「そうだな。それは必須だな。じゃあ、連絡先、教えてくれるか?」
 セナはスマホを取り出すと、連絡先の画面を見せる。覚えようと思ったが画面の名前がセナではない。
「誰の連絡先だ?」
「友達。俺のは教えてやらない」
「……分かった」
 頑固だ、実に頑固である。
 とりあえず連絡先を知ることが出来たので今は良しとしよう。
「家は? 送っていく」
「いらない!」
「これ俺の連絡先だから、何かあったら連絡してくれ」
 セナは奪い取るように連絡先を書いたメモを手にすると、「ばーか!」と最後に吐き捨てて出て行った。
 圭人と二人残されると、久しぶりに静けさが流れた。
「……とりあえず、俺たちも帰るか」
「はぁ。あのオメガ、どうするんですか?」
「どうもこうも、連絡を待つしかないだろ」
 そこまでする必要が? とまた聞かれるだろうが、人の人生を変えた責任は大きい。慰謝料だけで許してくれるなら一番楽だが、これから先オメガとしての人生が続くことを考えたら安易に金だけで解決したがらないだろう。
「もし結婚しろと言われたら?」
「それは、さすがに、無理だけど」
「ですよね。なら慰謝料で終わらせましょう。どうせ冷静になれば金を寄越せってうるさく言ってきますよ。貧乏そうだから、いくら言われるか分かりませんが」

 きっとそうだろう、そう思っていた俺たちだったが、セナからは一切連絡はなかった。一週間経っても音沙汰はなく、圭人からは「藪蛇になるので放っておきましょう」と念を押された。
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