好きなだけじゃどうにもならないこともある。(譲れないのだからどうにかする)

かんだ

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1.強い好奇心が始まり

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 地方伯爵家の四男として生まれたミラヴェルという男は、生まれた時から普通とは違った。
 まず、その容貌。白金色の髪、少し吊り上がった大きな青い瞳、白く滑らかな肌、艶やかに濡れた唇、全ての完璧なパーツが完璧なる場所に配置されているその容貌は、見る者の視線だけでなく思考をも奪った。歳を重ねる毎にその美しさは輝き、いつしかミラヴェルとは誰にとっての『美しい』の代名詞となるほどだった。
 そして、ミラヴェルが普通と違うところはその並外れた容貌だけではない。小さい頃から、危険なほどに好奇心が旺盛だったところである。
 目にしたオシャレなフルーツナイフが本当に切れるのかと自らの指に刃を立て裂いてみたし、馬の出産に立ち会いたいからと助産師や動物の生態について勉強してから臨んだし、小説で読んだ『カーテンを繋ぎ合わせて窓から逃げる』ことが本当に出来るのかと実際に試したし、勢いをつけたブランコから高く飛び降りてみせたし、同年代の皇族から「平等に接してくれて良いよ」と言われた時には額面通りに受け取り「じゃあ俺のことはミラって呼んで」とフレンドリーに応えてみせた。
 危ないと、言葉には裏側があると分かっているにも関わらず、刺激された好奇心を抑えられないタイプなのだ。いつか取り返しのつかない事態に陥るのではと、周囲が不安に思うほどだった。注意しても危険性を説いても、「大丈夫だよ」と本人は良い笑顔で親指を当てるだけ。この子はいつか好奇心に殺されると本気で心配だった。
 だが、そんな周囲の心配はミラヴェルが高等部に上がる頃に落ち着いた。理由は単純、ミラヴェルを上手く操縦出来る人間が現れたからだ。
 その相手は、メリル・ケーニッヒという皇太子である。
 メリルはミラヴェルとは違う美しさを持ち合わせ、全てにおいて天才だった。建国神話に出てくる女神様を彷彿とさせる唯一の黒髪に赤い瞳、人を癒すような穏やかな笑顔、抜群な経営力と統率力を持ち、若くして多くの民衆の心を掴んでいた。だが、その性格は計算高く腹黒い。自分のためならどんなことでも出来てしまうタイプだった。メリルという人間をよく知る者は全員が敵に回したくない、出来るなら関わりたくないと評価する。気付けばメリルの手のひらの上で動かされていることが多いのだから、誰だって関わりたくないと思うだろう。ただ、そう気付ける者は少なく、メリルと関わった九割は「皇太子は人格者だからこの先も安泰だ」とニコニコするだけだ。
 そんな人間だからこそ、ミラヴェルの好奇心を上手く操縦出来ているのだろう。メリルと出会ってからというもの、ミラヴェルは危険に突っ込むことはなくなったし、怪我をすることは格段に減った。
 ミラヴェルの家族は安堵した。このまま落ち着いてくれるだろうと思った。
 だが、メリルがミラヴェルを上手く操縦するようになった本当の理由を知った時、家族全員本気で白目を剥くことになる。
 何故なら、二人が恋人同士だったからだ。これはシュテルン家がミラヴェルの婚約者を考え始めた頃に分かったことだった。上三人は結婚、婚約済みだったため、末っ子のミラヴェルにも良いお嫁さんが来てくれたら良いと話していた。その時に、メリルが家に来て、「結婚を前提に付き合っている」と宣言したのである。
 二人は中等部時代に出会い、紆余曲折あって高等部一年時に恋人になったと言う。
 この帝国は同性同士の結婚が認められているが、皇族が同性と結婚する例はなく初めてのことだった。保守派の権力者は皇族の、しかも皇太子の同性婚に反対の声を上げたし、革新派の権力者は跡継ぎを産む側妃を必ず取ることを条件として賛成した。皇帝は革新派の意見を取り入れた。そして、シュテルン家は田舎貴族出身の我が子が皇太子妃になることは到底無理だと懇願した。良き友人の座に収めて欲しいと。
 だが、メリルはその全てを突っぱね、丸め込み、最終的に自分の意思を尊重させた。……周りは、尊重せざるを得なかった。
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