好きなだけじゃどうにもならないこともある。(譲れないのだからどうにかする)

かんだ

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4.魔法とは

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 メリルから働くことの了承を得てから数日後。公務の合間に執務室へと呼び出された。
 庭園が見渡せる大きな窓をバックに、メリルの執務机は置いてある。手前には応接セットがあるが、メリルは自分のテリトリーに長時間他人を入れることを厭うためきちんと活用されたことはない。腰を据えての話し合いが必要な場合は、別室の会議室を使うことが暗黙の了解となっている。加えて本人が厭う以上に、壁一面に飾られた大きな肖像画をあまり目に入れたくないという意識もあるらしい。入って右側の壁一面には小難しい本や様々な種類の全書が並べられているが、左側には花畑で満面の笑みを浮かべるミラヴェル・ケーニッヒの肖像画が飾られているのだ。メリルのお気に入りの一枚であり、宝物。こんな大きな肖像画を執務室という誰の目にも入る場所に飾るなと怒ったが、気付けば丸め込まれ了承してしまった結果である。メリルの不興を買いたくない家臣たちは、なるべく視界に入れないよう気を使っていると聞いた。ハイノから。
 ミラヴェルは自分のそれと目を合わせたくなくて、肖像画を背にした形で応接セットのソファーに座る。
「ちょっと待ってね。急ぎの案件が出来ちゃって」
「改めようか?」
「ダメダメ。お茶飲む?」
「気遣わなくていいよ」
「愛してるから何でもしたくなるんだよ」
 メリルはペンを動かしながら、片方の手を上げて軽く人差し指を動かした。ミラヴェルからしたら不規則に振られた指だったが、メリルにとっては全く違う。その動きによって、サイドテーブルに置かれていたティーセットが宙に動き出したから。
「魔法って、本当に何でも出来るんだな」
 何度見ても感心してしまう。ポットはカップへとお茶を注ぎ、ミラヴェルの目の前へとセットされた。湯気と良い香りが立つ。
「何でもってわけじゃないって。今のだって、ただの温める式と浮遊の式を組み合わせただけだし」
 メリルは何でもないように答えるが、ただの人間であるミラヴェルでさえメリルのすごさは分かる。
 魔法使いは自分自身に魔力が宿り巡っている。その魔力を式に流し込むことで術が発動するが、他の魔法使いは式を実際に描いたり口にしなければ発動出来ない。これは実際に魔法使いが所属する魔塔を訪問した際、教えてもらったことだ。
 ――式は魔法を具現化するために必要です。魔力と式、二つが合わさってようやく意味が出来ます。式は女神様が残してくれた神語から構成されるんですが、それがまた難しくて。魔法使いになると自然と神語は読めるんですが、意味は調べないと分からないんですよ。それに魔法使いには相性もあります。私は土系の式と相性が良いですが、炎系、例えば温める、とかですね。そういった系統は苦手なので、三回に一回は失敗します。なので、魔法使いは万能と思われていますが、実際は大したことないのですよ。
 魔塔に長く所属する魔法使いがそう朗らかに教えてくれたが、メリルはただ一人、式の描き出しも詠唱も必要としなかった。今のように、当たり前のように使ってみせる。しかも相性の問題も特になかった。本人曰く「式を自分にとっての当たり前にすれば大したことない」だそうだ。魔法使いではない自分は「へー」と感心するだけだったが、他の魔法使いはそのメリルの受け入れ方が異常らしく、たまに講義をして欲しいと連絡を寄越すくらいだ。メリルの域に達したいと、魔法使いの多くが密かに目標を掲げているらしい。
「元々ある式を組み合わせただけだからね」
「でも、式があれば何でも出来るんだよね?」
「ん~、まあそうだね。式は基本的に女神様が残してくれたものしかないけど」
 女神様が残したとされる式は、生きていく上で必要なものばかりだ。そう考えると、何でも出来るという言葉は当てはまらないかもしれない。
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