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5.新しい職場
しおりを挟むミラヴェルは淹れられたお茶を口に含みながら、ふと思ったことを問うた。
「神語の意味が分かるなら新しい式って作れるの?」
組み合わせるのではなく、新たに作る。もし出来るなら何でも出来ることになるのではないか?
そう思っての、単純に気になって口を出た問いだった。
すぐに返されていた声が途絶えたため、メリルの方へと視線を移す。業務に集中して聞こえなかっただろうか。……だが、メリルはこちらを見ていた。笑みを浮かべながら。
その表情がいつもの幸せいっぱいな笑みとは違う気がして、気付けばミラヴェルは自分の問いを自分で否定していた。
「……そんなこと出来るなら、他の魔法使いがしてるか」
「さあ。でも、新しい式を作るって夢があるよね」
「そう?」
「おいで」
「いや、いいよ。何か笑顔が怖いし」
「怖くないから来い」
圧を掛けられ渋々席を立つ。机を挟んで立つがこっちだと手招きされてしまい、目の前まで近寄るしかなかった。すぐに手を取られて、膝の上に座らされる。
「だって、例えばミラを性奴隷にさせる式とか作れたら興奮するじゃん」
「……何言ってんのお前」
「僕そっくりの人体を生成して、二人でミラを攻めたりさ。挿れながら舐められたいでしょ?」
出てくる『夢』はとんでもなく下品だった。皇太子の口から出て良い発想ではない。
ミラヴェルは心底呆れて体を引く。
「そういう変なことばっか考えてないで、国のためになることとか考えろよ」
「もちろん考えるよ。でも魔法は愛する人のために生まれたものだからね。まずはミラとの楽しいことを考えないと」
顔中に音を立てながらキスをされる。淫靡な空気はないためただ可愛がるだけのそれだ。前のように明るいうちから行為に及ぶつもりはなさそうだと察し、素直に受け入れる。
「分かったから。それより、何か話があったんじゃないの?」
「あぁそうだった」
だが、いつまでも昼間からキスを受け入れているわけにもいかない。話題を戻せばメリルはハッとして顔を離し、引き出しから二枚の書類を出した。
「何これ」
手渡されたそれを一行目から読む。
「平民向けの学校?」
「そう、君の就職先」
「へー」
意外だった。メリルがどのような場所を選ぶか考えてもいなかったのに驚きの声を上げてしまう。
「嫌?」
「そんなことないよ。何となくもっと人と関わらないようなところかと思った」
「まあそれも考えたけどね」
メリルはミラヴェルの片手を取り、揉んだり弄ったりと手遊びを始める。話し始めたのは学校のことだった。
「その学校、三年前に作ったばかりでしょ? 労働者階級向けに、実験的に。どの国も貴族相手の学校しかない。平民じゃ学校に通う暇も金銭の余裕もないし、採算が取れないから確実に慈善事業になるからね。でも労働力って大事じゃない? 一人一人の質が上がれば生産力が上がるし、小さい頃から学校に通われせば愛国心も育てやすいし。で、三年前に実験的に作ってみたんだよね」
平民向けの学校は知っていた。メリルが発案し、議会に通したからだ。建設費や運営費は国費に加え貴族や商家からの寄付金で賄い、生徒からは勉学に加えて労働をさせることで対価を払ってもらっている。ミラヴェルも資料作りを手伝ったことがあるし、完成後にはたまに様子を見に行っている。自分たちが通っていた皇立学園とは全く違う、活気があって良い意味で常に騒がしい学校が思い出された。
「ミラには先生をやってもらおうと思って」
「教えられるかな」
「大丈夫。ミラは僕の次に頭良いし。そもそも読み書きと計算が基本だから」
自分たちが通っていたレベルの内容を教えるとなると改めて勉強し直す必要があるが、読み書きと計算なら問題はなさそうだ。
「二枚目の書類は学校でのミラの身分だから。教会出身にしておいた。護衛は送迎だけで、基本は影を付けるからね」
「ん、分かった」
学校での自分の名前はベルらしい。間違えないよう気を付けなければ。
「学校の代表にもミラの身分は伝えないから、一平民として頑張っておいで」
分かった、そう答えようとしたがこちらを見るメリルの笑顔に嫌な感じがして、言葉が詰まる。
「え、なに?」
「警戒しないでよ。ただ今から早速行ってもらおうと思ってるだけだし」
「今から?」
「今日の分の公務は終わったんでしょ? 善は急げって言うし。ミラ以外の準備は整ってるし」
「まぁ、大丈夫だけど」
知らないところで自分以外の準備は整われていたらしい。元々仕事が早い男だが、たった数日で全てを整えられるとは。ただただ感心するしかない。
「メリルはすごいな~」
「うん。でもその姿で行ったらミラだってすぐバレるからちょっと変えようね」
「何を?」
メリルに顔を掴まれ、上を向かされる。いきなりなんだと思るのも束の間、無理やり開かされた口内に舌と唾液を入れられた。
「ん、ん?」
わざわざ溜めたであろう唾液が流し込まれ、ミラヴェルは慣れたように飲み込む。喉を通ったことを確認したメリルは顔を離し、観察するように全身を眺めてきた。
「なに?」
「うん、上手くいったね」
満足気な声を出すメリルに首を傾げれば、すぐにその答えを見せられる。渡された手鏡を覗き込むと、そこには自分ではない自分がいたからだ。
「え」
食い入るように鏡の自分を見つめる。
確かにそこには自分の顔があるのに、髪色も大きな目の色もまつ毛も焦茶色をしていて、自分ではない。
「魔法?」
「そうだよ。体毛と瞳の色を変える魔法。帝国民に多い色味にしたけど、似合ってるね」
そうだろうか。生まれてからずっと白金色の髪に青い瞳だったから、全部が焦茶色になった自分には違和感しかない。
ミラヴェルが色々な角度から鏡の自分を見ていれば、メリルに体を抱き上げられた。机の上に座らされる。
「下の毛も確認するね」
「は、……あ! 待っ!」
メリルは抵抗する暇も与えず、早業でミラヴェルのズボンを脱がしにかかった。軽い力ではあるが拘束されたせいで、あっという間にメリルの前に自身の中心を晒すことになってしまう。大きな窓から入り込む陽の光が、余すことなく照らす。
「はは、元々ミラは無毛だったね」
「……最悪」
「確認する必要なかったか」
「もういいだろ。早く、どいて」
「ミラのミラは元気ないね」
「当たり前じゃん。無理やり脱がされて勃たせてたら変態だ」
「ミラには僕が触れるだけで勃つような変態になってもらいたい」
……何を言っているのだこいつは。
ミラヴェルは心底引いた顔でメリルを見下ろす。
「とりあえずせっかくだから舐めるね」
「何がせっかく、ぁ」
結局、メリルは舐めるだけでは終わらず、体位を変えて何度も中を擦られイかされた。
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