12 / 26
11.初出勤Part.2
しおりを挟む
メリルに言われた鉱山は帝国の端にある。皇都からは馬車で数週間掛かるが、転移門を使用するため瞬き一つ分の時間で着くことが出来る。今回、ミラヴェルは『皇都からの視察者』という立場で参戦する。視察で何をするかは決められていないので、適当に見て回るつもりだ。一体、どのような目的でメリルはここへ派遣させたのだろうか。
「ベルです。よろしくお願いします」
学校と同じように髪の毛と瞳の色変えて、鉱夫へと軽く挨拶を済ませる。最初は戸惑う空気が流れていたが、色々聞いて回っていれば戸惑いは呆れに変わった。
「ベル殿、そんなことまで聞いてどうするんだ?」
「実際見てみると色々気になっちゃって。邪魔してすみません」
「まあいいけどよ。いつも視察に来る人は軽く見るだけだったから驚いたんだ」
本で見て話を聞いて鉱山や鉱夫のことは知っていたが、実際に見て聞くと全然違う。役割を持って採掘を進める姿を見ると好奇心が刺激される。
「俺、小さい頃は体が弱くて殆ど家の中で育ったんですよ。家族と友達しか周りにいなくて、本を読むしか出来なくて。だからこうやって外に出ると色々知りたくなっちゃうんですよね」
「そうか。確かにベル殿は細いし病弱っぽいもんな」
「ははは」
鉱夫たちは日数を掛けて会話を重ねていけばすぐに打ち解けることが出来た。きっと元来人懐こく懐が広いタイプが多いからだろう。
「ベル殿、ここはこうすると効率が良いです」
「へ~、本には載ってなかったな。やっぱ経験は強いな~」
「そりゃあそうですよ」
その日も公務を終えて鉱山へと来た。最近は鉱夫に混じって採掘の手伝いをしている。「皇都から来た人にやらせられない」と言われたが体が汚れるくらい大したことではない。メリルからも特に何も言われていないため問題もない。
「このくらいの怪我ならこうしておけば大丈夫だよ。痛みは?」
「大丈夫です。すんません、ありがとうございます」
「ベル殿は医学を学んでいるんですか?」
途中、怪我を負った鉱夫がいたので手当てを買って出た。応急処置をしただけだが、何故か周りからは尊敬するような眼差しを向けられる。
「いや、そんな大層なことじゃないよ。メ……知り合いから応急処置法とか習わされただけで」
メリル、と言おうとして慌てて引っ込める。
ミラヴェルは学生時代にメリルと恋人になった時、メリルから一番初めに学ばされたことは応急処置とサバイバル術、人の殺め方だった。曰く「絶対、僕より先に死なないでほしいから」とのことだ。身を守る方法を教え込まされた。メリルのそばにいて今まで覚えたそれを使うことはなかったが、体はしっかりと覚えてくれていた。
「こんな風に手当てすることがなかったんで」
「だよな。もったいないし」
「そうなの? でも鉱山業は体が資本じゃん。せめて応急処置はしようよ」
「って言われてもやり方もよく分からんですし。もし大きな怪我人が出たらって考えたら、大したことない怪我で物資使っちゃうのもな~」
「応急処置とか、基本しねえよな。家でも寝てりゃあ治るって感じだし」
皆がうんうんと頷き合う。どうやら鉱夫や平民は動くことが出来れば大したことないと判断するようだ。
ミラヴェルは自分のために応急処置を学ばされただけで医学に詳しいわけではないが、怪我を放置しておくことのリスクがあることは知っている。物資は充分準備されているし、不足すればちゃんと補充もしてくれるだろう。国営事業だから少なくともここの鉱夫が蔑ろにされることはないと思う。我慢する必要はないのに、今までの習慣上処置をする考えがないのだろう。
「鉱山業は崩落の可能性もあるし、危険な産業だと思うんだけど」
「まあそうですね。実際入れ替わりもまあまあ激しいし。鉱夫はバカでも出来るってんで人員に困ることはないですけどね」
ミラヴェルは皆の話を聞きながらなるほどと頷く。頭の中でこのままではダメだと思うが、上手く纏まってはいない。雑多に思考が変わる。
「鉱夫は必要な職業だよ。もっと体を大切にして欲しい。長年携わっている貴方たちの感覚や経験は簡単に手に出来るものでもないから」
きっとメリルならもっと上手く言えただろうが、今の自分には感じたことをそのまま言うくらいしか出来ない。
それでも、皆は顔を見合わせながらも「はい」と返事はしてくれた。
「急に来た奴が何言ってるんだって思うかもしれないけど、自分の命を優先に考えて欲しいよ」
「いえいえ、我々鉱夫を気に掛けてくれる人なんて家族や仲間くらいしかいなかったので。嬉しいです」
「気に掛けるよ。俺には出来ることが少ないけど、働きやすくなるように考える」
「ありがとうございます」
「ベルです。よろしくお願いします」
学校と同じように髪の毛と瞳の色変えて、鉱夫へと軽く挨拶を済ませる。最初は戸惑う空気が流れていたが、色々聞いて回っていれば戸惑いは呆れに変わった。
「ベル殿、そんなことまで聞いてどうするんだ?」
「実際見てみると色々気になっちゃって。邪魔してすみません」
「まあいいけどよ。いつも視察に来る人は軽く見るだけだったから驚いたんだ」
本で見て話を聞いて鉱山や鉱夫のことは知っていたが、実際に見て聞くと全然違う。役割を持って採掘を進める姿を見ると好奇心が刺激される。
「俺、小さい頃は体が弱くて殆ど家の中で育ったんですよ。家族と友達しか周りにいなくて、本を読むしか出来なくて。だからこうやって外に出ると色々知りたくなっちゃうんですよね」
「そうか。確かにベル殿は細いし病弱っぽいもんな」
「ははは」
鉱夫たちは日数を掛けて会話を重ねていけばすぐに打ち解けることが出来た。きっと元来人懐こく懐が広いタイプが多いからだろう。
「ベル殿、ここはこうすると効率が良いです」
「へ~、本には載ってなかったな。やっぱ経験は強いな~」
「そりゃあそうですよ」
その日も公務を終えて鉱山へと来た。最近は鉱夫に混じって採掘の手伝いをしている。「皇都から来た人にやらせられない」と言われたが体が汚れるくらい大したことではない。メリルからも特に何も言われていないため問題もない。
「このくらいの怪我ならこうしておけば大丈夫だよ。痛みは?」
「大丈夫です。すんません、ありがとうございます」
「ベル殿は医学を学んでいるんですか?」
途中、怪我を負った鉱夫がいたので手当てを買って出た。応急処置をしただけだが、何故か周りからは尊敬するような眼差しを向けられる。
「いや、そんな大層なことじゃないよ。メ……知り合いから応急処置法とか習わされただけで」
メリル、と言おうとして慌てて引っ込める。
ミラヴェルは学生時代にメリルと恋人になった時、メリルから一番初めに学ばされたことは応急処置とサバイバル術、人の殺め方だった。曰く「絶対、僕より先に死なないでほしいから」とのことだ。身を守る方法を教え込まされた。メリルのそばにいて今まで覚えたそれを使うことはなかったが、体はしっかりと覚えてくれていた。
「こんな風に手当てすることがなかったんで」
「だよな。もったいないし」
「そうなの? でも鉱山業は体が資本じゃん。せめて応急処置はしようよ」
「って言われてもやり方もよく分からんですし。もし大きな怪我人が出たらって考えたら、大したことない怪我で物資使っちゃうのもな~」
「応急処置とか、基本しねえよな。家でも寝てりゃあ治るって感じだし」
皆がうんうんと頷き合う。どうやら鉱夫や平民は動くことが出来れば大したことないと判断するようだ。
ミラヴェルは自分のために応急処置を学ばされただけで医学に詳しいわけではないが、怪我を放置しておくことのリスクがあることは知っている。物資は充分準備されているし、不足すればちゃんと補充もしてくれるだろう。国営事業だから少なくともここの鉱夫が蔑ろにされることはないと思う。我慢する必要はないのに、今までの習慣上処置をする考えがないのだろう。
「鉱山業は崩落の可能性もあるし、危険な産業だと思うんだけど」
「まあそうですね。実際入れ替わりもまあまあ激しいし。鉱夫はバカでも出来るってんで人員に困ることはないですけどね」
ミラヴェルは皆の話を聞きながらなるほどと頷く。頭の中でこのままではダメだと思うが、上手く纏まってはいない。雑多に思考が変わる。
「鉱夫は必要な職業だよ。もっと体を大切にして欲しい。長年携わっている貴方たちの感覚や経験は簡単に手に出来るものでもないから」
きっとメリルならもっと上手く言えただろうが、今の自分には感じたことをそのまま言うくらいしか出来ない。
それでも、皆は顔を見合わせながらも「はい」と返事はしてくれた。
「急に来た奴が何言ってるんだって思うかもしれないけど、自分の命を優先に考えて欲しいよ」
「いえいえ、我々鉱夫を気に掛けてくれる人なんて家族や仲間くらいしかいなかったので。嬉しいです」
「気に掛けるよ。俺には出来ることが少ないけど、働きやすくなるように考える」
「ありがとうございます」
28
あなたにおすすめの小説
政略結婚のはずが恋して拗れて離縁を申し出る話
藍
BL
聞いたことのない侯爵家から釣書が届いた。僕のことを求めてくれるなら政略結婚でもいいかな。そう考えた伯爵家四男のフィリベルトは『お受けします』と父へ答える。
ところがなかなか侯爵閣下とお会いすることができない。婚姻式の準備は着々と進み、数カ月後ようやく対面してみれば金髪碧眼の美丈夫。徐々に二人の距離は近づいて…いたはずなのに。『え、僕ってばやっぱり政略結婚の代用品!?』政略結婚でもいいと思っていたがいつの間にか恋してしまいやっぱり無理だから離縁しよ!とするフィリベルトの話。
僕の策略は婚約者に通じるか
藍
BL
侯爵令息✕伯爵令息。大好きな婚約者が「我慢、無駄、仮面」と話しているところを聞いてしまった。ああそれなら僕はいなくならねば。婚約は解消してもらって彼を自由にしてあげないと。すべてを忘れて逃げようと画策する話。
フリードリヒ・リーネント✕ユストゥス・バルテン
※他サイト投稿済です
※攻視点があります
恋色模様
藍
BL
会社の同期に恋をしている。けれどモテるあいつは告白されても「好きな奴がいる」と断り続けているそうだ。じゃあ俺の失恋は決定だ。よーし、新しい恋をして忘れることにしよう!後ろ向きに前向きな受がなんやかんやしっかり囲まれていることに気づいていなかったお話。
■囲い込み攻✕無防備受■会社員✕会社員■リーマン要素がありません。ゆる設定。■飲酒してます。
無能扱いの聖職者は聖女代理に選ばれました
芳一
BL
無能扱いを受けていた聖職者が、聖女代理として瘴気に塗れた地に赴き諦めたものを色々と取り戻していく話。(あらすじ修正あり)***4話に描写のミスがあったので修正させて頂きました(10月11日)
【短編】贖罪のために結婚を迫ってくるのはやめてくれ
cyan
BL
悠太は一番嫌いな男、大輔と自転車で出会い頭に衝突事故を起こした。
そして目が覚めると違う世界に転生していた。この世界でのんびり暮らしていこうと思ったのに、大輔までもがこの世界に転生していた。しかもあいつは贖罪のために結婚を迫ってくる。
愛されるも守らせない文官は自覚がある【完】
おはぎ
BL
可愛い容姿であることを自覚している、王宮で文官として働くレーテル。その容姿を利用しては上手く立ち回っていたのだが、勘違いした男に連れ込まれて襲われそうになり…。
腹黒な美形宰相×可愛い自覚がある腹黒文官
君さえ笑ってくれれば最高
大根
BL
ダリオ・ジュレの悩みは1つ。「氷の貴公子」の異名を持つ婚約者、ロベルト・トンプソンがただ1度も笑顔を見せてくれないことだ。感情が顔に出やすいダリオとは対照的な彼の態度に不安を覚えたダリオは、どうにかロベルトの笑顔を引き出そうと毎週様々な作戦を仕掛けるが。
(クーデレ?溺愛美形攻め × 顔に出やすい素直平凡受け)
異世界BLです。
【完結】愛され少年と嫌われ少年
透
BL
美しい容姿と高い魔力を持ち、誰からも愛される公爵令息のアシェル。アシェルは王子の不興を買ったことで、「顔を焼く」という重い刑罰を受けることになってしまった。
顔を焼かれる苦痛と恐怖に絶叫した次の瞬間、アシェルはまったく別の場所で別人になっていた。それは同じクラスの少年、顔に大きな痣がある、醜い嫌われ者のノクスだった。
元に戻る方法はわからない。戻れたとしても焼かれた顔は醜い。さらにアシェルはノクスになったことで、自分が顔しか愛されていなかった現実を知ってしまう…。
【嫌われ少年の幼馴染(騎士団所属)×愛され少年】
※本作はムーンライトノベルズでも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる