好きなだけじゃどうにもならないこともある。(譲れないのだからどうにかする)

かんだ

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16.画策

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 ミラヴェルから後継の話題を出された日から、メリルは苛立ちが収まらずにいた。顔を見ればこの苛立ちをぶつけてしまいそうで、二度と馬鹿なことを言えないように口を塞いで監禁してしまいそうで、数日ミラヴェルのそばにいられなかった。なのに、そばにいたくて堪らない。相反する気持ちが煩わしい。
 だが、よりメリルを苛立たせる事態が発生した。

「ミラヴェルが攫われた?」
 それは、ミラヴェルが学校からの帰り道で攫われ、行方が掴めないというものだった。
 皇帝を含む各部門長との会議中のことだ。ノックが響き、全員が入口に注目した。皇帝の許可を得て入室した者はミラヴェルの専属護衛騎士のハイノだった。
 ハイノは開口一番、メリルの目を見て要件を口にした。
 瞬間、室内がどよめく。皇帝も驚きに息を吸った。
「状況は?」
 メリルは自身の内側がすうっと冷えていく感覚を自覚しながら、ハイノを促す。暴れそうになるほどの憤怒に支配されそうなのに、恐怖に心臓は冷える。何とか冷静さを手繰り寄せる。
 ハイノ曰く、魔法を使われたとのことだ。学校から出たミラヴェルの姿が一瞬にして消えたと言う。
 恐らく転移させられたのだろう。
「捜索隊はいつでも出動出来ます」
「待て。わざわざ高度魔法を使ってまでミラを攫ったんだ。要求があるんだろう。今はまだ無闇に動かなくていい。転移されたとされる場所の解析だけしてこい。魔石はどれだけ使っても良い」
「メリルよ、どうするんだ?」
 皇帝に静かに問い掛けられ、迷うことなく答える。
「殺す」
「……皇太子から出て良い言葉ではないな」
「冗談ですよ。この件は僕が指揮します」
「分かっている。皇太子に全てを一任しよう」
 脳内で最善策を巡らせていれば、程なくしてまた別の騎士が現れた。ハイノとは違い、錚々たるメンバーに顔面を引き攣らせている。こんな時に口上を口にしようとしたため「要件を言え」と圧を掛けた。
「ははい! 先程王宮後門にて突然こちらの鏡が現れまして!」
「ハイノ、持ってこい」
 彼が言い終わる前にハイノへと指示をする。目の前のテーブルに置かれたそれは卓上用の三面鏡だった。だが、覗き込む自分の顔は映らない。式が込められている魔具なのだろう。その場にいた全員が鏡の前に移動し、口々に何の魔具かと憶測する。
「魔具か?」
「そうですね。何の式が込めてあるかは分かりませんが。魔具の解析装置を持ってこい」
「はい」
 だが、すぐに鏡は何かを映し出した。最初はぼやけていたが、段々と鮮明になる。瞬間、背後で驚愕の声が上がる。
「妃殿下?」
「まさか。これは一体」
 映し出されたそこにはミラヴェルがいた。両足には枷がつけられている。残念だが全体像は見えない。ただ、足枷を付けれたミラヴェルが、大きなガラスの入れ物に入れられていることだけが視覚情報として得られた。見える範囲に怪我は見当たらない。
「ミラ」
 メリルが声を掛ければ、ミラヴェルがハッと顔を上げる。真っ直ぐに向けられた視線が合っているように感じた。
『メリル?』
「僕の姿が見える?」
『ぇ、うん』
 きっと同じ魔具が設置されているのだろう。
「学校から帰る時に攫われたんだよ。何か覚えてることは? そこから何が見える?」
『……全然分からない。窓もないし、ドアがあるだけ。でもドアからは光が差し込んでない。あ待って』
 ミラヴェルが何かを見付けたらしい。目を見張る姿に、良い知らせではないことだけは察せられた。
「ミラヴェル、大丈夫だ。何かあった?」
『……皇太子に、後継を望む。準備した女性を抱いて種を仕込めば、皇太子妃の安全は守られる』
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