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25.画策の結果
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「……は?」
「で、プロット読んでオッケー出したのは僕」
ミラヴェルは一人時間が止まったのかのように綺麗に一時停止した。大きな目をより大きく、口は半開きになっている。白く小さな歯と薄い舌が見えて、引き寄せられるように唇を合わせ口内を舐めてしまった。すぐにミラヴェルの体がハッと時間を取り戻す。
「ん、メリル、今、キスしてる場合じゃない」
「じゃあ何?」
「俺が情報提供って、もしかしてあの学校にいた臨時教師?」
「うん」
ミラヴェルは片手で顔を多い「……最悪」と絞り出すような低い声で言った。何のヒントもなしにそこに辿り着けたということは、彼女以外に自分たちの馴れ初めなど話したことはなかったということだ。言いふらしたり自慢したりするタイプではないが、もう少し惚気ても良いのに。自分みたいに。
「メリルは、あそこに彼女がいるの知ってた?」
「うん。創作のために色々な経験を楽しんでいると聞いた。ネタ探しも兼ねて。その一環として学校に顔を出していたんだって」
「俺と彼女を引き合わせた理由は? こうなるって分かってた? メリルがあの学校で働くように言ったもんな?」
圧のある早口な質問に、メリルは丁寧に答える。
「せっかくミラが一人で外に出るから、少しでも帝国民のミラへの好感度を上げようと思ってね。彼女は自分が良しと思ったことは何でも人に勧めたがるタイプだから。お忍びで平民に分け隔てなく接する皇太子妃に食い付くと思っていたし」
本当は、皇太子妃の平等さを見せて関心を得て、いかに優れているか周囲へ伝える役目をしてもらおうと思っていた。彼女は身分問わず有名で影響力が高いため、関心さえ得られたらメリットしかない。いくら身分を偽り外見を変えたとしても、ミラヴェルがミラヴェルであることは誰でも分かる。周囲を騙せていると思っていたのは本人だけだ。だから、例え関心を得られなくても、最悪な印象を与えたとしても、皇族を批判することはしない。出来ない。その辺の分別はきちんと持っている人間だから、メリットしかないと判断してミラヴェルをあの学校へ送った。
だが、結果は想像の斜め上をもたらした。まさか本来の姿では出来ない惚気を彼女にするとは思ってもいなかった。皇太子の恋バナに食い付かない創作者はいない。プロットが上がってきた時は久しぶりに驚いたが、おかげでミラヴェルの評価は鰻登りだし、商団の売り上げも上がった。
「……待って、俺ってそんな評判悪いの?」
「いや? そんなことないよ。ミラは公務をしっかり熟している上、周囲からの評判も良い。それは帝国民も知っているけど、関わりがない貴族含む帝国民はミラをよく知らないから、怖いくらい美しいお前に人間味を感じていないんだよ」
メリルの答えに、何を言っているんだ? と言いたげな目を向けられる。ふざけるなと怒ってきそうだ。
「本当だから。見たことないほどの美しさは理解を超えて恐怖を与える。だから親しみやすいとても素敵な皇太子妃なんだよって分かってもらおうと思って」
「美しいって、それメリルの主観だよ。俺はメリルがこの世で一番可愛くて綺麗だと思ってるし」
「ありがとう」
「はぁ……何かしら思惑があるとは思っていたけどさ~。まさかこんなことになるとは思っていなかった」
今度はじっとりとした目を向けられる。表情豊かで可愛いな~と思っていればいつの間にかキスをしていた。ぐいっと片手で拒絶される。
「じゃあ、鉱山の方は? やっぱあっちも行かせた理由あるの?」
「向こうは珍しいんだけど、鉱夫が民間の元傭兵なんだよね。今でも充分な戦力になるから、有事の際に国や僕じゃなくて皇太子妃に着くようにミラと接点を作らせただけ」
「そうなの? でも俺と接点作っただけで俺の味方するとは限らないよ」
ミラヴェルの考えは妥当だが、現に彼らからミラヴェルへ忠誠を誓う旨の連絡がきている。彼らは劣悪な環境で育ち、安い賃金で傭兵の仕事を請け負っていた。民間の傭兵団が解散された後は鉱夫として従事していたが、国営も民営も鉱夫というのは危険が常にある職業な上、差別されやすい。
そこに身分を隠した皇太子妃が現れ、現状を知り、変えようと奮闘する様に心打たれたのだろう。口先だけではなく、現場環境の改善を行い、計画を立て、危険性を下げた。恐らく自分たちは生まれながらに安い命だと自他共に決め付けていた中で、国でも尊い存在に個々として認められ行動を示されたからだと思われる。加えて情に厚い人間だったことも幸いした。
「ミラは自分が思う以上に周りに影響を与えやすいんだよ」
「まあ、戦力が必要になることがなければいいね」
「うん。あ、そういえば、ミラたちが考えた氷のジュース、すごく人気だよ」
話の途中で思い出す。
ミラヴェルたちが生徒のアイデアを基に作った新しいジュースは、領主や彼らを含めて事業を起こさせ『王室御用達』としたこともあり、売り上げも人気も右肩上がりだった。
「え! 本当!? 絶対人気出ると思ってた!」
知らされたミラヴェルが満面の笑みを浮かべる。純粋に嬉しいと言うそれだ。あまりの可愛さに自分も笑顔になる。だけでなく、気づけばやはりキスをしていた。しかも押し倒していた。
「ちょ、待っ、て」
「あ~……かわい~」
両手を掴んで拘束して、口内を好き勝手堪能する。全身をくっ付けているせいか下半身に熱が溜まってくる。まだまだやらなければならない仕事はあるが、すっきりしないと手に付かない。
メリルは魔法を使って扉に『入室禁止』の札を下げて、ミラヴェルの服を剥いたのだった。
おわり
「で、プロット読んでオッケー出したのは僕」
ミラヴェルは一人時間が止まったのかのように綺麗に一時停止した。大きな目をより大きく、口は半開きになっている。白く小さな歯と薄い舌が見えて、引き寄せられるように唇を合わせ口内を舐めてしまった。すぐにミラヴェルの体がハッと時間を取り戻す。
「ん、メリル、今、キスしてる場合じゃない」
「じゃあ何?」
「俺が情報提供って、もしかしてあの学校にいた臨時教師?」
「うん」
ミラヴェルは片手で顔を多い「……最悪」と絞り出すような低い声で言った。何のヒントもなしにそこに辿り着けたということは、彼女以外に自分たちの馴れ初めなど話したことはなかったということだ。言いふらしたり自慢したりするタイプではないが、もう少し惚気ても良いのに。自分みたいに。
「メリルは、あそこに彼女がいるの知ってた?」
「うん。創作のために色々な経験を楽しんでいると聞いた。ネタ探しも兼ねて。その一環として学校に顔を出していたんだって」
「俺と彼女を引き合わせた理由は? こうなるって分かってた? メリルがあの学校で働くように言ったもんな?」
圧のある早口な質問に、メリルは丁寧に答える。
「せっかくミラが一人で外に出るから、少しでも帝国民のミラへの好感度を上げようと思ってね。彼女は自分が良しと思ったことは何でも人に勧めたがるタイプだから。お忍びで平民に分け隔てなく接する皇太子妃に食い付くと思っていたし」
本当は、皇太子妃の平等さを見せて関心を得て、いかに優れているか周囲へ伝える役目をしてもらおうと思っていた。彼女は身分問わず有名で影響力が高いため、関心さえ得られたらメリットしかない。いくら身分を偽り外見を変えたとしても、ミラヴェルがミラヴェルであることは誰でも分かる。周囲を騙せていると思っていたのは本人だけだ。だから、例え関心を得られなくても、最悪な印象を与えたとしても、皇族を批判することはしない。出来ない。その辺の分別はきちんと持っている人間だから、メリットしかないと判断してミラヴェルをあの学校へ送った。
だが、結果は想像の斜め上をもたらした。まさか本来の姿では出来ない惚気を彼女にするとは思ってもいなかった。皇太子の恋バナに食い付かない創作者はいない。プロットが上がってきた時は久しぶりに驚いたが、おかげでミラヴェルの評価は鰻登りだし、商団の売り上げも上がった。
「……待って、俺ってそんな評判悪いの?」
「いや? そんなことないよ。ミラは公務をしっかり熟している上、周囲からの評判も良い。それは帝国民も知っているけど、関わりがない貴族含む帝国民はミラをよく知らないから、怖いくらい美しいお前に人間味を感じていないんだよ」
メリルの答えに、何を言っているんだ? と言いたげな目を向けられる。ふざけるなと怒ってきそうだ。
「本当だから。見たことないほどの美しさは理解を超えて恐怖を与える。だから親しみやすいとても素敵な皇太子妃なんだよって分かってもらおうと思って」
「美しいって、それメリルの主観だよ。俺はメリルがこの世で一番可愛くて綺麗だと思ってるし」
「ありがとう」
「はぁ……何かしら思惑があるとは思っていたけどさ~。まさかこんなことになるとは思っていなかった」
今度はじっとりとした目を向けられる。表情豊かで可愛いな~と思っていればいつの間にかキスをしていた。ぐいっと片手で拒絶される。
「じゃあ、鉱山の方は? やっぱあっちも行かせた理由あるの?」
「向こうは珍しいんだけど、鉱夫が民間の元傭兵なんだよね。今でも充分な戦力になるから、有事の際に国や僕じゃなくて皇太子妃に着くようにミラと接点を作らせただけ」
「そうなの? でも俺と接点作っただけで俺の味方するとは限らないよ」
ミラヴェルの考えは妥当だが、現に彼らからミラヴェルへ忠誠を誓う旨の連絡がきている。彼らは劣悪な環境で育ち、安い賃金で傭兵の仕事を請け負っていた。民間の傭兵団が解散された後は鉱夫として従事していたが、国営も民営も鉱夫というのは危険が常にある職業な上、差別されやすい。
そこに身分を隠した皇太子妃が現れ、現状を知り、変えようと奮闘する様に心打たれたのだろう。口先だけではなく、現場環境の改善を行い、計画を立て、危険性を下げた。恐らく自分たちは生まれながらに安い命だと自他共に決め付けていた中で、国でも尊い存在に個々として認められ行動を示されたからだと思われる。加えて情に厚い人間だったことも幸いした。
「ミラは自分が思う以上に周りに影響を与えやすいんだよ」
「まあ、戦力が必要になることがなければいいね」
「うん。あ、そういえば、ミラたちが考えた氷のジュース、すごく人気だよ」
話の途中で思い出す。
ミラヴェルたちが生徒のアイデアを基に作った新しいジュースは、領主や彼らを含めて事業を起こさせ『王室御用達』としたこともあり、売り上げも人気も右肩上がりだった。
「え! 本当!? 絶対人気出ると思ってた!」
知らされたミラヴェルが満面の笑みを浮かべる。純粋に嬉しいと言うそれだ。あまりの可愛さに自分も笑顔になる。だけでなく、気づけばやはりキスをしていた。しかも押し倒していた。
「ちょ、待っ、て」
「あ~……かわい~」
両手を掴んで拘束して、口内を好き勝手堪能する。全身をくっ付けているせいか下半身に熱が溜まってくる。まだまだやらなければならない仕事はあるが、すっきりしないと手に付かない。
メリルは魔法を使って扉に『入室禁止』の札を下げて、ミラヴェルの服を剥いたのだった。
おわり
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