自分が『所有物』になったけど全て思惑通りなので無問題。

かんだ

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2.評判を確かめるためパーティーに潜入してみた

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「アリーチェ様は何故わざわざ私をお呼びするのでしょうか」
 ホテルの一室。行儀悪くソファーに寝そべっていれば、呼び出した部下が開口一番文句を垂れた。
「一番使い勝手が良いからだな」
「一番優秀だからと言ってください。せめて」
 彼――ハイノは舌打ちをしながらソファーの目の前、床に直接腰を下ろした。俺が寝そべっているため、視線を俺より下げるには地べたに座るしかなかったからだろう。口も性格も悪いが、雇用主である俺にはまあまあ従順なのだ。
「で? 頼んだのは?」
「前置きしておきますが、私は本来ただの従者ですからね? 護衛だとか情報屋の真似事だとかやめてください」
「分かった分かった」
 ハイノには今回、エレノアとその周辺に対する世間の声を集めさせた。周りからどのように見えているのか、言われているのか、知っておきたいと思ったからだ。
「エレノア嬢は良い話は聞きませんね。ワガママでプライドが高い。貴族令嬢ならそのようなものだと思いますが、攻撃的な物言いをよくされるので、少し敬遠されていますね」
「エレノアは裏表が苦手で、自分に素直だからな」
「ソフィア嬢は逆です。休日には奉仕活動に参加していたり、放課後は友人たちに頼りながら図書館で勉学に励んでいます。周りからの評価は良いですね」
「へ~。その友人とは?」
「皇太子とその側近」
 俺は思わず笑ってしまった。
「それは友人枠で良いのか?」
「学園内では。他にもいますが、特にそのメンバーと仲良くしているようですね。むしろ殿下の方から助けてあげている感じか?」
「エレノアは?」
「エレノア嬢には必要ありませんからね。勉学は」
 確かに。エレノアはエルメーテに似て勉強は出来る。恐らく記憶力が良いのだろう。
「ソフィア嬢は身分問わず誰に対しても平等に接するので人気ですよ。しかも殿下とも親しいので。エレノア嬢ではなくソフィア嬢と仲良くした方が良いと鞍替えする令嬢も多いです。しかも、エレノア嬢はあからさまにソフィア嬢に嫌がらせをしていますから、それにも負けないソフィア嬢は健気だとも言われています」
「なるほど」
 やはりヒロインは強い。見た目も性格も家柄も良いとくれば仕方がないだろうが。
「ソフィア嬢はお嫁さんにしたいナンバーワンだそうですよ」
「そんなに評判が良いのか」
「私も遠目ですが見ましたよ。確かに外見は良かったです。連れ歩くだけでも自慢になるでしょう」
「そこまで言われると気になるな」
「はい。ですのでこちらをご用意しました」
 ハイノに渡されたのは招待状だ。主催は皇女。この季節に必ず開催されるパーティーだ。対象者は貴族の令息令嬢のみ。子どもたちだけのそれだ。
「仮面舞踏会か」
「はい。リシャール家からはエレノア嬢とソフィア嬢が出席されます。学園に通う者も多く出席されますので、学園内のエレノア嬢たちを擬似的に見ることが出来るかと思います」
 ハイノの提案に頷き、俺は出席するための準備を進めるよう指示する。
 パーティー自体久しぶりだが、エレノアたちを遠目から見るだけなので気負う必要もない。


 
 今夜は、皇室で仮面舞踏会が開催されている。ただ、目元を隠すだけのアイマスクを着用するため、顔を突き合わせてしまえば基本は相手が誰かは分かる。それでも、相手の正体に気付かないフリをして、『何者でもない自分たち』の時間を楽しむのだ。
 予定通り俺も舞踏会会場に足を踏み入れる。
 アニメでは、エレノアは普段から人の目も気にせずヒロインを虐めるわ罵倒するわと手が付けられない悪女だと聞いている。仮面舞踏会でエレノアはヒロインの頬を引っ叩き周囲をドン引きさせるらしい。皇室主催のパーティーでも問題を起こす人間に近付きたいとは思えないだろう。よりエレノアの周りから人がいなくなるエピソードだ。
 果たして、今夜の仮面舞踏会でも問題は起こるだろうか。
 今日はストーリー通りに進むかどうか、自分の目で確かめるつもりだ。まぁ、ヒロインが現れてからの半年間、ほぼストーリー通りに進んでいるらしいので、わざわざ確かめる必要はないのだが。
 とにかく、俺はエレノアにバレないよう、ハイノに用意させた茶髪のウィッグと蝶があしらわれたアイマスクを着用し、一際目立つ集団を窺った。
「殿下、本当に素敵ですね。とってもカッコ良いです」
「こら、せっかくの仮面舞踏会なんだから殿下と呼んではダメだろ?」
「あ、すみません!」
 皇太子とヒロイン――レオナルドとソフィアの会話だ。周りはそれに対して朗らかに笑うが、俺は理由が分からない違和感を覚えるだけだった。
「私、仮面舞踏会って初めてです。すごく楽しいです。ねえ? お姉様」
「……仮面舞踏会なのだからお姉様と呼ばないでちょうだい。あなたの頭は脳みそが詰まっていないのかしら」
 エレノア、声からして怒っていることが伝わる。
 理由は察せられる。
 レオナルドはエレノアの婚約者だ。なのに、レオナルドのアイマスクと衣装はエレノアではなくソフィアと合わせている。その上エレノアではなくソフィアの隣に立っている。色々なことがあり得ない。周囲がレオナルドに進言しないのも、ソフィアを咎めないのも、エレノアがすでに悪女として評判が悪いからだろうか。むしろレオナルドとソフィアが隣同士でいることが当たり前のような雰囲気さえある。
「ごめんなさい……いつも、名前も呼ぶなと言われているのに」
「君、そんな酷いことをまだ言っているのか? 頼むから品性を疑われるようなことはやめてくれ。こちらが恥ずかしい」
 レオナルドが溜め息を吐くと、ソフィアがすかさず「ごめんなさい」とレオナルドに縋る。
「私が悪いんです。今日だって、本当は来るべきじゃなかったのに。言うことを聞けない私が悪いんです」
「そんなことない。君は悪くないから気にするな」
 周囲から非難の視線がエレノアへと向けられる。ここにはエレノアに味方するような人間はいなさそうだ。
「お姉様、ごめんなさい。殿下から素敵なドレスを贈ってもらったので、着たくて。怒るって分かってたのに、ワガママでごめんなさい。家に帰ったら、どんな罰でも受けます」
 シュンとするソフィアに同情の空気が一気に流れる。レオナルドの同窓だろう貴族令息も心配気にソフィアに声を掛ける。
 そんな中で、エレノアはものすごい速さでソフィアへと平手打ちをして見せた。バチンッと、破裂音が響く。
「なら今仕置きを受けなさい」
 不愉快を隠そうともしないエレノアのそれに俺は内心で笑う。流れに身を任せず、自身の気持ちに素直なそれこそ、エレノアであると感心する。
 だが、怒ったレオナルドはエレノアを下げるよう騎士に指示してしまった。忌々しげにソフィアを睨み付けながら、エレノアは自らの足でその場から消えていく。
 残ったレオナルドたちは皆してソフィアを宥め出し、怪我を負ったからと自分たちも退室した。
「相変わらず彼女はソフィア嬢を嫌っていますね。パーティーでさえ問題を起こすなんて」
「えぇ。品性を疑いますわね。ソフィア嬢には同情してしまいます」
「あのような方が皇太子妃候補とは」
 大筋はストーリー通りだ。周囲の反応も。
 このままならエレノアは死ぬと確信する。可愛い姪を死なせるつもりはないが、それよりもソフィアへの違和感が気持ち悪い。理由を見付けるまで他のことに頭が回らなさそうだ。
 俺は目的の人物たちがいなくなったので帰ろうと会場の外に出る。考え事をしていたせいで、垣根から伸びた腕に腰を攫われるまで人の気配に気付かなかった。
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