自分が『所有物』になったけど全て思惑通りなので無問題。

かんだ

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19.婚約者役の登場

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 ソフィアがあからさまに動揺する。
「私は、昨夜のオークションで、商品として出品された、神官です」
 会場が騒つく。
 マリーは涙を溢しながら訴えた。
「ソフィア嬢から、珍しい隊商が来るから、行ってみたら良いと、アドバイスをもらいました。彼女はアリーチェ様のご家族なので、アリーチェ様の好みを知っていました。アリーチェ様が行きたがっているけど、時間が取れなくて行けないみたいだから、代わりに行ってみたらって。でも、そこへ行ったら、いきなり攫われて、次に目が覚めたら、裸に、されていて、鎖で、繋がれて」
 マリーはそれ以上口には出来なかった。騎士団員が抱きしめてその体を慰める。
 そちらのオークションは俺が人を使って招致した闇オークションを生業にする商団だが、実態はなかなかえげつなかったらしい。
「アリーチェ様が、私のワガママで、優しくして下さっているから、そのご恩を返したかっただけなのに。どうして、私を攫うように言ったのですか」
「なに、言って」
「闇オークションの支配人が、言っていました。お前は女に売られたんだって。私がそこに行くことを知っていたのはあなたしかいません」
 マリーは憎悪の籠った目でソフィアを睨み付ける。
 ソフィアはきっと答えられない。何故なら、マリーの件に関しては全て事実だから。俺を自分の恋人にさせて連れ回すマリーに腹が立ったソフィアは、マリーを売り飛ばして自分たちの目の前から消そうと決めたからだ。そのために、オークションが実際に開催されているか事前に確認したし、相手側との接触も浅はかにも図れた。ソフィアは自分が摘発するまで闇オークションが摘発されることはないと信じ切っていた。絶対にバレないと分かっているなら、多少大胆な行動に出ても怖くはない。
 ただ、ソフィアが指示したのは俺が出品された方の、原作にも出てくるオークション側。実際にマリーが攫われたのは俺が用意した方だ。原作に出てくる方の商団には俺の顔を見られているため、捕えられ裁判に掛けられるわけにはいかなかった。だから、中身だけ別の商団に入れ替えた。客として侵入していたソフィアは、同日に同様のオークションが行われていたなど夢にも思っていない。支配人が違ったとしても特に気にもしなかった。
「私みたいな下級神官が、アリーチェ様の時間を奪ったことが、気に食わないのはわかります。だからって、う、売り、飛ばすなんて。殿下が大切にされている方だから、優しい方なんだって、信じていたのにっ!」
 余程怖い思いをしたのだろう。マリーは崩れ落ちる。裁判官の指示に従って彼女たちは法廷を出て行った。後でお見舞いに行かなければ。
「ソフィア嬢、反論はありますか?」
「……嘘です。私、そんなことしていません。誰かが、私に変装したんです」
「では、昨夜はどちらにいましたか?」
「それ、は、だから」
 ソフィアはレオナルドを見上げた。
「殿下! 助けてください! 私は何もしていません! 助けてください!」
 名指しされたレオナルドは、裁判官からも声を掛けられる。
「殿下、彼女の無実を証明出来ますか?」
「…………出来ません」
 たっぷり間を使ってから答えられたそれに、ソフィアは絶望する。
 常に一緒にいるわけではないのだから無実を証明出来る何かを持っているわけがない。
「では、エレノア嬢の誘いを断っていたことは本当ですか?」
「本当です」
「殿下、お願いします。私が、そんなことするなんて、あり得ないでしょう?」
 世論はエレノアとマリーに同情し、証拠は揃っている。摘発したのは王弟殿下であり騎士団長、神殿は激怒している。ここでソフィアを庇うほど現状が理解出来ない馬鹿ではないらしい。
 裁判官長が判決を言い渡す。初犯ではあるが悪質なことから重い罰が下された。
 ソフィアは呆然としながら兵士に連れられて行く。
 次は保護者に当たるエルメーテが前へと呼ばれた。保護者としての責任を問うためだ。
「私は仕事ばかりで、家族を蔑ろにしていました。大切な子どもたちがこれからも生き、これからを担うこの国を、安心で豊かに、強くすることしか考えていませんでした。ですがそのせいで、結果的には蔑ろにしてしまって、気付くことが出来ませんでした。子どもの罪は親の罪でしょう。罰は甘んじて受け入れます」
「ソフィア嬢は義理の娘となります。それでも受け入れると?」
「血の繋がりはなくとも家族です。切り捨てることなら簡単に出来ますが、私はエレノアとアランに、排除すれば良いという背中を見せたくはありません」
「爵位や職務を剥奪されるとしてもですか?」
「……皇都を出て、一から、家族だけでやり直すのも良いでしょう。兄様も一緒に背負うと言ってくれました。宰相という役職は、優秀な宰相補佐官がいます。彼なら私の意思を継いでくれると信じています」
 エルメーテの言葉に動揺したのは皇帝とルカである。
 皇帝は宰相補佐官を嫌っている。堅物で細かく、帝国法を常に遵守し臨機応変が出来ない。利益が大好きな皇帝にとっては邪魔でしかない。皇帝にとって国の利益と自分の利益を上げてくれるリシャールがいなくなることは避けたいはずだ。
 そして、ルカは俺を信じていた。リシャール家自体が罪に問われるだろうと心配したが、俺が何の問題もないと言ったから対策を立てていると信じたはず。実際は俺が何の対策も立てておらず帝国法に従うつもりだと気付いたのだ。そうなれば、俺は皇都を離れることになる。
 二人にとってリシャール家が罪に問われることは困るのだ。
 ここで初めて皇帝が発言する。
「裁判官長、今回宰相はソフィア嬢の罪を全く知らなかった上、紋章を勝手に使われるという被害者でもあるのでは? 確かに保護者としての罪はあるが、まだ再婚して一年も経っていないのに罪が重過ぎる気がするのだが」
「そうですね。宰相はここしばらくは新たな政策を進めるために皇城で寝泊まりしていたと聞いています」
「そうだ。それに、ソフィア嬢は善悪が分からない子どもでもあるまいし、彼女を育てたのは母親だ。保護者としての責任を問うほど宰相に罪はあるだろうか」
 これには傍聴席も納得するかのように頷く。
 新たに発言したのは神殿側、マルク猊下だった。
「私も陛下に同意します。普通ならトカゲの尻尾切りのように彼女を除籍すれば罰を免れるから、実際そのような貴族しかいませんでした。ですが、彼は義理であるにも関わらず一緒に罪を償おうとしています。その心根を汲んでも良いのでは? 神殿としても、彼女以外の公爵家を罰して欲しいとは思っていません。むしろ、普通の貴族とは違うリシャール公爵を政や社交界から排除することは得策とは思えません」
 マルク猊下の擁護も想像通りだ。彼はこの国を創ったとされる愛と豊穣の女神様を崇めているため、親としての愛を見せたエルメーテを切り捨てることはしない。
 お抱えの小説家にエルメーテのセリフを考えてもらって良かった。後でたっぷりと報酬を弾もう。
「裁判官長」
 次はルカだ。どんな擁護をしてくれるだろうか。
「リシャール公爵は国への貢献度が高い。犯罪者のために失うわけにもいかないでしょう。だが、保護者である以上何の罪に問わないことも出来ない。ここは別の罰を与えるのはいかがですか?」
 俺としては微妙な擁護だが、高潔な騎士としては随分妥協した発言だ。
 裁判官長は、皇帝と神殿、騎士団長の擁護に頭を悩ませつつも受け入れることにした。実際の罪を負ってはいない保護者としての罪は、今までの功績が考慮されることになっている。受け入れたとしても不思議ではない。
「では、今までの国益への貢献を考慮し、リシャール公爵へは別の罰を与えることにします」
 エルメーテは挙手をし自らその罰を提案した。
「今後一年間の宰相としての報酬を辞退し、全てを犯罪に巻き込まれた被害者家族や孤児院へ充てるようにお願い出来ますか?」
 これには傍聴席だけでなく裁判官や皇帝、全員が驚きに声を上げる。
 宰相としての報酬は大きい。一年間辞退するとなるとその金額だけで孤児院の運営が賄える。
 一年間無報酬だとしても何の問題もない。むしろ金を払うだけでリシャール公爵家に対し世論を味方にすることも出来るし安い方だ。今後の政治もやりやすくなる。
 
 エルメーテの提案は受け入れられ、裁判は俺の想定内で終わったのだった。
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