【R18】陰陽の聖婚Ⅰ:聖なる婚姻

無憂

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11、焦燥

神器の秘密

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 アンジェリカの淹れたお茶を一口飲んで口を湿らせると、恭親王は言った。

「まず、あなたの義父上……と言うべきなのかな、イフリート公子ギュスターブ卿が我々の婚姻に異議を申し立ててきたそうだ。理由は公開の場で直接述べるそうなので、私も知らない。午後から月神殿で公聴会が開かれることになった。メイローズが言うには、あなたも私も、そしてユリウスも、その会議に出なければならないそうだ。あなたをこの別邸から出すのは、気が乗らないのだがな」

 恭親王がちらりとメイローズに流し目を送ると、メイローズが一歩踏み出して腰を折った。

「申し訳ございません。やはり当事者である姫君がご欠席では、殿下やユリウス卿が姫君を無理に別邸に留めている、という主張に説得力を与えかねませんので……」
「それは仕方がないね。アデライードがこの結婚に納得している様子を、ギュスターブの野郎には見せつけておかないと」

 ユリウスの言葉に、恭親王が怜悧な黒い瞳でアデライードを見ると、アデライードは無言で頷いた。

「私自身はギュスターブには会ったこともないし、取り立てての興味もないのだが、あなたがた兄妹には因縁の浅からぬ人物だ。どういう手でくるかはわからないが、取り乱せば相手に付け入る隙を与える。堂々と受け流して欲しい」

 恭親王は懐から例の指輪の入った小箱を取り出すと、二人に言った。

「ギュスターブは、これを喉から手が出るほど欲しがっているらしいが、今、私の手元にあると知れば、どうするかな」

 お茶を飲もうとしていたユリウスは、小箱の中身を見て飛び上がり、ガチャンと乱暴にカップを皿に置く。白い皿に茶色いお茶が零れる。

「ええっ!それっ、どうしてっ!」

 ユリウスの目は驚愕に見開かれていた。

「どうして神器が君の手元にあるのさ!……アデライード? お前が渡したのか?」

 ユリウスの権幕に、アデライードはただ戸惑うように視線を泳がせている。

「まあ、細かいことはどうでもいいだろう。今日はこれを嵌めていくからな」

 そういうと、恭親王は何気なく小箱の中身を手に取り、自分の左手の薬指に嵌めた。ユリウスはその動作を見て、一層驚愕の眼を見開いている。

「君、それ、触って大丈夫なんだ。……やっぱり、アデライードが君を択んだってことなんだ……」
「は?」

 質問の意味を理解できず、黒い目を瞬きしている恭親王に向かい、ユリウスが説明する。

「これは、女王が選んだ夫以外の男が触ると、大変なことになる。……ほら」

 言いながらユリウスが恭親王の左手に伸ばし、指輪に触れようとすると、バチン!と火花が散って弾き飛ばされる。特大の静電気に中ったときのような感じだ。
 恭親王はその光景を見て絶句する。

「……メイローズは、触っても大丈夫だったぞ」

 メイローズも指輪を見つめて唖然としている。陰の〈王気〉を発しているのは知っていたが、そんな魔術が込められていることまでは、彼には見抜けなかった。

「メイローズって……彼、宦官でしょ? 男にしか反応しないらしいよ」

 ユリウスは何言っているの、というように言う。

「十年前、父が死ぬ前に一度だけ見たことがある。……これは、女王が夫である執政長官に渡す指輪だから、女王に選ばれた夫しか触れることができない」

 恭親王はたっぷり百数えるくらい沈黙していたが、絞り出すように言った。

「それは……それはたまたま特大の静電気で……」

 もう一回ユリウスが指輪に手を伸ばして、やっぱりバチン!と火花を飛ばす。

「ほら、そんな何度も都合よく、特大の静電気は出ないよ」

 恭親王は思いっきり唇を引き結んで沈黙する。思考が追い付かないらしい。

「メイローズは何か聞いているか?」

 控えている枢機卿に尋ねると、メイローズは緩く首を振った。

「いえ、特には何も……」
「太陰宮の高位神官くらいしか、何が起こるかは知らなんじゃないかな? 僕は十年前、父上の指に嵌っているのを知らずに触れて、ひどい目に遭ったから知っているけどさ。……ね、アデライード、憶えている? お前はまだ幼かったけれど、あの場にいたはずだ。女王が選んだ夫以外は触れてはならない、と言われるだけで、触れたらどうなるかなんて、誰も説明してくれなかったしね」

 恭親王は左手の指輪をじっと眺め、やがて肩を震わせて笑い始めた。

「殿下?」
「いや、その……なんだかすごいな……。どういう仕組みなんだか」
「始祖女王ディアーヌの魔術がかかっているというよ」

 ユリウスが言うと、メイローズも納得した。

「確かにかなり強い陰の〈王気〉を発しておりますが……」

 そのやり取りの間も、ずっと身体を震わせて笑い続けている恭親王に対し、ユリウスは咳払いして、続ける。

「それは十年間、行方不明になっていた。……それが、殿下の手元にあるということは、実はアデライードは神器を隠し持っていて、婚約式の後に殿下に渡したってことなの? この、僕にも黙って」

 気まずそうに視線をそらすアデライードを、ユリウスが睨みつける。ユリウスはアデライードが話せることに慣れていないので、アデライードが何も言わなくても不自然には思わないようだった。
 恭親王は兄妹の間をとりなすように、言った。

「まあ、そう言うな。アデライード姫には、神器の在り処はずっとわかっていたのだ。あのエイダが神器を狙っていることも、もちろん知っていた。言葉を話せないフリまでして神器を守ってきたのだ。責めないでやってくれ」
「僕にだけは本当のことを話してくれてもよかったのに」

 アデライードは目を伏せて、ユリウスの非難の眼差しから逃げるように顔を背ける。
 恭親王は二人の様子に指輪を箱に戻して懐にしまい、ユリウスに言った。

「あのエイダという女がずっと張り付いていて、おぬしに助けを求めようにもできなかったのだ。……この、神器が奪われていれば、いろいろと厄介なことになったのを、アデライード姫の機転で救われたのだから」

 恭親王がそう言って、アデライードを見る。アデライードは少しばかり複雑そうな表情をして、翡翠色の瞳を伏せた。
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