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五竅
25、ゲルフィン夫婦の危機
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「こんなところで何をしていらっしゃるのです? ご自分たちの立場をわかっていらっしゃらないようですね?」
冷酷を具現化したような表情を張りつけて、ゲルフィンが高楼の上の一同を睨みつける。僧兵、海賊、強盗(改め義賊)の三人組はもう完全に怯えたように縮こまっている。とくに強盗(改め義賊)はほとんど涙目だ。主らしい三人の青年は、まだしも表面を取り繕う余裕があるのか、黒服は優雅に蒸留酒のグラスを傾け、道化はわざとらしくヤスミンの腰に腕を回して密着し、白服はレースの扇子を優雅に扇がせて、長い脚を組んで不思議そうに見上げた。
「ええっと。僕の知り合いの人にそっくりな仮装だけど、仮装パーティーにまさか普段着のまま来るような不調法はしないだろうから、本人ではないんだよね?」
「……どういう意味ですか?」
「だからさ、僕の知り合いなら、仮装パーティーに普段着のまま乗り込んじゃうようなお間抜けさんじゃないはずだから、そっくりな格好だけど別人なんだよね? それとも意外とお間抜けさんだったのかな?」
シウの皮肉満載の言葉に、強盗(改め義賊)と海賊はひっと声にならない悲鳴を漏らし、さすがに豪胆な黒服も背筋に冷や汗が流れるのを感じた。
(ちょ、ユエリン、やめろってば! そいつを本気で怒らすなっ!)
ゲルフィンによってもたらされた絶対零度の空気に氷漬けにされた高楼の上で、ゲルフィンに腕を掴まれ、強引にここまで引きずられてきたらしい赤い長衣の女がぷっと噴き出した。
「あらほんと。あたくしの夫にそっくりだと思って、思わずついてきてしまったけれど、そう言えばそうよね? じゃあ、これは誰なのかしら?」
「ゲルフィンの仮装で来るとか、ほんとに斬新なアイディアに脱帽ですよ」
レースの扇子を口元に寄せ、銀色の仮面を魔力灯の光に反射させて妖艶に微笑む青年に、ゲルフィンの眉間にこれ以上は穿てないほどの深い皺が刻まれた。
「……今日のところは不問に付しますが、羽目は外さないでくださいよ」
ゲルフィンが苦々しそうに言う横で、赤い長衣の女が赤い仮面の下で驚いた声をあげた。
「四妹じゃない! 何してるの?」
「えっその……」
「デブババアとエロジジイ避けの僕たちの女神だよ?」
「まあっ」
赤い長衣の女が仮面の下の目を瞬いたようだ。
「……送っていくつもりだったけど、先に帰らなきゃいけなくなっちゃったの。ごめんなさい?」
「えっ……うん……」
「三弟! あなたでしょ? この子はあたくしの又従妹なのよ。お邸――ナルシア家まで送って差し上げてくれる?」
「は、はい……わかりました……」
赤い長衣の女は強盗(改め義賊)に色っぽく品をつくって頼むと、そのまま優雅に踵を返し、階段を降りていった。ゲルフィンはぎろりと全員を睨みつけた挙句、ゆっくりと踵をかえし、妻の後について階段を降りていく。
しばらく無言で二人を見送った後、高楼の上では全員が頽れるように榻に座りこんで、がっくりと項垂れた。
「つーか、誰だよ、〈ゲルフィン〉マニアの仮装だなんつった奴!」
「殿下、あんな風に挑発しないでくださいよ! 俺、家に帰ったら絶対、袋叩きだ」
強盗(改め義賊)が頭を抱えている横で、シウがレースの扇子で扇ぎながら言う。
「てゆーか、あいつはただ、奥さんの浮気現場を押さえに来てみたら僕たちが居たんで、ヤバイと思って釘さしに来ただけだって!」
シウの言葉に、がばりとターシュが身を起こして言った。その仮面の奥の瞳がきらりと輝いている。
「もしかして、俺たちゲルフィンの弱み握っちゃった?」
「……確かに使いどころを間違えなければ、けっこうイケルかも……」
シウが扇子を顎に当てて考えるように言うと、ターシュがキラキラした瞳でヤスミンを振り返った。
「ね、四妹、本気で旦那と離婚したいんだったら、何とかしてあげられるかもしれないよ?」
「えええっ?」
ヤスミンが仮面の下の瞳をぱちぱちと瞬く。
「それとゲルフィンとなんか関係あるの?」
「ゲルフィンがいなくても何とかはなるかもしれないけど、ゲルフィンをこっちの味方に引き込めれば、百人力だね」
「えええっちょ、ちょっと……」
「ええっなになに、それどういう策なの……」
ターシュとシウがわくわくと相談を始めるのを横目に見ながら、エルは琥珀色の蒸留古酒を手酌でグラスに注いで、一気に呷った。
お坊ちゃんな外見とは裏腹に、この二人が相当な策士であることは北方辺境で骨身にしみている。
(あー、なんか嫌な予感しかしねぇ……やっぱり、ババアの火遊び会とか、来るんじゃなかった)
一気に空けたグラスに、エルはもう一杯、琥珀色の強い酒を満たすのであった。
冷酷を具現化したような表情を張りつけて、ゲルフィンが高楼の上の一同を睨みつける。僧兵、海賊、強盗(改め義賊)の三人組はもう完全に怯えたように縮こまっている。とくに強盗(改め義賊)はほとんど涙目だ。主らしい三人の青年は、まだしも表面を取り繕う余裕があるのか、黒服は優雅に蒸留酒のグラスを傾け、道化はわざとらしくヤスミンの腰に腕を回して密着し、白服はレースの扇子を優雅に扇がせて、長い脚を組んで不思議そうに見上げた。
「ええっと。僕の知り合いの人にそっくりな仮装だけど、仮装パーティーにまさか普段着のまま来るような不調法はしないだろうから、本人ではないんだよね?」
「……どういう意味ですか?」
「だからさ、僕の知り合いなら、仮装パーティーに普段着のまま乗り込んじゃうようなお間抜けさんじゃないはずだから、そっくりな格好だけど別人なんだよね? それとも意外とお間抜けさんだったのかな?」
シウの皮肉満載の言葉に、強盗(改め義賊)と海賊はひっと声にならない悲鳴を漏らし、さすがに豪胆な黒服も背筋に冷や汗が流れるのを感じた。
(ちょ、ユエリン、やめろってば! そいつを本気で怒らすなっ!)
ゲルフィンによってもたらされた絶対零度の空気に氷漬けにされた高楼の上で、ゲルフィンに腕を掴まれ、強引にここまで引きずられてきたらしい赤い長衣の女がぷっと噴き出した。
「あらほんと。あたくしの夫にそっくりだと思って、思わずついてきてしまったけれど、そう言えばそうよね? じゃあ、これは誰なのかしら?」
「ゲルフィンの仮装で来るとか、ほんとに斬新なアイディアに脱帽ですよ」
レースの扇子を口元に寄せ、銀色の仮面を魔力灯の光に反射させて妖艶に微笑む青年に、ゲルフィンの眉間にこれ以上は穿てないほどの深い皺が刻まれた。
「……今日のところは不問に付しますが、羽目は外さないでくださいよ」
ゲルフィンが苦々しそうに言う横で、赤い長衣の女が赤い仮面の下で驚いた声をあげた。
「四妹じゃない! 何してるの?」
「えっその……」
「デブババアとエロジジイ避けの僕たちの女神だよ?」
「まあっ」
赤い長衣の女が仮面の下の目を瞬いたようだ。
「……送っていくつもりだったけど、先に帰らなきゃいけなくなっちゃったの。ごめんなさい?」
「えっ……うん……」
「三弟! あなたでしょ? この子はあたくしの又従妹なのよ。お邸――ナルシア家まで送って差し上げてくれる?」
「は、はい……わかりました……」
赤い長衣の女は強盗(改め義賊)に色っぽく品をつくって頼むと、そのまま優雅に踵を返し、階段を降りていった。ゲルフィンはぎろりと全員を睨みつけた挙句、ゆっくりと踵をかえし、妻の後について階段を降りていく。
しばらく無言で二人を見送った後、高楼の上では全員が頽れるように榻に座りこんで、がっくりと項垂れた。
「つーか、誰だよ、〈ゲルフィン〉マニアの仮装だなんつった奴!」
「殿下、あんな風に挑発しないでくださいよ! 俺、家に帰ったら絶対、袋叩きだ」
強盗(改め義賊)が頭を抱えている横で、シウがレースの扇子で扇ぎながら言う。
「てゆーか、あいつはただ、奥さんの浮気現場を押さえに来てみたら僕たちが居たんで、ヤバイと思って釘さしに来ただけだって!」
シウの言葉に、がばりとターシュが身を起こして言った。その仮面の奥の瞳がきらりと輝いている。
「もしかして、俺たちゲルフィンの弱み握っちゃった?」
「……確かに使いどころを間違えなければ、けっこうイケルかも……」
シウが扇子を顎に当てて考えるように言うと、ターシュがキラキラした瞳でヤスミンを振り返った。
「ね、四妹、本気で旦那と離婚したいんだったら、何とかしてあげられるかもしれないよ?」
「えええっ?」
ヤスミンが仮面の下の瞳をぱちぱちと瞬く。
「それとゲルフィンとなんか関係あるの?」
「ゲルフィンがいなくても何とかはなるかもしれないけど、ゲルフィンをこっちの味方に引き込めれば、百人力だね」
「えええっちょ、ちょっと……」
「ええっなになに、それどういう策なの……」
ターシュとシウがわくわくと相談を始めるのを横目に見ながら、エルは琥珀色の蒸留古酒を手酌でグラスに注いで、一気に呷った。
お坊ちゃんな外見とは裏腹に、この二人が相当な策士であることは北方辺境で骨身にしみている。
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