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六竅
17、商談
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翌朝、古書肆から使いが来て、例の若様が蔵書を見るために午後に訪問すると言ってきた。そう言われてユイファは慌てる。さてそんな若様をどんな風におもてなしするべきか。考えてはみたものの、安物の茶葉が高級茶に化けるでなく、いつも通り自身で焼き菓子を作り、庭の薬草を干したお茶を準備する。
(貧乏だから本を売るんだってわかっているだろうし……。今更取り繕ってもしょうがないわ)
それでも約束の時間が迫ると、ユイファは鏡の前で身なりを整え、客の来訪を待った。
大家の若君だというから、仰々しい供回りで来るかと思っていたら、意外にも伴は二人。一人は以前に銀細工の店で見た背の高い護衛の青年、もう一人は二十代半ばで中背、髪を真ん中でぴっちりと分けた青年で、つまり、若君というのは銀細工屋ですれ違った例の美少年であった。
ユイファが驚いて目を見開き、立ったまま口もきけないでいるのに、美少年の方は一瞬だけ目を瞠ったものの、すぐに表情を柔らかく戻して、丁寧に来訪の意を告げた。
「古書肆の店主より聞いて、珍しい本を見せてもらいに来た。できれば、バラバラに売られる前にまとめて買いたいと思ってね」
そう言ってゆったりと微笑む少年は、縹色の爽やかな長衣に黒い帯を締め、足元は白い脚衣に茶の革ブーツを履き、腰には翡翠の佩玉が揺れている。応接間に通すと優雅な仕草で肘掛椅子に腰かけ、長い脚を組む。護衛は彼の後ろに立ったままだが、もう一人の中央分けの青年は青年の隣の椅子に座った。
「事情があって、家名は名乗ることができないけれど、僕のことは十五と呼んで。こちらは僕の古本仲間のゲルフィン。彼は会計や税務関係に強いのでね、もし高額な取引になった時に面倒がないように一緒にきてもらったんだ。もちろん、彼も欲しい書籍や骨董があったら買うつもりだと思うよ」
「よろしく。ゲルフィンと申します」
中央分けの青年が神経質そうに頭を下げた。
「よろしくお願いします。ネルー家のミンチョンの妻で、ユイファと申します」
ユイファが庭のハーブを乾燥させて作った薬草茶を淹れ、手製の焼き菓子を勧める。茶器も菓子器も、夫秘蔵の銘品であるが、それに見合う高級茶葉を購入する余裕は、今のこの家にはない。
シウ、と名乗った少年の方は屈託なく薬草茶を飲んでいるが、中央分けのゲルフィンは茶器を値踏みするように眺めた後、お茶を一口飲んで一瞬、眉を顰めた。
少年はひとわたり周囲を見回して、開け放った窓から庭の薔薇を目に留めて、微笑んだ。
「なるほど、前に銀細工の店で貴女にぶつかりかけた時、ほんのりと薔薇の香りがすると思ったら、この庭の薔薇だったのだね」
見惚れてしまう美しい顔に蕩けるような笑みを湛え、少年が言うのに、ユイファはつい、赤くなる。
「いえその、匂い袋を持っておりましたので、そのせいでございましょう」
ユイファが袂から手製の匂い袋を出すと、少年は興味深そうに首を傾げる。
「乾燥させた木香薔薇の花びらが入っておりまして、ほんのりと香りがいたしますの」
「君が作ったの?」
「ええ……お恥ずかしい限りです」
「すごいね、ひとつもらってもいい?」
屈託なくねだられて、ユイファは目をぱちくりさせる。
「僕は香水や香の強い香りが苦手なんだけど、こういう淡い香りなら大丈夫なんだ」
にっこり微笑まれて、ユイファは何故だか背中に汗をかいた。
「どうぞお持ちください」
少しだけ笑顔が引き攣るのを、どうしようもなかった。ゲルフィンが長い脚を組んで、ユイファを見た。
「書肆で、こちらの蔵書を拝見いたしましたが、確かに五百年前の内乱で流出した、宮中蔵書であると思います。流出本は流出本ですので、決まりとして適正価格で国家が買い取ることになると思います。その際、この家と国家の直接交渉となると、少々問題がありまして……おわかりかと思いますが、この家は二年前に汚職事件で爵位剥奪の上家財没収となっています。その家から、そのような貴重な書籍が発見されますと、二年前にこちらの資産を調査した官庁の責任問題になるか、ひどい場合はネルー家が故意に財産を隠蔽していたなどという、言いがかりをつける者が出て来る可能性もあります」
そう言われて、ユイファははっと背筋を伸ばした。
「二年前のことは、わたくしは夫が死んであまりに茫然としておりまして……こちらの別邸の書画骨董については、ガラクタだと思われましたのか、調査がおざなりだったのでございます。とくに故意に隠蔽をしたわけではございません」
ゲルフィンは冷たい顔の、頬を少しだけ緩めて微笑む。
「わかっておりますよ。ですが、痛くもない腹を探らせないために、ご提案させていただきたいのですよ。その宮中蔵書を含め、ある程度まとまった量の書籍と骨董を我々で購入し、その上で、調査の結果、宮中蔵書が発見されたとして、我々から国家に売却する……と言う形を取りたいのです」
「それは構いません。その、お恥ずかしい話ですが、今月末までにまとまった金額が必要になりまして……お上の買い取りを待っていては間に合いませんの。今月末までに用立てていただけるのであれば、そちらのご要望に沿う形で、お譲り致したいと思います」
ユイファは少しだけ恥ずかしそうに、ゲルフィンに言った。
ユイファ手作りの焼き菓子を美味そうにがっついていた少年が、言った。
「これ、蕎麦粉が入っているね。それでいてぱさぱさしなくて美味しい」
「お替わりもありますよ」
「ほんと?!」
「あなたは一体何しに来たのですか! さっきから匂い袋を強請るわ菓子は強請るわ!」
「だって美味しいんだもん」
その様子を見て、少年とゲルフィンという青年は、主人とお付の人に近い関係だが、また親しい間柄であると見えた。
菓子器に並べた焼き菓子が、お替わりも含めてあらかた少年の腹の中に納まると、ユイファは立ち上がって彼らを書庫に案内した。
細身の上に女のような美しい顔をしているので、ユイファは並んでみて少年が思った以上に長身で驚いた。動作も立居振舞も洗練され、身体も鍛えているのがわかる。
書庫に入って、少年とゲルフィンは素直に感嘆の声を上げた。
「これは……すごいな……亡くなった旦那さんは本当に本好きだったのだね」
「たしかに、個人の蔵書でこれほどまでのはなかなかありませんな」
本の紙と、墨と、埃と、ほんの少しのカビの匂い。
ユイファが常に掃除を欠かさないために、書庫は静謐で清潔な空気に満ちていた。
「年に一度、虫干しはしておりますが、どうしても夏場は湿気てしまうし、ネズミや虫の害もございますので……」
「いやいや、十分だろう」
少年もゲルフィンも、表情が歓びに輝いている。彼らも本当に書物が好きなのだ。そう思うと、ユイファは少し嬉しくなった。できるならこの書物の価値の分かる人に買って欲しい。骨董として死蔵するのではなく、手に取って読んで欲しい。ユイファは常にそう思っていたから。
少年もゲルフィンも、あれこれと書庫を見回り、梯子に昇ったり座り込んだりして、楽しくてたまらない様子で、時折、
「うわー、これは……」
とか、
「見て、ゲルフィン、これってお前が捜していたものじゃないか?」
「ほう、確かに……」
とか、傍にユイファがいるのも忘れて本の世界に没頭していて、ユイファは何となく、夫が帰ってきたような気がしておかしくなってしまった。一人、本に興味がないらしく、廊下に出ていた護衛が、時間切れだと呼びにきたのに、不満そうな顔をする二人が子供のようで、ついついユイファはくすくすと笑いだした。
「おかしいですわ、お二人とも。子供みたいですわよ」
笑われてむっすりと眉を顰める二人の顔がまた子供っぽく、ユイファは一層けらけらと笑う。
「なんだよ、ちょっとばかし年上だからって」
「私など年下のはずですが笑われておりますよ」
しかし拗ねてばかりもいられないと、少年とゲルフィンは交渉に入った。
「この本はすごいね。全部買うのはさすがに金が足りないな……だがばらばらに売られてしまうのはもったいない」
「はい。……わたしもなるべくなら切り売りしたくはないのです」
「それに、これだけの設備の揃った書庫は、急には作れませんよ。迂闊な場所に持ち出しても、整理に時間がかかる一方でしょう。正直、ここまでとは想像もしておりませんでした」
ゲルフィンは腕を組み、考える。
「まず、宮中蔵書がどれだけあるか、それと、一部の稀覯本。価値の高い初版。それらをまとめて購入するのでいかがでしょう。他のものはまとまったコレクションとしては優れておりますが、個別での価値は下がります。それはむしろここに置いておいた方がいいかもしれない」
少年はゲルフィンの提案を受け、首を傾げる。
「えーと、失礼だけど今、さしあたっていくら必要なの?」
少年のざっくばらんな言い方に、ユイファは恐縮しながらも金額を口にした。
「それなら今スグにでも出せる」
少年はホッとしたように言って、それから少し考える。
「でも君の話は不自然だね。急に利子を加えるとか、騙されてない?」
少年の指摘に、ユイファも考えないことではなかったので、俯いた。多少の無茶を謂われても、足元を見られているので、どうしようもないのだ。ゲルフィンも言う。
「今年の分を払っても、来年、再来年と、同じことが起こるでしょうな。きちんとした代理人を立てて、借金を見直した方がいい。……貴重書の譲渡の件と含めて、私に任せてくれましたら、悪いようにはしませんよ」
「でも……」
初対面の人に、財産の管理まで頼むのは恐ろしい。
「私はゲスト家の者です」
そう言われて、ユイファがびっくりして目を見開く。
「……十二貴嬪家のですか?」
「ええ。ですから、こういう財産、相続、譲渡と税に関係することは家業のようなものです。何、大した手間ではありませんし、古書を手に入れるためですから」
茫然としているユイファを尻目に、ゲルフィンと少年は勝手に二人で話し合って手筈を整え始める。
「じゃあ、明日にでもトルフィンと二人でまた来て、借財の書類について読み直します」
「僕はこの家から持ち出す本について、決めてリストにするよ。ゲルフィンが欲しい本があれば、そのリストに入れればいい」
一通り決めると、少年はユイファに向かってにっこりほほ笑んだ。
「先ほどの金額は明日まで用意しよう。それをマンジに返せばいい。明日、僕たちはまた来るよ」
そう告げると、二人と護衛はユイファの家を辞した。
(貧乏だから本を売るんだってわかっているだろうし……。今更取り繕ってもしょうがないわ)
それでも約束の時間が迫ると、ユイファは鏡の前で身なりを整え、客の来訪を待った。
大家の若君だというから、仰々しい供回りで来るかと思っていたら、意外にも伴は二人。一人は以前に銀細工の店で見た背の高い護衛の青年、もう一人は二十代半ばで中背、髪を真ん中でぴっちりと分けた青年で、つまり、若君というのは銀細工屋ですれ違った例の美少年であった。
ユイファが驚いて目を見開き、立ったまま口もきけないでいるのに、美少年の方は一瞬だけ目を瞠ったものの、すぐに表情を柔らかく戻して、丁寧に来訪の意を告げた。
「古書肆の店主より聞いて、珍しい本を見せてもらいに来た。できれば、バラバラに売られる前にまとめて買いたいと思ってね」
そう言ってゆったりと微笑む少年は、縹色の爽やかな長衣に黒い帯を締め、足元は白い脚衣に茶の革ブーツを履き、腰には翡翠の佩玉が揺れている。応接間に通すと優雅な仕草で肘掛椅子に腰かけ、長い脚を組む。護衛は彼の後ろに立ったままだが、もう一人の中央分けの青年は青年の隣の椅子に座った。
「事情があって、家名は名乗ることができないけれど、僕のことは十五と呼んで。こちらは僕の古本仲間のゲルフィン。彼は会計や税務関係に強いのでね、もし高額な取引になった時に面倒がないように一緒にきてもらったんだ。もちろん、彼も欲しい書籍や骨董があったら買うつもりだと思うよ」
「よろしく。ゲルフィンと申します」
中央分けの青年が神経質そうに頭を下げた。
「よろしくお願いします。ネルー家のミンチョンの妻で、ユイファと申します」
ユイファが庭のハーブを乾燥させて作った薬草茶を淹れ、手製の焼き菓子を勧める。茶器も菓子器も、夫秘蔵の銘品であるが、それに見合う高級茶葉を購入する余裕は、今のこの家にはない。
シウ、と名乗った少年の方は屈託なく薬草茶を飲んでいるが、中央分けのゲルフィンは茶器を値踏みするように眺めた後、お茶を一口飲んで一瞬、眉を顰めた。
少年はひとわたり周囲を見回して、開け放った窓から庭の薔薇を目に留めて、微笑んだ。
「なるほど、前に銀細工の店で貴女にぶつかりかけた時、ほんのりと薔薇の香りがすると思ったら、この庭の薔薇だったのだね」
見惚れてしまう美しい顔に蕩けるような笑みを湛え、少年が言うのに、ユイファはつい、赤くなる。
「いえその、匂い袋を持っておりましたので、そのせいでございましょう」
ユイファが袂から手製の匂い袋を出すと、少年は興味深そうに首を傾げる。
「乾燥させた木香薔薇の花びらが入っておりまして、ほんのりと香りがいたしますの」
「君が作ったの?」
「ええ……お恥ずかしい限りです」
「すごいね、ひとつもらってもいい?」
屈託なくねだられて、ユイファは目をぱちくりさせる。
「僕は香水や香の強い香りが苦手なんだけど、こういう淡い香りなら大丈夫なんだ」
にっこり微笑まれて、ユイファは何故だか背中に汗をかいた。
「どうぞお持ちください」
少しだけ笑顔が引き攣るのを、どうしようもなかった。ゲルフィンが長い脚を組んで、ユイファを見た。
「書肆で、こちらの蔵書を拝見いたしましたが、確かに五百年前の内乱で流出した、宮中蔵書であると思います。流出本は流出本ですので、決まりとして適正価格で国家が買い取ることになると思います。その際、この家と国家の直接交渉となると、少々問題がありまして……おわかりかと思いますが、この家は二年前に汚職事件で爵位剥奪の上家財没収となっています。その家から、そのような貴重な書籍が発見されますと、二年前にこちらの資産を調査した官庁の責任問題になるか、ひどい場合はネルー家が故意に財産を隠蔽していたなどという、言いがかりをつける者が出て来る可能性もあります」
そう言われて、ユイファははっと背筋を伸ばした。
「二年前のことは、わたくしは夫が死んであまりに茫然としておりまして……こちらの別邸の書画骨董については、ガラクタだと思われましたのか、調査がおざなりだったのでございます。とくに故意に隠蔽をしたわけではございません」
ゲルフィンは冷たい顔の、頬を少しだけ緩めて微笑む。
「わかっておりますよ。ですが、痛くもない腹を探らせないために、ご提案させていただきたいのですよ。その宮中蔵書を含め、ある程度まとまった量の書籍と骨董を我々で購入し、その上で、調査の結果、宮中蔵書が発見されたとして、我々から国家に売却する……と言う形を取りたいのです」
「それは構いません。その、お恥ずかしい話ですが、今月末までにまとまった金額が必要になりまして……お上の買い取りを待っていては間に合いませんの。今月末までに用立てていただけるのであれば、そちらのご要望に沿う形で、お譲り致したいと思います」
ユイファは少しだけ恥ずかしそうに、ゲルフィンに言った。
ユイファ手作りの焼き菓子を美味そうにがっついていた少年が、言った。
「これ、蕎麦粉が入っているね。それでいてぱさぱさしなくて美味しい」
「お替わりもありますよ」
「ほんと?!」
「あなたは一体何しに来たのですか! さっきから匂い袋を強請るわ菓子は強請るわ!」
「だって美味しいんだもん」
その様子を見て、少年とゲルフィンという青年は、主人とお付の人に近い関係だが、また親しい間柄であると見えた。
菓子器に並べた焼き菓子が、お替わりも含めてあらかた少年の腹の中に納まると、ユイファは立ち上がって彼らを書庫に案内した。
細身の上に女のような美しい顔をしているので、ユイファは並んでみて少年が思った以上に長身で驚いた。動作も立居振舞も洗練され、身体も鍛えているのがわかる。
書庫に入って、少年とゲルフィンは素直に感嘆の声を上げた。
「これは……すごいな……亡くなった旦那さんは本当に本好きだったのだね」
「たしかに、個人の蔵書でこれほどまでのはなかなかありませんな」
本の紙と、墨と、埃と、ほんの少しのカビの匂い。
ユイファが常に掃除を欠かさないために、書庫は静謐で清潔な空気に満ちていた。
「年に一度、虫干しはしておりますが、どうしても夏場は湿気てしまうし、ネズミや虫の害もございますので……」
「いやいや、十分だろう」
少年もゲルフィンも、表情が歓びに輝いている。彼らも本当に書物が好きなのだ。そう思うと、ユイファは少し嬉しくなった。できるならこの書物の価値の分かる人に買って欲しい。骨董として死蔵するのではなく、手に取って読んで欲しい。ユイファは常にそう思っていたから。
少年もゲルフィンも、あれこれと書庫を見回り、梯子に昇ったり座り込んだりして、楽しくてたまらない様子で、時折、
「うわー、これは……」
とか、
「見て、ゲルフィン、これってお前が捜していたものじゃないか?」
「ほう、確かに……」
とか、傍にユイファがいるのも忘れて本の世界に没頭していて、ユイファは何となく、夫が帰ってきたような気がしておかしくなってしまった。一人、本に興味がないらしく、廊下に出ていた護衛が、時間切れだと呼びにきたのに、不満そうな顔をする二人が子供のようで、ついついユイファはくすくすと笑いだした。
「おかしいですわ、お二人とも。子供みたいですわよ」
笑われてむっすりと眉を顰める二人の顔がまた子供っぽく、ユイファは一層けらけらと笑う。
「なんだよ、ちょっとばかし年上だからって」
「私など年下のはずですが笑われておりますよ」
しかし拗ねてばかりもいられないと、少年とゲルフィンは交渉に入った。
「この本はすごいね。全部買うのはさすがに金が足りないな……だがばらばらに売られてしまうのはもったいない」
「はい。……わたしもなるべくなら切り売りしたくはないのです」
「それに、これだけの設備の揃った書庫は、急には作れませんよ。迂闊な場所に持ち出しても、整理に時間がかかる一方でしょう。正直、ここまでとは想像もしておりませんでした」
ゲルフィンは腕を組み、考える。
「まず、宮中蔵書がどれだけあるか、それと、一部の稀覯本。価値の高い初版。それらをまとめて購入するのでいかがでしょう。他のものはまとまったコレクションとしては優れておりますが、個別での価値は下がります。それはむしろここに置いておいた方がいいかもしれない」
少年はゲルフィンの提案を受け、首を傾げる。
「えーと、失礼だけど今、さしあたっていくら必要なの?」
少年のざっくばらんな言い方に、ユイファは恐縮しながらも金額を口にした。
「それなら今スグにでも出せる」
少年はホッとしたように言って、それから少し考える。
「でも君の話は不自然だね。急に利子を加えるとか、騙されてない?」
少年の指摘に、ユイファも考えないことではなかったので、俯いた。多少の無茶を謂われても、足元を見られているので、どうしようもないのだ。ゲルフィンも言う。
「今年の分を払っても、来年、再来年と、同じことが起こるでしょうな。きちんとした代理人を立てて、借金を見直した方がいい。……貴重書の譲渡の件と含めて、私に任せてくれましたら、悪いようにはしませんよ」
「でも……」
初対面の人に、財産の管理まで頼むのは恐ろしい。
「私はゲスト家の者です」
そう言われて、ユイファがびっくりして目を見開く。
「……十二貴嬪家のですか?」
「ええ。ですから、こういう財産、相続、譲渡と税に関係することは家業のようなものです。何、大した手間ではありませんし、古書を手に入れるためですから」
茫然としているユイファを尻目に、ゲルフィンと少年は勝手に二人で話し合って手筈を整え始める。
「じゃあ、明日にでもトルフィンと二人でまた来て、借財の書類について読み直します」
「僕はこの家から持ち出す本について、決めてリストにするよ。ゲルフィンが欲しい本があれば、そのリストに入れればいい」
一通り決めると、少年はユイファに向かってにっこりほほ笑んだ。
「先ほどの金額は明日まで用意しよう。それをマンジに返せばいい。明日、僕たちはまた来るよ」
そう告げると、二人と護衛はユイファの家を辞した。
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