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第二部 マスター、私は少し寂しいです
ゆっくり話をしよう
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父さんの手伝いを終えた私はマスターのスマホの中に戻っていた。
カメラではないのか、とは思うだろうが私が戻ってきた時には既に夕方になっていた。つまり、もう皆帰りはじめているのだ。プールの中にいないのならばスマホに入った方がいい。
「それじゃあ、僕はこっちだから」
「そうか、そんじゃまたな」
「うん」
「またねー」
「ま、また、よければ遊びましょう!」
マスターの友達からそれぞれまた会おうの挨拶をしてマスターと友達は別れた。
「……さすがに帰ってるよね?」
「さすがに戻ってます」
あれから何度もマスターの友達に自分のことを話すべきなのかを考えたが、未だに結論を出せていない。話せばどうなるのかということを未だに考えている。
──一体何に恐れているのだろう。
「……少しだけ寄り道して行かない?」
「大丈夫なんですか?」
「少々遅れても大丈夫だと思う……多分」
「多分じゃないですか」
「大丈夫!」
「開き直ってるじゃないですか」
しかし、今日は何かとゆっくり話す機会があるような気がする。いや、作ってくれているのだろうか。
それから私とマスターは近くの河川敷まで来た。夕方に河川敷……青春を感じるぞ。
「……霧乃さんがいない時に何度か考えてるんだ。もしも霧乃さんがいなかったらって」
「いなかったら、ですか」
「うん」
私がいなかったら、か。私自身もマスターがいなかったらどうなっていたのだろう。
もしかすると、ゲームの世界に篭っていたのかもしれない。それか、何も目的を持たないまま生きていたのかもしれない。
「霧乃さんがいなかったら、間違いなく僕は今の僕に成長しなかったと思う。どうして急に皆が僕に対して優しくなったのかはわからないけど」
「そ、それは、まあ、気が変わったんじゃないんですか?」
「……本当にそうなのかな」
あまりこちら側の事情は知られたくない。まーた嘘ついてるなんて言われても、変な心配をかけられればこちらとしても少々困る。とは言っても、薄々勘づいてきてる気がする。
「それは兎も角、私だってマスターに出会わなかったら今の私はいませんしね」
「お互い何か似てる気がする」
「……言われてみれば、そうですね」
お互い何らかの闇を抱えている。だからこそ気が合うのかもしれない。こんな闇を抱えている人間に活発系で闇になんて縁すらない人間と気が合うはずがない。それどころかお互いに拒絶し合う。
しかし個人的にはマスターの闇は私よりも軽い。マスターが私みたいになればお先真っ暗だ。そうはならないように私が導いていかなければ。
少なくとも、今のマスターには必要のないことだとは思うが。
「夏休み……か」
「何か思い出でもあったの?」
「逆。思い出なんて一つもありませんでした。その時に親はいないし外に出る必要もなかったですから。友達一人いませんでしたし」
「……学校は行ってたの?」
「中学までは行ってました。高校は途中で投げ出しました」
ほとんどが楽しくないとつまらないのが理由。一体誰が学校は友達を作るところだと言ったのだろうか。友達が作れなければ意味が無いではないか。今思えば自分の人生はどうも上手く行った気がしない。いや、実際そうなのだ。
「学校を行かなくて何してたの?」
「寝て起きてゲームして食事の四点セットです。あの時は自分の存在価値を探していたくらいですから」
友達がいない、親がいないということは自分を必要としてくれている人がいないということだ。
期待と必要は違う。いくら教師から期待されても必要とされていなければその期待とはセミの抜け殻に植物の種を入れるのと同じだ。要するに、期待されても全く自分にとって良い影響にならないということだ。
そんな現実から逃げていた、と言われるがそれは違う。ただ学校が嫌だって言う言い訳だと言う奴もいる。そいつらは全員誰かに必要とされている人間だ。
──そんな奴らに私のこの気持ちを理解できるはずがない。
理解できないからどうした、なんて物語の主人公が自殺寸前の人に説得する時のようなセリフを言われたこともある。友達でもなんでもない奴にだ。
主人公ぶったところで結局は同じ人間。感動もしないし心にグッとも来ない。ただうるさいだけだ。
「できれば、マスターには私みたいな人間にならないで欲しいです」
「…………」
どう返せばいいのかがわからないのか、マスターは黙っている。それはそうだ。急にこんなことを言って勿論なんて返事できる人間は話を聞いていない奴か話している人のことを全く理解していない奴だけだ。
マスターは私のことを理解している。唯一理解してくれている。だからこそ返事ができないのだ。
「……何か気まずい雰囲気になりましたね。すみません」
「別に大丈夫。でも、そろそろ帰ろうか。気がついたらもう日が殆ど沈んでるし」
気がつけばもう辺りは暗くなっていた。やはりサイバネットワールドにいると体内時計が狂ってくる。
「そうですね。流石にマスターのお婆様が心配します」
「今何時?」
「午後六時半ですね」
「ヤバっ! 予定よりも三十分も遅い!」
「今から帰ると四十五分ですね」
「急ぐよ!」
「とは言っても、私が走る必要はありません」
「ずるい!」
マスターは急いで河川敷から家に向かって一直線で走っていったが結局お婆様に心配をかけたということで怒られていた。
私がマスターと出会わなければ、植物人間のような生活のまま何も変わらなかっただろう。そう考えると、この出会いをくれたデネに感謝すべきなのかもしれない。
少々めんどくさい状況になっていることに関しては許さないが。
カメラではないのか、とは思うだろうが私が戻ってきた時には既に夕方になっていた。つまり、もう皆帰りはじめているのだ。プールの中にいないのならばスマホに入った方がいい。
「それじゃあ、僕はこっちだから」
「そうか、そんじゃまたな」
「うん」
「またねー」
「ま、また、よければ遊びましょう!」
マスターの友達からそれぞれまた会おうの挨拶をしてマスターと友達は別れた。
「……さすがに帰ってるよね?」
「さすがに戻ってます」
あれから何度もマスターの友達に自分のことを話すべきなのかを考えたが、未だに結論を出せていない。話せばどうなるのかということを未だに考えている。
──一体何に恐れているのだろう。
「……少しだけ寄り道して行かない?」
「大丈夫なんですか?」
「少々遅れても大丈夫だと思う……多分」
「多分じゃないですか」
「大丈夫!」
「開き直ってるじゃないですか」
しかし、今日は何かとゆっくり話す機会があるような気がする。いや、作ってくれているのだろうか。
それから私とマスターは近くの河川敷まで来た。夕方に河川敷……青春を感じるぞ。
「……霧乃さんがいない時に何度か考えてるんだ。もしも霧乃さんがいなかったらって」
「いなかったら、ですか」
「うん」
私がいなかったら、か。私自身もマスターがいなかったらどうなっていたのだろう。
もしかすると、ゲームの世界に篭っていたのかもしれない。それか、何も目的を持たないまま生きていたのかもしれない。
「霧乃さんがいなかったら、間違いなく僕は今の僕に成長しなかったと思う。どうして急に皆が僕に対して優しくなったのかはわからないけど」
「そ、それは、まあ、気が変わったんじゃないんですか?」
「……本当にそうなのかな」
あまりこちら側の事情は知られたくない。まーた嘘ついてるなんて言われても、変な心配をかけられればこちらとしても少々困る。とは言っても、薄々勘づいてきてる気がする。
「それは兎も角、私だってマスターに出会わなかったら今の私はいませんしね」
「お互い何か似てる気がする」
「……言われてみれば、そうですね」
お互い何らかの闇を抱えている。だからこそ気が合うのかもしれない。こんな闇を抱えている人間に活発系で闇になんて縁すらない人間と気が合うはずがない。それどころかお互いに拒絶し合う。
しかし個人的にはマスターの闇は私よりも軽い。マスターが私みたいになればお先真っ暗だ。そうはならないように私が導いていかなければ。
少なくとも、今のマスターには必要のないことだとは思うが。
「夏休み……か」
「何か思い出でもあったの?」
「逆。思い出なんて一つもありませんでした。その時に親はいないし外に出る必要もなかったですから。友達一人いませんでしたし」
「……学校は行ってたの?」
「中学までは行ってました。高校は途中で投げ出しました」
ほとんどが楽しくないとつまらないのが理由。一体誰が学校は友達を作るところだと言ったのだろうか。友達が作れなければ意味が無いではないか。今思えば自分の人生はどうも上手く行った気がしない。いや、実際そうなのだ。
「学校を行かなくて何してたの?」
「寝て起きてゲームして食事の四点セットです。あの時は自分の存在価値を探していたくらいですから」
友達がいない、親がいないということは自分を必要としてくれている人がいないということだ。
期待と必要は違う。いくら教師から期待されても必要とされていなければその期待とはセミの抜け殻に植物の種を入れるのと同じだ。要するに、期待されても全く自分にとって良い影響にならないということだ。
そんな現実から逃げていた、と言われるがそれは違う。ただ学校が嫌だって言う言い訳だと言う奴もいる。そいつらは全員誰かに必要とされている人間だ。
──そんな奴らに私のこの気持ちを理解できるはずがない。
理解できないからどうした、なんて物語の主人公が自殺寸前の人に説得する時のようなセリフを言われたこともある。友達でもなんでもない奴にだ。
主人公ぶったところで結局は同じ人間。感動もしないし心にグッとも来ない。ただうるさいだけだ。
「できれば、マスターには私みたいな人間にならないで欲しいです」
「…………」
どう返せばいいのかがわからないのか、マスターは黙っている。それはそうだ。急にこんなことを言って勿論なんて返事できる人間は話を聞いていない奴か話している人のことを全く理解していない奴だけだ。
マスターは私のことを理解している。唯一理解してくれている。だからこそ返事ができないのだ。
「……何か気まずい雰囲気になりましたね。すみません」
「別に大丈夫。でも、そろそろ帰ろうか。気がついたらもう日が殆ど沈んでるし」
気がつけばもう辺りは暗くなっていた。やはりサイバネットワールドにいると体内時計が狂ってくる。
「そうですね。流石にマスターのお婆様が心配します」
「今何時?」
「午後六時半ですね」
「ヤバっ! 予定よりも三十分も遅い!」
「今から帰ると四十五分ですね」
「急ぐよ!」
「とは言っても、私が走る必要はありません」
「ずるい!」
マスターは急いで河川敷から家に向かって一直線で走っていったが結局お婆様に心配をかけたということで怒られていた。
私がマスターと出会わなければ、植物人間のような生活のまま何も変わらなかっただろう。そう考えると、この出会いをくれたデネに感謝すべきなのかもしれない。
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