電脳世界で美少女はじめました

有栖 璃亜

文字の大きさ
28 / 30
第二部 マスター、私は少し寂しいです

ゆっくり話をしよう

しおりを挟む
 父さんの手伝いを終えた私はマスターのスマホの中に戻っていた。
 カメラではないのか、とは思うだろうが私が戻ってきた時には既に夕方になっていた。つまり、もう皆帰りはじめているのだ。プールの中にいないのならばスマホに入った方がいい。

「それじゃあ、僕はこっちだから」
「そうか、そんじゃまたな」
「うん」
「またねー」
「ま、また、よければ遊びましょう!」

 マスターの友達からそれぞれまた会おうの挨拶をしてマスターと友達は別れた。

「……さすがに帰ってるよね?」
「さすがに戻ってます」

 あれから何度もマスターの友達に自分のことを話すべきなのかを考えたが、未だに結論を出せていない。話せばどうなるのかということを未だに考えている。

 ──一体何に恐れているのだろう。

「……少しだけ寄り道して行かない?」
「大丈夫なんですか?」
「少々遅れても大丈夫だと思う……多分」
「多分じゃないですか」
「大丈夫!」
「開き直ってるじゃないですか」

 しかし、今日は何かとゆっくり話す機会があるような気がする。いや、作ってくれているのだろうか。
 それから私とマスターは近くの河川敷まで来た。夕方に河川敷……青春を感じるぞ。

「……霧乃さんがいない時に何度か考えてるんだ。もしも霧乃さんがいなかったらって」
「いなかったら、ですか」
「うん」

 私がいなかったら、か。私自身もマスターがいなかったらどうなっていたのだろう。
 もしかすると、ゲームの世界に篭っていたのかもしれない。それか、何も目的を持たないまま生きていたのかもしれない。

「霧乃さんがいなかったら、間違いなく僕は今の僕に成長しなかったと思う。どうして急に皆が僕に対して優しくなったのかはわからないけど」
「そ、それは、まあ、気が変わったんじゃないんですか?」
「……本当にそうなのかな」

 あまりこちら側の事情は知られたくない。まーた嘘ついてるなんて言われても、変な心配をかけられればこちらとしても少々困る。とは言っても、薄々勘づいてきてる気がする。

「それは兎も角、私だってマスターに出会わなかったら今の私はいませんしね」
「お互い何か似てる気がする」
「……言われてみれば、そうですね」

 お互い何らかの闇を抱えている。だからこそ気が合うのかもしれない。こんな闇を抱えている人間に活発系で闇になんて縁すらない人間と気が合うはずがない。それどころかお互いに拒絶し合う。
 しかし個人的にはマスターの闇は私よりも軽い。マスターがみたいになればお先真っ暗だ。そうはならないように私が導いていかなければ。
 少なくとも、今のマスターには必要のないことだとは思うが。

「夏休み……か」
「何か思い出でもあったの?」
「逆。思い出なんて一つもありませんでした。その時に親はいないし外に出る必要もなかったですから。友達一人いませんでしたし」
「……学校は行ってたの?」
「中学までは行ってました。高校は途中で投げ出しました」

 ほとんどが楽しくないとつまらないのが理由。一体誰が学校は友達を作るところだと言ったのだろうか。友達が作れなければ意味が無いではないか。今思えば自分の人生はどうも上手く行った気がしない。いや、実際そうなのだ。

「学校を行かなくて何してたの?」
「寝て起きてゲームして食事の四点セットです。あの時は自分の存在価値を探していたくらいですから」

 友達がいない、親がいないということは自分を必要としてくれている人がいないということだ。
 期待と必要は違う。いくら教師から期待されても必要とされていなければその期待とはセミの抜け殻に植物の種を入れるのと同じだ。要するに、期待されても全く自分にとって良い影響にならないということだ。
 そんな現実から逃げていた、と言われるがそれは違う。ただ学校が嫌だって言う言い訳だと言う奴もいる。そいつらは全員誰かに必要とされている人間だ。

 ──そんな奴らに私のこの気持ちを理解できるはずがない。

 理解できないからどうした、なんて物語の主人公が自殺寸前の人に説得する時のようなセリフを言われたこともある。友達でもなんでもない奴にだ。
 主人公ぶったところで結局は同じ人間。感動もしないし心にグッとも来ない。ただうるさいだけだ。

「できれば、マスターには私みたいな人間にならないで欲しいです」
「…………」

 どう返せばいいのかがわからないのか、マスターは黙っている。それはそうだ。急にこんなことを言って勿論なんて返事できる人間は話を聞いていない奴か話している人のことを全く理解していない奴だけだ。
 マスターは私のことを理解している。唯一理解してくれている。だからこそ返事ができないのだ。

「……何か気まずい雰囲気になりましたね。すみません」
「別に大丈夫。でも、そろそろ帰ろうか。気がついたらもう日が殆ど沈んでるし」

 気がつけばもう辺りは暗くなっていた。やはりサイバネットワールドにいると体内時計が狂ってくる。

「そうですね。流石にマスターのお婆様が心配します」
「今何時?」
「午後六時半ですね」
「ヤバっ! 予定よりも三十分も遅い!」
「今から帰ると四十五分ですね」
「急ぐよ!」
「とは言っても、私が走る必要はありません」
「ずるい!」

 マスターは急いで河川敷から家に向かって一直線で走っていったが結局お婆様に心配をかけたということで怒られていた。

 私がマスターと出会わなければ、植物人間のような生活のまま何も変わらなかっただろう。そう考えると、この出会いをくれたデネに感謝すべきなのかもしれない。
 少々めんどくさい状況になっていることに関しては許さないが。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが

akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。 毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。 そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。 数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。 平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、 幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。 笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。 気づけば心を奪われる―― 幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。

昼寝部
キャラ文芸
 俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。  その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。  とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。  まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。  これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...