鬼嫁と呼ばれ婚約破棄された私は魔王と強制結婚させられました。腹が立つので人間界滅ぼそうと思います。

景華

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最強夫婦の誕生

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 私と魔王だけになった部屋で、魔王はじっとただ私を見つめたまま固まっている。

「あの、魔王……ありがとうございます。助けに来てくれて」
「ゼノン」
「はい?」
「ゼノンと呼べ」

 そう小さな声で言われて、先程のことを思い出す。
 雨に濡れて心細い中、その名が自分の口から漏れ出たのは無意識だった。
 あの時は特に何も思っていなかったけれど、こうして思い返してみるとなんだかとても恥ずかしくなってくる。

「わ……わかりました。ぜ……ゼノン」
 勇気を振り絞って名前を呼んでみれば、目の前で無表情のまま私を見つめていた魔王の顔が僅かに赤らんで、それから満足げにうなずいた。

「それでいい。で、お前は何であの場所に? しかも門の封印が解けていたようだが、何かしたのか?」
「ぁ……えっと……」

 どうしよう?
 夢の中で女性に行ってみろと言われたので行ってみました?
 門に触ったらなんか変わっちゃいました?
 ……そんな突拍子もない話、信じてくれるかしら?

 頭のおかしい奴だと、魔界からも追放されたら……?
 いや──。
 彼は、ゼノンはそんなことをする人じゃない。
 彼のことを詳しく知っているわけじゃないけれど、そんな非情な人ではないことはわかる。
 なら────「実は……」

 ***

 私はゼノンにすべてを話した。

 夢の中に見知らぬ綺麗な女性が現れて、私を中和の乙女だと教えてくれたこと。
 目が覚めたら城の反対側の門の魔法石に触れるように指示したこと。
 ゼノンに秘密で行くようにと言われたこと。
 門の宝石に触れたら、門が消えてしまったこと。
 怖くなって元の道を走って帰る途中こけて、さらに雨まで降ってきて雨宿りしていた事。

 話している間、魔王は何も言わず、ただ難しい顔をしたまま私の隣に座り、じっと私の話に耳を傾けた。
 そして聞き終わると、腕を組んだまま深いため息をついた。

「とりあえず、その女性は、外見的特徴からしておそらく私の母の思念体か何かだろう」
「は、母!?」

 確かゼノンのお母さんは、ゼノンと一緒に追放されたって聞いた……。
 それが夢に出てきたってことは、お母さんは……。

「私の話もせねばならんな。……私の力がわかってすぐ私は魔界に追放され、私を産んだ母も魔族なのではないかと疑いをかけられ、共に追放された。暗い魔界で、怖くて震えていた私を、母は懸命に守ろうとした。幸いにも魔物たちは皆心優しく、私と母を歓迎し、魔界での世話もしてくれたし、いろいろと教えてくれ、二人でここで生きていける希望を持った。その時だった。母が父から、死の呪いをかけられていたことを知ったのは……」

「死の呪い!?」

「あぁ。父は私を、母と魔族の子どもであると、母が不貞を犯したのだと考えたんだ。そして母に死の呪いをかけた。1年後に死ぬという呪いを、な。母はどんどん弱り、追放から一年後に死んだ。そして呪いの代償として、術者である父──先代の王もそれから5年後に死んだ」

「!!」

 そんな……ひどい……!!
 自分の奥さんを疑って憎んで、信じることなく殺すだなんて……。

「当時まだ幼かった弟の代わりに数年は側妃だった義母が政治ごとを代わってやっていたようだが……国王に即位した途端、バカげたお告げを信じて召喚の儀を行い、自分勝手に無責任にも君まで追放するとは……。すまなかったな」

 申し訳なさそうに頭を下げた魔王に、私は慌てて首を横に振った。

「ゼ、ゼノンが謝る事じゃないです!!」

 悪いのはあのポンコツ色ボケ陛下だ。
 どうせ今もまだ国費を使って恋人に貢いでいるのだろう。
 いつか痛い目に会えばいい。うん。

「ふっ、そうか」
 かすかに笑ってゼノンが続ける。
「私が母の呪いのことを知ったのは、母が死んでから、母の日記を見て知った。もしももっと早く知って、誰かに相談していたら、母の死は防げたのかもしれないのに」

「ゼノン……」
 悔しかったことだろう。
 心細かったことだろう。
 光の当たらない世界で、人間はただ一人になってしまったのだから。

 するとゼノンは、私の目をまっすぐに見つめ、真剣な表情で言った。

「だから千奈。君は何かあれば、すぐに私に言ってほしい。どんな些細なことでも良い。言ってくれたなら、一緒に悩むことができる。答えを導き出すことができる。一人じゃない。私がいることを忘れないでほしい」

 それはたった一人で魔族の中で生きてきたゼノンの、切実な願い──心からの叫びのように思えた。

「書類上とはいえ、私たちは……夫婦になったのだから」
「っ……」

 まるで、家族なのだと言われているようで、目に熱いものがこみあげてきて、それを誤魔化すかのように、私は魔王の胸に思い切って飛び込んだ。

「なっ、おい!?」
 慌てる魔王をよそに、私はぐりぐりとその硬い胸板に顔を押し付ける。
 そして小さな声でこう言った。

「鬼嫁ですが、これからよろしくお願いします」

「っ……あぁ。こちらこそ。魔王だが、これからよろしく頼む」

 そして私の頭上に、温かい魔王の手が触れた──。

 魔王と鬼嫁。

 最強の夫婦が誕生した日だった。











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