9 / 20
種族の違い
しおりを挟む「ちょ、ぜ、ゼノン!? 降ろし──」
「この方が早い。無駄口叩いてないで、子どもを探せ」
鬼畜……!!
でも確かに空からの方が探しやすいのは事実。
しっかり探さなきゃ。
私はゼノンに抱えられたまま、じっくりと辺りを見渡す。
森が静かだ。
人間が入り込んだことを知って、魔物たちも姿を消して様子をうかがっているのだろう。
「~~~~、~~~~」
「? 泣き声?」
かすかに聞こえる鳴き声に耳を傾けると、私は声の聞こえる方へ視線を向け、目を凝らした。
すると木々の間から男の子の姿が──。
「いた!! ゼノン、そこの紫がかった木のところに降ろしてください!!」
「わかった」
ゼノンは頷くと、ゆっくりと降下をはじめ、紫の木の下へと私を抱えて降り立った。
「ひっ!? ま、魔族!?」
空から降りてきた私たちを見るなりに恐怖に顔を歪め、後ずさる男の子。
歳は私の下の弟と同じくらいかしら?
私はなるべく怖がらせないようににっこりと微笑み、男の子の目線までしゃがんでから声をかけた。
「怖がらなくて大丈夫。君を助けに来たんだよ」
「た、助けに?」
ちらり、と視線が私の隣のゼノンへと注がれ、男の子の表情が再びこわばった。
しまった。
小さな子にゼノンの無表情は刺激が強いのか……!!
「だ、大丈夫!! この人、顔は怖いけどとっても優しいから!!」
「おい」
「それよりも──」
私は男の子の右腕に視線を向ける。
身体のところどころに傷が出来ているけれど、右腕はひどい。
血が出るとともに青く腫れているし、折れているようにも見受けられる。
「痛い、よね? すぐに手当てをして、町に帰してあげるから。──ゼノン」
「あぁ。──フラン!!」
私の言わんとしていることを瞬時に悟ったゼノンは、すぐにフランを召喚した。
ふわりと黒い霧に紛れて現れるフランさんに、男の子の顔が再びこわばる。
「大丈夫。この人も悪い人じゃないから」
「で、でも!! 緑だよ!?」
この反応も普通と言えば普通なんだろう。
私たち人間にはありえない肌色なのだから。
だけど──。
「肌の色なんて関係ない。人間でも心無いことを言ったりしたりする人はいるでしょう? そんな人間なんかよりもずっと、ここに居る人たちは心優しい人たちだと思ってる。だから大丈夫。私たちを信じて」
私の言葉をじっと聞き終えてから、少し考えたように俯き、そして再び私を見て、男の子はゆっくりと頷いた。
それに安心したように頬を緩めると、フランさんは男の子の右腕に手をかざし、ゆっくりと力を送り込んでいく。
「え? 傷が……」
呆然と言葉を発する男の子。
そりゃそうよね。
あんなに深かった傷が塞がっていくんだもの。
かんぜんには傷跡は無くならないものの、血は止まって、痛みに歪んでいた男の子の顔も落ち着いたようだ。
「さぁ、これで大丈夫ですよ。他の小さな傷も治しておきましょうね。どんなに小さい傷も、痛みには変わりないのですから。傷跡も、しばらくすれば綺麗になるでしょう」
優しく微笑んで、今度はところどころにある小さな傷にも手をかざしていくフランさんに、男の子が小さく「……ありがとう」と言った。
***
「もうどこも痛くないですか?」
「う、うん。平気。……あの、ありがとう……!! 助けてくれて……」
フランさんの治療ですっかり痛みの無くなった男の子は、ぎこちなくもそうお礼を言って笑った。
それを見てフランさんもにっこりと微笑んで、それから私たちに向き直って
「それでは私は失礼しますね」
と言ってから、また黒い霧に紛れて消えた。
「消えた!?」
うん、当然の反応よね。
私もまだ慣れないもの。
突然現れたり消えたり。
部屋に入る時はドアから入ってくれるようにはなったけれど、たまに外で突然現れる時には肩を跳ね上がらせてしまう。
「ははは……。魔族だからね。でも、とっても優しい人だったでしょう?」
「……うん。優しかった。……僕、魔族は皆怖い人だって思ってたのに……お姉ちゃんたちは違うんだね」
一般的に魔族は嫌悪される存在として知られている。
近づけば残虐に殺されるから魔界には近づいてはならない。
私もここにきてすぐそれを教えられた。
実際は人間の方が残虐だったわけだけれど。
「私は人間だけど、この男の人もさっきの人も、この魔界の魔物たち皆、とっても気さくで優しい人ばかりだよ。君、崖の上の町の子? ま、まさか、崖から落ちてきたの?」
私の問いかけに、男の子は小さくうなずいた。
まじか。
でも崖から落ちたならあの怪我の酷さも納得がいく。
生きてただけで御の字だ。
「僕、皆とかくれんぼをしてて……ロープの外ならだれにも見つからないだろうって……。そしたら落ちちゃって……」
ロープ?
私が首をかしげてゼノンを見上げると、ゼノンが「魔界へ近づくのを防止するためのものだろう」と説明した。
なるほど。
町は町で対策を取っているのね。
「そっか……。ゼノン、この子を町に連れて行ってあげられないですか?」
さすがに子供が崖をのぼるのは難しいだろう。
なら空から送り届けてあげるのが一番だけれど……。
「……それしかないだろうな」
渋々、と言った様子でゼノンが頷くと、男の子の表情が和らいだ。
「よかったね!!」
「うん!! ありがとう、吸血鬼さん!!」
吸血鬼!?
確かに容貌的にはそれっぽいけど……!!
だめだ、似合いすぎて笑いが……!!
「笑うな。人間、私は吸血鬼ではない。魔王ゼノンディウスだ」
「ゼノンデッッ?」
「……ゼノンで良い」
舌噛みそうな名前だものね。
うん、仕方ない。
諦めたようにそう言ってから、ゼノンは男の子を軽々と片手で抱きかかえてから、私を見て左手を差し出した。
「へ?」
「来い」
「え、いや、重量オーバー……」
「問題ない。それに、魔王である私だけでは町の住民を怖がらせるだけだ」
「ぁ……」
そうだ。
見た目からして魔族なゼノンだ。
一人で行っても子どもを攫おうとする魔族だと誤解されるのがオチだろう。
「じゃ、じゃぁ……よろしくお願いします」
「あぁ」
そして私は、ゼノンの左腕に抱きかかえられて、空に飛んだ。
36
あなたにおすすめの小説
【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~
いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。
地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。
「――もう、草とだけ暮らせればいい」
絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。
やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる――
「あなたの薬に、国を救ってほしい」
導かれるように再び王都へと向かうレイナ。
医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。
薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える――
これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い
腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。
お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。
当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。
彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
十年間虐げられたお針子令嬢、冷徹侯爵に狂おしいほど愛される。
er
恋愛
十年前に両親を亡くしたセレスティーナは、後見人の叔父に財産を奪われ、物置部屋で使用人同然の扱いを受けていた。義妹ミレイユのために毎日ドレスを縫わされる日々——でも彼女には『星霜の記憶』という、物の過去と未来を視る特別な力があった。隠されていた舞踏会の招待状を見つけて決死の潜入を果たすと、冷徹で美しいヴィルフォール侯爵と運命の再会! 義妹のドレスが破れて大恥、叔父も悪事を暴かれて追放されるはめに。失われた伝説の刺繍技術を復活させたセレスティーナは宮廷筆頭職人に抜擢され、「ずっと君を探していた」と侯爵に溺愛される——
婚約破棄されたので隣国で働きます ~追放侯爵令嬢、才覚だけで王妃候補に成り上がる~
鷹 綾
恋愛
内容紹介
王宮改革は、英雄の一声では成し遂げられない。
王太子に招かれ、王宮顧問として改革に携わることになった
ルビー・エルヴェール。
彼女が選んだ道は、力で押し切る改革でも、敵を断罪する粛清でもなかった。
評価制度の刷新、情報公開、説明責任、緊急時の判断、責任の分配――
一つひとつの制度は正しくても、人の恐れや保身が、改革を歪めていく。
噂に揺れ、信頼が試され、
「正しさ」と「速さ」、
「個人の覚悟」と「組織の持続性」が、幾度も衝突する。
それでもルビーは、問い続ける。
――制度は、誰のためにあるのか。
――信頼とは、守るものか、耐えるものか。
――改革者は、いつ去るべきなのか。
やがて彼女は、自らが築いた制度が
自分なしでも動き始めたことを確かめ、静かに王宮を去る。
残されたのは、名前の残らない改革。
英雄のいない成功。
だが確かに「生き続ける仕組み」。
これは、
誰かが称えられるための物語ではない。
考えることを許し、責任を分かち合う――
その文化を残すための、40話の改革譚。
静かで、重く、そして誠実な
“大人のための王宮改革ファンタジー”。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる