レティシア公爵令嬢は誰の手を取るのか

宮崎世絆

文字の大きさ
56 / 63
学園編

2 正式名はアトランス魔術学園だよ

しおりを挟む
 アナウンスを聞いたソレイユは勢いよく立ち上がった。

「よし、じゃあ行くか!」

 先ほど置いておいた靴に履き替えて、勢いよく玄関扉を開いた。

 すると、玄関の先は小さな個室。

 つまり行き止まりなのだが、その床の中央には転移魔法陣が描かれていた。

「すっごくセキュリティ徹底してるよねこの学園。うーんと、この魔法陣は……。一定の場所に移動出来るだけの、簡易転移用か。近くに移動するだけだから転移用魔法石は必要ないタイプっと」

 魔法陣の上に立って魔力を流してみると、魔法陣は光を放って一瞬にしてソレイユの姿が消えた。


 到着した先は、玄関ホールらしき広いホールの床中央に描かれた魔法陣の上だった。
 見渡してみると既に数人の女子生徒がちらほらいた。

 再び魔法陣が光ったので慌てて魔法陣から降りると、すぐに別の女子生徒が転移してきた。

(転移用魔法陣はここ一つだけみたいだな。邪魔にならないように壁際で待機してよっと)

 近くの壁際に立って改めて内装をじっくりと眺めた。


 落ち着いた雰囲気だが、高級感漂うホールだ。


(青とブロンズの基調ではないけど、何だかレイ○ンクロー寮に似てる? …うーん。全体的に見ると紫が基調っぽいかな。カーテンも紫だし。紫って、いかにも魔術の学園って感じ)

 ホグ○ーツ魔法魔術学校に思いを馳せていると、振り子時計によくあるボンボン時計の音が何処からとなく鳴り響いた。



 ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、ボーン……



 鳴り止んだのと同時に、寮の玄関の大きな扉が開いた。

 一人の女性が分厚い封筒を大事そうに右手で胸元に抱え、中に入ってきた。

 黒いローブ姿で、三十歳半ばくらいの中肉中背。
 緑色のやや垂れ目で、丸い眼鏡をかけ、ベージュの長い髪を三つ編みで一つに束ねていた。一見すると優しそうな女性は、にっこりと微笑みを浮かべた。


「皆さん、ようこそアトランス魔術学園へ。私はこの女子寮の管理人をしています、ミーストと申します。四年間、どうぞ宜しくお願いします」

 そう言ってミーストは、一度頭を下げた。

「早速ですが、これから試験会場に向かいます。順番に優劣はありませんので、手前の方から一列に並んで下さい」

 それを聞いた新入生達は皆、心なしか緊張した面持ちで玄関に近かった生徒から順に、争う事なく並び出した。
 ソレイユは列のちょうど真ん中辺りに並んだ。

 全員で四十人くらいだろうか。
 今年十五歳になる女子の新入生徒総数にしては、アトランス公国の総人口と比較すると圧倒的に少ない気がする。一定以上魔力の高い者は、貴族の中でもやはり少ないのかもしれない。


「では、簡単にですが本日の予定をご説明いたします。これから試験会場に向かい、筆記テスト及び魔力測定を受けていただきます。その結果に応じてクラスが決まりますので、皆さんは上位クラスを目指して頑張って下さい。
 試験が終了次第、この寮の食堂にて昼食をとってもらい、その後入学式を取り行う予定です。試験結果は昼食後、この玄関ホールの掲示板に貼り出されますので必ず確認して下さい。掲示板はあちらです」

 ミーストが手のひらで指し示した先の壁に、巨大ボードが設置されているのが分かった。

「以上が本日の予定になります。それでは早速出発しますので、私について来て下さいね」

 説明し終わると、直ぐに寮の外に向かって歩き出した。
 その後を新入生徒達が続いて歩き出す。列をなして玄関を出た。

(わぁー! 敷地ひっろい!)

 玄関の外は、広大な景色が広がっていた。

 まず目を引いたのは、真っ直ぐ先に見える城のような要塞のような、本館らしき建物。
 真っ青に晴れ渡る空に映える、とにかく巨大な建物だ。

「あちらに見えるのがアトランス魔術学園の本館です」

 そこに向かって一直線に伸びる長いタイルの歩道に沿って、街路樹が等間隔に植えられている。街路灯やベンチも均一に設置されており、シンメトリーが美しい圧巻な景色だった。

(この壮大な景色、なんだかアトランス神殿に続く庭園とちょっとだけ似てるかも)

「本日在校生は入学式が終了するまでは本館外に移動禁止なので今は閑散としておりますが、夕食頃には皆さん戻られますので、この辺りも本来はとても賑やかですよ」

 ミーストは雑談を交えつつその真っ直ぐな長い歩道をただひたすら歩く。

 建物の入口であろう重厚感のある大きな扉の近くまで来た。
 扉をよく見ると、岩壁に細かい彫刻が刻まれたような不思議な扉だ。その右端手前には、扉の材質に似た高さ九十センチ程の台座が設置されているのが見えた。

「ここがアトランス魔術学園の本館入口です。通常はこの入口が皆さんが日頃お使いになるメインの入口となります。ですが、今回は違う入口から本館に参りますので、少し歩きますが付いてきて下さい」

 そう言うと、本館の外壁に沿って右へと向かう横道へ進路を変えてそのまま歩みだした。


 本館の外壁はゆっくり湾曲している。しばらく道なりに歩いていると、やがて巨大なドーム状の建物が見えてきた。
 歩道を外れてその入口近くまで近づくと、ミーストは立ち止まり生徒に振り向いた。

「ここは、入学式を執り行う講堂です。寮で昼食をとって頂いた後、先程歩いて来た道を通ってこの講堂までお越し下さい。試験後、この講堂の入口に座席表が貼り出されますので各自確認して座席に着いて下さいね」

 そう言った後、雑木林を挟んで講堂の隣に建っている、重厚感のある四角い建物をおもむろに指差した。

「そして、この講堂の隣には鍛錬場があります。あちらで魔力測定を行いますが、先に男子生徒が魔力測定を受けますので、女子生徒の皆さんはまず筆記テストを受けて頂きます。ここまでで、何かご質問はありますか?
 ……無いようですね。それでは改めて、筆記試験会場がある本館の入口に向かいたいと思います」

 本館に沿って伸びる歩道の先に向かってミーストは再び歩き出した。


 ほどなくして、左手に見えている外壁の先に本館の入口が見えてきた。

 先ほど通り過ぎた入口とは別だが、全く同じ形状だ。
 重厚感のある岩壁のような扉の前に辿り着くと、ミーストは扉の右端手前に設置されている、台座上部に嵌められた魔法石に手を触れた。

 微かに魔法石が光ると、扉は見た目に反して音もなく自動的に左右に開いた。

(あ、これ。アトランス宮殿の入口の門とほぼ同じだ)

「本館入口の扉は、全て本人認証の魔導具が埋め込まれています。本人認証されていないと魔法防壁に阻まれ、入る事は出来ません。無理に侵入しようとすると防衛魔法が発動します。
 皆さんの本人認証は、寮の結界魔法発動装置に魔力を流して頂いているので既に完了しています。ご安心下さい」

 ミーストが説明していると、扉が自動的に閉まった。

「ご覧の通り、魔力を流した後、十秒以内に入らないと扉が閉まってしまいますので、その場合は再度魔法石に魔力を流して下さいね。扉が開いた状態で次の人が本人認証をしてもきちんと反応しますので、連続して入って頂いて大丈夫です。では先頭の方からどうぞ」

 ミーストは先頭の生徒に場所を譲った。生徒は一人ずつ魔法石に触れて本館に入っていく。
 順番が来たので言われた通り魔法石に触れ魔力を流すと、すんなり入れた。

 中に入ると、寮と内装がよく似た広いホールだった。
 しかし本館の方が、かなり年季が入っているのが分かる。

 寮と一番違うのは天井だ。

 無駄に高さがあるし、変な天井壁画が描かれていてぶっちゃけ不気味だ。
 ……良く言えば、風格がにじむ、風情のある味わい深い雰囲気。エモい、とも言えなくもないが。

「ここは、アトランス魔術学園の本館ロビーです。筆記テストはここの一階、講習室にて執り行います。一年生の教室も、同じ一階にあります。二階には二年生、三階には三年生、最上階の四階は四年生の教室となっております。
 本館にも食堂があり、ルーフバルコニーやテラスなどで食事も可能です。本館は大変広いので、移動の際には随所に設置されている転移魔法陣を上手く活用して下さいね。では、講習室に向かいます」


 少し入り組んだ趣のある廊下を暫く歩いていると、突き当たりの部屋の前でミーストは立ち止まり、その部屋の引き戸を開けた。

「ここが、筆記テスト会場となる講義室です。書類の置かれた席であればどの席でも自由なので、お好きな席に着いていただいて大丈夫です。では皆さん、どうぞお入り下さい」

 やや緊張した面持ちの新入生達は、言われるがまま講義室の中に入っていく。


 大きな黒板の前に大きな教卓。窓は無く、半円状に木製の長机が並び奥まで階段状にずらりと並んでいた。

 皆、それぞれ思い思いに席に着いていく。ソレイユは講義室のちょうど真ん中の、書類の置かれた席に座ることにした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました

鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」 そう言ったのは、王太子アレス。 そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。 外交も財政も軍備も―― すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。 けれど功績はすべて王太子のもの。 感謝も敬意も、ただの一度もない。 そして迎えた舞踏会の夜。 「便利だったが、飾りには向かん」 公開婚約破棄。 それならば、とレイナは微笑む。 「では業務も終了でよろしいですね?」 王太子が望んだ通り、 彼女は“確認”をやめた。 保証を外し、責任を返し、 そして最後に―― 「ご確認を」と差し出した書類に、 彼は何も読まずに署名した。 国は契約で成り立っている。 確認しない者に、王の資格はない。 働きたくない公爵令嬢と、 責任を理解しなかった王太子。 静かな契約ざまぁ劇、開幕。 ---

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

どうぞお好きに

音無砂月
ファンタジー
公爵家に生まれたスカーレット・ミレイユ。 王命で第二王子であるセルフと婚約することになったけれど彼が商家の娘であるシャーベットを囲っているのはとても有名な話だった。そのせいか、なかなか婚約話が進まず、あまり野心のない公爵家にまで縁談話が来てしまった。

悪役令嬢の独壇場

あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。 彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。 自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。 正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。 ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。 そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。 あら?これは、何かがおかしいですね。

ひめさまはおうちにかえりたい

あかね
ファンタジー
政略結婚と言えど、これはない。帰ろう。とヴァージニアは決めた。故郷の兄に気に入らなかったら潰して帰ってこいと言われ嫁いだお姫様が、王冠を手にするまでのお話。(おうちにかえりたい編) 王冠を手に入れたあとは、魔王退治!? 因縁の女神を殴るための策とは。(聖女と魔王と魔女編) 平和な女王様生活にやってきた手紙。いまさら、迎えに来たといわれても……。お帰りはあちらです、では済まないので撃退します(幼馴染襲来編)

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

処理中です...