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第一章
第8話 乗り気なメッセージ
しおりを挟むこの俺、人気配信者オル。
本名、尾崎 累(おざき るい)は午前の授業を放心したまま終え、昼休みになった現在──教室でひとり、頭を抱えていた。
昨日の配信で、確かに知名度が上がった。だがそれは、俺個人としての知名度ではなく『オルとノーキ』をセットで見る人間が増えた結果のようだった。
しかも、まだノーキにチャンネル登録者数負けてるし……
俺は内心悔しく想いながらも、スマホを片手にエゴサを続ける。
『オルとノーキさんのコンビめっちゃ好きになったww』
『ノーキさんがオルにオムライス作るらしいよ笑』
『嫁じゃんもうww』
『いやノーキさんは攻めだろ。オルは受け』
『オル受けは解釈一致。ノーオル神』
『それなww』
ネット上では、何やら勝手な妄想が繰り広げられている。
ノーオル……? 受けってなんだ? まさか、俺の方が弱いってことか?!
視聴者たちの話についていけず、モヤモヤしたまま画面をスクロールし続ける。そうしてエゴサを続けていた俺は突然、ぴこんっ、と鳴り響く通知音を前に、はっと我に返る。素早く画面に視線を向けると、なんと──
ノーキからメッセージが届いていたのだ。
『オル、昨日はありがとう。凄く楽しかった。それで、実際に会うっていう話だけど、今週の日曜日とか空いてる? ここのカフェ前とかに集合出来そう?』
そんな文章と共に、カフェまでの地図が送られてきた。画面を指でタップして、カフェの場所を確認してみるなり──俺は思わず目を疑った。
驚くべきことに、ノーキが指定してきたカフェは、学校のすぐ側にある人気カフェだったのだ。ていうかコイツ……
なんか、めっっちゃ乗り気じゃね!?
寡黙キャラな筈なのに、なんでこんな喋るんだ。
切り抜き動画で見てきたノーキの印象と違いすぎて、どれが本当の彼なのか分からなくなってしまう。
もしかしたらノーキはうちの学校の生徒だったりして……。そんな考えが頭を過ぎるが、俺はすぐに「そんなわけないか」と笑い飛ばす。
ノーキみたいなイケメン声が校内に居るなら、とっくに噂になっているはずだ。
さて。それはそうと……直接会う件について、ノーキになんて答えるべきだろうか。
そもそも俺、超がつくほどの陰キャなのに、リアルで会うとか無理なんだけど……
断ろうと考えたが、視聴者もノーキも乗り気の状態で俺が断ったりしたら──どう言われるかなんて目に見えている。そう考えると怖くなり、俺は再び頭を抱えた。
どうしようどうしよう。
リアルの俺は背も低いし、イケメンでもない。人前だと全然上手く話せないし、オマケに目すら合わせられないぞ……!?
断るべきだ!! と脳内の俺が叫び出す。
しかし、そんな想いとは裏腹に。「断る」という閉鎖的な選択が、今後のコラボや配信にどう影響するか……考えただけでも恐ろしい。
よりによって、大勢が見てる配信の最中に言ってくるなんて……まるで外堀から埋められた気分だ。
そう。俺はもう、断る手段を無くしていたのだ。逃げ場は完全になくなってしまった。
ふうーっと、俺はひとり深呼吸をする。
覚悟を決めろオル……! 心の中でそう力強く叫んだ。
そして、震える手で返信をした。
『乙! ノーキ! 日曜、空いてるわ! カフェ前集合把握~』
はああ、やばい。文字だけは陽キャだ。
俺はとうとう机に突っ伏すと、ぎゅっと目を瞑り背中を丸める。
怖い、怖すぎる。本当に大丈夫かな。
どうせなら「ノーキは、実は可愛い女の子だった!」とかなら頑張れるかもしれないのに。
まあ声的にも配信スタイル的にも、超絶イケメン男だという事は確定だろうけど……
送ったあともウジウジ悩んでいた俺の元に、また通知がきた。
『ありがとう。当日は、着てる服とか教え合えば会えるよね? 楽しみにしてるね、オル』
あーめっちゃ嬉しそうだなこの人。
スマホ越しでもノーキのテンションが上がっているのが伝わった。
自分から動かないタイプだと思ってたのに、まさかここまで積極的なやつだとは思わなかった。
ノーキも俺以外の配信者とコラボした経験がないのを見る限り──きっと、彼のこんな一面を知っているのは俺だけなのだろう。
どんどん明るみになっていくノーキという存在に、俺は少しだけ、優越感を覚えた。
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