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第二章
第15話 眠り姫
しおりを挟むリハーサル開始まであと少し。平塚は腕時計をで細かに時刻を確認しつつ、メンバーの様子を眺めみていた。
ある者は緊張を緩和させようと水をがぶ飲みし、ある者は目を輝かせて出番を待っている。そして、ある者は──
「平塚さん。ゲストの人はまだ到着してないんですか? 居るなら今、どこに居ますか」
控え室にて。牧崎 徹こと、キルは、ピアスのついた耳を触りながら平塚に尋ねた。その表情はいつになくソワソワしている。
「あーそうだな。ゲストのオルさんとノーキさんなら、もうこのスタジオに来てる筈だ。
流れとしては、ゲストのリハーサルが終わり次第、交代で俺たちがリハをする。そんで、最後にみんなで全体の流れを確認! ってことになってるな」
平塚はいつもの明るい声で言う。その言葉をキルは静かに聞いていた。
「……どうしたキル? お前、いつもなら仮眠でもとってるはずなのに、今日はソワソワしてるな。体調悪いか?」
「……」
そう。キルは、普段から何事にも無気力で、緊張する素振りを見せたことがなかった。そんな彼が現在──珍しく席を立ち、意味もなく室内を歩き回っているのだから、平塚が不審に思うのも無理はなかった。
そんなキルの様子をしばらく黙って見つめていた平塚は、「あっ!」と、思い出したように声を上げた。
「そうだ! そうだ! お前、確かオルさんのこと好きなんだったよn──」
「平塚さん……!!!!」
その瞬間、キルはいきなり大声をあげて、平塚の言葉を掻き消した。目立たにない彼の行動に、周囲が思わず動きを止める。
「ど、どうしたんだよキル……?」
いつも明るい平塚が、珍しく動揺した様子を見せた。
すると───はっと我に返ったのか、キルは平塚から視線を外すと、眉をひそめて、ため息を零す。
「はあ……最悪だ」
キルの舌打ちが室内に響いた。静まり返った控え室の中で──平塚は混乱したままその場に立っている。その時だった。
「ねえ、『誰』が『誰』を好きなの?」
突然、部屋に響いた柔らかい声に、全員が一斉に視線を向ける。
その人物は、綺麗な白髪をかきあげると不機嫌そうに呟いた。整った容姿に、綺麗な声。まるで天使かと疑ってしまいそうなほど、その少年は美しく綺麗だった。
「ナギ……寝てたんじゃないのか?」
平塚が『ナギ』と呼んでいるその白髪の男性は──本名、乙坂柳(おとさかやなぎ)。キルが所属するプロゲーマーのひとりだ。
平塚は、ナギが手にしているアイマスクを見ながら疑問の声をあげた。
しかし、ナギは……平塚の問いに答えることなく、男の元へ向かって歩いた。
「ねえ。誰が、誰を好きなの? キル」
白髪の美形男性……ナギはキルをじっと見ながら質問をする。大きく見開かれた瞳には、ただならぬ感情が含まれているようだった。
そんなナギの姿を見たキルは、ため息混じりに口を開いた。
「うぜェ。平塚さんの勘違いだ……タバコ吸ってくる」
パタンと、戸が閉められる。
部屋にはただ──沈黙だけが残った。
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