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第二章
第17話 手に入れる
しおりを挟む「……はあ」
黒髪マッシュのピアス男でお馴染みのキルは、ひとりタバコを吸っていた。
彼が今いる場所は、スタジオから反対方向にある喫煙所のため、ここからオルに会うことは難しい。
「平塚さんに口止めしなかったおれが悪いが……くそ、最悪だ」
男はイライラした様子で舌打ちをすると、眉をひそめてタバコを吸う。
キルは先の出来事で頭がいっぱいだった。だから気付けなかったのだ──喫煙所にやって来た、美しい天使の存在に。
「何が最悪なの、キル」
突然聞こえてきた声に、キルは柄にもなく、びくりと身体を震わせる。彼の視線の先にいたのは、白髪の美形男性だった。
「……ナギ、お前タバコ吸わねえだろ」
「いいから質問に答えてよ。で? キルは、オルとかいう配信者のことが好きなの?」
ナギの表情は目だけはがっているものの、声は明らかに怒りを含んでいるようだった。そんな彼にキルはため息しながら答える。
「お前うぜェんだよ。別におれが誰を好きだろうと関係ないだr──」
しかしその瞬間、キルの口がナギの手によって塞がれた。
キルより一回り小さいにも拘わらず、ナギの動きはいとも簡単にキルを壁へと押し付けたのだ。
「関係ない? キルは意地悪だなー。僕の告白をあんな手酷く振ったくせに、まさかオルが好きだったなんて、裏切られた気分だよー」
可愛い風な言葉遣いとは裏腹に、ナギは、周りの成人男性と大差がない力でキルを抑え込む。その表情には、悲しみと興奮が混ざっているようだった。
「僕はキルのことが好きだよ、高校の時からずっと。ねえ、キルは? 僕のこと好き?」
男を見つめるナギの瞳には、異常なまでの執着心を含んでいるようだった。
一度彼を受け入れてしまえば、一生あとには戻れない。キル自身、それは嫌というほど分かっているようだった。
キルは咄嗟にナギに掴まれていた手から逃れると、光の無い瞳で言うのだった。
「おれはお前のこと好きじゃない。この際だから言うけど、おれはオルが好きだ。だからもうおれに構ってくんな」
キルはそう言ってタバコの火を消すと、その場を後にしようとナギに背を向ける。
しかしナギは──そんなキルの背中に向かって優しく言った。
「ねえノーキさんって知ってる? 彼、本当にオルさんと付き合ってるらしいよ。ほら、キルが入る隙なんてない」
ナギの声に、キルはピタリと足を止める。
そして男はゆっくり後ろを振り返ると、ナギに向かって無表情で告げた。
「おれはオルを手に入れる。どんな手を使っても、絶対に」
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