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第二章
第29話 もだえるリスナー
しおりを挟むそんなこんなで、イベントはやってきた。
『みんな……準備はいいか!?』
『我々はこの日を心待ちにしていた』
『ここはオルやノーキさんの配信じゃない、公式の配信だ。コメントには細心の注意を』
『ふぅ……すまん手汗が』
『準備OKです』
『プロゲーマーとノーキさんとオルの対話が見られる……やばい手が震える』
公式の配信には、既に多くの視聴者が集まっていた。
会場にお客さんを招くのではなく、配信のみで公開するのがこのイベントの特徴でもあるという。
俺は待機コメントを見て、ふーっと深く呼吸する。配信開始まであと少し。
「オル、準備はいい?」
隣でノーキが尋ねてくる。俺はぎゅっと拳を強く握りしめると、それを彼の胸前に突き出して、満面の笑みで言うのだった。
「おう! いつでも行ける……!」
こうして、イベントは始まった。
* * *
『きたぁぁぁぁ!』
『待ってました!!!』
『キル様好き♡♡』
『ナギくーんっ!!!』
『え、待って。オルとノーキさんがここにいるって考えただけで軽く飛べるわ』
『プロの人たちはオルとノーキさんの顔が見えてるってことやろ?』
『……俺プロゲーマー目指そうかな』
『キル様ああああ!!好き!!』
配信が開始するなり、コメントはものすごいスピードで過ぎ去っていく。
俺とノーキは試合後の解説とインタビューを任されているので、出番が来るまでは公式配信の様子を眺め見ることにする。
「すごい、沢山いるね」
広いソファにも拘わらず、俺たちは互いの肩をぴとりと合わせて座っていた。
「なんか俺たちのリスナーさん癖強いな!」
改めて流れるコメントを見てみると──俺たちの配信に来てくれる視聴者と、プロチームを応援している視聴者との、コメントの違いがよく分かる。
それがなんだか新鮮で、余計に気合いが入ってきた。
「さっき呟いてる人居たけど、『ノーオル』って単語は言わないようにしてるらしいよ。不快になるかもだから~とか言ってた」
そう言ってノーキがスマホの画面を俺に見せる。ノーオルという単語はイマイチよく分からないが……こう言うのを民度がいい、とか言うのだろうか。
ちゃんと気を使って行動できるその精神に、俺はひとり感動していた。
そうこうしているうちに、場面はリハーサル通り、試合会場に切り替わる。
「皆さんこんにちは! いつも我社のゲームをプレイして頂きありがとうございます! 今回、素敵なゲストとプロチームをお招きし、イベントを開催できたことを大変嬉しく思っております! 申し遅れました私、今日MCを務めさてせていただきます、田村(たむら)です! どうぞよろしくお願いします!」
イベントの開始は、賑やかかつ盛大にスタートした。俺とノーキは互いに目を合わせ、「頑張ろうな」とグータッチをする。
* * *
「それでは、長らくお待たせしました! 続いては皆さんもお待ちかね! 今イベントの素晴らしいゲストを紹介します!」
MCが元気よく放ったその言葉に、俺はぴんっと背筋を伸ばす。どうやら俺たちの自己紹介タイムがやってきたようだ。
声しか映らないから背筋を伸ばす必要は無いのだが……やっぱり緊張して落ち着かない。
「オル、緊張してるの?」
「してない! ……ごめん嘘めっちゃしてる」
「大丈夫だよ。オレがいるからね」
「お、俺は平気だぞ!? だから……その、ノーキも俺を頼っていいよ」
「……!うん、そうする。頑張ろうオル」
「おう!」
和やかな会話で緊張をとかす。ノーキのおかげで、今から行われる自己紹介も上手くできそうだ。
するとどうだろう。会話する俺たちの奥で、スタッフの人たちが申し訳なさそうに口をパクパクさせているのことに気がついた。
一体どうしたのだろう?
「オルさん、ノーキさんあの……この音声、もう配信に流れてます」
「「え!」」
『ちょっ、みんな……抑えろ』
『みんなの言いたいことはわかってる』
『落ち着け、牧師は呼んじゃダメだぞ』
『深呼吸や。赤飯炊くなよ』
『ああ、あ、あ、あ……』
『叫ぶな!!民度を守るんや!!』
『しんどい……心が、』
『鼻水がちょっと、すみません』
『くうっっっっっっっ』
『落ち着け、耐えろ!俺の心!!』
『始まったばかりなのに限界が……!』
俺とノーキは──その後。顔を真っ赤にしたまま、自己紹介をすることになる。
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