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第二章
第35話 何してんだよ
しおりを挟むえ……なにこれ嘘じゃん。待ってどこだここ!
俺はいま、誰かに腕を引かれ──知らない個室に連れ込まれていた。
咄嗟のことで理解が追いつかず、抵抗する間もなくやって来てしまった。どういうことだ、ノーキはどこだ??
焦りと動揺が隠せず、俺はキョロキョロと辺りを見渡す。暗くてよく見えないので、恐る恐る一歩踏み出してみるが──何の部屋なのだろう。
どこかの個室だと言うことしか分からない。とりあえず……部屋から出れば何とかなるはず。俺は壁に手を当てながら、ゆっくり出口を探していく。その時だった。
「こんにちは、オルくん」
急に耳元で声が聞こえ、俺はその場でビクリと身体を震わせる。……心臓が飛び出でるかと思った。
「え、あの……」
どこかで聞いたことある声ではあったが、いまいち思い出せない。もう少し目が慣れれば、特定することが出来るのに。
俺はすっかり配信者モードのオルを忘れて、震えながら肩を強ばらせる。
そんな怯える俺を見て、目前の人物がふふっと優しく笑うのがわかった。
「ごめんごめん、電気付けるね」
声と同時に、パッと部屋が明るくなる。眩しさのあまり目を瞑るが──やがて俺の目は、一人の男性を捉えることに成功した。
「プロゲーマーのナギっていいます。突然ごめんね、びっくりしたよね? 実は僕……オルくんと話がしたくて連れてきちゃったんだ。ここは話すのにもってこいの場所なんだ」
「え……ナギさん?!」
そうか、思い出した。
どこかで聞いたことあると思ったら……この人は、キルさんと一緒にプロゲーマーとして活躍しているナギさんだ。今日のプレイもとても上手かった。
待ってくれ……そんなすごい人がなんで俺を? 話ってなんだ? いいのか!?
咄嗟の出来事に混乱しながら、ナギさんを見上げる。穏やかな表情で僕を見下ろす彼の姿は、まるで天使かと疑ってしまうくらい美しかった。
「実はオルくんにお願いがあるんだ」
「……お願い、ですか?」
「うん。実は僕、『好きな人』がいるんだけど……その人には高校の時から片思いしてるんだ。なかなか距離が縮まらなくて、諦めそうになるけど、やっぱり諦めきれない」
二人しかいないにも拘わらず、ナギさんはこそこそ話をするかのように耳元で囁く。その声色が妙に真面目なので、俺は緊張しながら耳を傾ける。
するとナギさんは、俺に笑顔で言ったのだった。
「オルくん、良ければ協力してくれない? 僕が好きな人と結ばれるように」
「え……俺??」
突然の言葉に思わず聞き返す。
ナギさんの好きな人なんて、知らないし、俺に協力できることなんてないんじゃ……?
そんな俺の不安を察したのか。ナギさんは目を細めて笑うと、優しく言葉を加えた。
「協力と言っても、オルくんは何もしなくていいんだ。ただ……僕を応援して欲しくて」
よく分からないが、頼られていると思うと、断るわけにはいかないし、嬉しい。
俺は大きく頷くと「もちろんです!!」とナギさんに返事しようとした。
しかし──その瞬間。突然伸びてきた腕によって俺の言葉は遮られてしまう。
ぐいっと身体を後方に引かれ、抱き寄せられる。もしかしてノーキが迎えに来てくれたのだろうか、なんて考えが頭を過ぎった。
しかし、そんな思いもつかの間。
即座に耳元から聞こえた声により、俺の考えは打ち砕かれた。
「お前……オルに何してんだよ。ナギ」
俺の身体を抱きしめたまま、怒りの声を上げている人物。その正体は──黒髪マッシュの男性、キルさんだった。
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