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第三章
第2話 リアルの破壊力
しおりを挟む俺はキルさんと一緒に、映画館のすぐ傍にあるカフェに来ていた。
種類豊富なメニューからどれを頼もうか悩んでいると、キルさんは穏やかな声で言った。
「オルなに頼む? おれはオムライス」
「あっ、そうだオムライス! 俺もオムライス大好きなんです。この前キルさんのプロフィール見て、同じだ! って嬉しくなって」
キルさんのプロゲーマーを見た時のことを思い出す。
食べ物の好き嫌いや、好きな色。ついには好きな漫画まで──俺とキルさんの趣味は全て一致していたのだ!
「……」
しかしどうだろう。キルさんの返事がないことに気付き、俺は咄嗟に首を傾げる。
共通の話題で会話を盛り上げようとしていた手前……これはもしかして、やらかしてしまったのでは無いだろうか。
だがそんな心配もつかの間。焦る俺を他所に、キルさんは突然、口元を手で覆って言ったのだった。
「ごめんちょっと嬉しすぎて、にやける」
「え? にやけ……??」
「あ゛ー……リアルの破壊力やべェ」
キルさんはついに、両手で顔を隠してしまう。上手く言葉が聞き取れなかった俺は、焦りながらキルさんの様子を伺う。
「だ……大丈夫ですか、キルさん?」
心配になって傍によろうと立ち上がる俺を、キルさんは片手で制する。落ち着いたのか──男は、すぐにいつもの無表情に早変わりすると、真剣な表情で言うのだった。
「徹って呼んで。おれの本名、牧崎 徹(まきざき とおる)だから」
ああそうだったと、俺は思い出す。
キルさんは超絶人気なプロゲーマーで、知名度もすごい。だからこそ、こんな所でキルさんの名を呼んでしまえば、周囲がどんな反応をするかは目に見えている。
「わかりました、徹さんですね! 俺は尾崎 累(おざき るい)って言います。気軽に累って呼んでください」
「……本名? マジの?」
「え? はい!」
「分かった、累って呼ぶな。よろしく」
それから俺たちは、互いにオムライスを注文し、ゲームや趣味の話をしながら楽しい時間を過ごした。
これが友達と出掛けるというものなのか。キルさんとは話しが合い、時間があっという間に感じられた。オムライスも美味しかった。
でも……ふとした時に、ノーキのことを思い出してしまうのは何故だろう。
ノーキの作った、ふわふわオムライスが食べたい、と思ってしまう。ふとした時、ノーキはいま何をしてるのか考えてしまう。
「累、ちょっとトイレ行ってくる。すぐ戻るから待ってて」
「あ、分かりました!」
キルさんの声で我に返り、俺はぴんっと背筋を伸ばす。
まずい……ノーキのことが好きすぎて、キルさんとのお出掛けにあまり集中出来ていないかもしれない。
成長するためにも、配信者モードを維持したまま、もっと頑張らなくては。
俺は自信に気合いを入れ直し、静かにキルさんの帰りを待つ。だから──この時の俺は気付いてなかった。
カシャリ、と。どこからか響いた──怪しげなカメラの音に。
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