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第三章
第10話 オレの家で
しおりを挟むついに、約束の場所へやって来た。
俺は今からキルさんと話をしなければならない。
とりあえず、昨日のキルさんの行動の意図が知りたい。
お遊びでやったにしては度が過ぎてるし……しかも、俺の写真まで隠し撮りされていたなんて。
今すぐに消去してもらわないと、大変なことになってしまう。
日曜だからか。街は人で賑わっていた。みんな楽しそうに友達や家族、恋人と歩いている。そんな様子を見ていると、余計に心が痛くなる。
ノーキに会いたい──ふと、そんなことを考えてしまう。
「累、来てくれてありがとう」
すると突然、俺の目前に一人の男が現れた。聞きなれた声に、俺はハッと顔を上げる。
そこに居たのは、昨日と同じ香水の匂いをまとったキルさんだった。俺を見下ろしてニッコリと微笑むその表情は、昨日のことなんてまるで覚えていないようだった。
「あの、キルさん。昨日の写真の件なんですけど──」
この時の俺は、既に配信者モードになりきれていなかったと思う。焦りと動揺を含んだ眼差しで、早速要件を伝えようとする。
しかしそんな俺とは裏腹に、キルさんの表情は穏やかだった。
「連続で累に会えるとか嬉しい」
「いやキルさん……俺の話を聞いて下さい」
するとどうだろう。俺の言葉に違和感を覚えたのか、キルはたちまち首を傾げると、瞬きせずに言った。
「累、なんで今日は『徹さん』って呼んでくれねェの??」
キルさんから放たれた疑問に、俺は目を見開く。
やっと口を開いたと思ったら……なんだこの人は! 重要なのはそこじゃないだろ!?
「あの、そんなことより写真を消してもらいたいんです。それから……昨日の行動に意図があったなら説明して欲しいです。じゃないと……警察に通報しますよ」
俺は声を震わせながら言った。
もう陽キャモードがどうとか考える余裕はまったく無い。とにかく写真の消去と、ノーキに誤解を解くための言質が欲しかった。
そんな俺の考えを読み取ったのか、じっとこちらを見下ろしたまま、まだ黙りこくってしまった。
これじゃあ埒が明かない、と焦る俺とは裏腹に。こちらを見つめるキルさんの瞳は、独占欲や執着など、ありとあらゆる薄暗な感情が見えた気がした。
そしてしばらく経った頃。キルは穏やかな表情のまま、俺に優しく言ったのだった。
「分かった、とりあえずオレの家で話そう」
「は?!」
俺は思わず、街中で大声を上げてしまう。……やばい、キルさんの考えていることが本当に分からないぞ。
「いや……無理です。会ってそんな日も経ってないのに、急に家なんて行けないですよ」
キルさんのペースにのまれないよう、俺ははっきりキッパリ断る。しかし──
「ノーキと初めて会った日は、そのままアイツの家でオムライスを食べたんだよな? なんでノーキは良くて、おれはダメなの」
「……!!」
マジか……なんでそんなこと知ってるんだこの人。
俺は驚きのあまり言葉を失う。確かに配信でノーキの話はしたが、あれだけの情報で普通ここまで考えるだろうか?
まさかの反撃に動揺しながらも、俺はぐるぐる思考する。
ノーキと初めてあった日は、自分でも驚くぐらい落ち着いていたし──今と違って警戒心も無かったからできたに過ぎない。でも、今は状況が状況だ。
どう考えても、突然キスしてきた人の家に上がるなんて無理だ! さすがに俺だって、そこまで考え無しじゃない。
こうなったら本心を言おう。俺は拳を握りしめると、怯まずキルさんと向き合う。
「えっと……その、俺、キルさんのことがよく分からなくて怖いんです。だから家には行けません」
俺は弱弱メンタルを何とか繋ぎ止めながら、必死にその場に立つ。頼む……諦めてくれ! そして早く写真を消してくれ!!!
そんな俺の願いが届いたのか。キルさんはまた穏やかに微笑みながら言った。
「なら仕方ない。オレの家はやめて、そこのカフェで話そう。時間は取らせないから」
そう言ってキルさんは、ある一点のカフェを指さす。俺は流れに沿うように、その指先が指す方向へ視線を向けた。
そして大きく目を見開いた。
なぜならその店は──俺とノーキが、初めて会った、思い出の店だったのだから。
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