【完結】陽キャのフリした陰キャ配信者がコラボきっかけで付き合う話

柴原狂

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第三章

第14話 一番知ってる

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「えっと……キルさん?」

 俺は怖くなって疑問符を投げる。いやなんで押し倒されてるんだ……!? なんで真顔で見つめてくるんだ!?
 状況がまったく理解出来ず、涙目になりながらキルさんの言葉を待っていた。その時だった。

「ゔっ……げほっ、」

 突然、俺の視界を煙が覆う。その息苦しさに思わず咳き込めば、キルさんは楽しそうに笑った。

 俺は、キルさんにタバコの煙を吹かれていたのだ。息苦してく咳が止まらない……なんでこんなことするんだ。

 煙が消えても、まだ濃く残るタバコの匂いと息苦しさに、動揺が隠せず焦る俺とは裏腹に。キルさんは俺の上に跨ると、真剣な様子で言ったのだった。

「累、おれ、ずっと応援してたよ」

「……え」

「累がチャンネル登録者1000人突破した時、めっちゃ嬉しかった。ずっと見てた……ずっと」

「……?、!」

 思わぬ発言に目を見開く。まさかキルさんは昔から俺のことを知っていたのか……!?

「えっと……あ、ありがとうございます」

 反射的にお礼を言うが、キルさんに押し倒されているこの状況は変わらない。俺はついに混乱を通り越して、どこか冷静になっていたと思う。
 キルさんは必死な表情で続けた。

「おれは、ずっとオルという存在だけを見てきた。ずっと応援してた。ずっと好きだった。大好きだった……なのに、アイツのせいでオルを取られた」

「え……?」

 急に感情的になり始めたキルさんを見て、嫌な予感が湧き上がってくる。


「オルのこと一番知ってるのはおれだ。好きな食べ物も、好きな色も、趣味も、家族構成も、なんでも知ってる。
 オルが配信で言ってたことは全部。でも……オルはおれを見てくれない」


 キルさんは泣きそうな表情を浮かべて、俺を見下ろす。普段のクールな印象とは打って変わって、いま俺の前にいるキルさんは、まるで駄々をこねる子供のようだ。

 そんなことを思い浮かべると同時に、俺の中にふと罪悪感が生まれてきた。
 俺は……ずっと応援してくれていた人を、どこかで傷つけてしまっていたのだろうか。

 配信に来てくれる一人一人のユーザー名を憶えられるほど、自分は器用な人間じゃない。だが、それがキルさんを傷つけてしまったのかもしれない。

 そんな俺の心情を察したのか、キルさんは怪しげな笑みを零すと、俺の両腕をベッドに押さえ付けながら言った。

「まあ仕方ない。オルの配信は視聴者数もすごいし、おれのアカウントも一般人に特定されないよう、ユーザー名を定期的に変えてたからな。
 知ってるか? 最近来てた『☆』っていうアカウント。あれ、おれだよ。ずっとオルにコメント読んで欲しくて、沢山コメントしたのに、全然気づいてくれなかったな」

「……え」

 その言葉を聞いた瞬間、俺は今までの申し訳なさを撤回したくなった。
 ノーキにアンチコメントをしていたのは……キルさんだったのか。

 驚きのあまり言葉を失う俺を、キルさんは愛しそうに見つめていた。
 そして、追い打ちをかけるよう、はたまた洗脳をかけるよう──俺を真っ直ぐ見つめながら言ったのだった。


「ノーキって詰まんねェし、おれよりゲーム下手だろ? おれはずっと累を見てきたから、アイツよりお前を理解してやれる。ノーキがオルに公開告白したあの配信、あれ見て分かったんだ。累、本当は、ノーキのこと好きじゃないのに告白をOKしたんだって。
 流されたんだろ? 
 断れなかったんだろ? 
 配信者としてやっただけなんだよな? 
 仕方なかったんだよな? 
 視聴者が気付かなくても、おれだけは分かったよ。おれはオルのことずっと見てきたから。なあ? 累は、本当はノーキのことなんてこれっぽっちも好きじゃないんだy──」


 瞬間、ぱちんっと音が響く。
 それからすぐに、掌がじんじんと痛むが、そんなことはどうでもよかった。

 ふーっと肩で呼吸する。そう──俺はこの日、初めて人を殴ったのだ。




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