80 / 99
第三章
第14話 一番知ってる
しおりを挟む「えっと……キルさん?」
俺は怖くなって疑問符を投げる。いやなんで押し倒されてるんだ……!? なんで真顔で見つめてくるんだ!?
状況がまったく理解出来ず、涙目になりながらキルさんの言葉を待っていた。その時だった。
「ゔっ……げほっ、」
突然、俺の視界を煙が覆う。その息苦しさに思わず咳き込めば、キルさんは楽しそうに笑った。
俺は、キルさんにタバコの煙を吹かれていたのだ。息苦してく咳が止まらない……なんでこんなことするんだ。
煙が消えても、まだ濃く残るタバコの匂いと息苦しさに、動揺が隠せず焦る俺とは裏腹に。キルさんは俺の上に跨ると、真剣な様子で言ったのだった。
「累、おれ、ずっと応援してたよ」
「……え」
「累がチャンネル登録者1000人突破した時、めっちゃ嬉しかった。ずっと見てた……ずっと」
「……?、!」
思わぬ発言に目を見開く。まさかキルさんは昔から俺のことを知っていたのか……!?
「えっと……あ、ありがとうございます」
反射的にお礼を言うが、キルさんに押し倒されているこの状況は変わらない。俺はついに混乱を通り越して、どこか冷静になっていたと思う。
キルさんは必死な表情で続けた。
「おれは、ずっとオルという存在だけを見てきた。ずっと応援してた。ずっと好きだった。大好きだった……なのに、アイツのせいでオルを取られた」
「え……?」
急に感情的になり始めたキルさんを見て、嫌な予感が湧き上がってくる。
「オルのこと一番知ってるのはおれだ。好きな食べ物も、好きな色も、趣味も、家族構成も、なんでも知ってる。
オルが配信で言ってたことは全部。でも……オルはおれを見てくれない」
キルさんは泣きそうな表情を浮かべて、俺を見下ろす。普段のクールな印象とは打って変わって、いま俺の前にいるキルさんは、まるで駄々をこねる子供のようだ。
そんなことを思い浮かべると同時に、俺の中にふと罪悪感が生まれてきた。
俺は……ずっと応援してくれていた人を、どこかで傷つけてしまっていたのだろうか。
配信に来てくれる一人一人のユーザー名を憶えられるほど、自分は器用な人間じゃない。だが、それがキルさんを傷つけてしまったのかもしれない。
そんな俺の心情を察したのか、キルさんは怪しげな笑みを零すと、俺の両腕をベッドに押さえ付けながら言った。
「まあ仕方ない。オルの配信は視聴者数もすごいし、おれのアカウントも一般人に特定されないよう、ユーザー名を定期的に変えてたからな。
知ってるか? 最近来てた『☆』っていうアカウント。あれ、おれだよ。ずっとオルにコメント読んで欲しくて、沢山コメントしたのに、全然気づいてくれなかったな」
「……え」
その言葉を聞いた瞬間、俺は今までの申し訳なさを撤回したくなった。
ノーキにアンチコメントをしていたのは……キルさんだったのか。
驚きのあまり言葉を失う俺を、キルさんは愛しそうに見つめていた。
そして、追い打ちをかけるよう、はたまた洗脳をかけるよう──俺を真っ直ぐ見つめながら言ったのだった。
「ノーキって詰まんねェし、おれよりゲーム下手だろ? おれはずっと累を見てきたから、アイツよりお前を理解してやれる。ノーキがオルに公開告白したあの配信、あれ見て分かったんだ。累、本当は、ノーキのこと好きじゃないのに告白をOKしたんだって。
流されたんだろ?
断れなかったんだろ?
配信者としてやっただけなんだよな?
仕方なかったんだよな?
視聴者が気付かなくても、おれだけは分かったよ。おれはオルのことずっと見てきたから。なあ? 累は、本当はノーキのことなんてこれっぽっちも好きじゃないんだy──」
瞬間、ぱちんっと音が響く。
それからすぐに、掌がじんじんと痛むが、そんなことはどうでもよかった。
ふーっと肩で呼吸する。そう──俺はこの日、初めて人を殴ったのだ。
171
あなたにおすすめの小説
【完結】ネクラ実況者、人気配信者に狙われる
ちょんす
BL
自分の居場所がほしくて始めたゲーム実況。けれど、現実は甘くない。再生数は伸びず、コメントもほとんどつかない。いつしか実況は、夢を叶える手段ではなく、自分の無価値さを突きつける“鏡”のようになっていた。
そんなある日、届いた一通のDM。送信者の名前は、俺が心から尊敬している大人気実況者「桐山キリト」。まさかと思いながらも、なりすましだと決めつけて無視しようとした。……でも、その相手は、本物だった。
「一緒にコラボ配信、しない?」
顔も知らない。会ったこともない。でも、画面の向こうから届いた言葉が、少しずつ、俺の心を変えていく。
これは、ネクラ実況者と人気配信者の、すれ違いとまっすぐな好意が交差する、ネット発ラブストーリー。
※プロットや構成をAIに相談しながら制作しています。執筆・仕上げはすべて自分で行っています。
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
アイドルくん、俺の前では生活能力ゼロの甘えん坊でした。~俺の住み込みバイト先は後輩の高校生アイドルくんでした。
天音ねる(旧:えんとっぷ)
BL
家計を助けるため、住み込み家政婦バイトを始めた高校生・桜井智也。豪邸の家主は、寝癖頭によれよれTシャツの青年…と思いきや、その正体は学校の後輩でキラキラ王子様アイドル・橘圭吾だった!?
学校では完璧、家では生活能力ゼロ。そんな圭吾のギャップに振り回されながらも、世話を焼く日々にやりがいを感じる智也。
ステージの上では完璧な王子様なのに、家ではカップ麺すら作れない究極のポンコツ男子。
智也の作る温かい手料理に胃袋を掴まれた圭吾は、次第に心を許し、子犬のように懐いてくる。
「先輩、お腹すいた」「どこにも行かないで」
無防備な素顔と時折見せる寂しげな表情に、智也の心は絆されていく。
住む世界が違うはずの二人。秘密の契約から始まる、甘くて美味しい青春ラブストーリー!
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛
中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。
誰の心にも触れたくない。
無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。
その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。
明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、
偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。
無機質な顔の奥に隠れていたのは、
誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。
気づいてしまったから、もう目を逸らせない。
知りたくなったから、もう引き返せない。
すれ違いと無関心、
優しさと孤独、
微かな笑顔と、隠された心。
これは、
触れれば壊れそうな彼に、
それでも手を伸ばしてしまった、
不器用な男たちの恋のはなし。
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
入社1ヶ月のワンコ系男子が、知らずのうちに射止めたのはイケメン社長!?
monteri
BL
CM制作会社の新入社員、藤白純太は入社1ヶ月で教育係の先輩が過労で倒れたため、特別なクライアントの担当を引き継ぐことになる。
そのクライアントは、女子禁制ミーハー厳禁の芸能事務所だった。
主人公の無知で純なところに、翻弄されたり、骨抜きにされるイケメン社長と、何も知らない純太がドキドキするお話です。
※今回の表紙はAI生成です
※小説家になろうにも公開してます
どうせ全部、知ってるくせに。
楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】
親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。
飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。
※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる