紺碧のミシマ ~ホームレスだったけど異世界へ行ってロボットになったので俺は自由に生きる~ Vol.3

田中

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第九章 錬金術師とパラサイト

諜報部の男

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 健太郎けんたろうは、隔離部屋にいた焦点の合っていない瞳をこちらへ向けヘラヘラと笑う男に抗議の声を上げた。

「コホーッ!!」

 俺は幻じゃ無いよッ!!

「ミシマ、通してくれ……大分、憔悴してるな……」

 健太郎の脇を抜けグリゼルダが男に近づく。

「なんだ……今度は角の生えた女か……」
「ミラルダ、水薬ポーションをくれ」
「あいよ」

 グリゼルダはミラルダが鞄から取り出したポーションを受け取ると、栓を抜き男に差し出した。

「薬だ。飲めるか?」
「薬? 角の姉ちゃんよぉ、どうせ幻なら酒でも出してくれよ……へへ、へへへへ」
「チッ、面倒な奴だ。グリゼルダ、薬を寄越せ」
「何をする気だ、ギャガン?」
「いいから薬を渡せ」
「むぅ……」

 グリゼルダに続き独房に入ったギャガンは、眉根を寄せた彼女から薬を受け取ると男の頬を掴み口を開けさせ、無理矢理、薬を流し込んだ。

「おい、無茶するなッ!?」
「ゴッ!? ブヘッ、ゴホゴホッ!! ……はぁはぁ……こいつは幻じゃ無いッ!?」
「ようやく正気に戻ったか」
「あんたら、俺の妄想じゃねぇのか!?」
「違ぇよ。そんで、お前ぇは何者だ?」
「俺は……」
「……お前もしかして……潜入していたラーグの間諜部隊か?」

 グリゼルダの言葉で男の顔が緊張感を帯びる。

「……あんた等こそ何者だ?」
「あたし等は公爵のガッド様から依頼を受けた冒険者だよッ!」

 ミラルダは笑みを浮かべ、ガッドから渡された書類を掲げて見せた。
 男はミラルダが差し出した書類を確認すると、彼女に書類を返し改めて健太郎達に視線を向けた。



「公爵様が依頼……そうか、俺達が失敗したから……」
「何があったか、話して貰えるかい?」
「…………俺達は施設に潜入して、戦闘を避けつつ調査を行っていた。だが肝心の証拠は一向に発見出来なかった。ここにいるって事はあんた等も通って来たんだろ、あの分厚い鉄の扉を?」
「ああ、通るんじゃなくて、蝶番ぶった斬って、こいつが残骸退かして入ったんだがな」

 そう言ってギャガンが健太郎の肩に手を置くと、男は一旦目を真ん丸に見開き、笑い始めた。

「斬った、クククッ、あの鋼鉄の扉を……いやすまん、余りに馬鹿げた通り方だったんでな……あの扉の奥が怪しい事は最初から分かっていた。そこで俺達は自由に施設を動いていた所長を監視して暗証番号を手に入れた。鍵の方はどうとでもなったからな……で、いよいよ地下へ潜入を決行したんだが……」

 男とあと二人は装備を整え、地下へと潜った。
 しかし探索の最中、所長に発見され寄生体をけしかけられた。
 一斉に襲い掛かられた事で男以外の二人が負傷、脱出路である階段を固められた事で負傷した二人は無傷だった男に資料を託し、彼を隔離部屋であるここにかくまった。

「あいつ等、俺をここに入れた後、敵を減らすって奴らに向かっていって……戻って来た時にはもう……部屋からは出れないし、あいつ等はドンドン人じゃなくなっちまうし……そうこうしてるうち、都合のいい妄想が溢れて幻覚が見えるようになって……」

 そう言うと男は再び頭を抱え項垂れた。

「……一つ聞きたいんだが、所長はお前達に寄生体をけしかけたと言ったな? それに自由に動いていたと……それは本当か?」
「ああ、俺達を消せって奴が命令すると、他の寄生された奴らが一斉に俺達に向かってきたんだ」
「……どういう事だ? 寄生された者は無差別に周囲の者を襲う訳では無いのか……」

 グリゼルダが顎に手を当て唸る横で今度はミラルダが男に問い掛ける。

「所であんた名前は? あたしは書類に書かれてた通り、公爵様に依頼を受けた冒険者のミラルダ、青いゴーレムは仲間のミシマ」
「コホーッ!!」

 三嶋健太郎、大丈夫、悪いロボットじゃないよッ!!

「獣人のギャガンに魔人のグリゼルダ、入り口にいるのが盗賊でハーフリングのパム、それに生存者のフィルだよ」
「豹人族のギャガンだ」
「グリゼルダだ」
「パムだよッ!」
「あの、コック見習いのフィルです」

 男はフィルの事を聞くとチラリと彼女に目をやり、少し驚いた様子を見せた。

「生存者……所長以外にもいたのか……俺は間諜として潜入していた諜報部隊員のグロックだ……それで状況は?」
「この施設にいた寄生された人はその……」
「殆ど始末した」
「始末ってギャガン……」
「本当の事だろ……仕方がねぇさ、他に手段が無かったんだからよ」
「始末か……凄いなあんた等」

 グロックは皮肉でも何でも無く本当にそう思っているようだったが、ミラルダは彼の言葉に顔を歪め、健太郎も助けられなかった事に後ろめたさを感じていた。
 やれる事を精一杯、そう言ったミラルダだったが、元は人だった者を焼く事は彼女にとっても辛かったようだ。

 顔を歪め黙ったミラルダに代わりギャガンが話を進める。

「ともかくだ。ミシマのレーダーだったか、それによると残っているのは地下の中央、二つだけだ」
「地下の中央……多分、それは所長だ。奴だけが何故か怪物どもに襲われる事無く自由に施設を移動していた」
「襲われる事無く……やはり所長は寄生された者を従えられる何かを持ってる?」

 再び考え込んだグリゼルダを見てグロックはギャガンに視線を向けた。

「ともかく、残ったのが所長だけなら乗り込んで奴を捕らえよう。締め上げればオルニアルに今回の寄生体騒ぎを認めさせる情報も得られる筈だ」
「中央は二つ、一つは所長って奴だとしてもう一つが気になるが……まぁ、やるしかねぇか……ミラルダ、ミシマ、いつまで凹んでんだッ!」
「だってギャガン……あたし等は殺し屋じゃないんだよ……?」
「コホーッ!!」

 そうだそうだッ、俺はホントは全員助けたかったんだッ!!

「うるせぇッ!! ミラルダ、お前自身が言ってたじゃねぇかッ!? 俺たちゃ神様じゃねぇってよッ!!」
「でも……それでも……」
「……切り替えろ、時間は有限で迷いは選択の幅を減らす。隊を率いていた時、俺はそうしてたぜ……今は薬を優先して動く時だ」
「コホー……」

 ギャガンはロガエストで愚連隊とはいえ、部下を統率してたもんな……切り替えるか…………そうだな、今は薬の為に動こう。

 寄生された人を救えない事で何処かモヤついていた健太郎の心は、ギャガンの言葉で薬という目標を得て霞が晴れた。
 頷きギュッと親指を立てた健太郎にギャガンがニヤッと笑みを浮かべる。

「ミシマは調子が戻ったようだな。ミラルダお前はどうする?」
「……確かにあんたやミシマが言う様に今は薬の事を一番に考える事にするよ」
「……言う様にって、前から言ってるがミシマの言葉が分かんのはお前だけなんだが……はぁ……まぁいい。なんにしても残りは中央の二つだ」
「やるなら俺も連れてってくれ」
「あん? ……お前とフィルは先に脱出した方が良くねぇか?」

 ベッドから腰を上げたグロックを見てギャガンは首を捻る。

「それであんた達が所長と対決する間、待ってろって? 冗談じゃないぜ、動けないのはもう御免だ」
「あの……私も待つのはもう……」

 状況は違えどずっと施設内で動けなかった二人は静観して待つ事に耐えられないようだ。

「はぁ……じゃあグロック、お前はフィルを守ってくれ」
「了解だッ!」
「あっ、よろしくお願いします」

 フライパンを握り締め頭を下げたフィルを見て、改めてコックとこの状況は合わないなと感じたグロックは「あ、ああ」と戸惑いぎみに返事を返した。
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