紺碧のミシマ ~ホームレスだったけど異世界へ行ってロボットになったので俺は自由に生きる~ Vol.3

田中

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第九章 錬金術師とパラサイト

島から伸びる赤い光

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 赤く染まった日の光が孤島の木々を照らしている。もうすぐ日は落ち辺りは闇に包まれるだろう。

 そんな暗闇が迫る島で、崩れ落ちた研究施設の残骸を黒竜が地面に開いた穴に投げ込んでいる。
 黒竜は尻尾を使い、コンクリートと鉄と木で構成された残骸を器用に穴に放り込み、やがて瓦礫の山を作り出した。
 転生者石堂アキラの作った寄生生物、マン・パラピュレーターから進化したそれは、その様子を黒竜の手の上から自身の操る所長の目を介して見下ろしていた。

“魔法という奴だろう。何やら壁を作っていた様だがそれも長くは持つまい……研究所にいた人間どもに戦闘用はほぼいなかった、それが今回、拠点を失った主な原因だな……今後は戦える人間も手駒にせねば”

 自分のコピーを寄生させた者達が健太郎けんたろう達に容易く全滅させられた事で、寄生生物の中核であるシリンダーの中のそれはそう思考を巡らせた。

“力を得るならこの所長と呼ばれる男の記憶の中にあった、軍隊というのもいいかもしれない。それにずっとこの筒の中というのも頂けない……自分の殻となる強力な生物を探さねば……”

 それはそう結論付け、黒竜を東、混乱の続くベントの街へと向かわせる。
 ただ、黒竜は力は強いが翼が無い為、酷く足が遅かった。

“仕方ない。お前は単独で東、大陸へ向かえ”

 それは命令を黒竜を支配している分体に伝え、別の分体へと意識を伸ばした。
 すると上空を舞っていた飛竜が急降下し、掲げられた黒竜の手からシリンダーとかつて所長だった男の体を後ろ足で攫った。

“東だ”

 赤い鱗の飛竜はそれの命令を受け、翼をはためかせ東の大陸を目指し飛び始めた。
 ぐんぐんと施設の在った島は遠ざかり、水平線には大陸の影が迫る。

 そんな彼の後ろで、夕闇に変わりつつある空に一筋の赤い光が走った。

“何だアレは?”

 思わず視線を向けたそれの目を、見たのは操られた所長だったが、閃光が焼く。

“グッ……”

 所長の目が視界を取り戻した時には、島の近海に首を無くした黒竜の死体が波に揺られ浮かんでいた。
 当然の様に黒竜を操っていた分体への意識の繋がりも完全に絶たれている。

“何が起きた!? もしや強力な魔法……?”

 完全に支配下に置き、記憶を飴玉の様に舐め取った男の中には、そんな強力な魔法の知識は入っていなかった。
 勿論、男はかつて自分を作り出した者と同じく錬金術師という奴だから、攻撃に特化した魔法使いではない。
 しかし、錬金術師も魔法については学ぶ、竜を一撃で仕留める様な魔法があれば名前ぐらい知っていてもおかしくは無い筈だが……。

 それが遠ざかる島に目を向けながら思考を巡らせていると、生き埋めにした筈の者達が砂浜に駆け出して来た。
 その中の一体、青黒い金属の人形、男の知識ではメタルゴーレムだったか、が、海に飛び込み体を変形巨大化させその身を船へと変えている。

“船に変わった!? 馬鹿な、ゴレームとは魔石を核にした操り人形では無いのか!? まさか、黒竜を倒したのも……”

 それが驚きと共に遠ざかる島を眺めていると、ゴーレムが変形した船は仲間だろう者達を乗せ黒竜の死体へと向かっていた。
 どうやら自分が飛竜に乗り換えた事には気付いていないらしい。
 その事に思わずホッと胸を、それに胸は無いが、撫で下ろす。

“とにかく、アレは危険だ。早急に力を手に入れねば……”

 シリンダーの中で身をくねらせながら、それは得られる力について模索を始めていた。


■◇■◇■◇■


 地下の天井に開いた穴からバラバラと瓦礫が降って来る。

「クソッ、奴ら俺達を生き埋めにする気だッ!!」
「大丈夫ッ!! 障壁は重ね掛けしてるから十分持つよッ!!」
「でもこんな岩石みたいなのに生き埋めにされてどうやって出るの?」

 パムが障壁の周囲を埋めて行くコンクリートの残骸に目をやり、不安げに眉根を寄せる。

「……迷宮じゃなくて、こんな孤島の地下で石の中にいる事になるなんて……」
「心配するな、パム。我々にはミシマがいる」
「グリゼルダ、さっきミラルダとギャガンも話してたけど、ミシマに何をさせる気なの?」
「そうだぜ。そのゴーレムにこの状態をどうにか出来る力があんのかよッ!?」
「あの、私も聞きたいです」

 パムの他、健太郎の機能を知らないグロックやフィルもグリゼルダに詰め寄る。

「まぁ、崩れが治まるまで待て……」

 そう言うと、グリゼルダは瓦礫で埋まった障壁の外に目をやった。
 投げ入れられた瓦礫で研究室は完全に埋まり、障壁の周囲はコンクリートと鉄骨と木の残骸で固められている。

「落ち着いたかねぇ……んじゃ、ミシマ、赤い光で道を作っとくれ」
「コホーッ!!」

 なるほどなッ!! 了解だッ!!

 健太郎はミラルダの言葉で何をするか察し、両手の人差し指と中指を額に当てると障壁から頭をわずかに突き出した。

「ねぇ、赤い光って確か迷宮で話してた……」
「そうだ。ミシマはあの光で山のどてっ腹に風穴を開けた」
「山に穴を? 風穴って言うが、少々切り崩した所で……」
「コホーッ!!」

 ミシマビィィィイイイイムッ!!

 叫びと共に斜め上方に放たれた光は瓦礫を溶解させ、その後、健太郎が顔を上に向けた事で、鉄とガラス化したコンクリートの谷を作り出す。



「ふぇえええ……一発で道が……」
「マジかよ……」
「まるで山を剣で断ち切って道を作ったっていう、神話の英雄みたい……」

 パムはポカンと口を開け、グロックは目を見開き、フィルは目を潤ませフライパンの柄を握り締めていた。

「天よ、我が魔力に応えひと時の恵みを、降雨フォールレイン

 まだ熱を持っているその道をグリゼルダが雨を呼び強制的に冷却する。
 猛烈な水蒸気を上げ、赤く焼かれていた壁と床が光を失っていく。

「ふむ、まだ熱は持っているが通る事は出来そうだ」
「んじゃ脱出するかねぇ」
「だな。急がねぇと竜に逃げられちまうぜ」

 一番にギャガンが駆け出し、その後をパム、ミラルダ、グロックとフィルが追う。
 最後に健太郎が道を駆けあがり海に目をやると、二足歩行の黒竜が海の中を東へと向かっていた。

「チッ、もう海に出てやがる」
「ミシマ、今度は弩だッ!! 出来れば威力を絞って竜の首だけを飛ばすんだッ!!」

 標的を確認したグリゼルダが健太郎に叫びを上げる。

「コホー……コホーッ!!」

 威力を絞るか……分かったやってみるッ!!

 健太郎はその場でランチャーモードへと姿を変えた。
 その間にミラルダが仲間に煤眼鏡を配っている。

「ありがとミラルダッ!」
「なんだこの眼鏡? 真っ黒で何も見えねぇじゃねぇか?」
「パムさん? 何なんですこれ?」
「よく分かんないけど、これが配られたって事は、この後凄く眩しい事が起きるんだよ」

 パムがフィルたちに説明している間にも、健太郎の視界に映し出されたエネルギー表示は溜まって行く。

「キュイーン……」

 えっと、あの時はマックス120パーセントだったから……大体、10パーぐらいでいいかな……。

 健太郎の考えを今回はくみ取ってくれたのか、エネルギー充填率を示すだろう円グラフは一割程で停止した。

「キュイーンッ!!」

 オッケーだッ!! ギャガン、ぶちかませッ!!

「……眼鏡は用意してるが、今度は光るなよ」
「キュイーン……」

 光ったのはサンドワームの光を吸い込んだからだよ……今度は遠いから大丈夫だと思う……多分だけど……。

 前回、スコープが放った光が相当きつかったのか、額の上に煤眼鏡を乗せたギャガンはランチャーに姿を変えた健太郎をジトッと一睨みしてから銃身から伸びたアームを握った。

「遠いな……おっ、寄れんのかよッ!? やっぱ便利だな、コイツ」
「キュイーン……」

 便利とか言われちゃうと完全に道具扱いで微妙なんだが……。

「よし、これなら……グリゼルダ、首だな?」
「ああ、あの竜も人と同じであれば首の後ろに粘菌が見える筈……それより少し上を狙えば竜だけを止められると思う」
「よし、んじゃ、行くぜッ!!」

 引き金をギャガンが絞ると銃口から閃光が迸り、海を渡っていた黒竜の頭を一撃で吹き飛ばした。

「ふわッ!?」
「何だとッ!?」
「キャッ!?」



「よしッ!! あとはさっきのデッカイ粘菌と所長を回収するだけだねッ!! ミシマ、今度は船になっとくれッ!!」
「コッ、コホーッ!? コホー……?」

 ふっ、船ッ!? いやミラルダ、俺、船になった事はないんだけど……?

「大丈夫、鉄の鳥になれたんだ、あんたなら鉄の船にもなれる筈さッ!!」
「鉄の船か……流石にそれは浮かねぇんじゃねぇのか?」
「いや、材質が何だろうが物が水に浮かぶ為に必要な物は浮力だ」

 変形を見慣れているミラルダ達は普通に健太郎に船になれと要求していたが、まだ変形を見慣れていないパム、それに見た事の無いグロックとフィルは完全に困惑していた。

「何なんだよ、あいつ……竜の頭を一撃で吹き飛ばしたぞ……」
「わ、わたし、何だか眩暈が……」
「ミシマが変なのは知ってたつもりだけど……」

 茫然と海にプカリと浮かんだ黒竜の死体を眺めていたパム達にギャガンが声を張り上げる。

「ボーっとすんなッ!! まだ終わってねぇぞッ!!」

 その言葉で我に返ったパム達が島の港に目をやると、水に飛び込んだ健太郎が青い鉄の船に姿を変えていた。

「何でもありだな、あいつ」
「ハハハッ……」
「聞いた話じゃ巨人にもなれるらしいし……やっぱりミステリアスだねぇ」

「何してんだッ、置いてくぞッ!!」

 いち早く船に乗ったギャガンの言葉で、パム達は顔を見合わせると一斉に駆け出した。
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