紺碧のミシマ ~ホームレスだったけど異世界へ行ってロボットになったので俺は自由に生きる~ Vol.3

田中

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第九章 錬金術師とパラサイト

別れとベヒモス

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 アキラから連絡を受け取った健太郎けんたろう達はベントに残る事を決めたフィルとグロックと別れ、オルニアルの首都カラッサへと向かう事にした。
 VTOLモードに変形した健太郎の前で、見送りに集まった人々にミラルダが視線を送る。

「グロック、ヤバそうだったらすぐに連絡しておくれ」

 ミラルダは懐の水晶球をグロックにかざしながら告げる。
 彼もベントの街に潜伏中、ねぐらにしていた部屋で回収した水晶球を手の上で転がしながら答える。
 連絡用の水晶球は万一、捕らえられた時の事を考え街に置いておいたらしい。

「分かってる。ただもうこの街では大規模な襲撃は無いだろう……お前達が殆ど倒したからな」

 彼らの横ではパムがフィルに心配そうな視線を送っている。

「ホントに残るの? 私達と一緒の方が安全じゃない?」
「私が一緒に行っても、戦闘じゃお役に立てませんから」
「役に立つ、立たないは関係無い、せっかく救えた命だ、出来れば安全だと分かるまでは……」
「大丈夫ですよ、グロックさんが守ってくれるそうなので……」

 グリゼルダにそう答えると、フィルはチラリと隣に立つグロックに視線を送った。

「ヴヴヴヴヴッ」

 つり橋効果という奴だろうか。

 健太郎の言葉が示す通り、共に危険を潜り抜け、ベントの街でも寄生生物の攻撃から幾度もフィルを守ったグロックは、彼女といつの間にかいい感じになっていた。

「そうか……」

 そう言ってグリゼルダは自分の隣で守備隊の隊長と話しているギャガンに目を向けた。

「デカ物はミシマが倒したし大体の集団はグリゼルダ達が魔法で始末したが、それでも小規模な集団は残ってる。警戒は怠るなよ」
「分かっていますよ……しかし、あなた達がこの街に来た時は驚きましたよ。いきなり灰狼の群れが全滅したんですから」
「ありゃあミシマの手柄だ……この前の仕事で似たような事したからな」

 街の中央で簡易のバリケードを築き立てこもっていた生存者と守備隊。
 その彼らの拠点が寄生されたアッシュウルフの群れに襲われていた所を、VTOLモードのバルカンで撃退した事が一行がこの街に留まる切っ掛けとなった。

 薬の事は気になったが困窮する人々を直接見てしまっては、ミラルダも健太郎も放って置く事は出来なかったのだ。

「さて、挨拶も済んだし行くとしようか」
「ありがとうございましたッ!! あなた達には本当に感謝しています!!」

 守備隊の隊長がそう言って頭を下げると、見送りに集まった住人達も一斉に頭を下げた。

「気にしないでおくれ……」

 行きは上空を通り過ぎてしまった。あの時は一刻も早く薬を作る事を優先してしまった為だ。
 あの選択が正しかったのか、ミラルダの中で答えは出ず、今もグルグルと回っていた。

「おい、そろそろ行くぞ……出来る事を精一杯、だろ?」

 ギャガンはそんなミラルダの様子に気付いたのか、ポンと肩を叩き小さく囁いた。

「そうだね……うん、ありがとねギャガン」
「兵士も冒険者も迷いは命取りだからな」

 顔上げたミラルダにニヤッと笑みを浮かべると、ギャガンは住人達に「またな」と告げてVTOLモードの健太郎に乗り込んだ。

「ヴヴヴヴヴヴ……」

 クッ、ギャガン、カッコイイ事するじゃないか……俺もVTOLモードでさえ無ければ……。

 健太郎が憤っている間にもミラルダ達は挨拶を済ませ次々に機内へと乗り込んだ。
 操縦席に座ったミラルダが小さく囁く。

「ギャガンが仲間になったのも、あんたのおかげだよ」
「……ヴヴヴヴヴ……」

 ……そうかな……。

「そうだよ……」
「ミラルダ、ミシマと何話してるの?」

 ミラルダの隣に座ったパムが小首を傾げる。
 そんなパムに笑みを浮かべると、ミラルダは内緒と微笑んだ。




■◇■◇■◇■


 健太郎達がオルニアル西のベントから中央のカラッサへ向かっていた頃。
 追跡を逃れた寄生生物は飛竜を操り、自らの肉体に相応しい強靭な肉体を持つ個体を探し、オルニアル北西部の湖水地方で探索を続けていた。
 それが支配した男の記憶では、半世紀程前、国を横断しようとしたベヒモスという巨大な魔物が湖水地方に辿り着き眠ったらしいのだ。

“男の記憶ではこの辺りの筈なのだが……”

 それは飛竜の目を介し周囲を見回す。しかし見えるのは湖水地方の名の通り、点在する湖とその先に横たわるなだらかな丘だけ……。

“仕方ない、住んでいる人間に話を聞くか”

 そう結論付けるとそれは森に飛竜を下ろし、支配した所長を人里へと向かわせた。


■◇■◇■◇■


「ベヒモス? それならずっと見えてるよ?」
「ずっと? いったいどこに?」

 北西部の湖水地方は元々住民が少ない為か寄生生物の被害が少なく、そこに住む者達も普段の暮らしを続けているようだった。
 その一人、旅人と名乗ったフードの男に放牧で羊の番をしていた老人は丘を指差す。



「ほれ、あの丘がそうさ。儂が子供の頃は鱗も見えたが、五十年近く経った今じゃ草木が茂って丘と変わらん」
「あの丘が……?」

 茫然と丘を眺めるフードの男に老人はそんな事よりと話しかける。

「ここより南じゃ人が急に狂暴になって、随分酷い事になっとるそうじゃが、そりゃ本当かね?」
「……ああ、本当だ。ここもすぐにそうなる」
「えっ、そりゃあ一体どうゆう事かね!?」
「こういう事だ」

 そう言うと男はフードを外して見せた。
 その頭部では緑色の髪がゆらゆらと生き物の様に蠢いている。

「ひえっ!? その髪、なっ、何なんだあんた!?」
「……私はやがて世界を一つにする者……名前が無いのは不便だな……そうだな、アウルとでも呼んでもらおうか」
「世界を一つにって……なっ、何言ってんだ!?」

 異様な男の様子に老人は思わず後退った。その老人の体に男の頭から伸びた緑の髪が絡みつく。

「グッ、なんじゃこれは!? あ、あ、アガガッ!!」

 老人を締め上げた髪の一部が彼の首の後ろに突き立つと、老人は声を上げ痙攣した後、虚ろな瞳をアウルと名乗った男に向けた。

「行け、同胞を増やすのだ」

 アウルの言葉に頷きを返すと、老人は自宅だろう石造りの家へとゆっくりと歩き始めた。
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