紺碧のミシマ ~ホームレスだったけど異世界へ行ってロボットになったので俺は自由に生きる~ Vol.3

田中

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第十章 南洋の密林の島に八つ首の大蛇は存在した

竜の住める家

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 オルニアルから帰還した健太郎けんたろう達を子供達が出迎え、その後、戻ったロミナとキューによってその日はステーキが振舞われた。
 場所はレベッカの家の庭、木のテーブルの上にはロミナが用意したサラダが盛られた器が置かれ、メインの肉料理は買って来て味付けされた牛肉と、キューが狩って来た鹿肉が彼のブレスによって器用に焼かれていた。

 子供達は焼き上がった肉を頬張り、コロが肉の乗った皿をせっせとテーブルへ運んでいた。

「ふむ、キューは脱皮して第三幼体になった様だな」



 グリゼルダはその肉を口に運びながら、丸焼きにされている鹿肉と、網に置かれた牛肉に交互に炎のブレスを浴びせるキューを見てボソリと呟いた。
 ブレスは直接炎を当てるのではなく、遠赤外線の効果で焦げないギリギリに調整されているあたり、キューの美味しい物を食べたいという思いが垣間見える。

「そうなんだ、お前達がオルニアルに向かってすぐ脱皮が始まって、こんなに大きくなってしまったんだ……まぁ、大きくなっても食い意地が張っている所は相変わらずだが……」

 グリゼルダとロミナの話を聞いていたミラルダは、大きくなったキューを見てうーんと口をへの字に曲げた。

「コホーッ?」

 どうしたのミラルダ?

「いやね、このままドンドン大きくなっちまったら、庭にも入り切らなくなるんじゃないかと思ってねぇ」
「コホー……」

 確かにな……。

 健太郎の脳裏にこの世界に来て初めて出会った魔物である、赤い鱗の竜の姿が思い浮かぶ。
 あの食いしん坊な竜は健太郎を一飲みに出来るほど大きかった。キューがあのサイズまで成長するなら、大きいとはいえ街中の一軒家に過ぎないレベッカの家では暮らす事は難しいだろう。

「……ミラ姉、キューはお家にいられないの?」



 ミラルダと健太郎の会話を聞いていたのだろう。ミミが不安そうに眉根を寄せて尋ねる。

「誰かが家から出ていく時は、その子自身がもうこの家に頼らなくても生きていけると思った時さ。でも困ったねぇ……家の大きさは変えられないし、キューに大きくなるなとも言えないし……」
「何悩んでんだ? 今回の仕事は国レベルの貸し借りになったんだぜ。ガッドの野郎に屋敷の一つも寄越せって言ゃあいいだろうが?」

 あくまでレベッカの家でキューと暮らそうと考えていたミラルダには、ギャガンの言葉は考えの外だった。

「でもねぇ。この家には愛着もあるし、師匠の蔵書の事も……」
「だったら屋敷の敷地にこの家を移設すりゃあいいじゃねぇか。本はこの家から持ち出すとヤバいんだろ?」
「移設ねぇ……」
「コホーッ」

 移設するなら俺がDXで運んでもいいよ。

「うーん、でもねぇ……」
「ねぇ、ミラルダ、移設って事はクルベストを出るの? わたしはディランの事があるからクルベストに居たいんだけど……」
「そうだな。わたしも真田に武術を教わらなくてはならんから、この街から離れるのは困る」

 パムとロミナはクルベストから離れる事に難色を示した。
 パムは自立しているからいいとして、金の無いロミナは仕事を探さないとならないだろう。
 まぁ、彼女の腕なら冒険者として問題無くやって行けるだろうが……。

 ミラルダとしても故郷であるクルベストから離れるのは抵抗があった。
 確かに差別された記憶も多くあるが、幼少期、レベッカの家で一緒だった子供達と街を駆け回り遊んだのだ。
 かけっこをした石畳の道も、かくれんぼをした裏通りも忘れられない大事な場所だった。

 そんな事を考えていると、ズイッと焼かれた肉が皿にのせてミラルダの前に差し出された。

「キュエーッ!!(上手に焼けたのッ!!)」
「キュー……ありがとよ、こりゃ美味しそうだ」
「キュエーッ!!(当たり前なの、ホントはキューが食べたいぐらいなのッ!!)」

 キューが出したハンドサインを読み取ったロミナが苦笑を浮かべている。

 子供達とロミナが考えたハンドサインは指の折り曲げの組み合わせで、かなり複雑な事まで伝えられる。
 考え出した子供達やロミナはそれでキューとコミュニケーションをとっているが、教えられたばかりのミラルダ達は何とか読み取れるといったレベルだった。

 いずれは健太郎にも応用出来そうな方法だったが、その為にはまだ時間が掛かりそうだった。

 ともかくとしてミラルダは、人懐っこいこの竜の場所を用意しようと、受け取った肉を食べながら心の中で決めた。

 ちなみにキューが焼いた牛肉は外側はカリっと、内側はジューシーでとても美味だった。


■◇■◇■◇■


 二日後、伯爵の金髪角刈りおじさんから呼び出された健太郎達は、迎えの馬車に乗って彼の城へと向かった。
 通されたのは以前と同様、縁側付きの和室だった。
 畳の部屋で伯爵のアドルフと公爵のガッドが背の低いテーブルの向こうに腰を下ろしている。

「ご苦労さん、話はガッドから聞いた。上手くやったみてぇだな?」

 アドルフは健太郎達を座らせると、そう言って嬉しそうに笑う。

「まぁ、なんとか……」
「部下から受けた報告では、アーデンにいた迷宮の件の首謀者、イシドウアキラと協力して、殆ど君らだけで事を解決したそうじゃないか?」
「だから言ったろ、自由にやらせときゃいいってよぉ」
「しかし、これだけ有能な人材を野に放っておくのは……はぁ……分かったよ」

 ガッドは健太郎達に物欲しそうな視線をむけたが、隣のアドルフからの威圧を感じると、ため息をついて肩を落とした。

「それで、今回の依頼……内容は随分と違ってしまったが、オルニアルには大きな貸しを作れた。これで外交面でも有利に事を運べるだろう。それにオルニアルの新体制は若手中心で風通りも良くなったようだし、その点でもやりやすくなった」
「あの国はアキラの記憶じゃ汚職が横行していたようだからな」

 アキラの過去を覗いたグリゼルダがガッドの言葉に同意を示す。

「うむ、その通りだ。薬品の輸入についてもこれまでは中間業者が多くてね。それも今後是正されて行くだろう。それで今回の報酬なんだが……事前に提示した物とは別に君らの要望を聞こうと思ってね」

 ガッドはオルニアルが健太郎達を欲しがっている事にも気付いていた。
 新たに長官の椅子に座ったオーグルも絶賛していたし、自分に初めに接触してきたバレットも折に触れて健太郎達の事を尋ねてきたからだ。

 それも分からなくはない、もし彼らがいなければ最悪、オルニアルは寄生生物に支配された魔物の国になっていただろう。
 ざっと調べた所では彼らはアドルフが言っていた南の獣人の国、ロガエスト以外でも、魔人の国エルダガンド、竜人の国ベルドルグ、エルフの国リーフェルドでも色々やった事が判明している。

 結論として、彼らはその気になればラーグを出て別の国に拠点を築く事も可能な筈だ。
 追加の報酬は、オルニアルとの関係が有利になった事以上に、彼らをこの国に止めて置く為の餌の意味が大きい。

「要望……あの、じゃあこの街に庭付きの家……成長したドラゴンが暮らせるぐらいの家が欲しいです」
「ドラゴンが暮らせる家……キューか?」

 アドルフの問い掛けにミラルダは頷きを返した。

「はい、今回の依頼から戻ったら、さらに大きくなっていて……正直、私達の家では今後、彼が暮らす事は難しいと思うんです」
「なるほどな。確かにタニアも一回脱皮してデカくなったしなぁ」

 そう言ってアドルフは着流しから出した右手を顎にやった。
 ちなみにタニアは現在、城の庭に作られた池で暮らしている。

「家か……いいだろう。アドルフ、費用はこちらで出そう。ドラゴンが暮らせる邸宅をクルベストに用意してもらえるか?」
「いいだろう」
「伯爵、キューは赤竜レッドドラゴンだ。最終的に小山程の大きさになる筈、その点も加味して家を用意して欲しい」
「分かってるさ。こっちにもタニアがいるんだ、竜についちゃ色々調べてる。任せな」

 アドルフはグリゼルダの要望にニヤッと笑みを返した。

「ふえぇ、ホントに家が貰えるんだねぇ……ギャガンギャガン」
「あん? なんだパム」
「それって、わたしも住んでいいのかな?」

 パムが隣に座ったギャガンの服を引っ張り頭を下げた彼の耳元で囁く。

「当たり前だろ、お前ぇも働いたんだしよぉ」
「そっ、そっか……」

 宿じゃなくてちゃんとした家で暮らせるんだ……パムはそう呟いて嬉しそうにえへへと笑った。

「場所は……そうだな……フィッシュバーン家の別荘が街の北、私有地の森に面した場所にある。元は俺の先祖が狩猟用に森に併設して作ったもんだが、あんだけ広けりゃドラゴンでも問題ない筈だぜ」
「……アドちゃんちの別荘……うっ、昔、あの森で遭難した記憶が……」

 ガッドは幼い頃の記憶を思い出したのか、顔を顰めていた。

「ガハハッ、あん時は捕まえた兎を二人で分けたな。腹が減ってたから凄く美味かったぜ」
「……確かに兎は美味かったが、私は地面じゃ無くて、ちゃんとベッドで寝たかったよ……」
「コホー……」

 自分ちの敷地で遭難って……どれだけ広いんだよ……。

 健太郎は改めて貴族のスケールの大きさに肩を竦めた。
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