紺碧のミシマ ~ホームレスだったけど異世界へ行ってロボットになったので俺は自由に生きる~ Vol.3

田中

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第十章 南洋の密林の島に八つ首の大蛇は存在した

未開の国

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 蜥蜴人リザードマンの語り部、こげ茶鱗のノッフリに導かれ、健太郎達は彼らの村へと足を踏み入れた。
 村には鼠返しのついた木造の高床式倉庫の様な建物が十数軒立っており、どうやらそれが彼らの住居の様だ。
 ただ住居はあったがそこに人の姿は無く、開け放たれた扉から覗く室内にはテーブルにコップが残されていた。

「コホーッ」

 何か、突然人の消えた難破船の話を思い出すなぁ。

「なんだいそれ?」
「コホーッ」

 俺の世界での事なんだけど、外洋を航行中の船から生活の痕跡、食べかけの食事とかを残して船員だけが消えたって話があったんだよ。

「へぇ……確かに大きさの割に人が少ないねぇ」

 ミラルダは森に向かって行く蜥蜴人達を見てぼそりと呟く。

「プシュプシュ、そいつはあんたらの所為じゃよ。正体不明の大きな物が飛んで近づいて来たから、女子供は近くの洞窟へ避難したんじゃ」
「コッ、コホー……コホー」

 あっ、俺の所為か……申し訳ない、脅かすつもりは無かったんだ。

 健太郎がペコリと頭を下げるとノッフリはプシュプシュと再度鼻をならした。
 どうやら笑っているらしい。

「お前さん、本当に中身は人間なんじゃなぁ……」
「すまないね。あたし等はミシマが色々変形するのに慣れっこになっちまってて……」
「確かにあんな大きな鉄の船が空を飛んで近づいてきたら、ビックリするよね」
「うむ、長年語り部をやっておるが、あんな物を見たのは初めてじゃ。ほれ、ここじゃ、遠慮せずに上がってくれ」

 ノッフリは住居の一つの前で足を止め、木で出来た階段を上り健太郎達を手招く。
 彼に続いてその家に入ると、玄関の先には上がり框があり、ノッフリは甕に入れられた水で足を洗って、その甕に掛けられた布で拭いてから家に入った。
 どうも土足禁止の様だ。

 健太郎も彼に倣い、足を洗うと布で拭いてノッフリの後を追う。
 ミラルダ達は靴を脱いでその後に続いた。

 玄関から廊下が伸び、その左右にはドアが幾つか並んでいる。
 ノッフリはその廊下を進んだ先、真正面の部屋へと健太郎達を導いた。
 板の間の部屋の真ん中には四角く囲炉裏が作られ座布団の様な物が並べられていた。
 部屋の奥側にノッフリが座り、健太郎達に対面に座る様に促す。



「さて、それでこの島で起こっている事なんじゃが……」

 全員が板の間に腰を落ち着けたのを見て、ノッフリが話を始めようとしたと同時にドスドスと足音が響き赤い鱗の蜥蜴人が部屋に現れた。

「シャアアアア、プシュ、プシャアアアアッ!!」
「プシャ、シャアア、プシュ」

 その大柄の蜥蜴人は言葉は分からなくても苛立っている事が窺える。

「プシュ、プシャアアッ!!」

 赤い鱗の蜥蜴人はノッフリに何か言い放つと健太郎達を睨みつけながら、囲炉裏の奥、ノッフリの隣へドカッと腰を下ろした。

「ふぅ……この男は村長のリゴリガじゃ。語り部の儂がお前達を勝手に村へ入れた事が気に入らんそうじゃ」
「はぁ……そうかい。それで村長さんはなんだって?」

「プシュプシュ、シャアアアアッ」
「プシュ、プシャアアア」

 恐らく会話を通訳しているのだろう、ノッフリは健太郎達と話すたびに鼻と喉を鳴らしリゴリガに話しかけている。

「話を聞いて、お前さん達を見定めるそうじゃ」
「あの、ノッフリさんは村長さんより、その……」

 イレーネが聞きづらそうにチラチラと二人の蜥蜴人を見比べながら話すと、彼女が何が聞きたいのか察したノッフリが口を開いた。

「この村のリーダーはリゴリガじゃ。儂はただこの村で一番の年寄りというだけじゃよ」
「あっ、そうなんですね……」

「シャアアア、プシプシ」
「プシュ、プシュ、シャアアアア」

「ふむ、ではこの島の現状を話すとしようか」

 そう言うと、ノッフリはリゴリガへの通訳を交えつつ、フェンデアで起こっている事を話し始めた。

 事の起こりは一年程前、一匹のヒドラが蜥蜴人が崇める聖地、龍穴に住み着いた。
 勿論、聖地を奪われる形となった蜥蜴人達は部族の垣根を超えて協力、ヒドラを討伐する為、戦士たちを送り込んだ。
 しかし、龍穴から力を得たその八つ首のヒドラはとても強力な上、首を落としても即座に回復する程、再生能力に長けていた。
 結果、送り込んだ戦士たちは敗れ、残らずヒドラの糧となってしまった。

 更に、ヒドラは子を産み、その生んだ子供達を島の中央にある龍穴から周囲に放ち、それぞれの部族が守護する小龍穴、小さなエネルギーの淀みに居座らせた。
 その子供のヒドラも親と同じく再生能力が高く、精鋭の戦士たちを失った蜥蜴人達では排除出来なかったそうだ。

「プシュ……神事が行えないだけでなく、大地の力を吸ったヒドラ共は人も獣も関係無く襲い始めておる……奴らがさらに増える事になればこの島は……」

「コホー……」

 龍穴の力を奪うか……俺達の目的はそもそもそれだったんだけど、ヒドラが先にやっちゃったって訳だ。

「みたいだねぇ……それで、そのヒドラを退治すりゃあいいのかい?」
「プシュ、シャアアア、プシュプシ。うむ、やってくれるじゃろうか? 勿論、引き受けてくれるなら族長に話を通してンネグラ族の戦士たちも協力しよう」
「……ヒドラか……首の再生は切断面を焼けば防げた筈だが……」
「シャアアア、プシプシ。その事は儂らも知っておる。じゃが戦士たちが松明で焼く暇を与えず彼奴は首を再び生やしたそうじゃ」
「斬っても瞬時に生えて来るってか……タイミングを合わせてもヤるのは骨が折れそうだな」

 ギャガンはチラリとグリゼルダに視線を向け、鼻に皺を寄せた。

「なら研究所で使ったミシマのデッカイバリスタで倒せばいいんじゃないの?」
「コホーッ!!」

 ランチャーモードか、確かにアレなら再生前に倒せそうだッ!!

「いや、奴らは龍穴の上に居座っているんだろう? だったらあまり大きな力を使うのは不味い。最悪、龍穴から力が溢れて火山の噴火の様な状態を引き起こす可能性がある」
「大きな力……シャアアア、シャシャッ」
「プシャアアアア、プシュ、シャアアアアッ!!」

 ノッフリから通訳されたのだろう、リゴリガが声を荒げ健太郎達を睨む。

「……リゴリガは聖地を壊すつもりなら出ていけと言っておる……儂もそれには賛成じゃ……儂らは巨獣様に聖地の守護を任されておる。失ったとなれば申し開きが出来ん……」
「巨獣……もしかしてベヒモスから龍穴を守る様に言われてるのかい?」
「シャアアアア、プシュプシュ。 うむ、巨獣様には遠い昔、飢えて絶滅寸前だった我らをこの島に導き救って貰った恩があるでな」
「コホー……」

 あいつ、そんな事もしてたんだ……。

「……ともかくよぉ、そのヒドラってのと戦ってみようぜ。グリゼルダ、確か剣に炎を纏わせる魔法があったよな?」
炎の刃フレイムブレイドか……そうだな……ギャガンの剣技と合わさればあるいは……」
「ちょっといいかしら?」

 健太郎達の話合いを黙って聞いていたイレーネがスッと右手を上げ口を開いた。

「プシュ……何だろうか?」



「何だか引き受ける流れになっているけど、成功した場合、何か報酬は頂けるのかしら?」
「ちょいとイレーネさん、交渉は取り敢えず困り事を解決してからって……」
「いいえ、ミラルダさん。あなたも冒険者なら仕事の線引きはするべきだわ。ノッフリさん、私はイレーネ、英雄トラスも所属していた冒険者ギルドの人間です」

 そう言うとイレーネは眼鏡をクイッと押し上げた。

「トラス様の……それでギルドとは何だね?」
「ギルドは彼女達の様な冒険者と呼ばれる者達。戦士、魔法使い、僧侶、盗賊等の戦闘、探索技術を修めた人達の互助組織です。基本、冒険者はギルドを介して仕事を受け、報酬を得る事で生活しています」
「シャアアアア、プシュプシュシュシュ。なるほど……だがトラス様は報酬など……」
「彼は人助けが趣味だったようですから。ですが一般的なギルド会員はそうではありません。タダ働きすれば生活に困窮してしまいます」
「報酬か……シャアアア、プシ、プシャアアア、プシュ」
「シャアアア、シャシャシャ、プシプシ」

 ノッフリはリゴリガと暫くプシュプシュと鼻と喉を鳴らし話合っていた。

「報酬は物でもいいのかね? ドワーフ達と取引しているような獣の皮や鉱石でも?」
「えっ、あのお金は無いのですか? こんな風な硬貨は?」

 イレーネは鞄から財布を取り出し銀貨を一枚翳してみせた。

「儂らは基本物々交換じゃ。ドワーフ達も最初はそれに似た物を差し出したが、最終的には銛や釣り針、生活の道具や武器等で取引する様になった」
「……おっ、お金の概念が無い……」

 ギルドはロックローズとのやり取りがあるなら、独自の貨幣があるのだろうと考えていたが、どうやらその予想は外れたようだ。

「クッ……これ程、未開の国だったなんて……」
「まッ、そういう事も含めて調査なんだろ?」
「……何もかも上手く行かない……こんなの初めてよッ!」

 ポンと肩を叩いたミラルダにイレーネは眉と口をへの字にしながら涙目で叫んだのだった。
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