紺碧のミシマ ~ホームレスだったけど異世界へ行ってロボットになったので俺は自由に生きる~ Vol.3

田中

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第十章 南洋の密林の島に八つ首の大蛇は存在した

金の流星群

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 蜥蜴人リザードマンの国フェンデア、そのフェンデアの中心、休火山カガネさんの山頂では転生者、ロバート・アンダーソン(ヒドラクイーン)が自らの子の一匹に精神を重ねていた。
 魔力と血の繋がりによって行われるそれは本体から意識が抜ける為、危険ではあったが北に放った子の一匹を倒した者の正体は確認しておく必要があった。

 ロバートの予想では敵が次に狙うのは北側に放ったもう一匹の子の筈だ。

 その予想は当たり、臭いによって敵が近くまで来ている事は感じられた。慣れ親しんだ蜥蜴人に混じり、異質な臭いが幾つか感じられる。
 その敵の強さ如何によっては、抹殺し後顧の憂いを絶つか、それとも逃亡を図るか決めなくてはならない。
 出来ればロバートは進化前の様に逃げ回る事はしたく無かった。

 強敵から逃げ出しコソコソと茂みに隠れ、敵の隙を伺い牙を突き立て毒を流し込む。
 そんなやり方は彼のプライドを常に刺激した。これは自分のやり方じゃない。本来の自分は強大な力を以て相手を蹂躙する事に喜びを感じていた筈だ。
 ビジネスマン時代の記憶、悔しそうなライバル達の顔を見て優越感を感じていた事を思い出す。

 あの頃の様に私はこの世界で敵を蹂躙するのだ。今度は金と情報の力ではなく身に宿った能力で!!

 そんな事を考えていたロバートが乗り移ったヒドラの鼻が、獲物の臭いの接近を嗅ぎつける。

「ジャアアア……(来たか……)」

 身を起こし臭いに視線を向けた先、黒豹の頭を持つ人型の生き物が青い筒型の金属を右手にぶら下げこちらに歩み寄っていた。

「ジャアアア?(何だアレは……魔法を放つ短杖ワンドか?)」

 進化のため移動を続ける中、人族が似たような物を使い魔法と呼ばれる超能力に似た物を使う場面は何度か目にしていた。
 しかしここは蜥蜴人達の聖地、奴らが魔法の様な無差別に破壊を撒き散らす物の使用を認めるとは思えないが……。

「ジャアアッ!?(何ッ!?)」

 ロバートは牙を剥いた黒豹が掲げた円筒が光の剣を作り出すのを見て驚き声を上げていた。

 余り人間に近づいた事は無いが、あんな武器は見たことが無い!? あれではまるで映画に登場する銀河で戦う騎士の剣ではないか!?

「んじゃ行くぜミシマッ!! フッ!!」

 そんなロバートの狼狽を他所に、黒豹は気合の声を上げ右足で地面を蹴った。
 その踏み込みはロバートが転生しこれまで見て来たどの生き物よりも速かった。
 ヴォーン、光の刃が低く音を立てながら真っすぐに自分に向かって来る。

「ジャッ、ジャアアアッ!!(ちっ、近寄るなッ!!)」

 ロバートは思わず八本の鎌首をもたげ、全ての口から口腔内の袋に溜められた毒を吐こうと身構えた。
 だがその毒が吐かれる直前に「ヴォーンッ!!!!」という音と共に首に熱さを感じ、意識は本体へと引き戻された。

"……死んだ? 馬鹿な八本の首を一撃で…………"

 どうする、どうする、どうする……あの黒豹とあの武器相手では、ヒドラの三倍程度の力しか持たないヒドラクイーンでは敵わないだろう。
 逃げるか? だが進化まで必要な力に手が届くのは間近だ。それに例え逃げたとしても、足の遅いヒドラクイーンでは追われた場合逃げきれないかもしれない。

 グルグルと考えが回り、やがて彼は結論を下した。

 迷った時、自分は常に、危険だが見返りの多い方に賭けてきた。

 黒豹が私を含めたヒドラの排除を考えているなら、そんな危険な存在は出来る限り排除しておきたい。

 その為には、このまま力を吸いエキドナに進化する、そして得た力で残った子をヒドラクイーンへと成長させる。
 更に成長したヒドラクイーン達に子を産ませヒドラの軍団を作り上げれば……。
 脳裏に浮かんだ進化先、エキドナの能力ならそれが可能な筈だ。

 そして仮に……エキドナになった自分が負けるとは思えないが、仮に敵がエキドナの能力を凌駕するのであれば、その時は子を囮にして撤退すればいい……魔獣の母の異名を持つ神蛇エキドナならどんな者の追跡も振り切れる筈……。

 ロバートはそう結論付けフェンデアの小龍穴に放ったヒドラ達に、カガネ山の自分の下へ移動する様に指示を出した。
 奴らがここに辿り着くまでにエキドナへの進化が間に合えば良し、間に合わなければヒドラ達を黒豹に一斉に襲い掛からせ時間稼ぎをしてもらう。

"大丈夫だ。私はこれまでも賭けに勝って来た"

 ロバートはそう自らを鼓舞し大地から湧き出る力に喰らい付いた。


■◇■◇■◇■


「ギャハハハハハッ!! スゲェ、スゲェぞミシマ、この剣がありゃお前ぇを叩き斬る事も出来そうだぜッ!!」
「ヴォーン……」

 俺で俺を叩き斬るって、一体どうやってだよ……。

 様々な身体強化、防御魔法をその身に掛けられたギャガンはグリゼルダの予想通り、一太刀でヒドラの全ての首を断ち切り、一撃で異形の大蛇を絶命させた。

「ギャガン、大丈夫か!?」

 その笑い声を聞いたグリゼルダ達がギャガンの下に駆け付ける。

「おう、問題ねぇ!」
「うわっ、ホントに一撃で倒したの!?」

 パムが首を麦の様に刈り取られたヒドラの死体を見て目を丸くしている。

「おう、振った瞬間、馬鹿でけぇ音がして剣が伸びてな。こいつがありゃ、成長した最古竜でも一撃でやれそうだぜ」

 グリゼルダ達と共にギャガンの下へと駆け付けた蜥蜴人達は、倒れたヒドラの死体を見てプシプシ、シャアシャアと鼻と喉を鳴らし興奮していた。

「凄いわねぇ……ねぇ、ギャガンさん、ミシマさん。中央の仕事を割り振っても受けて貰えるかしら」
「中央の?」
「ええ、同期から地獄の番犬ケルベロスが担当地域に出て困ってるって話が……」
「へへ、コイツなら地獄の番犬ケルベロスなんて一発だぜッ!」

 ギャガンは嬉しそうに光の剣を掲げてみせる。

「ヴォーンッ!!」

 ギャガン、もういいから放してよッ!!

「チッ、このまま、俺の腰に納めたいんだが……」
「ギャガン、それは剣じゃなくてミシマだよ」
「分かってるよぉ」

 ギャガンはそう言いながらも名残惜しそうに光る刀身に目をやり、おもむろに刃の生成を止めるとそっと地面に柄を置いた。

「ヴォーン……」

 ふぅ、このままコレクションの一本に追加されるかと思ったよ……。

「コホーッ」

 さてと、それじゃあ、小龍穴の力を抑えるってやつをやろうか。

 サーベルモードから人型モードにその身を変えた健太郎はミラルダに声を掛ける。

「だね。ラデメヒちゃん、小龍穴ってのはこの先かい?」
「はい。プシューッ、シャアアア、プシ、プシュ?」
「シャアアアアアア、プシュー、プシ」
「族長が自ら案内するそうです」
「了解だよ。んじゃいこうかみんな」

 族長テダハの案内で一行は地脈の力の吹き溜まり、小龍穴へと足を向けた。
 小龍穴の周辺、元は木の柵で囲まれていたであろう敷地内は、間伐が行われ規則的に大木が残された、さながら日本の神社の境内を思わせる佇まいだった。
 それもヒドラが踏み荒らしかなり荒れてしまってはいたが。

「プシューッ……酷いです。昔、一度、参拝に来た時はとても綺麗で清らかだったのに……」
「ヒドラは退治したんだし、みんなで直せばいいさ。なんだったら、あたし等も手を貸すからさ」
「ふぅ……また土いじりをさせられるのかよ……」
「まぁそう言うな。リーフェルドの時よりは楽な筈だ」
「なになに、リーフェルドってエルフの国だよねッ? そこで何かしたのッ?」
「ああ、ミシマが巨大化してな。よく分からない黒い弾を……」

 そんな話をしている内に一行は敷地の中心、白い砂の撒かれた小さな窪地に辿り着いた。

「シャアア、プシューッ、プシッ」
「ここが我らの守る聖地の一つ、小龍穴だ。ですッ」
「へぇ……確かになんか力が湧き出てるのを感じるねぇ」
「ああ、アーデンの地下迷宮で感じた物と種類は同じだが……あそことは違いここは消費されていない分、力が強いな」
「コホーッ!?」

 二人はそういうの感じれるのッ!?

「ああ、ミシマは感じないのかい?」
「コホー……」

 俺は……。

 うぅ、ここで何も感じないなんて言ったら、龍穴になんて入れて貰えないぞ……頑張れ、俺の体、今こそ小宇宙コスモを感じるんだッ!!

 健太郎が女神の闘士達の事を思い浮かべながら両手を前に突き出すと、その両腕が窪地を取り囲む煙突の様に変化した。

「コホーッ!?」

 何なの、コレッ!?

 健太郎の狼狽を他所に、煙突から小龍穴に渦巻いていた力が猛烈な勢いで立ち昇り、吹き上がった力はキラキラと黄金色に煌めく粒子となって大地に降り注いでいく。



 粒子が落ちた場所には緑が芽吹き、ヒドラに荒された森は枝葉を伸ばし失われた緑を復活させていった。

「プシッ、シャアアアッ!?」
「プシャアアア……」
「プシュ……綺麗です……」

「グッ、グリゼルダさんッ、これは一体何が起きてるのッ!?」
「……恐らくだが……この龍穴内部に溜まり圧縮されていた力を、生命力に変換し吹き出させたんだ……」
「生命力?」
「ああ、その証拠にここまでの移動の疲れが治まっているだろう?」
「そう言われれば……」

 グリゼルダに言われてイレーネは、感じていた足の痛みが消えているのに気付いた。

「癒しの光……」
「ああ、龍穴の力の利用はエルダガンドでも研究されてはいたが、いずれも軍事利用だった。こんな優しい、それに美しい物は見たことがない……」

 見上げたグリゼルダに釣られイレーネも空に目を向ける。
 金色の光は開けた聖地の空に流れ、それはまるで流星群のようだった。
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