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第十章 南洋の密林の島に八つ首の大蛇は存在した
イグアナ顔と魔獣の母
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フェンデアの北部、ンネグラ族の支配地域にいたヒドラを倒した健太郎達は、健太郎の変形で小龍穴に溜まった力を放出して、族長テダハの承認を得た。
内圧のかかっていた龍穴内の力を抜き、森を活性化させる力を示して見せたのだ。テダハとしても文句のつけようが無かったようだ。
そんな訳でテダハから協力の約束を取り付けた翌日、健太郎達は早速、聖地へ入る許可を得る為、健太郎のVTOLモードを使い他の蜥蜴人三部族の集落を訪れる事にした。
向かうのはミラルダとギャガン、ンネグラ族の族長テダハと護衛の蜥蜴人二人、そして通訳のラデメヒとその護衛オミノミの七人。
グリゼルダとパム、VTOLに乗ると酔ってしまうイレーネは留守番だ。
VTOLモードに変形した健太郎にテダハの護衛が槍を向ける等、多少のトラブルはあったが、ラデメヒが健太郎が最初に現れた時はもっと大きな空飛ぶ何かだった事や、健太郎がその気になればそもそも集落は無事ではない事を伝え、何とか槍を納めて貰った。
メンバーの選出については、ミラルダは鞄に入れたヒドラの首を運ぶ為、ギャガンは各部族の長にヒドラの排除を頼まれた時の戦闘要員として、その場合の強化魔法はミラルダが掛ける事になっている。
グリゼルダとパムが残ったのは、村に残るイレーネの護衛という位置づけだ。
イレーネは調査員として他の部族との接触も行いたい様だったが、それは問題が全て解決した後、ゆっくりやってもらうという事で納得してもらった。
そして現在、西部を支配するリルガ族の族長、ボムボミのいる集落の上に健太郎達はやって来ていた。
集落はンネグラ族の物と違い、背が低く幹の太い木にツリーハウスの様に作られた家で構成されていた。
西部は湿地帯が多く、木はその湿地帯に直接根を張る形で生えていた。
ツリーハウスはそんな湿地帯で暮らす為、リルガ族が考えた方法なのだろう。
「プシュ、プシャアアア、シャアアア、プシプシ」
「まずは儂がボムボミと交渉して集落へお前達が入れるよう話をつける。許しを得たら集落に呼び寄せよう。ですッ」
「了解だよ。えっと、じゃあ少し離れた場所に降りた方がいいねぇ……ミシマ、少し先の木のない大き目の池に降りれるかい?」
「バババババッ?」
集落の西側のアレだな?
「ああ」
「ババババババッ!!」
任せろッ!!
健太郎は集落の少し西側、茶色い水の溜まった池へとその身を下ろした。
池には無数のワニが泳いだり、岸辺で日向ぼっこしていたが、健太郎が爆音を立てて降りると慌てて水に潜り逃げ出した。
「ヴヴヴヴヴッ?」
ワニが一杯いたけど大丈夫?
「ミシマがワニがいたけど大丈夫かって聞いてるけど?」
「フフッ、ワニは私達にとってご馳走ですから、そうそう近づいては来ませんよ」
「ごちそう……」
「美味いのか、アレ?」
「はい、鳥に似たタンパクな味で、塩と香草を使って蒸し焼きにすると凄く美味しいです。北じゃ一部の川辺とかでしか捕れないので余り食べる機会はありませんが……」
そう言って微笑むラデメヒにテダハはプシプシと鼻を鳴らした。
「さっき言った様に、儂と護衛二人で集落へ向かう。許可を得たら護衛の一人を使いに寄越すからここで待機していてくれ。ですッ」
「了解だよ……それで泳いでいくのかい?」
「はい、水辺で暮らすリルガ族程ではありませんが、我々はどの種族も泳ぎが得意なんです」
ラデメヒの言葉が示す通り、VTOLのハッチから出たテダハ達三人は池に飛び込むと器用に尾を使い濁った水の中を魚のように泳いでいく。
「……見事なもんだ……水の中じゃあいつ等に勝てそうにねぇな」
「リザードマンの強みだねぇ……」
その後、族長テダハが自らが出向いた事でリルガ族の族長、イグアナ顔のボムボミと健太郎達は無事会う事が出来た。
蜥蜴人達は総じて表情は読みにくいが、ボムボミが明らかに懐疑的な事はラデメヒに通訳されるまでもなく、健太郎達にも感じ取れた。
しかしミラルダが健太郎の手を借りヒドラの首を取り出すと、ボムボミを筆頭にその場にいたイグアナ頭の蜥蜴人達は一斉に鼻と喉を鳴らし驚きと興奮の声を上げた。
「さすがに首を見せりゃあ信じざるを得ねえもんな」
「ラデメヒちゃん、西側の聖地、小龍穴にいるヒドラも退治するって伝えて貰えるかい?」
「分かりました。プシプシ、プシューッ、シャアアアア、プシャアア」
「シュシュ、プシュッ、ジャアアア、ブシュッ」
「……ありがたいが、儂らの土地にヒドラはいない。昨日、二体とも聖地カガネ山へ向かって去った。アレ等はいずれ狩らねばならんが……ですッ」
「去った……あたし等がヒドラを狩った事に関係が……?」
ミラルダが眉を顰める横でテダハが鼻と喉を鳴らし、ボムボミと言葉を交わしている。
ラデメヒの通訳によると、健太郎達を聖地に入れヒドラの討伐をさせる事にボムボミは最初は難色を示していたが、テダハはヒドラによって失われた戦士の数、民の数を持ち出し説得を続けた。
やがてボムボミも熱心なテダハの説得に折れ、健太郎達が龍穴に入る事を渋々ながら認めた。
それは異国人が聖地に入る事に対する忌避感というよりは、対立しているンネグラ族からの提案を飲む事に対する拒絶感が勝っている様だった。
「コホー……」
同じ国に住んでんだから、仲良くすればいいのに……。
「ホントだねぇ」
苦笑を浮かべたミラルダに「まったくだ」と頷きを返しながら、健太郎も苦笑を浮かべた。
■◇■◇■◇■
そんな感じで健太郎達が聖地に足を踏み入れる許可を貰う為、ンネグラ族の中央集落を出て二日後の夜。
パムは違和感を感じ、あてがわれた部屋に敷いた寝袋の中で目を覚ました。
部屋には同じく寝袋で眠るグリゼルダ、毛布にくるまったイレーネがスヤスヤと寝息を立てている。
「ねぇ、グリゼルダ。ねぇってばッ!」
「なんだパム……まだ暗いじゃないか?」
肩を揺すられ薄っすらと瞳を開けたグリゼルダは、眠そうに目を瞬かせながらパムに問い掛ける。
「なんだかおかしな感じなの。落ち着かなくて、胸の奥がざわざわする」
「……敵か?」
「ハッキリとは言えないけど、そうだと……」
パムが「思う」と告げる前に、轟音が響き、その轟音に混じり蜥蜴人達のシャアアアという悲鳴が集落の至る所から上がった。
バタバタと足音が響き、蜥蜴人がグリゼルダ達が眠っていた部屋の扉を勢い良く開く。
「シャアアア、プシュッ、プシャアアアッ!!!!」
その蜥蜴人は外を指差し、声を張り上げるとその場から駆け去った。
恐らくだが、逃げろ。もしくは協力してくれとでも言っていたのだろう。
「……イレーネを起こせ。私は様子を見に行く」
そう話しながらグリゼルダは鎖帷子を身に着け、腰に細剣を装備した。
「分かった。でも無理はしないでね……」
「ああ……パム、危険を感じたらイレーネを連れて逃げてくれ」
「了解だよ……」
不安そうに自分を見上げるパムの視線に気付き、グリゼルダは笑みを浮かべその頭を撫でた。
「心配するな。私は悪魔王の魔法も封じ込めた魔人だ。そう簡単にはやられんさ」
「……うん、そうだねッ!!」
微笑んだパムに頷きを返すとグリゼルダは泊っていたテダハの家を出て、周囲を見回した。
広場から見える集落を覆う木の柵が破壊され、都合、六体のヒドラが暴れている。
蜥蜴人達は戦士はヒドラに立ち向かい、女性や子供、老人は一部の戦士に先導され森に逃げ込んでいた。
族長の家にいた蜥蜴人達の戦士もそのどちらかに向かっている様で、
「チッ、小龍穴のヒドラを倒したのは早計だったか……」
「ヒドラを倒した……そうか、お前はあの黒豹の仲間か」
頭上から響いた声にグリゼルダは視線を上げる。
そこには腰から下が蛇体の異形の女が背中にから伸びる鳥に似た羽根を羽ばたかせこちらを見下ろしていた。
「まさか……エキドナ?」
「ほう、博識だな。まぁいい、ともかく貴様にはあの黒豹に対する人質となってもらうぞ」
「私を人質に? 魔人を舐めるなよッ!!」
エキドナ、魔獣の母と呼ばれる強力な魔物。この世界の歴史においても存在が確認され文献に残っているのは数回しかない化け物だ。
グリゼルダはそんな怪物、エキドナを睨み付け、額の角に魔力を集めながら頭の中で使う呪文の選定を終える。
「無駄だ。この身に魔法は効かん」
余裕の笑みを浮かべたエキドナの言葉を無視して、グリゼルダは額の角を輝かせた。
「極点の風よ、我が魔力に応え全ての物を凍り付かせよ、絶対零度」
「……天を巡る星々の輝き、空を求めた英雄を焦がした起源の光よ。我が魔力に応え全てを滅ぼせ、滅びの光」
絶対零度の詠唱に一呼吸遅れ二重詠唱を付いた、かつて悪魔王が使おうとした極大呪文をグリゼルダはエキドナに撃込んだ。
極低温の風が吹き荒れ、エキドナの体が一瞬で白く凍結、拘束し、続いて放たれた眩い光の生み出す超高温の爆風が二十メートル程の結界内で暴れ異形の蛇を焼いて行く。
「うぅ……流石に極大呪文の二重詠唱は無理があったか……」
ふらつき膝を突いて、空を見上げたグリゼルダの目が驚愕で見開かれる。
「馬鹿な……アレに耐える生物などいる訳が……」
確かにエキドナは魔法に強い耐性を持つと文献には書かれていた。しかしまさか極大呪文の重ね掛けに耐えるとは……。
「化け物め……」
「クククッ、いいねぇ。そう、その顔だよ。絶対に敵わない相手を見つめる絶望の瞳……やはり敗者を見下ろすのは至福だな」
「グリゼルダッ!!」
「グリゼルダさんッ!!」
声に視線を向ければ族長の家を飛び出したパムとイレーネが、膝を突いたグリゼルダに不安な視線を送っている。
「パムッ!! イレーネを連れて森に逃げろッ!!」
「クククッ、逃がすと思うのか? お前達は全員、黒豹に対する人質となるのだ」
「クッ、天を巡る、グフッ!?」
「グリゼルダッ!?」
「グリゼルダさんッ!?」
再び滅びの光を唱えようとしたグリゼルダの腹に、急降下したエキドナの拳が突き刺さる。
「クククッ、安心しろ、今は殺しはしない。何せお前達は大事な大事な人質だからなぁ」
「……パム……逃げる……んだ……」
その言葉を最後にグリゼルダの意識は闇に落ちた。
内圧のかかっていた龍穴内の力を抜き、森を活性化させる力を示して見せたのだ。テダハとしても文句のつけようが無かったようだ。
そんな訳でテダハから協力の約束を取り付けた翌日、健太郎達は早速、聖地へ入る許可を得る為、健太郎のVTOLモードを使い他の蜥蜴人三部族の集落を訪れる事にした。
向かうのはミラルダとギャガン、ンネグラ族の族長テダハと護衛の蜥蜴人二人、そして通訳のラデメヒとその護衛オミノミの七人。
グリゼルダとパム、VTOLに乗ると酔ってしまうイレーネは留守番だ。
VTOLモードに変形した健太郎にテダハの護衛が槍を向ける等、多少のトラブルはあったが、ラデメヒが健太郎が最初に現れた時はもっと大きな空飛ぶ何かだった事や、健太郎がその気になればそもそも集落は無事ではない事を伝え、何とか槍を納めて貰った。
メンバーの選出については、ミラルダは鞄に入れたヒドラの首を運ぶ為、ギャガンは各部族の長にヒドラの排除を頼まれた時の戦闘要員として、その場合の強化魔法はミラルダが掛ける事になっている。
グリゼルダとパムが残ったのは、村に残るイレーネの護衛という位置づけだ。
イレーネは調査員として他の部族との接触も行いたい様だったが、それは問題が全て解決した後、ゆっくりやってもらうという事で納得してもらった。
そして現在、西部を支配するリルガ族の族長、ボムボミのいる集落の上に健太郎達はやって来ていた。
集落はンネグラ族の物と違い、背が低く幹の太い木にツリーハウスの様に作られた家で構成されていた。
西部は湿地帯が多く、木はその湿地帯に直接根を張る形で生えていた。
ツリーハウスはそんな湿地帯で暮らす為、リルガ族が考えた方法なのだろう。
「プシュ、プシャアアア、シャアアア、プシプシ」
「まずは儂がボムボミと交渉して集落へお前達が入れるよう話をつける。許しを得たら集落に呼び寄せよう。ですッ」
「了解だよ。えっと、じゃあ少し離れた場所に降りた方がいいねぇ……ミシマ、少し先の木のない大き目の池に降りれるかい?」
「バババババッ?」
集落の西側のアレだな?
「ああ」
「ババババババッ!!」
任せろッ!!
健太郎は集落の少し西側、茶色い水の溜まった池へとその身を下ろした。
池には無数のワニが泳いだり、岸辺で日向ぼっこしていたが、健太郎が爆音を立てて降りると慌てて水に潜り逃げ出した。
「ヴヴヴヴヴッ?」
ワニが一杯いたけど大丈夫?
「ミシマがワニがいたけど大丈夫かって聞いてるけど?」
「フフッ、ワニは私達にとってご馳走ですから、そうそう近づいては来ませんよ」
「ごちそう……」
「美味いのか、アレ?」
「はい、鳥に似たタンパクな味で、塩と香草を使って蒸し焼きにすると凄く美味しいです。北じゃ一部の川辺とかでしか捕れないので余り食べる機会はありませんが……」
そう言って微笑むラデメヒにテダハはプシプシと鼻を鳴らした。
「さっき言った様に、儂と護衛二人で集落へ向かう。許可を得たら護衛の一人を使いに寄越すからここで待機していてくれ。ですッ」
「了解だよ……それで泳いでいくのかい?」
「はい、水辺で暮らすリルガ族程ではありませんが、我々はどの種族も泳ぎが得意なんです」
ラデメヒの言葉が示す通り、VTOLのハッチから出たテダハ達三人は池に飛び込むと器用に尾を使い濁った水の中を魚のように泳いでいく。
「……見事なもんだ……水の中じゃあいつ等に勝てそうにねぇな」
「リザードマンの強みだねぇ……」
その後、族長テダハが自らが出向いた事でリルガ族の族長、イグアナ顔のボムボミと健太郎達は無事会う事が出来た。
蜥蜴人達は総じて表情は読みにくいが、ボムボミが明らかに懐疑的な事はラデメヒに通訳されるまでもなく、健太郎達にも感じ取れた。
しかしミラルダが健太郎の手を借りヒドラの首を取り出すと、ボムボミを筆頭にその場にいたイグアナ頭の蜥蜴人達は一斉に鼻と喉を鳴らし驚きと興奮の声を上げた。
「さすがに首を見せりゃあ信じざるを得ねえもんな」
「ラデメヒちゃん、西側の聖地、小龍穴にいるヒドラも退治するって伝えて貰えるかい?」
「分かりました。プシプシ、プシューッ、シャアアアア、プシャアア」
「シュシュ、プシュッ、ジャアアア、ブシュッ」
「……ありがたいが、儂らの土地にヒドラはいない。昨日、二体とも聖地カガネ山へ向かって去った。アレ等はいずれ狩らねばならんが……ですッ」
「去った……あたし等がヒドラを狩った事に関係が……?」
ミラルダが眉を顰める横でテダハが鼻と喉を鳴らし、ボムボミと言葉を交わしている。
ラデメヒの通訳によると、健太郎達を聖地に入れヒドラの討伐をさせる事にボムボミは最初は難色を示していたが、テダハはヒドラによって失われた戦士の数、民の数を持ち出し説得を続けた。
やがてボムボミも熱心なテダハの説得に折れ、健太郎達が龍穴に入る事を渋々ながら認めた。
それは異国人が聖地に入る事に対する忌避感というよりは、対立しているンネグラ族からの提案を飲む事に対する拒絶感が勝っている様だった。
「コホー……」
同じ国に住んでんだから、仲良くすればいいのに……。
「ホントだねぇ」
苦笑を浮かべたミラルダに「まったくだ」と頷きを返しながら、健太郎も苦笑を浮かべた。
■◇■◇■◇■
そんな感じで健太郎達が聖地に足を踏み入れる許可を貰う為、ンネグラ族の中央集落を出て二日後の夜。
パムは違和感を感じ、あてがわれた部屋に敷いた寝袋の中で目を覚ました。
部屋には同じく寝袋で眠るグリゼルダ、毛布にくるまったイレーネがスヤスヤと寝息を立てている。
「ねぇ、グリゼルダ。ねぇってばッ!」
「なんだパム……まだ暗いじゃないか?」
肩を揺すられ薄っすらと瞳を開けたグリゼルダは、眠そうに目を瞬かせながらパムに問い掛ける。
「なんだかおかしな感じなの。落ち着かなくて、胸の奥がざわざわする」
「……敵か?」
「ハッキリとは言えないけど、そうだと……」
パムが「思う」と告げる前に、轟音が響き、その轟音に混じり蜥蜴人達のシャアアアという悲鳴が集落の至る所から上がった。
バタバタと足音が響き、蜥蜴人がグリゼルダ達が眠っていた部屋の扉を勢い良く開く。
「シャアアア、プシュッ、プシャアアアッ!!!!」
その蜥蜴人は外を指差し、声を張り上げるとその場から駆け去った。
恐らくだが、逃げろ。もしくは協力してくれとでも言っていたのだろう。
「……イレーネを起こせ。私は様子を見に行く」
そう話しながらグリゼルダは鎖帷子を身に着け、腰に細剣を装備した。
「分かった。でも無理はしないでね……」
「ああ……パム、危険を感じたらイレーネを連れて逃げてくれ」
「了解だよ……」
不安そうに自分を見上げるパムの視線に気付き、グリゼルダは笑みを浮かべその頭を撫でた。
「心配するな。私は悪魔王の魔法も封じ込めた魔人だ。そう簡単にはやられんさ」
「……うん、そうだねッ!!」
微笑んだパムに頷きを返すとグリゼルダは泊っていたテダハの家を出て、周囲を見回した。
広場から見える集落を覆う木の柵が破壊され、都合、六体のヒドラが暴れている。
蜥蜴人達は戦士はヒドラに立ち向かい、女性や子供、老人は一部の戦士に先導され森に逃げ込んでいた。
族長の家にいた蜥蜴人達の戦士もそのどちらかに向かっている様で、
「チッ、小龍穴のヒドラを倒したのは早計だったか……」
「ヒドラを倒した……そうか、お前はあの黒豹の仲間か」
頭上から響いた声にグリゼルダは視線を上げる。
そこには腰から下が蛇体の異形の女が背中にから伸びる鳥に似た羽根を羽ばたかせこちらを見下ろしていた。
「まさか……エキドナ?」
「ほう、博識だな。まぁいい、ともかく貴様にはあの黒豹に対する人質となってもらうぞ」
「私を人質に? 魔人を舐めるなよッ!!」
エキドナ、魔獣の母と呼ばれる強力な魔物。この世界の歴史においても存在が確認され文献に残っているのは数回しかない化け物だ。
グリゼルダはそんな怪物、エキドナを睨み付け、額の角に魔力を集めながら頭の中で使う呪文の選定を終える。
「無駄だ。この身に魔法は効かん」
余裕の笑みを浮かべたエキドナの言葉を無視して、グリゼルダは額の角を輝かせた。
「極点の風よ、我が魔力に応え全ての物を凍り付かせよ、絶対零度」
「……天を巡る星々の輝き、空を求めた英雄を焦がした起源の光よ。我が魔力に応え全てを滅ぼせ、滅びの光」
絶対零度の詠唱に一呼吸遅れ二重詠唱を付いた、かつて悪魔王が使おうとした極大呪文をグリゼルダはエキドナに撃込んだ。
極低温の風が吹き荒れ、エキドナの体が一瞬で白く凍結、拘束し、続いて放たれた眩い光の生み出す超高温の爆風が二十メートル程の結界内で暴れ異形の蛇を焼いて行く。
「うぅ……流石に極大呪文の二重詠唱は無理があったか……」
ふらつき膝を突いて、空を見上げたグリゼルダの目が驚愕で見開かれる。
「馬鹿な……アレに耐える生物などいる訳が……」
確かにエキドナは魔法に強い耐性を持つと文献には書かれていた。しかしまさか極大呪文の重ね掛けに耐えるとは……。
「化け物め……」
「クククッ、いいねぇ。そう、その顔だよ。絶対に敵わない相手を見つめる絶望の瞳……やはり敗者を見下ろすのは至福だな」
「グリゼルダッ!!」
「グリゼルダさんッ!!」
声に視線を向ければ族長の家を飛び出したパムとイレーネが、膝を突いたグリゼルダに不安な視線を送っている。
「パムッ!! イレーネを連れて森に逃げろッ!!」
「クククッ、逃がすと思うのか? お前達は全員、黒豹に対する人質となるのだ」
「クッ、天を巡る、グフッ!?」
「グリゼルダッ!?」
「グリゼルダさんッ!?」
再び滅びの光を唱えようとしたグリゼルダの腹に、急降下したエキドナの拳が突き刺さる。
「クククッ、安心しろ、今は殺しはしない。何せお前達は大事な大事な人質だからなぁ」
「……パム……逃げる……んだ……」
その言葉を最後にグリゼルダの意識は闇に落ちた。
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