紺碧のミシマ ~ホームレスだったけど異世界へ行ってロボットになったので俺は自由に生きる~ Vol.3

田中

文字の大きさ
53 / 94
第十一章 名誉騎士と宝石の角

魔人族の老婦人

しおりを挟む
 魔人の国、エルダガンドの首都、クーリエ。
 魔人以外の人種も多少暮らしているものの、人口二百万人のその殆どが魔人で構成された石造りの中層建築が立ち並ぶ街だ。

 以前、健太郎けんたろう達が訪れた時には王宮を目標としていた為、街の様子は殆ど見る事は出来なかったが、魔力灯が道路沿いに立ち並び、四角い石造りの建物がその両脇に並ぶ街並みは近世のヨーロッパを思わせた。
 クスベストの様に街を覆う高い城壁は無く、街の周囲に張られた二メートル程の金網と有刺鉄線が街と郊外を区分けている。

 街に入るには各地に繋がる道に設けられた検問所を通る必要があり、現在は不審者の立ち入りを制限しているようだ。
 その検問所の一つでミラルダ達は不審者として足止めを食っていた。

「だからあたし等はラーグの冒険者で、この街には仲間と依頼人の治療で来たんだって」

 ミラルダはギルド証を兵士に見せ、街に入りたい旨を再度説明した。

「それは承知している。だがラーグとは国交も無いし、先だって街の上空を怪しい光が駆け抜けるという騒ぎもあったばかりでな」

 そう言うと検問所の兵士はチラリと健太郎に目を向けた。
 その目には犯罪者を見る衛視の様に鋭い。

「あのゴーレム……先程、飛行機械から人型に変形したが……それに城詰の友人から聞いたが、彼は数ヶ月前、王宮をドラゴンの群れが襲った時に青いゴーレムを見たと言っていた……」
「あっ、青い、ゴッ、ゴーレムなんて何処にでもいるよッ」

 ワタワタと慌てふためくミラルダを見て、兵士の眼光は鋭さを増す。

「はぁ……あまり奴に借りは作りたくないが……我々は公娼のキュベル様の知り合いだ」
「キュベル様の?」
「ああ、嘘だと思うなら王宮に確認を取って貰って構わない。赤髪の半獣人、ミラルダとその一党が訪ねて来たとな」

 平然とキュベルの名前を口にした同族の女に、兵士は少し怯んだ様子を見せた。
 恐らくだが、王の妾の知り合いを足止めした事で受ける叱責の事を考えたのだろう。

「ふぅ……分かった。通っていい。ただし今、街は光の所為で臨戦態勢だ。何か問題を起こしたら即、牢屋行きだからな」

 兵士は王宮に確認を取り叱責を受けるよりも、脅す事で健太郎達の行動を縛る事にしたようだ。
 兵としては問題ありだが、こちらとしては事が大きくならずにすんで助かった。

「了解した。みんな聞いた通りだ。問題は起こすなよ。特にクルス」

 グリゼルダは宇宙戦艦モードの健太郎の主砲のスイッチを押したクルストに視線を送る。

「分かっておるのぢゃ……もう、お仕置きはコリゴリなのぢゃ」
「そうだ。あの女は怒らすな」
「……うぅ……恐ろしいのぢゃ……」

 クルストは撃たれた主砲にはしゃいでいた所を、艦首に戻ったミラルダに見つかり、彼が何をしたかグリゼルダから聞いたミラルダに血流魔法を使ってお仕置きをされていた。
 さんざん足を突き「二度と悪戯はしません」クルストからそう言質を取ったミラルダに、ギャガン達は完全に引いていた。

「リグ、お前もクルスを見張っておいてくれ」
「……ああ」

 国王の孫、リグナリオもミラルダを止めようとして睨まれた所為か、当初の王族の奢りの様な物は鳴りを潜めていた。

「……面倒な仕事のようだな?」
「問題児が多くてな」
「お前もその一人だろうが」
「うるさいぞ、ギャガン」
「ともかく、クーリエにようこそ。通っていいぞ」

 兵士が合図すると詰め所横、道を塞いでいた木のバーが上がる。

「では行こうか」
「魔人の国……楽しみぢゃ」
「クルス、さっきグリゼルダが言ってたけど、はしゃいで変な事しちゃ駄目だよ」
「しつこいのぢゃッ! もう悪さはしないのぢゃッ!」

 パムの言葉にプイッと顔を背け、クルストはバーが塞いでいた道を駆け出した。

「あッ、お爺様、待って下さいよッ!!」

 それを追ってリグナリオも走り出す。

「コホー……」

 やれやれだぜ……。

 健太郎は人気漫画の第三部主人公よろしく、そう呟くと王族二人を追って駆け出した。


■◇■◇■◇■


「師匠の情報じゃ、ここだね」

 あの後、クルストを捕まえた健太郎はその身をトラックモードに変え、クーリエの街を走りミラルダの師匠、幽霊のレベッカから聞いた魔人カルディナが住んでいるという家の前に到着していた。
 道中にはクルストが運転席に座りたがったりと、ちょっとした騒ぎもあったが、ミラルダの睨みで何とか事無きを得た。

 カルディナの住む家は大都市クーリエでも人通りの少ない、高台にある閑静な住宅街にあった。
 家は白壁の四角い建物で、道に平行する形で階段が作られ、その階段を上った先が玄関の様だ。
 建物には四角い窓が幾つか設けられ、その窓には花の植えられた植木鉢が並んでいる。

「そういえば、ミラルダはカルディナって人と面識はあるの?」
「いや、ただ、師匠と手紙のやり取りはしてたみたいでねぇ。封書の署名で名前だけは知ってるよ」
「トラスのパーティーメンバー、魔人カルディナか……彼女もレベッカ同様、様々な伝説を持つ人物だが……」
「エルダガンドにいたのに会おうとは思わなかったのか?」

 ギャガンは健太郎が変形したトラックから降りながら、グリゼルダに尋ねる。

「この街には二百万人が暮らしている。有名人であっても住所を公表している訳じゃないからな。会いたくても会えないさ」
「そう言われればそうか……」
「魔人の婆さんより、街を探検したいのぢゃ」
「お爺様、ここは異国です。護衛も無しにウロウロするのは賛成できません」
「護衛なんていらんのぢゃッ!」

 両手を振り上げるクルストを宥めながら、リグナリオも彼を促しトラックを降りる。
 全員が降りたのを確認して健太郎が人型に姿を変えた。
 その後、ミラルダが代表して階段を上り、木製のドアに設置された梟を模したノッカーをコンコンと響かせた。

『どちら様?』

 声はそのノッカーから聞こえて来ていた。見ればノッカーを咥えた梟の瞼が開き、黒い瞳がミラルダを見つめている。

「あの、あたしはミラルダ。ここはカルディナさんの家で間違いないでしょうか?」
『ミラルダ? もしかしてレベッカの?』
「はっ、はいッ! レベッカはあたしの師匠ですッ!!」
『……その紫の帽子にマント……懐かしいわね……いいわ、入って頂戴』

 そうノッカーが答えるとガチャリと鍵の開く音がした。

「あの、仲間も一緒にいいでしょうか?」
『仲間、何人かしら?』
「あたしも含めて七人です」
『七人……リビングじゃ手狭ね……いいわ、真っすぐ進んでそのまま庭に出て頂戴』
「わ、分かりました」

 ミラルダは振り返り、道で彼女を見上げていた健太郎達を手招きすると、ドアノブを回しドアを押し開けた。
 家の中は天窓から光を取り込んでおり明るく、その明るい廊下の先には芝生の生えた庭と街の景色が見えた。
 庭に続く扉から吹き込んだ風がミラルダの赤い髪を揺らす。

『庭にテーブルと椅子があるから、そこに座って少し待って。お茶を持ってすぐ行くわ』
「あ、はい……」
「……ベルドルグで使った移像トランスヴィジョンの応用だな」
『正解よ、あら、あなた…………』

 カルディナだろう、声はグリゼルダに気付き一瞬黙り込んだが、その後すぐに彼らに庭に向かう様、再度促した。

 その声に従い向かった庭からは首都クーリエが一望出来た。
 街の中央には竜達と一緒に襲撃した王宮の姿も見える。

 そういえばビビ達やシャーリアは元気でやっているだろうか。

白い石づくりの手すりに手を突き、健太郎が街を眺めながら知り合いの魔人族と人に姿を変えた竜の事を思い出していると、背後から落ち着いた女性の声が聞こえて来た。

「ようこそ、ミラルダ。そしてその仲間の皆さん……聞きたい事は分かってるわ。角の事ね?」



 ティーポットと人数分のカップを魔法で浮かせた、その青い髪の老婦人はグリゼルダに視線を送り優しく微笑んだ。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。 国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。 でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。 これってもしかして【動物スキル?】 笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~

ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国の辺境で、ただ静かに生き延びたいと願う少年、ヴァン。 彼に正義感はない。あるのは、前世の記憶と、母が遺した『物理法則を応用した高圧魔力』という危険な理論だけだ。 敵の大軍が迫る中、ヴァンは剣も振るわず、補給線と心理を切り裂く。 結果、敵軍は撤退。代償も、喝采も、彼には無意味だった。 だが、その「効率的すぎる勝利」は帝国の目に留まり、彼は最高峰の『帝国軍事学院』へと引きずり出される。 「英雄になりたいわけじゃない。生き残りたいだけだ」 謎の仮面メイド『シンカク』、命を取引に差し出した狼耳の少女『アイリ』。 少年は選択する。正義ではなく、最も費用対効果の高い道を。 これは、合理が英雄譚を侵食していく、学園ミリタリーファンタジー。 【※作者は日本語を勉強中の外国人です。翻訳ソフトと辞書を駆使して執筆しています。至らない点もあるかと思いますが、物語を楽しんでいただければ幸いです。】

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

『スローライフどこ行った?!』追放された最強凡人は望まぬハーレムに困惑する?!

たらふくごん
ファンタジー
最強の凡人――追放され、転生した蘇我頼人。 新たな世界で、彼は『ライト・ガルデス』として再び生を受ける。 ※※※※※ 1億年の試練。 そして、神をもしのぐ力。 それでも俺の望みは――ただのスローライフだった。 すべての試練を終え、創世神にすら認められた俺。 だが、もはや生きることに飽きていた。 『違う選択肢もあるぞ?』 創世神の言葉に乗り気でなかった俺は、 その“策略”にまんまと引っかかる。 ――『神しか飲めぬ最高級のお茶』。 確かに神は嘘をついていない。 けれど、あの流れは勘違いするだろうがっ!! そして俺は、あまりにも非道な仕打ちの末、 神の娘ティアリーナが治める世界へと“追放転生”させられた。 記憶を失い、『ライト・ガルデス』として迎えた新しい日々。 それは、久しく感じたことのない“安心”と“愛”に満ちていた。 だが――5歳の洗礼の儀式を境に、運命は動き出す。 くどいようだが、俺の望みはスローライフ。 ……のはずだったのに。 呪いのような“女難の相”が炸裂し、 気づけば婚約者たちに囲まれる毎日。 どうしてこうなった!?

処理中です...