紺碧のミシマ ~ホームレスだったけど異世界へ行ってロボットになったので俺は自由に生きる~ Vol.3

田中

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第十一章 名誉騎士と宝石の角

カーバンクルの願い事

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 崖を西に迂回する形で登った先、周囲は雪に覆われ、洞窟の入り口近くだけが噴き出す暖かい空気の所為か、雪が溶け地面がむき出しになっていた。

 カルディナの話ではロビー山脈にはウェンディゴという怪物も生息しているらしい。
 吹雪や寒さ以外にも魔物についても警戒するに越した事はないだろう。

 健太郎けんたろうが周囲を見回していると、茶色の防寒具を着たミラルダが腕を擦りながら白い息を吐いた。

「うぅ、防寒具を着込んでるけど、流石にそれでも堪えるねぇ」
「くしゅんッ! ふぅ……大分登ったからね……ミシマ、ミシマはいつも通りだけど寒くないの?」
「コホーッ」

 俺は一定以上の熱さ寒さは感じないんだ。今は涼しいって感じだよ。

 健太郎の言葉をミラルダがパムに伝えると、彼女は多少羨ましそうに健太郎を見た。

「……便利な体だねぇ」
「凄いのぢゃッ!! こんなにフカフカの雪を見たのは初めてなのぢゃッ!!」
「お爺様ッ!! そんなに駆け回ってはお体に障りますッ!!」
「……王様は元気だねぇ」
「感覚も子供に戻っているのだろう……治療後に体に負担が出なければいいが……」
「そういう事ってあるの?」

 不安げに問い掛けたパムにグリゼルダは頷きを返す。

「戦闘で興奮している時、パムも怪我の痛みを忘れた事があるだろう?」
「まぁね」
「あれと同じで今、クルスは自分を子供だと思っているから平気なのかもしれん。自分が老人であると認識すれば……」
「そんときゃ、角を治したお前が魔法を掛けてやりゃあいい。それで洞窟には誰が入る?」

 ギャガンはそう言うと一行を見回した。

「大勢で入るとカーバンクルが警戒するかもしれん。出来るだけ人数を絞った方がいいだろう……私とビビと……」
「あのー、私もご一緒してよろしいでしょうか?」

 控え目に手を上げたのたはシャーリアだった。

「シャーリアが? でもあんたは基本、食べる事以外、何も出来ないじゃないっスか?」
「たっ、確かに家事も料理も出来ませんけど、相手が魔物ならちょっとはお役に立てますッ!」
「……シャーリア、何が出来るんだ?」
「人になりましたが、一応、元竜なので弱い魔物は威圧で動かなくさせる事が出来ますッ!」
「ホントっスかぁ?」
「ビビさんは私への評価が低すぎますッ!!」

 ブンブンと両手の拳を振るシャーリアを、ビビはジトッとした目で見つめ返している。

「ふむ……では三人で入るとしよう。私とビビは魔力で呼び掛けながら進むから、シャーリアはカーバンクルが逃げるようならその威圧とやらで止めてくれ。ミシマ、カーバンクルはまだ洞窟にいるんだな?」
「コホーッ」

 いるよ。ただ、洞窟の奥に移動したからこっちの存在には気付いていると思う。

 健太郎が黒板にそう書くと、グリゼルダは分かったと頷きを返した。

「では行って来る」
「もし他の魔物がいたらすぐに呼べ」
「ああ、その時はよろしく頼む」
「予も行きたいのぢゃッ!」
「お爺様、洞窟は危険です。あとでグリゼルダにカーバンクルに出て来てくれる様、交渉してもらいましょう」
「そうだね。グリゼルダ、ほんの少し姿を見せて貰えるだけでいいんだけど、頼んでみてもらえるかい?」
「……頼むだけは頼んでみよう」

 苦笑を浮かべ頷きを返すと、グリゼルダはビビとシャーリアを連れて暖かい風の噴き出す洞窟へ足を踏み入れた。
 洞窟の内部はカルディナが話していた様に、沢山の植物が繁茂していた。
 地熱の暖かさと、天井を突き破る形で生えている無数の水晶が陽光を取り込み、洞窟とは思えないほど明るい。

「ふぅ……防寒着を着ていると暑いくらいだな……『カーバンクル!! いるかぁ!? 話を聞いて欲しいッ!!』」

 羽織った上着の前を開けて、グリゼルダは魔力を乗せた声を張り上げる。

『角が折れて困ってるッス!! 何でも困り事を引き受けるんで、顔を見せて欲しいっス!!』

 洞窟に声が木霊し、やがてそれも消える。
 やがて洞窟に生えた木の木陰から緑の体毛に大きな耳、そして額にルビーの角を生やした獣が顔を出した。

「わふわふ(何でもって本当?)」
『ああ、我々に出来る事なら何でもしよう』
「わふわふ(じゃあ、この前、掴まっちゃった子を取り返してほしいの)」
『捕まった? まさか激レアなカーバンクルが捕まるなんて事が……』
「わふわふ……わふ……わふわふ(いやしんぼだったから、落ちてたお肉を食べて……そしたら動かなくなった……それを黒い服を着た人間が連れてったんだよぅ)」

 グリゼルダはカーバンクルの話から思考を巡らせる。
 恐らく肉に薬が仕込まれていたのだろう。

『動かなくなったって、死んだって事っスか?』
「わふわふ(死んでない。でも動かない……子供、取り返してくれる?)」
「……どうするっスか、グリゼルダ?」
「取り返すしかないだろう……『連れていかれたと言ったが、現場はここか?』」
「わふわふ(違う、別のトコ。怖かったから引っ越しした)」
『その場所が知りたい……なぁ、近づいてもいいか?』

 グリゼルダの言葉に怯えたカーバンクルは、後ずさりを始めた。

「待ちなさいッ!! 私達は何もしませんッ!!」

 シャーリアが突然、声を張り上げるとカーバンクルはビクリと体を震わせ動きを止めた。
 先程言っていた威圧という奴だろう。

「あまり長くは持ちません。近づくならお早く」
「すまんな、助かった」
「ホントに出来るんスねぇ」
「だから言ったじゃないですかッ!」

 再度、ビビに両手の拳を握り抗議するシャーリアを横目に、グリゼルダは金縛りにあっているカーバンクルに歩み寄った。

『すまない。ただ、お前の記憶を覗かせて欲しかったんだ……見てもいいか?』



 カーバンクルの前に膝を突き、グリゼルダは静かに問い掛けた。

「グリゼルダ、いくら動物でも他者の記憶を覗くのは……」
「少しでも手掛かりが欲しいんだ」

 禁忌を口にした事で眉根を寄せたビビに、グリゼルダはそう言って首を振った。

「わふ……?(怖い事しない……?)」
『ああ、しない。子供が攫われた時の記憶を思い出して貰えれば……何処で起きたか、その情報が欲しいだけだ』
「わふわふ?(思い出せばいいんだね?)」

 ああ、そう言って目を閉じたカーバンクルの額から伸びた角に、グリゼルダは自身の角を重ね合わせる。

 流れ込むカーバンクルの記憶と感情。
 子供だろう少し小さなカーバンクルが嬉しそうに何処かから見つけて来た骨の付いた肉を食べ、その数分後にはピクピクと痙攣し動かなくなった。
 驚き、悲しみ、恐怖。その時、カーバンクルが感じただろう感情がグリゼルダの中に流れ込む。

 彼は数時間、家族と共に我が子を舐め、回復を願ったが子供が立ち上がる事は無かった。
 やがて彼の耳と鼻は異物の接近を感じとった。子供をくわえ逃げるべきか、ほんの数瞬考える。
 出た答えは否。子供は自分とほぼ変わらない大きさまで成長している。くわえて逃げては異物から逃げきれないかもしれない。

 仕方なく彼は動けなくなった子を置き去りにして、姿隠しを使い家族と共に後ろ髪を引かれながらねぐらである洞窟を後にした。
 チラリと振り返った先には、黒い服の人間が我が子を抱え上げる姿が遠く見えた。

 その後、記憶は洞窟を抜け出て雪の上を走り、新たな住まいへ辿り着いた所で途切れた。

「ふぅ……」
「大丈夫っスか、グリゼルダ?」
「ああ……『辛い記憶を思い出させた……』」
「わふわふ(いい。あの子が戻れば辛くなくなる)」
『必ず、子供を取り戻すと誓おう』
「わふわふ(うん、待ってる)」
『あっ、そうだ。仲間に顔を見せて貰っても構わないか?』

 カーバンクルは思案する様にグリゼルダの顔を見上げていたが、やがて「わふ(いいよ)」と一声鳴いた。

 その後、カーバンクルはグリゼルダ達と共に健太郎達の待つ洞窟の入り口に姿を見せ、テンションの上がった健太郎とクルスに怯えながらも、二人に撫でられる事になった。

 十分にカーバンクルのモフモフを堪能した健太郎は、グリゼルダの説明でカーバンクル達が元々暮らしていた場所に向かう為、VTOLモードへと変形した。

『痕跡を探ってくる。最悪、あの青いゴーレムモドキ、ミシマが星の目で見つけてくれる筈だ』
「わふ? わふわふ(星の目? よく分かんないけどお願い、あの子に会いたいんだ)」
『ああ、任せろ』

 グリゼルダは洞窟の入り口で見送るカーバンクルの頭を優しく撫で、健太郎が変形したVTOLへと乗り込んだ。

 空に飛び立つVTOLをカーバンクルと木立に隠れた黒い服を着た魔人の男が見上げていた。
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