紺碧のミシマ ~ホームレスだったけど異世界へ行ってロボットになったので俺は自由に生きる~ Vol.3

田中

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第十二章 二人の転生者

健太郎とオーガ

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 ダークエルフの国、レミリシア。その中央集落から逃げたオーガ他、異種族の混成部隊はそれぞれの種族に分かれ南部の集落に点在する形で身を潜めていた。

「どうするんだよ、シグラ? このままここでじっとしてる訳にもいかないぞ」
「分かってる。だが中央へ帰っても……」
「はぁ……八方ふさがりかよ」

 赤銅色の肌の鬼が二人、顔を顰めて集落の中でも一番大きな家の中で顔を突き合わせため息を吐いていた。
 戻れば殺される。さりとて進んでも同じ形のゴーレムがいる。
 タカギの力を嫌というほど見て来たオーガ達は、完全に同じ形をした健太郎を見て戦う前から戦意を喪失していた。

「他の種族の奴らはどうしてる?」
「俺達と同じだよ。行くに行けず戻るに戻れず、エルフ共の家に隠れて怯えながら過ごしてるよ」
「……こうなったら北へ逃げるか? エルフ共を脅して船を作らせて……」
「あの青いのの目を盗んでか? へっ、蒸発する未来が見えるぜ」

 長年の戦友であるボードルの言葉に船舶製造隊、副隊長のシグラも諦め交じりの苦笑を浮かべる他、無かった。
 そんな二人の耳にゴウンゴウンという聞き覚えのある音が聞こえて来る。

「こっ、この音はッ!?」
「追って来たのか……」

 二人は顔を見合わせると、同時に立ち上がりそれぞれの得物を手に家から飛び出した。
 空には予想通り、あの時に見た青黒い空飛ぶ船が浮かんでいる。
 集落の家からは音を聞いたのだろう部下達が武器を片手に飛び出して来ていた。

「あっ、アレはあの時の……」
「もう終わりだ……」
「畜生ッ、降りて来いッ!! やるなら馬鹿デケェ飛び道具じゃなくて剣で戦えッ!!」

 ただただ震える者、諦める者、戦いを望む者。
 様々な反応をする者がいたが、彼らの心に浮かんでいたのは例外なく、自分は死ぬだろうという思いだった。
 そんな彼らの予想に反して船からは攻撃は無く、ただ一筋、光が伸びて集落に人影が現れただけだった。

「アレはガルガジャ隊長……生きていたのか……」
「後ろにいるのはあの時の獣人?」

 騒めくオーガの兵士達に向かって、現れたガルガジャはスゥーと息を吸い大声を張り上げた。

「聞けッ!! 勇ましきオーガの戦士たちよッ!! 天に浮かぶ鉄の船の名はミシマッ!! 我らが王と呼んだ暴君タカギと同じ力を持つゴーレムだッ!! ミシマはタカギに逆らえず、意に反して動かざるを得ない我らの窮状を見て、タカギと戦うと約束してくれたッ!! 俺はミシマに付くッ!! 出来るならお前達にも協力して欲しいッ!!」

 声は集落中に木霊した。兵達は困惑し互いに顔を見合わせガルガジャの言葉について囁き合っている。
 そんな中でシグマとボードルはいち早く混乱から回復し、ガルガジャの下へ駆け寄った。

「隊長、さっきの話は本当なんですか? あの青いゴーレムは本当に王を?」
「シグマ、奴を王などと呼ぶな。奴は先王を殺し地位を略奪した……そう簒奪者に過ぎん」
「先輩、青いゴーレム、ミシマでしたっけ? 奴は信用出来るんですか? もしかしてタカギに成り代わって大陸を支配するつもりじゃ……」
「ミシマは絶対にそんな事はしないよ」
「そうだよッ!! この国に来たのだって、攫われたダークエルフの男の子を送って来ただけなんだからッ!!」

 ボードルの言葉をガルガジャの後ろで聞いていた赤い髪の半獣人と、栗色の髪の子供が次々に声を上げる。

「出会って僅かだが、こいつ等の言っている事は本当だと思う……でなければ、集落で見たダークエルフの子供がこいつ等にあんなに懐く訳がないからな」
「ガキが懐いたぐらいで信用するんですか?」
「……なぁ、このままタカギの下で戦ってそれでお前ら満足か? 機嫌を損ねればいつ殺されても分からないような日々を送りたいのか?」
「それは……しかし、同じ力を持ってても同格じゃあ……」

 やはりそこがネックになるか。ガルガジャは副隊長のシグマの言葉を聞いて健太郎を見上げた。

「ミシマ、降りて来てくれッ!!」
「隊長ッ!?」
「大丈夫だ」

 前回と同じく、空中でその身を人型モードに変えた健太郎けんたろうはクレータを作り、土煙を上げながら大地に落下後、ユラリと立ち上がり親指を立てた右手を突き出した。

「コホーッ!!」

 どーも、オーガのみんなッ!! 一回、挨拶はしたけど元ホームレスで今はロボットの冒険者。三嶋健太郎みしまけんたろうだよッ!! よろしくねッ!!

 鳴り響いた呼吸音にオーガの兵士はシグマ達も含め顔を引きつらせる。
 それも仕方のない事だろう。赤いゴーレムのタカギは、現在集落にいるオーガを次の瞬間には全滅させられる力を持っているのだから。

 だが、青黒いそのゴーレムは呼吸音の後、何をするでもなくごく自然にガルガジャに歩み寄った。
 思わず後退るシグマとボードルの前でゴーレムは小さな金属片にその姿を変えた。
 呆気に取られる二人を横目にガルガジャは金属片を拾い上げ、パカッとそれを開いた。

「隊長、それは何ですかッ!? 危険な物じゃないんですかッ!?」
「これは携帯という異界の道具らしい。この形になればタカギの様に頭が割れそうな声ではなく、普通に話せるそうだ」

 そう言ってガルガジャが掲げた携帯がジリリリリリンっと着信音を鳴らす。
 その音にビクリッと体を震わせたシグマ達に苦笑しながら、ガルガジャは教わった通りに携帯を操作、スピーカーモードへと切り替えた。

『あーあー、コホンッ。改めまして俺はラーグの冒険者、三嶋健太郎だよッ!! よろしくねッ!!』

 携帯から聞こえた合成音声は何処か能天気で、死の恐怖を撒き散らせていたタカギとは違い気の抜ける物だった。

「こいつは……あのゴーレムが喋ってるんですか?」



「そうだ。みんな、ミシマの話を聞いてくれッ!! その上でこの賭けに乗るかどうか決めて欲しいッ!!」

 隊長だったガルガジャが平然と携帯を持っている事で、オーガの兵士達は恐る恐るではあるがガルガジャに近づいた。

『実はガルガジャと話して俺達はある作戦を立てた。その作戦にはみんなの協力が不可欠だ。中央の王城にいる君達の仲間を助ける為にも是非とも力を貸して欲しい』
「仲間を助ける? どういう事だ?」
「それは私から説明しよう」

 健太郎から言葉を引き継ぎ、額からルビーの角を生やした浅黒い肌の女が進み出た。

「誰だ、お前は?」
「私はグリゼルダ。北の大陸に住む魔人族の女でミシマの仲間だ」
「仲間……無敵のゴーレムに仲間が必要か……?」
『グリゼルダはパーティーの知恵袋だ。彼女の存在はパーティーに絶対に欠かせない』

 話を聞いていたオーガ達に健太郎がタカギとは毛色が違うという認識が広がって行く。

「いいか作戦の概要はこうだ。タカギが支配している各地で反乱が起きたという事にする」
「反乱だとッ!? そんな事をすれば国ごと潰されるッ!!」
「一つの種族ならそうだろうな。だが同時に全部の種族が反乱を起こせばどうだ?」
「それは……さすがに陛下でも……」
「この作戦の目的は王城からなるべく人を遠ざける事だ。王城に残った将軍たちに仲間の不始末は自分で付けると言わせれば……」
「王城から人はいなくなる?」

 オーガの兵士の言葉にグリゼルダは笑みを浮かべ頷きを返した。

「出来れば王城を無人にしたいが、恐らくそれは無理だろう。そこで将軍たちが兵を連れ出払ったころあいを見て、ミシマが威嚇攻撃を仕掛ける」
「威嚇攻撃……何をする気だ?」
「先程の空飛ぶ船。アレには強力な射撃武器が装備されている。その武器の弾丸を王城上空を通過する様に発射する。伝え聞くタカギの性格なら無視出来ん筈だ」
「確かに陛下の性格なら、そんな物を見たら自分でどうにかすると言い出すだろう」
「……誘き出せたとしてミシマは勝てるのか?」

 グリゼルダを睨みつける様に眉を寄せ尋ねたシグラに、グリゼルダは不敵な笑みを浮かべた。

「知っているか? ラーグ王国の冒険者は臨機応変で百戦錬磨なんだ。ミシマは精霊王アトラを暴走させる事無く精霊界へ帰した。ある時は寄生生物に乗っ取られた巨獣ベヒモスを鎮め、またある時は神蛇エキドナをその身を剣に変え討ち取った……どうだ、どれも伝説の魔物だ。遠く離れた南の大陸でも名前ぐらいは聞いた事があるだろう?」

 笑みを浮かべながら自信満々に語るグリゼルダの話を聞いて、オーガの兵士達にざわめきが起きた。
 アトラにベヒモス、それにエキドナの名は見た事は無くても、ルミオン大陸でおとぎ話や伝説として伝わっている。

「仮にその話が本当だとしても、陛下も同じ事が出来るんじゃないか?」
「そうだッ!! 力が同じなら!!」
「臨機応変で百戦錬磨だと言ったろう? 確かにタカギの力があれば三体とも滅ぼす事は出来るだろう。だが被害を最小限に押さえてどうにか出来るか? 言いたい事は体の性能では無い。その体を操る者の知恵と勇気と優しさの話だ」

 オーガ達の目が一斉にガルガジャが持った青黒い携帯に集まった。

『みんな、俺を信じてくれないか。絶対に悪い様にはしないから』

 そんな間の抜けた言葉だったが、オーガ達は高圧的で力のみのタカギには無い魅力を健太郎に感じ始めていた。

「俺は乗ってもいい。確かに隊長の言う様に死の恐怖を感じながらタカギに仕えるのは無理だ。それにどの道このままでは帰る事さえ出来んからな」
「……はぁ……しゃあねぇ、俺も付き合うぜ」

 ガルガジャ、シグラ、ボードル、この隊に置ける上位三人が作戦に乗った事でオーガ達は次々と作戦への参加を希望した。

『ありがとう……みんな……へへッ、信じてくれて嬉しいぜ……』

 そう言った健太郎の声は湿り気を帯びており、オーガ達の笑いを誘ったのだった。
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