ガラス玉のように

イケのタコ

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1話 噂のイケメン君

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狭い筒の中でビー玉が揺れる。

ラムネを飲み終われば、残るビー玉。俺、スズはそのビー玉が目掛けて、瓶の青くて狭い口に指を突っ込んだ。
瓶の中をコロコロと転がるガラス玉。俺は高校生になっても不思議と取り出したくなった。
特に集めているわけでもなく、ただそこから出したくなるのは何故だろうか。

「何をしてんだ」
「いや、なんか取り出したくなって」

隣にいる友達に不思議そうに見られても俺は指先でビー玉を手繰り寄せる。
今日は雲一つない最高な日和りだったので、友人の富田(とみた) と一緒に学校の中庭で飯を食べていた。

「取り出したいなら、瓶の口を回せば良いんじゃない」
「あっ」

そうだった。こんな狭いとこから取り出さなくても良かったと言われて気がついた時には遅く、指が口にはまって引き抜く事ができなくなっていた。

やばいっ、高校生でこれは恥ずかしい。

指先の位置を変えたり、瓶の角度を変えたり、ありとあらゆることを試しながら指を瓶の中で滑らせた。

「へー! そうなんですか。私も好きです」
「何が好きなんですか、私は」

学校内から出てきたのは女子達の黄色い歓声。釣られるようにそちらに顔を向ければ、1人の男が女子達に質問攻めに合っていた。
何故、その男に彼女達の目線が熱いのか。訊かなくとも涼しげな顔した爽やかなイケメンだからである。
だから、女子達は嬉しそうに飛び跳ねながら男について行くのだ。

「すげーな。あいつ確か最近転入してきた、三船 (みふね)だったかな。もう女子に囲まれてる」
「そっそうなんだ」

友人が『でも、あそこまで道塞がれると嫌だな』と苦笑うがそれどころじゃない、瓶から指が全く抜けない。
力を込めようとも、緩めようとも、爪がカリカリ瓶の肌に触るだけ。

「ニコニコして愛想良さそうだし、あれはモテるな」
「そうか、俺も瓶と別れたい」
「……大丈夫か」
「全然大丈夫ですけど、子供みたいに好奇心でハマったとそんなのじゃないからな!」

瓶と格闘している時に、ふと、目線を上げる。
何気なく上げた先には、ガラス玉のような無機質な目玉がこちらに向いている。その瞳が、その無の視線が、俺の中の心臓を揺れ一度だけドクッと跳ねさせた。
重なり合う目線。喜び、哀しみ、楽しみ、怒り、何も光を持たない瞳がスローモションに俺を写す。

えっ、俺は何かしたか。

手に汗が滲む。挨拶した方が良いのかなと、色々な事が過ぎるが、渦の中にいる男に見られていると居心地が悪い。
何を考えているかが、わからない。怒鳴られるのか、と思ったが目線は外された。

気のせいか。

「あっ」

ポンっと音と共に瓶から指が抜けた。 
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