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12話 決断の期限
しおりを挟むそれから長く歩かされ結果、家からだいぶ離れた街に出ていた。キラキラとした看板を掲げるビルが立ち並び、陽はまだ暮れていないというのに酔った人間が立ち歩く道。
「なぁ、そこの人」誰かが俺を誘う。俺は素知らぬ顔で空を見上げながら先々行くアオに懸命に着いていく、そろそろ陽が暮れそうだ。
「あの、いい加減休みたいですが。もしくは家に帰って良いですか」
「忘れてたは、そういやお前いたんだ」
呑気に振り返り止まるアオ。俺を忘れていたならずっと連れ回す気だったのだろうか。
「忘れてたって色々酷い、で頭冷えました」
「おかげさまでだいぶ冷えた。腹減ったし、バーガーでも食うか」
「えーいい加減、家に帰らないと義宗さんに怒られますよ」
「どうせ今から帰っても怒られるし、なんなら今から何やっても良いだろ。それに歩き疲れただろ、連れ回した奢りぐらいさせろ」
「家に帰りたいですけど……」
「ほら、最後まで付き合え。ここまで着いてきたんだ、行くあてもないだろ」
アオは早く来い手招きをする。言う通り足がもう怠いので、言葉に甘えて店で休んでから帰ることに決めた。
それに、ここからの帰り道なんて知らないし、ネオンに光る夜道を一人で帰れる気はしなかった。
案内されるまま、ハンバーガーのチェーン店に入り、注文もしてからアオと向かい合うように椅子にかける。
目の前にハンはバーガーが二つにポテトが二つ、そして飲み物が二つ。ハンバーガーまで食べる気はなかったが隣で此方を気に留めずにハンバーガーセットを頼むからお腹が空いてしまった。
「やっぱりジャンクだな」
アオはバーガーに齧り付いていた。
「アオは和食が嫌いなんですか」
「別に、嫌って訳じゃない。ただ毎日ってなるとな飽きてくるな」
「美味しいのに……」
「何年も食べてみろ、絶対飽きる。というかお前、なんで俺は呼び捨てなんだよ。義宗には『さん』付けなくせに」
「なんだろ、うん、なんとなく」
「いい度胸してるな」
関心しているが頬を引き攣らせ呆れ返るアオ。義宗さんは敬意をもって呼べるけど、この大人は呼ぶに値しないというか、アオはそのままアオだと思う。
「流石、彼奴の子供だな」
「訊きたかったんですが、母親の事嫌いなんですか」
「そうだ、嫌い。言っとくが昔トラブルとかあったとか、深い意味ないからな、相性の問題だからな」
母は几帳面に対してアオは大雑把そうに見え、正反対の二人。母はいい加減なのは嫌いだし、アオは丁寧にする事が嫌いそうだ。
「確かに、考えれば考えるほど相性悪そうですね」
「だろ。昔から口が立つし、きっちりしたがるから余計に面倒なんだよな。それでよく喧嘩になってな。洋子が突っかかってくるのに義継にはいちいち突っかかるな怒れるはで、最悪だった」
「よしつぐ?って誰ですか」
「あー義宗の弟」
「弟さんいたんですね。知らなかった」
「それもそうだ、全く家にも帰ってきてないからな。そうそう、義宗と義継は似てるから会ったらビビると思うぜ。性格は違うけど」
「へぇーそうなんですね。話を聞いていたら、全く合わない母とはどうやって知り合いになったんですか。知り合うにも義宗さんとも歳が違うし、やっぱり遠い親戚とか?」
「残念ながら一ミリもあいつらとは血が繋がってない。でも義宗の経由なのは合ってる。洋子、お前の母親はあの家で働いてたからな」
「母が義宗さんの家にですか」
「なんだ、洋子から聞いてないのか。あの家で元使用人だった事」
食べていたハンバーガーが口から出そうになる。
知らない、義宗さんとは元同級生でただの友人だと思っていた。経緯とか一切訊かなかったし、気にも止めなかったが、まさかの母があの屋敷で使用人をだったとは。
「じゃ、じゃあ、義宗さんと母は主従関係でメイドだった。そう思うと義宗さんに対してものすごく丁寧だったような気がするし……」
「メイドって、ぶっ、彼奴がメイドって顔じゃないだろ。きつい冗談やめろよ」
「笑うところじゃない。確かに母は家事とか不器用だけども、あの家で使用人していたなんて、おっ俺も家事とかした方がいいのかな」
「やめとけ、しでかすの目に見えてる」
「失礼な俺かって頑張ればできますよ」
「頑張ればな、その間に何回お前は失敗する気だ。洋子の二の舞になるから義宗に任せた方が絶対良い」
「うっ」
俺の何を知ってるんだと言いたいところだが、それを言われると心臓に突き刺さるものがある。いつかの母がカボチャを叩き割っているのを見て父が叫んでいたが頭に過ったからだ。
「ただの同居人としています」
「懸命な判断だ。それより、お前は母親の過去より未来だろ。外国行くか決めたのか」
外国、今の今まで二文字を忘れていた。飲んでいたオレンジジュースが喉奥で気まずそうに止まり、それをゴクリと俺は飲み込んだ。
ここに残るか、外国に行くか。もちろん家族と離れたくはない、けれど、ここ最近の生活が楽しい思い始めている自分がいる。
このままの生活が続けばいいのにと願うけれど、期限はそれを許そうとはしない。
「どうしたらいいんでしょうね」
「知らね」
「ですよね。でも考えれば考えるほど、どっちがいいか分かんなくなって」
「ふーん、お前はこれからどうしたいわけ」
「特に、まだ決めてない……です」
「じゃあ、親は好きか」
「もちろん」
「義宗は好きか」
俺は頷いた。
「俺は」
「うーん、会ったばかりだから微妙です」
「そこは嘘でも頷け馬鹿。ホントいい性格してるな。まぁいいや、で三船はどうだ」
「……っ嫌いでは無いです」
思わず、言葉が詰まる。肯定しようとしたのだが、口が震えて出て来たのは否定とも取れる返事。あの時のキスを思い出したからだ。
それを思い出すと目の前にはアオしかいないというのに、大勢の人に見られているような気分になって耳が熱くなっていく。
「じゃあ答えは出てるな」
何故か、すっぱりとアオは言う。あれ、俺の中で答えはもう出ていたのか。
「おい」
凄んだ声、ガタンと椅子が揺れる音。揺れたのは俺の椅子じゃ無い、目の前に座るアオの椅子だ。
目線をゆっくりと横を見る。そこには剣幕たてた三船がいた。
学校から帰ったばかりなのか、三船は制服の姿のままだった。
「お前、いきなり人の椅子を蹴り上げるなよ。俺が落ちたらどーすんだ」
アオは唇の曲線を引き攣らせて、三船の方を向く。三船は謝る気はなくは態度も悪く腕を組み始める始末。
緊迫した異様な空気が漂う。
「そんなのどうでもいい、スズを虐めるならお前でも容赦しない」
「どこからどう見て虐めてるように見える。普通に話してるだけだろお前の目を節穴か」
「お前よりかは、視力はいい方だ」
「そういう話してねぇからな。ただお前はコイツと俺が話してるのが嫌だったんだろうが」
「ああ」
「嗚呼、じゃないだろ。マジで何コイツ」
アオさんそれ分かりますとは、流石に二人の間に割って入る勇気はない。
「というか、どうしてここが分かった。お前この場所知らないだろ」
「義宗がここにいるから、呼んでこいって言われたから。あと、夜に高校生を連れ回すのはやめろ、いい加減拗ねてないで帰って来い」
「……」
「今日は話はしないから、だって」
棒線のように口が閉まるアオ、ここに来ることも見通されて唖然としているのだろうか。
四人の中で一番背が高いというのに、義宗さんに子供扱いされていることに、笑いを耐えていた俺は息が漏れ出した。
「笑うな」
「ごめんなさいっ、つい」
「たくっ、面倒な奴を回しやがって」
溜息を吐いたアオは立ち上がり、トレーに食べ終わったゴミをまとめ始める。
「さっさと帰るぞ。彼奴の方が機嫌が悪くなる」
俺は急いで残っている飲み物をストローで吸い上げ、そして残っているハンバーガーはどうしようかと悩む。
色々の話をしすぎて、今は固形物が喉を通る気がしない。捨てるの勿体ないし、横に立ってる三船に気がついた。
「これ、いる」
少しだけ齧ったハンバーガーを三船に差し出せば、目をまん丸とさせて驚く。
やはり、食いかけは嫌だったかなと手を引っ込めようとする前に三船は俺の手を掴む。
「欲しい」
「うん、あげるよ。食いかけだけど」
「俺、こういうの食べるの始めだから驚いた」
彼は俺からハンバーガーを受け取ると食べ始めた。
ハンバーガー、初めてってどういう生活送っていたのか。平凡の庶民には分からない事だろう。
「美味しい?」
「うん、美味しい」
黙々と食べる三船はあっという間に食べ終わり、包み紙を丸める。
「それ、こっちにかせ」
三船は持っていた包みをアオに投げれば、トレー上に転がる。そのままアオはゴミ箱の方にトレーを持っていく。
「なぁ」
アオと距離が空いたくらいに三船は話しかけてきた。
「スズは外国行くのか」
先程の話を聞かれていたのだろう。改めて訊かれれば、家族といたいのか、三船達といたいのか、俺はどっちにいたいのか。
「分かんない」
「そうか」
淡々としたその一言で終わり、三船は追求してくることはなかった。やっぱり、俺の事に興味ないのかもしないけど、少しだけ寂しそうに聴こえたのは気のせいだろうか。
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