ガラス玉のように

イケのタコ

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20話(最終話) 終わりの続き

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エンジンの音。翼を広げた飛行機は雲一つない真っ青な空に飛び立った。

「アンタがいるのよ?お見送りなんて結構よ」
「誰がお前なんか見送るかっ!ここまで車出したのは俺だからな、感謝ぐらいしろよ」

母とアオって本当に仲悪いんだ。
搭乗口前で歪み合う大人二人を横目で見ながら、俺は父にお菓子が入った紙袋を手渡す。父はありがとうと歯に噛みながら受け取ると、同時に残念そうに肩を落とした。

「分かってるけど、寂しくなるな。でも、彰が選んだこと、父さんは遠くからでも見守ってるからな」
「ありがとう、父さんも海外で元気でいてね」

もちろんだと、涙を飲む父親を少し呆れつつ本当に海外に行ってしまうのだと実感する。

「もし寂しい時はどんな時でも電話かけるんだよ。絶対、お父さん出るから」
「分かったから、恥ずかしいからやめて」
「絶対だぞ。母さんは絶対守るからな。安心して父さんに任せてくれ」
「分かってるっ」

恥ずかしと注意した途端に父は俺に抱きつき心配だと嘆く。感動の別れだとしても公共の場、近づけてくる父の顔を手で押し返す。
やめろと心配だよと攻防を続けていたら、隣にいた三船が一歩前に出て来てたと思えば、

「お父さん」
「はい?」

父は不思議そうに顔を上げる。

「息子さんは俺が守るので大丈夫です。僕たち誓い合ってますから」

真顔でコイツ何言ってるだと、俺を含め横で睨み合っていたアオと母が口を閉じてこちらを向く。

「そうなのか。じゃあ、安心だね」

父は特に動じることは無く、よろしくと言っては俺を腕から解放する。

「はい、もちろん。安心してください」
「いやいや、おかしいから!」

温和な俺でも、必死になって三船の肩を持って揺らす。

「痛いって」
「訂正しろ、今すぐ訂正しろ。言葉が違いすぎる、違うから!」
「違う?何が。きっ」
「あーっ!」

両手で三船の口を塞ぐ。

「ねぇ、あの子」
「アイツの息子だ。だから天然物」
「なるほどね……」

母は三船を指差し、アオは仕方ないと話すと母は納得したのか頷きながら三船に目線を向ける。

どうにか過大な誤解を招くような言葉は遮断できたが、母も誤解したのではと、俺は口をアワアワとさせながら誤解を解こうと前に出る。

「いや、母さん。違うからね。三船は言うとこが大胆と言うかっ」
「分かってる」

キッパリ一言と言うと、母は手の平を広げて三船に差して出した。

「初めまして、三船君。じゃあ、言葉の通り息子頼んでいいかしら」
「ええ、勿論」
「迷惑かかるかもしれないけれど、よろしくね」
「スズのこと、迷惑なんて思わないです」

二人は相互理解したように握手を交わした。
これで大丈夫なのかと、頭を捻っているとアオが耳元で、「雪乃があの天然だったんだ」とこっそり教えてくれた。
母は満足そうにスーツケースを持ち直した。

「そろそろ、私たちは行ってくるは。彰、体調には充分気をつけること。三船君は彰のこと頼むわ。二人とも見送りありがとう、元気でね」
「おいこら、俺に感謝していけや」

アオと母の会話が漫才に思えてきた。

「アンタに感謝する日がくるなら、私は人生やり直した方がいいわね」
「ここでやり直せてやろうか」
「ごめんなさい、飛行機の時間に間に合わないから。失礼するは」
「嘘つけや!」

喋り出したら止まらない二人。父が「まぁまぁ」と仲介しても、あと数分は言い争いをしそうだったので、俺は少し離れたところで達観することに決めた。
三船も同じことを思ったのか、同じようにして輪から離れた。
本当にこの二人は同じ屋敷にいたのかと疑うほどに、パンチの効いた会話が織りなされる。

「義宗さんも来たら良かったのに。というかあの二人を止めて欲しい」
「まぁ、仕方ないな。義宗、用事があるらしいから」

義宗さんは今日に限って大事な用事あると言って、お見送り出来なかった。行きたかったと眉尻を下げながら、俺にお菓子の入った紙袋を渡しのが今日の朝だった。

「そうなんだけど、見送り一緒にしたかったな」
「ーーー行くと思ってた」

改めたように俺と向き合う三船。

「えっ……」
「親と一緒に海外行くと思ってた。こっち来てから不安そうだったから」
「確かに最初はそうだったけど」

最初は帰りたと思ったけれど、今はあの家に居たいと強く思える。

「今はあの家に居たいよ」

理由は恥ずかしくて言えず、頬を掻く。けれど、目の前にいる人物に伝えたい。俺はあの場所に居たいと、君に振り払われても隣にいたいと伝えたい。

「うざいかもだけど、俺は三船の隣にいるから。何度も手を伸ばすからな」
「うん、知ってる」

そう言うと三船は優しくそっと触れるように俺の何も持たない手を取り、繋ぐ。

「ずっと一緒にいてくれるんだろ」

太陽に照らされ輝くビー玉のように、三船は笑うのだった。









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