学園最強と言われている術師に何故か好かれている

イケのタコ

文字の大きさ
23 / 29
2

20 朝

しおりを挟む
白くて、もふもふとしたものが鼻先に触れた。
微睡のなか目が覚めれば、隣には足、お腹には黒兎がいた。足だけなら飛び起きるところだが、自身の足元辺りに顔があると知っているので、メガネを手に取りのびのびと起き上がる。
黒兎も共に起き上がりイーナを待つ。
 
それにしてもすごい寝相。
 
横で大口を開けて眠るアルカナを見てイーナは思う。
寝た時には頭があったというのに、起きれば足になっていた。寝ている間にぐるりと一回転したということだ。
体は布団から飛び出していたので、イーナはかけていた布団をアルカナにかけてから、出来るだけ音を立てないように部屋に黒兎共に部屋を出る。

扉を開けた先には白く短い毛がある丸い生き物、精霊がイーナを待っていた。
精霊は浮かぶ体をゆっくりと傾けては『ついて来て』と言うように少し進んでは振り返り廊下の奥に誘導してくる。
イーナは無言で頷き、精霊に従い付いて行く。
太陽はまだ登り切っておらず、廊下は薄暗く、一人として歩いてはいなかった。新鮮で冷たい空気が流れる静寂の中、一人と一匹の足音がよく響く。

白い精霊に連れて来られたのは、寮の共同トイレ。そこで待っている人物はなんとなく分かっていたので、後ろから突然話しかけられてもイーナは驚くことはない。

「僕じゃないから」

不満げな声。後ろを振り向くと普段着を着たスズランが腕を組んでこちらを睨む。道を案内してくれた精霊は、スズランの元に戻っていく。

「朝から……なに。話の内容が掴めないんだけど……スズランさん」
「呼び捨てでいい。とにかく、僕は関わりないから。虐めたのはアイツらが勝手にやったことで指示とかしてない」
「あー、昨日の事。別に君が指示したとか、やったとか全く思ってないよ」

スズランがする訳ない。保障するものはないけれど、初めて会った時から、真っ直ぐというか手間を取るような事を嫌っているように感じる。

「……本当に? 上べで言ってない」
「言ってないよ。というか、俺を虐めたとしてスズランには徳ないし、裏でコソコソせず堂々とこっちに来るでしょ。現に直接会いに来ているし」
「……そうだけど。なんか僕のこと分かっています感が癪」
「癪って、どう答えれば納得するんだよ。誤解を解きに来たんじゃないのか」
「そうだけど……だから、あの……」

頬を少々膨らまし腕を組んだままのスズラン。何を言えば納得するのだろうかとイーナは苦笑う。
すると、足元にいた黒兎がスズランの方に向かって飛んで行く。

「黒兎、また」 

人に噛み付くと思ったイーナは黒兎を捕まえようとしたが、その前にスズランが腰を下ろし、黒兎に手を伸ばす。

「なに、抱っこして欲しかったのか」

スズランは頬を緩ませ黒兎を抱き上げる。黒兎の方は噛むこともなければ暴れることなく腕に収まっていた。

「あれ? 噛まれない」
「噛む訳ないだろ、こんなに大人しいだから」
「いや、何もしてない人に噛みついたんだ」
「ふーん。その時、何かあった」
「……一人は戦いに挑まれた時に、もう一人はただ話しただけ。どちらも攻撃されたりはしていない」
「挑発。いや、感情の変化……」

黒兎を持ち上げ、スズランは呟きながら黒兎を観察する。

「君って、僕のこと好きなの」

訊かれて悩む。会った回数も、話した回数も少ないから、どうこうという感情がまだ湧いてこない。
 
「うーん、黒兎の事を教えてくれたのは、ありがたかったし、別に嫌いではないよ」
「なるほど、なるほど。僕が今から攻撃するって言ったとして、どうする」
「えっ、それは困る」
「困るだけ?」

スズランは黒兎の反応を見ているのか、こちらに目線を配ることはない。黒兎の反応といえば、鼻をヒクヒクと細かく動かすだけで無反応。動く気もない。

「うん、分かった」
「何が」
「トイレで長話するのも何だから食堂に行かない。君と他にも話がしたいし」

再びイーナの腕の中に黒兎を戻し。
それもそうだと、二人は寮の食堂に行く事となり、前を先導していたスズランが振り返る。

「君ってさぁ、弟とかいるの」
「弟、いるけど。何でそんなことを」
「何となく、聞いたところで意味なんかないんだけど」
「うん?」

彼なりの話題作りだったのだろうか。それ以上、スズランは何も訊かなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

モブらしいので目立たないよう逃げ続けます

餅粉
BL
ある日目覚めると見慣れた天井に違和感を覚えた。そしてどうやら僕ばモブという存存在らしい。多分僕には前世の記憶らしきものがあると思う。 まぁ、モブはモブらしく目立たないようにしよう。 モブというものはあまりわからないがでも目立っていい存在ではないということだけはわかる。そう、目立たぬよう……目立たぬよう………。 「アルウィン、君が好きだ」 「え、お断りします」 「……王子命令だ、私と付き合えアルウィン」 目立たぬように過ごすつもりが何故か第二王子に執着されています。 ざまぁ要素あるかも………しれませんね

お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
 本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。  僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!  「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」  知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!  だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?  ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

平凡なぼくが男子校でイケメンたちに囲まれています

七瀬
BL
あらすじ 春の空の下、名門私立蒼嶺(そうれい)学園に入学した柊凛音(ひいらぎ りおん)。全寮制男子校という新しい環境で、彼の無自覚な美しさと天然な魅力が、周囲の男たちを次々と虜にしていく——。 政治家や実業家の子息が通う格式高い学園で、凛音は完璧な兄・蒼真(そうま)への憧れを胸に、新たな青春を歩み始める。しかし、彼の純粋で愛らしい存在は、学園の秩序を静かに揺るがしていく。 **** 初投稿なので優しい目で見守ってくださると助かります‼️ご指摘などございましたら、気軽にコメントよろしくお願いしますm(_ _)m

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 応援ありがとうございます! 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた

やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。 俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。 独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。 好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け ムーンライトノベルズにも掲載しています。 挿絵をchat gptに作成してもらいました(*'▽'*)

処理中です...