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17 海前
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男達から助けてもらってまず思ったのは、今世でも雪久の力はご健在のようだ。
というのも雪久は喧嘩のプロと言っていいのか、前世では代々続く武家の家だった。
だから、まるで劇を見ているかのように、素早く軽やかに大人二人を倒してみせた。
手捌きに翻弄されたが、雪久がもう一度拳を上げた時は、素人と玄人、殺しかねないと血の気が引き、迷わず雪久の腰に抱きついたわけだが。
止めに入らなくても、流石の雪久も加減が分かっているだろうと抱き着いた時に思った。けれど、その後の会話でその事について一切返答が返ってこなかったので、止めて良かったと確信した。
話をまとめると、前世から雪久は、話し合いより暴力で解決する事が得意なのである。
雪久と喧嘩しようものなら死の覚悟が必要なわけで
ーーーという話はどうでもいい。何故、アイツらはこんな所まで来ているのだろうか。
「おーい、赤橋どうした。三番テーブルに運ぶんだぞ」
「分かってる」
キッチンから出て来たのは薮内であり、両手にはかき氷を持ち同じく席に運ぶ途中である。
俺は今、夏休みもあって小屋のような海の家でバイトをしていた。
紹介はもちろん共に働く薮内。バイトの後は自由で海に入れると聞き、即決だった。
さて、せっかくの夏休みを遊ばずに何故バイトをしているのかというと、例の件でスマホの画面を割ってしまったのが原因。
操作は出来るのだが、画面を触るたびにガラスが指に突き刺さるので、いい加減買い換えようとなり、お金を稼いでいるわけだ。
親に本当のことを言えば買い替えてもらえるが、事を大きくするのは嫌であり、前世の関係する話は巻き込みそうで、あまりしたくないわけで。
まさか、広い大海原で、しかも数件ある海の家に雪久一行がバイトしている所に来るなんて誰が思うのだろうか。
「何をそんな迷う事が」
と薮内が顔を覗かせ三番テーブルを見た途端に「うわ、何あの、顔面ハイスペックな席は」と呟いた。俺もそう思う。
「美形ばかりで、行きにくい?」
「それはそうなんだけど……全員、知り合いというか、ここで顔を見られたく無い」
少し話して……雪久との関係が和らいだと言え、あの三人、特に海北とのわだかまりがなくなった訳ではない。一生和解する事が不可能な確執なのだから。
「……あっ! 分かった、この前……付き合ってるとか言っていた人だろ。それなら仕方ないな、俺が行ってやる」
「なんの勘違いを」
「いいよ、言い訳。ほら、あの人だろ。白髪で綺麗な感じのお兄さん」
色々合っていないけど、相手を当ててくるのはやめろ。
「ほら、かき氷が溶けるし行ってくる。これは、五番な」
俺が持っていたトレーを素早く交換しては、止める前に三番テーブルに持っていく。
まぁ、いいか。俺が運べば、ちょっとした騒ぎになるのは分かっているから。
持たされたかき氷を五番テーブルに運ぶのだが、先に席についた薮内から再び驚きの声が上がる。
「あれ? よく見たらこの前の人じゃん」
誰に言っているのだろうか。気になるがテーブルにかき氷を置きつつ、聞き耳を立てる。
返事をしたのは意外にも、雪久だった。
「ああ、この前の。人違いして悪かった」
「いやいや、良いですよ。人違いなんて、たわいのないよくある話ですし、俺なんか友人だと振り向いたら全然知らない人だったんですから」
「そうか、それは良かった」
「俺と見間違えた彼女さん、見つかりましたか」
「……いや……まだ、見つかっていないが」
薮内と雪久は一体誰の話をしている。運び終わった俺はキッチンに戻るふりをして、雪久達の会話を聞くために柱を背にする。
「彼女?」
「ええ、女の人と見間違え……あれ、おれ何を言っているのか。見間違えるなら男ですよね」
薮内は乾いた笑いを飛ばしては、恥ずかしそうに後頭部を撫でる。
「さっきの発言あまり気にしないでください。最近、変な事を口走る事が多くて、会話を混乱させてすいません」
「少し気になっただけだ。深く追求する気はなかった」
「あっ、そうだ。ここで出逢ったのも何かの縁ですし、ここのイチオウシ奢りますよ。トロピカルスペシャルかき氷アイス付き」
「えっ、いいのか」
「いい、いいですよ。お友達さん達とどうぞ」
陽菜たちから喜びの声が聞こえる。
相変わらず友人の対話能力の高さと記憶力に若干の気持ち悪さを覚えつつ、雪久と難なく会話をこなせる友人が羨ましく思う。
笑顔でこちらに帰って来た薮内を、良くやったとわしゃわしゃと頭を撫でたい気分だ。
「恐いし人かと思ったけど、意外に話しやすい人だった」
「そう言うのは、多分薮内だけだ」
「そうかな。あと二人の女の子めっちゃ可愛い。彼氏とかいるのかな」
要らない情報は軽く額を小突いておいた。
「っなんで、ここにいるんだ」
上から降ってくる低くぶっきらぼうな声。前ばかり気にしてはいけない、背後を忘れていた俺は、最悪だと心の中で呟きながら振り向いた。
「海北か」
「おい、ストーカーとか洒落になれねぇぞ」
挨拶も無しに頭上から鋭く睨みつけてくる短髪頭に、反吐が出る。今日も今日で、勘違いもいいところだ。
「ここに来たのは偶然だ。いちいち、繋げるのをやめてくれる」
「どうだが。俺たちの予定知っていたんじゃないか」
一から十まで、お前達の予定を知っている者がいるなら雇いくらいだ。
会っても、逢わないようにこっちがどれだけ気を使っていることか。海北の言葉一つ、一つに反応し、喉奥から上がってきた唾が溜まっていく。
「ちょっ! ストップ、ストップ」
天辺に熱が籠る前に、薮内が転がるように間に入って来た。
「二人とも落ち着いて。間に何があったかは知らないけど、ここ店だから。喧嘩は禁止」
腕を使ってバツを描く薮内。海北は突然人が間を入って来た事で目を丸くさせて動きを止める。
そして口まで開くほどの驚きように、知り合いかと勘繰るが「誰だ、お前」とすぐに苦言を入れる。
「俺の名前は薮内です。喧嘩するなら外でお願いします。あと、俺が赤橋をここに誘ったので、ストーカーとか一切ないので! そこはお願いします」
海北から真っ直ぐと目は離さず薮内は、俺を自身の背中に隠れてと言わんばかりに後ろに手を回す。
前に出てもどうせ喧嘩するだけなので、目線を外し大人しく背中を盾にする。
「……騒がしくして悪かった」
間を置いてから海北は視線を下に向けて俺たちの横を通り過ぎては席に戻っていく。
良かったと、次話しかけてきたら締める、安心と怒り、そんな勝手な心情を読み取ったかのように薮内に振り返り。
「こんな所で喧嘩するのかと思った」
「はい、すいませんでした。庇ってくれてありがとう、暑さで頭に血が昇りました」
「あの人もあの人もだけども……、今日は早めに休憩しようか。今日は人が少ないし、店長も許してくれるしょ」
と薮内に気を使われて、店長から海で休憩して良いと言われてしまった。
雪久たちがいると警戒していては落ち着けず役に立たないので、お言葉に甘えて、薮内と共に砂場に足をつける事にした。
というのも雪久は喧嘩のプロと言っていいのか、前世では代々続く武家の家だった。
だから、まるで劇を見ているかのように、素早く軽やかに大人二人を倒してみせた。
手捌きに翻弄されたが、雪久がもう一度拳を上げた時は、素人と玄人、殺しかねないと血の気が引き、迷わず雪久の腰に抱きついたわけだが。
止めに入らなくても、流石の雪久も加減が分かっているだろうと抱き着いた時に思った。けれど、その後の会話でその事について一切返答が返ってこなかったので、止めて良かったと確信した。
話をまとめると、前世から雪久は、話し合いより暴力で解決する事が得意なのである。
雪久と喧嘩しようものなら死の覚悟が必要なわけで
ーーーという話はどうでもいい。何故、アイツらはこんな所まで来ているのだろうか。
「おーい、赤橋どうした。三番テーブルに運ぶんだぞ」
「分かってる」
キッチンから出て来たのは薮内であり、両手にはかき氷を持ち同じく席に運ぶ途中である。
俺は今、夏休みもあって小屋のような海の家でバイトをしていた。
紹介はもちろん共に働く薮内。バイトの後は自由で海に入れると聞き、即決だった。
さて、せっかくの夏休みを遊ばずに何故バイトをしているのかというと、例の件でスマホの画面を割ってしまったのが原因。
操作は出来るのだが、画面を触るたびにガラスが指に突き刺さるので、いい加減買い換えようとなり、お金を稼いでいるわけだ。
親に本当のことを言えば買い替えてもらえるが、事を大きくするのは嫌であり、前世の関係する話は巻き込みそうで、あまりしたくないわけで。
まさか、広い大海原で、しかも数件ある海の家に雪久一行がバイトしている所に来るなんて誰が思うのだろうか。
「何をそんな迷う事が」
と薮内が顔を覗かせ三番テーブルを見た途端に「うわ、何あの、顔面ハイスペックな席は」と呟いた。俺もそう思う。
「美形ばかりで、行きにくい?」
「それはそうなんだけど……全員、知り合いというか、ここで顔を見られたく無い」
少し話して……雪久との関係が和らいだと言え、あの三人、特に海北とのわだかまりがなくなった訳ではない。一生和解する事が不可能な確執なのだから。
「……あっ! 分かった、この前……付き合ってるとか言っていた人だろ。それなら仕方ないな、俺が行ってやる」
「なんの勘違いを」
「いいよ、言い訳。ほら、あの人だろ。白髪で綺麗な感じのお兄さん」
色々合っていないけど、相手を当ててくるのはやめろ。
「ほら、かき氷が溶けるし行ってくる。これは、五番な」
俺が持っていたトレーを素早く交換しては、止める前に三番テーブルに持っていく。
まぁ、いいか。俺が運べば、ちょっとした騒ぎになるのは分かっているから。
持たされたかき氷を五番テーブルに運ぶのだが、先に席についた薮内から再び驚きの声が上がる。
「あれ? よく見たらこの前の人じゃん」
誰に言っているのだろうか。気になるがテーブルにかき氷を置きつつ、聞き耳を立てる。
返事をしたのは意外にも、雪久だった。
「ああ、この前の。人違いして悪かった」
「いやいや、良いですよ。人違いなんて、たわいのないよくある話ですし、俺なんか友人だと振り向いたら全然知らない人だったんですから」
「そうか、それは良かった」
「俺と見間違えた彼女さん、見つかりましたか」
「……いや……まだ、見つかっていないが」
薮内と雪久は一体誰の話をしている。運び終わった俺はキッチンに戻るふりをして、雪久達の会話を聞くために柱を背にする。
「彼女?」
「ええ、女の人と見間違え……あれ、おれ何を言っているのか。見間違えるなら男ですよね」
薮内は乾いた笑いを飛ばしては、恥ずかしそうに後頭部を撫でる。
「さっきの発言あまり気にしないでください。最近、変な事を口走る事が多くて、会話を混乱させてすいません」
「少し気になっただけだ。深く追求する気はなかった」
「あっ、そうだ。ここで出逢ったのも何かの縁ですし、ここのイチオウシ奢りますよ。トロピカルスペシャルかき氷アイス付き」
「えっ、いいのか」
「いい、いいですよ。お友達さん達とどうぞ」
陽菜たちから喜びの声が聞こえる。
相変わらず友人の対話能力の高さと記憶力に若干の気持ち悪さを覚えつつ、雪久と難なく会話をこなせる友人が羨ましく思う。
笑顔でこちらに帰って来た薮内を、良くやったとわしゃわしゃと頭を撫でたい気分だ。
「恐いし人かと思ったけど、意外に話しやすい人だった」
「そう言うのは、多分薮内だけだ」
「そうかな。あと二人の女の子めっちゃ可愛い。彼氏とかいるのかな」
要らない情報は軽く額を小突いておいた。
「っなんで、ここにいるんだ」
上から降ってくる低くぶっきらぼうな声。前ばかり気にしてはいけない、背後を忘れていた俺は、最悪だと心の中で呟きながら振り向いた。
「海北か」
「おい、ストーカーとか洒落になれねぇぞ」
挨拶も無しに頭上から鋭く睨みつけてくる短髪頭に、反吐が出る。今日も今日で、勘違いもいいところだ。
「ここに来たのは偶然だ。いちいち、繋げるのをやめてくれる」
「どうだが。俺たちの予定知っていたんじゃないか」
一から十まで、お前達の予定を知っている者がいるなら雇いくらいだ。
会っても、逢わないようにこっちがどれだけ気を使っていることか。海北の言葉一つ、一つに反応し、喉奥から上がってきた唾が溜まっていく。
「ちょっ! ストップ、ストップ」
天辺に熱が籠る前に、薮内が転がるように間に入って来た。
「二人とも落ち着いて。間に何があったかは知らないけど、ここ店だから。喧嘩は禁止」
腕を使ってバツを描く薮内。海北は突然人が間を入って来た事で目を丸くさせて動きを止める。
そして口まで開くほどの驚きように、知り合いかと勘繰るが「誰だ、お前」とすぐに苦言を入れる。
「俺の名前は薮内です。喧嘩するなら外でお願いします。あと、俺が赤橋をここに誘ったので、ストーカーとか一切ないので! そこはお願いします」
海北から真っ直ぐと目は離さず薮内は、俺を自身の背中に隠れてと言わんばかりに後ろに手を回す。
前に出てもどうせ喧嘩するだけなので、目線を外し大人しく背中を盾にする。
「……騒がしくして悪かった」
間を置いてから海北は視線を下に向けて俺たちの横を通り過ぎては席に戻っていく。
良かったと、次話しかけてきたら締める、安心と怒り、そんな勝手な心情を読み取ったかのように薮内に振り返り。
「こんな所で喧嘩するのかと思った」
「はい、すいませんでした。庇ってくれてありがとう、暑さで頭に血が昇りました」
「あの人もあの人もだけども……、今日は早めに休憩しようか。今日は人が少ないし、店長も許してくれるしょ」
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